プチ鹿島さんがYBS『キックス』の中で中溝康隆さんの著書『平成プロ野球死亡遊戯』を紹介していました。
(プチ鹿島)さあ、今日は1冊の本をご紹介しようと思います。一昨日、日曜日に産経新聞の書評欄に書評をたのまれて。「好きな本を選んでください」ということで、書かせていただきまして。いろいろと条件はあるんです。新刊で……単行本で発売されてから3ヶ月以内。文庫はちょっとNGとかいろいろとあるんで、その中で僕が選ばせていただいたのがこちらの本です。それが『平成プロ野球死亡遊戯』という本。著者が中溝康隆さんという方。今年40歳。ですので、野球のことを書くライターとしては実は若いんです。
(海野紀恵)うん。
(プチ鹿島)というのは、この中溝さんは30歳ぐらいの頃ですかね? ブログを始めたんです。野球のことを書こうということで2010年ぐらいから。これ、別につらつらと書くという、それだけでもよかったんですが、始めた時点で中溝さん、「プロのライターになろう」という目的で始めた。いろんな人に読んでもらうため、プロのライターになるためにこのブログを始めたということで。それまではデザイナーをやられていたんですけども、その仕事が終わった後で、たとえば巨人戦なら巨人戦を見て。そこから考えたこと、思ったことをブログにアップするという、その作業を毎日毎日繰り返していった。
(海野紀恵)すごい。
(プチ鹿島)なぜなら、それはプロのライターになるため。で、面白いなと思ったのは以前、読んだ本にも書いてあったんですけども。「プロ野球のライターって若い人がいなかった。だから狙い目じゃないか?」っていう、そういう発想もあったそうなんです。プロ野球が好きっていう、それは大前提ですけども、それ以外に「ライターに若い人がいないから、自分は行けるんじゃないか?」っていう。で、そこから逆算をして、仕事が終わってから野球を見て、日付が変わるぐらいまでに記事を上げようっていうのを日々、自身のノルマに課していたというわけですね。
(海野紀恵)へー!
(プチ鹿島)で、その結果、たくさんのアクセス数があって。たとえば、いまツイッターでは「プロ野球死亡遊戯」という名前でツイッターをやっていて、フォロワーが44000ぐらいいるんですよ。すごい影響力がある人。だから実際、自分の夢というか目的のために一歩ずつ近づいていって。今回は令和になったということでプロ野球死亡遊戯、平成を振り返るということです。なので各種WEBや雑誌などで書いたコラムを、これを読めば平成を振り返れますよという、そういう本に仕立て上げたんですね。
(海野紀恵)へー!
(プチ鹿島)で、これを読んでみると、いわゆる平成をプロ野球で振り返るっていう企画、結構あるじゃないですか。ところがこの本の売りというのは「野球」というお題はあるんですけども、ドラマとか映画、ファミコン、お笑い、アイドル、プロレス……つまりこの30年間。今年40歳になる著者が10歳ぐらいの時からのことを並列に全部語っているんですよね。だからプロ野球の本というよりはカルチャー、サブカルチャー的なものの中にあるプロ野球というものを1冊の本に入れているわけですよ。
だから、かなりマニアックなという本ではないんですよ。むしろ、時代の空気を読むと一気に思い出せるという。だから僕がこの産経新聞の書評で書いたのは、「芋づる式という言葉を久しぶりに思い出した」っていう。芋づる式っていう言葉、タブロイド紙とか夕刊紙でネガティブな憶測記事で、芸能人のスキャンダル記事なんかで芋づる式逮捕へとか。
でもその割に芋づる式逮捕なんて見たことがないじゃないですか。だからあんまり実は使い勝手のよくない、限られた言葉なんだけども、これを読むとたとえば1997年ごろのプロ野球について書いたくだりには平成9年に放送された人気テレビドラマ『ラブジェネレーション』の一節が書いてあるんです。
ドラマ『ラブジェネレーション』からの一節
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(プチ鹿島)あれは木村拓哉さんと松たか子さんが広告代理店で働いているという。その中でこういう会話があったんです。「今年はジャイアンツが優勝できなかったので、後半の景気がかなり落ち込むと思われます」っていう。これ、中溝さん本人が書いていますけども、「ギャグではなくガチの会議のシーン」という。
つまり、たかだか20年前は巨人が優勝するかしないかで広告代理店の会議の会話の中で「後半の景気が落ちるな、盛り上がらないな」っていうのが普通に話されていたという。それがぐらい、「平成」っていまなんとなくひとまとめで語られているけども。20年ぐらい前にはまだそれぐらい巨人中心。もっと言えばナイター中継をみんな見ていた時代だったんだよっていうのをこういう細かいくだりで思い出せるんですよ。
(海野紀恵)面白い!
(プチ鹿島)で、これがテレビドラマから来るわけですね。あとはたとえば、もっと1990年代前半のことを言うと、これはいちばんに載っているんですが。秋山、清原、デストラーデという西武ライオンズの黄金時代。強かった時代、ありますよね。その時、お笑い界では誰が来ていたのか?っていうと、とんねるずさん。だからとんねるずと秋山、清原、デストラーデを一緒に語っているんですよね。で、当然当時の資料も細かく掘り起こしていますしね。
それで行くとイチローとか松井秀喜とか落合博満とか。細かいところで言うとパンチ佐藤、デーブ大久保、元木大介とか。全部同時代を掘り下げている。だから僕は「ああ、懐かしい、懐かしい」っていうよりは、生々しさが一気に思い起こされるような、そういう本だったですね。だから当時のスポーツ新聞とかもこの本を書くに当たって全部読み返したんでしょうね。すごくためになります。さっきの「プレイバック80’s」のコーナーでも1曲ごとにその時代にタイムスリップするじゃないですか。それと同じぐらいの面白さがありましたね。
だから平成と一言でいっても長いんですよ。まとめてしまいがちですけど。で、僕はこの産経の書評でも書かせてもらったんですが。「そうかー。あの選手、いたな! この案件、あったな!」って思ったのが大森剛選手なんですね。巨人のドラフト1位で鳴り物入りで入団してきた慶応大学卒ですよ。だから高橋由伸選手の前。巨人ってオーナー、正力松太郎さんの息子さんが慶応ですから。やっぱり慶応ブランドに対する価値観というものにすごく重きを置いていて。実は1989年のドラフト、もう1人話題になっていたのが元木大介さんなんです。
(海野紀恵)おお、元木さん。
(プチ鹿島)元木大介が甲子園のアイドルになって「巨人に行きたい」って。当時は巨人の人気が高かったですから。ただ、その時に巨人は慶応大学のホームラン王だった大森剛を指名したんです。大森さんはだから悪役的な、ヒール的な存在にもなったんですよ。「元木があれだけ行きたいって言っていたのに大森を……!」って。そしたら大森さんはこんなことを言っているんですね。僕も思い出したんですけども、ドラフト前のインタビュー。「巨人以外なら日本石油かアメリカに留学するって? 僕もその前に巨人じゃなきゃ東京ガスに行くと、同じようなことを言っています。『同じことを言いやがって。高校生のくせに』って思いましたよ。元木は僕よりも顔はいいかもしれませんけど、そんなにかっこいいとは思わないです」って。いまだったらこれ、炎上ですよね(笑)。
(海野紀恵)そうですね(笑)。
(プチ鹿島)でもこれ、やっぱり当時はこれぐらいの迎え撃つぐらいの発言があったわけですよね。大学生ですから。「高校生がなに言ってんだ?」ぐらいの。それぐらい、実力にも自信があったんでしょうね。
(海野紀恵)へー! なんか本当にそのあたりも生々しいじゃないですけども。本音がすごく見えるあれだったんですね。
ドラフト1位・大森剛のルーキーイヤー
(プチ鹿島)で、それで思い起こしたのがルーキーイヤー……1989年、平成元年のドラフトで指名されたのでルーキーイヤーは1990年。まさ平成の最初の方。巨人は開幕戦がヤクルト戦だったんですよ。で、同点で迎えた9回裏に大森選手が代打で起用されます。で、なんと……いまでも僕、覚えていますよ。なんとなく野球中継を見ていましたから。左中間にものすごく大きな打球を放って。誰もが「これは抜けた!」って思った。それでランナーがいたから、サヨナラヒット。大森はあれだけ「元木の方がよかったんじゃないか?」って言われていたけども、いきなり初戦でヒーローになるか?って誰もが思い浮かべたら、それをダイビングキャッチした人がいる。それがヤクルトの栗山英樹。いまの日ハムの監督です。
(海野紀恵)はいはい! へー!
(プチ鹿島)ものすごいファインプレーでサヨナラヒットになりかけの打球を捕っちゃった。だから「大森、ツイてねえなあ!」っていう。でも実際に二軍ではガンガン打ってホームラン王になって。でも巨人の選手層は厚いからなかなか一軍に上がってこれない。で、結局期待されていたほど、実力ほど……本当はもっとね、一軍でずーっと使っていれば打っていた選手なんでしょうけども。
あまり期待ほどは活躍できず、近鉄にトレードされて……みたいなのがあって。日本一ツイてないドラフト1位みたいな、そういう肩書があったんですが。ところが、現役を引退してこの大森さんはスカウトに転向するんですよ。で、スカウトに転向した大森さんは2006年のドラフト会議で坂本勇人を担当していたんですね。
(海野紀恵)へー!
(プチ鹿島)で、実は坂本勇人。いまはバリバリのスターですけども、外れ1位だったんです。巨人は中日と堂上という選手を共に1位指名していて、中日がくじ引きで当てているんですよ。じゃあ、外れ1位で誰を指名するか?っていうので坂本勇人。それはスカウトの大森さんが強烈に推したんですよね。「僕がずっと担当して見てきたこの選手はすごいと思うので」って。
だから外れ1位の中でも賭けみたいな、そんな存在だったんですが。ところが坂本選手、指名してみたら2年目ぐらいから。10代からスタメンになって、いまですよ。だから大森選手、サヨナラヒットとかは打てなくて、自分が現役の時には打てなかったんですが、スカウトになって大ホームランを放ったと。だから長い目で見れば「ああ、大森を取ってよかった」っていうことになるわけですよね。
(海野紀恵)うんうん。そうですね。
(プチ鹿島)それぐらい、平成って長いんですよ。それが面白い。だからこれ、いいところに目をつけて掘り起こしたなって思って。これ、大森剛だけでも掘り起こせば1冊のすごく読み応えのあるノンフィクションができると思うんですよね。それをいち早くやっているという。
(プチ鹿島)だからこれ、本当にいろんな映画とかドラマとかお笑いとかアイドルとかの中にある、日常の中にあるプロ野球というのを描いているので、すごく読みやすいし。実は平成を掘り起こした本で最も詳しいんじゃないか?っていう風にも僕は思いました。もう一度、最後にご紹介しましょう。『平成プロ野球死亡遊戯』という中溝康隆さんの著書でございました。これ、令和元年のうちに読んだら面白いんじゃないかな? 筑摩書房から出ています。はい。プチ総論でした。
<書き起こしおわり>