(渡辺志保)この時間はゲストに音楽ジャーナリストの高橋芳朗さんを迎えてお送りしております。
(高橋芳朗)よろしくお願いします。
(渡辺志保)私も本当に自分が中学生ぐらいの時分からですね、ヨシさんの記事などを拝見して「ああ、東京のヒップホップシーンってこういう風になっているんだ」とか「芳朗さんぐらいになるとこういう人脈があるんだ」とかね。あと、もちろんヒップホップの濃い情報を得ていたわけですけれども。やっぱり音楽ライターの方がこうやってしゃべるって、いろいろと前例はたくさんあると思うんですけれども。私にとってみれば高橋芳朗さんってヒップホップをずっと伝えてきたライターの先輩であるという、そういう印象も強かったんですけども。その高橋芳朗さんが何年前ですか? TBSラジオで『HAPPY SAD』を始められたのは?
(高橋芳朗)『高橋芳朗HAPPY SAD』っていう番組をスタートしたのが、2011年4月ですね。震災の直後ですね。
(渡辺志保)そうかそうか。それで「ヨシさんがラジオに出て音楽を紹介するんだ!」っていうのがすごく衝撃的でしたね。当初はどういうお気持ちであの番組はスタートされてらっしゃったんでしょうか?
(高橋芳朗)いやー、もうガチガチでした。本当に。なんかもう、いきなり自分の名前もついちゃってさ。ねえ。しかも、それこそ本当にブラックミュージック。ヒップホップ中心で基本的にその音楽執筆活動を行ってきた中で、まあね……そういう冠番組を持つことになったらより幅広く、いろんな音楽を紹介していかなくちゃいけないということになりますから。まあ、いろんな音を聞いてきたとはいえ、いろいろ本当に勉強をし直した。
(渡辺志保)すごい。素晴らしいです。本当に。
(高橋芳朗)で、その時にやった手応えとして、もっと邦楽の歴史も学ばなくてはいかんなって思いまして。まあ、一生懸命勉強しました。その時の成果がいま、『生活は踊る』でちょっと生かされてるところはありますかね。
(渡辺志保)だって『HAPPY SAD』に最初、ジェーン・スーさんもね。
(高橋芳朗)ああ、そうね。彼女をああいう形でフックアップできたのもすごくよかったですね。
ジェーン・スーが語る アラサー女子と『中年こじれ島』 https://t.co/8QvO7fifZ9
ジェーン・スーさんがTBSラジオ初登場した際の模様です。いきなりすごい。— みやーんZZ (@miyearnzz) 2019年4月20日
(渡辺志保)だから私もこうやってラジオで音楽を紹介しておりますけれども。繰り返しますけども、私は本当に半径5メートルぐらいでリリースされているような曲をずっと連綿と紹介しているわけですけども。やっぱりその……。
(高橋芳朗)フフフ、謙遜しすぎだよ(笑)。
(渡辺志保)その同じテンションでいろんなジャンルの楽曲であるとか、いろんな年代の曲を自分の中で消化して話すってめっちゃ大変ですよ。本当に。
(高橋芳朗)いや、でも本当に最初にも話しましたけど、浅瀬でちゃぷちゃぷやっていたような感じで。
(渡辺志保)あと、やっぱり誰に向かって話すか?っていうことも非常に重要じゃないですか。それをだから毎週、やってらっしゃって。広い範囲でやってらっしゃるって本当にすごい。
(高橋芳朗)昼の帯の番組で洋楽を紹介するとなると、もうなにもさ、前紹介を抜きに話が始められるアーティストなんてビートルズとかカーペンターズとかクイーンとか、そのレベルで。もうドレイクだろうがビヨンセだろうが、なんか一言やっぱりつけ加えなくちゃいけない。でも、それを怠るとね、やっぱりリスナーの人も遠ざかっちゃうし。かといって、やりすぎるとちょっと鈍くさくなってしまうし。そのへんのさじ加減は非常に難しいですね。
さじ加減がとても難しい
(渡辺志保)難しいです。私、いままさにそういうところ、さじをどの程度傾けるべきか?っていうのを常に、ストラグルを抱えながらしゃべっているような感じ、ありますね。
(高橋芳朗)でもさ、こういうラジオ番組とかをやっていると、それこそ書き起こしとかもされたりして、拡散されたりして。それで「志保ちゃんの解説、非常にストンと腑に落ちました」とか言われたりすること、あるじゃないですか?
(渡辺志保)フフフ、ありがたいことに。
(高橋芳朗)で、めちゃくちゃそれは嬉しいんですけど……なんだろうな? その「ストンと腑に落ちる」みたいなところにとらわれすぎるのも、ちょっと危ないかな?っていう気がするんですよ。
(渡辺志保)ああ、そうですね。わかりやすさだけを自分のゴールにしてしまうと……とか。いいことばっかりを言わないと……とか。それはめっちゃわかります。
(高橋芳朗)うまく単純化できたり、シンプル化ができて、その音楽やアーティストの核になるところを説明できたら、それはそれに越したことはないんですけれども。ねえ。単純化することによって削れてしまうところっていうのも当然あるわけで。
(渡辺志保)そうなんですよ。なんか、私も普段、自分のさじの傾き加減をね、どうしようと思うのはその、以前はたとえばヨシ先生も『Blast』とかヒップホップ専門誌、ブラックミュージック専門誌で書く時って、やっぱりその共通のみんなの前提があった上で書くわけじゃないですか。
(高橋芳朗)もうコンセンサスがありますからね。
(渡辺志保)そう。かつ、ヒップホップと広くガッと捉えた時も、「ヨシさんが好きなヒップホップってこういうやつ」とか。で、「このライターさんはめっちゃギャングスターが好き」とか。「このライターさんはターンテーブリズムとかそういうのが好き」とかね。いろいろとヒップホップの中でも自分の得意分野っていうのがあって。その中で書き分けをされていたりとか、自分の視点での……ジェイ・Zを1人とってみてもそうですよね。高橋さんが語るジェイ・Z。他のライターさんが語るジェイ・Zって、いろんな側面があってしかるべきだったけれども。
結構いまってその専門メディアも少なくなってしまったので、なんかその最大公約数的に伝えることが非常に多いので。まあ、こういうことを話すのもどうかと思いますけど、たとえばビヨンセに関しても「ビヨンセを知らない人でもわかるように書いてください」とか。なんか、「ニプシー・ハッスルを知らない人にもわかるように話してください」とかね。そういうのがあると、うん。ちょっとね、自分の中でどこまで自分のチャンネルを変えればいいのか? とか。ちょっと思っちゃいますね。
(高橋芳朗)うんうん。
<書き起こしおわり>