宇多丸『ジョン・ウィック:パラベラム』チャド・スタエルスキ監督インタビュー

宇多丸『ジョン・ウィック:パラベラム』チャド・スタエルスキ監督インタビュー アフター6ジャンクション

<インタビュー音源スタート>

(宇多丸)アクションの中でもガンアクションがですね、前作からのタラン・バトラーさんという方、シューティングインストラクターを呼んできて、格段にまた本格的になった。さらにタクティカルになったと思うんですけども。前作でスリー・ガン・マッチ(3 GUN MATCH)っていうのを取り入れて。本当に……僕、ガンマニアでもあるので、すごく「最先端を取り入れるな!」ってびっくりしたんですけども。今回もやっぱりタラン・バトラーさんが入ってるんでしょうか?

タラン・バトラーのガンアクション

(チャド・スタエルスキ)今回もタラン・バトラーが参加しています。僕とキアヌは趣味でも射撃をしていて。シミ・バレーの射撃場までタラン・バトラーに個人的に会いに行ったりもしています。彼は本当にすごい人なんです。ちなみに僕たちは軍や警察の戦術も研究していますし、競技射撃の自由さを見るのも好きなんです。みんなもっと自由なスタイルで両手で撃ったり、ショットガンの弾の込め方とかも面白くて、クリエイティブな要素がある。

選手は競い合ってはいるけれども、人間同士が撃ち合っているわけではないですしね。『チャプター2』の3種類の銃を使っての撃ち合いシーンに関して、タラン・バトラーに指導されたのは、「実践的にやるだけでなく、正確さとスピードが大事」ということでした。なので僕らはその両立を念頭に置き、ビジュアルとしてもかっこよく見えるように仕上げたんです。

(宇多丸)まさにいま、おっしゃっていたショットガンの装填が今回、キアヌさんのショットガンは前回もちょっとバイオリンみたいに置いてやるのが面白かったですけど。今回のショットガンのローディングの速さがびっくりしたんですけども。キアヌさん、やっぱりめちゃめちゃトレーニング、タクティカルシューティングもいっぱいされてるんでしょうか?

(チャド・スタエルスキ)たくさん練習しましたよ。普通の人が週に2、3時間練習するところをキアヌは24時間以上やっていましたからね。週に4、5日は通って毎回3000発から5000発は撃ちました。しかも撃つだけでなく、我々はすべての訓練をします。銃をどう扱うのか、弾はどう込めるのか。利き手でない手でもあらゆる銃でできるようになるまで練習する。そこにはアクションの振り付けに対する僕の考え方があるんです。

より優れた振り付けのためには現実を取り入れた上で、それに捻りを加えることが大事なんです。現実では人は的を外すし、ナイフは引き抜く必要がある。弾も込め直さないといけませんが、俺らはそれをアクションの振り付けに取り入れたんです。それまでは弾をリロードするところを見せるどころか、銃に弾薬をどう入れるのか、俳優に訓練をさせようともしていませんでした。もたついて見えると思われていたからです。

映画では柔術や柔道、合気道もゆっくり見えるとされていたので、代わりに殴ったり蹴ったりしていたわけです。だけど、そんなことは関係なかった。それより、もっとクールに、もっとダンスのようにアクションを見せたかったんです。銃撃戦にしてもただバンバンバンバンと続く単調なものではなく、音楽のようにビートやリズムが感じられるようにしたんです。

(宇多丸)ガンアクションというのは基本的にはあまりバリエーションが作りづらいものだって思うんですね。要するに、距離も離れているし、撃ってしまえばそれまでなんで。なので、それにすごくバリエーションを持たせる工夫をいっぱいされていて。たとえば防弾技術が進歩したというところで、やっぱり格闘と絡めやすくなってきたりとか。とても工夫をされてると思うんですけど、そのあたりはいかがでしょうか? 要するにガンアクション、普通はバリエーションを持たせづらいというところを工夫している?

ガンアクション演出の工夫

(チャド・スタエルスキ)これはダンスでも音楽でもなんでも同じだと思うんですが。自分で自らのパラメーターを制限してしまったら、決まったやり方しかできなくなってしまいますよね? でも心をオープンにしておけば、それまでと違うリズムだろうがキーだろうがノリだろうが、なんだってできるようになるんです。ただ、表現を拡張したい時もその時点でどれだけやるべきか、コントロールはしてきました。

一作目にはなかった防弾技術が二作目で登場し、三作目ではもはや誰もが完全防弾仕様になっている。「となると、もっと格闘シーンが入れられるな」と考えるわけです。また観客が作品に没頭するために、その映画でのルールを決める必要がありますよね。現実では人は撃たれたら血を流して死ぬけど、『ジョン・ウィック』の世界では死ぬかもしれないし、死なないかもしれないし。みんながみんな、マーシャルアーツの達人だったりします。これこそ作品世界を創造する醍醐味であり、自分自身のパラメーターを拡張していくことでもある。

要は、それを観客に見せて信じさせられればいいわけです。一作目では出てきたとしても普通の防弾ベストだったのが、二作目では特性の防弾スーツになりました。では三作目ではそのスーツ以上のものといえばなにか? という風に考えていく。ジャッキー・チェンと同じですよ。彼の映画のアクション振り付けは、まず乗り越えなければならない問題が設定されて、ヒーローがその解決方法を見つけるという形を持っている。僕らはそこにより美しく、華麗に見せるにはどうしたらいいか。よりエモーションを盛り上げるにはどうしたらいいか。さらにアイデアを加えていきます。

小さいピストルで戦うのも楽しいけど、それで敵を倒せないとなれば、もっと大きい銃を出すことでさらに面白くなる。そういうように面白いハードルを設定しては、それを解決するアクションの振り付けを作るということをやっているんです。図書館みたいなすごく狭い場所に、すごく背の高い人が登場したら面白いでしょう? そうやって障害を作って解決していくという流れをいかに面白く見せるかが勝負なんです。

(宇多丸)なるほど。納得ですね。あと、これだけ複雑なコレオグラフィー、振り付けをこなす。そして実際に射撃もこなすキアヌ・リーブスさんのアクション俳優として優れている点。チャドさんから見てどうでしょうか?

アクション俳優 キアヌ・リーブス

(チャド・スタエルスキ)「演技ができる」っていうことですね(笑)。いや、それは本当に大事なことなんですよ。映画の中のマーシャルアーツは本物の武芸とは全く違うものです。よりダンスに近い。全ての動きを覚えて本物っぽくやってみせて、その上で演技をしないといけないわけですから。もちろんマーシャルアーツが得意な俳優というのはたくさんいて、見ればその技術に感心はするんですけど、キャラクターとして感情移入されたり、愛されたりすることはできていなかったりするんです。

それがキアヌになると、つまづいたり転んだり、パンチを少し外したり。不完全さを入れることでアクションをさらに良いものにしてみせたりする。人間はただ完璧なものより、信じられるものを見たいものなんです。不完全さ、欠点こそが音楽やアートなどをユニークなものにしているんだと思います。キアヌは僕らが指示した動きを受け取ってから、それを自分のものにしてキアヌ・リーブスとして動いているんです。その上で演技をして、さっき言ったような細かい工夫を入れてきたりもしている。

この映画ではできるだけスタントダブル、代役を立てたくないというのもそれが理由ですね。彼らの役割自体を否定するわけではないんですが、つまづいたり転んだりというところにはやはり演技力が必要ですから。『ジョン・ウィック』を見る人はアクションが好きなのではなく、それをやるキアヌ・リーブスが好きなわけでしょう? だからキアヌを画面から外すのはよくないんです。キアヌが自分で演じているからこそ、『ジョン・ウィック』というキャラクターも生きてくるわけですから。

(宇多丸)なるほど。その意味では、対する今回の敵役で日本へ行くと言うかもう入ってくるわけではないしてる今回の適役でそのマーク・ダカスコスさん。彼もやっぱりそのアクションもできるしアクトもできるっていう、まさにそういう俳優さんだと思いますが。やはりキアヌ・リーブスと拮抗する人を見つけてくるってなかなか大変だと思うんですけども。やっぱりマーク・ダカスコスさんはそういう点では選ばれた感じですか?

(チャド・スタエルスキ)すぐれたアクションシーンというのは様々な要素から成り立っています。たとえば、正しく俳優をキャスティングすることもとても重要です。キアヌ・リーブスはものすごくアクションができる俳優ですが、では彼に見合う悪役を……と考えた時に、いくら演技が上手くても格闘が全くできないとなると撮りようがないですからね。かといって、アクションは上手だけど演技はできないという人でもダメなんです。これは難題です。

それと僕はいかにも大柄で強そうで……というような人も使いたくなかったんです。もっと普通っぽい男がほしかった。その点、マーク・ダカスカスとは昔から知り合いだったんですが、実際の彼はそれはそれはハッピーな人なんですよ。すごく明るくて、エネルギーに満ちあふれているような感じなんです。僕たちは当初、ゼロという役柄をかなりシリアスなタッチで描いてて、マークもそう演じようとしていたんです。ですが、しっくり来なかったので、もっとマーク自身らしくスーパーハッピーに弾けた感じでやってもらうことにしたんです。

それで今回のようなゼロになったわけですが、とても面白い結果になったと思っています。つまり、しっかり演技ができて、いいキャラクターになりきってくれる俳優を見つけられたということですね。強い個性がある人がほしかったので、マークはまさに適任だったと思います。

(宇多丸)たしかに、ゼロのキャラクターは強いだけじゃなくてちょっと笑っちゃうっていうか。ジョン・ウィックの隣にこう、ちょこんと座るところとか本当に笑っちゃったんですけども。ああいうところがいおいですね。

(チャド・スタエルスキ)僕らはマークのことを「ファンボーイ」って呼んでいたりするんですが。とにかく彼は本当にいい人なんです。「キアヌも『ジョン・ウィック』シリーズも大ファンだから出演できて嬉しい」って最初から言ってくれました。だから好きなように演じてもらいましたよ。彼から出てきたアイデアもたくさんあって、ジョン・ウィックの隣に座るシーンんもマークのアイデアです。彼はすごく頭がいい人なんですよ。

(宇多丸)じゃあ、最後の質問になるんですけども。本当に『ジョン・ウィック』シリーズはまさにこれがそうなように、アクション映画全体が俳優自身がトレーニングして自分でもちゃんと動ける、アクションできるということがアクション映画……要するに観客が嘘を見破る時代になっちゃって。「ちゃんと自分で出来る」っていうことがアクション映画では必須の時代になってきてるように思うんですけど。いかがでしょうか?

「ちゃんと自分で出来る」アクション俳優

(チャド・スタエルスキ)観客のみなさんの代弁はできませんが、個人的にはとても重要なことだと思っています。たとえば僕が「会話シーンだけやりたい。アクションシーンはやりたくない」なんてことを言ってたら、半分しか監督してないということになってしまいますよね。同じようにアクション俳優になりたいなら当然、自分でアクションもできた方がいいでしょうね。もちろんスタントマンは必要ですが。

俳優ができないことをやるのがスタントなんです。ただ、スタントの定義は人によって違っています。たとえばキアヌはすぐれたアスリートでもあるので、武芸を使って戦うとか車の運転も自らやっても安全です。でも、「火をくぐり抜けろ」とは言えません。それはスタントの領域です。なので、全部のスタントができる俳優というのは定義上はいないはずですが、その一方でエロール・フリン、ジャッキー・チェン、ジェット・リー、サニー千葉(千葉真一)のように自分でアクションをやっている俳優ももちろんいます。

だから、アクション俳優になりたいなら、舞台俳優と同じように訓練をしないといけない。彼らは自分がどうやって動くべきか、ちゃんと分かっていないといけませんからね。はっきり言ってアクション映画なのに演技だけしてアクションシーンをしない俳優が1本分のギャラを貰うのはおかしいと思ってしまいますよ。たとえばカメラマンが「このシーンは撮りたくない。こっちだけやりたい」とか選り好みするなんてありえないですよね。とにかく映画には神話的で現実を超える力があって。だからこそ我々は映画を見に行くわけです。それをフィルムに願っています。

僕たちはヒーローが見たいんです。たしかにデジタル処理で顔を入れ替えることだってできるし、それはそれで便利ですが、それを観客が信じられるものにするためには、やはり出発点が必要でしょう。だからアクションの撮り方を知らない監督は学校に行き直すべきだし、俳優も同じだと思います。できるだけ自分を高めることが大切なんです。もちろん、我々みんなに限界はありますから、映画を作り上げるためには様々な技術の力を借りてヒーロー像を作り上げてゆくわけです。それでも僕はできるだけトライはするべきだと思うんです。

(宇多丸)ああ、時間が……。

(チャド・スタエルスキ)That’s it? ダメ!(笑)。

(宇多丸)時間が来てしまいました。ありがとうございます。

(チャド・スタエルスキ)No problem! どういたしまして!

<インタビュー音源おわり>

(宇多丸)「どういたしまして!」っていうね、チャド・スタエルスキでしたね。ということで濃密な……やっぱりもう本当にギチギチのスケジュールの中でね、取材を受けていただいたので。実質30分ある中の、しゃべっている時間が20数分っていうか。なかなかここまでぎっちりとしゃべっていただくのも……タランティーノよりもしゃべっていますからね。濃密だったと思いますね。とにかくでもわかるのは、アクションが好きで。アクション映画が好きで。それを向上させるための努力が苦じゃないし……っていうことですね。

(宇内梨沙)楽しんでやってるのが伝わってきますね。

(宇多丸)たぶん、現場でだからキアヌとかともキャッキャキャッキャやって。

(宇内梨沙)だから2人の絆みたいなのがすごい感じましたね。

(宇多丸)それも感じられましたね。なんか一緒に射撃場に行ったりなんかしてっていう話も面白かったですし。ちなみに今日、お聞きいただいたのもこれ全部じゃなくて。カットした部分だと冒頭の方でとある銃をカチャカチャッと……ジョン・ウィックがすごく銃の知識もあるし胆力もあるということで。銃をいったん分解して組み立て直して……っていうくだりがあって。そのくだりに関してはセルジオ・レオーネの『続・夕陽のガンマン』のイーライ・ウォラックオマージュだとか、そういう話が聞けたりとか。

いろいろとそういうのもあったんですけどね。いや、チャドさん、後から「こんなことも聞けばよかった」なんてのが浮かんできて。またちょっとぜひ機会があればお話を聞きたいと思います。とにかく今回、私も翻訳監修をがんばりましたし。ディレクターの蓑和田くんもギリギリまで……これ、要はただの翻訳じゃなくて、しゃべっている尺に合わせて。「ジャッキー・チェン」って言っているところでうまく「ジャッキー・チェン」に合うように編集とかしているのでギリギリまで寝ないで編集をしたというね。

(宇内梨沙)そのおかげで聞きやすかったです。

(宇多丸)そして森川智之さん。さすがでしたね。ありがとうございました。といったあたりでチャド・スタエルスキ監督の最新作『ジョン・ウィック』シリーズ第三弾、『ジョン・ウィック:パラベラム』は明日4日から公開です。ちなみにこんなメールが来ています。「『ジョン・ウィック3』、とても楽しみにしていましたが先日、ちょうどニューヨークに旅行に行きまして。飛行機内で先に拝見することができました。

『ジョン・ウィック』でニューヨークの世界を味わった後に、実際にあの有名な駅や馬が走る街並みを見ることができました。周囲がみんな殺し屋かとドキドキしましたが、そんなことはなくみなさん、優しく接していただきました。昨日、帰国したばかりですがこの思い出を胸に改めて劇場で見たいと思います」ということなので。まあ、とにかくどんどんどんどんと異常な世界になっていくので。特に『チャプター2』からターボがかかっている感じなので。宇内さんも『2』から……。

(宇内梨沙)もう今日聞いたこの監督インタビューを踏まえて見たら、また注目するところとか全然変わりそうだし。楽しんで見られますね。「これ、こだわりのアクションシーンだな」って思いながら。

(宇多丸)画面の美しさがただごとではないので。そのあたりも堪能していただきたいなと思います。以上映画『ジョン・ウィック:パラベラム』公開直前、チャド・スタエルスキ監督インタビューでございました。みなさん、お疲れさまでした。ありがとうございました。

<書き起こしおわり>

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