(吉田豪)ショーケンさん、実は僕、大好きなんですけども接点はなくて。1回だけ、取材直前まで行ったことはあったんですよ。『Continue』っていうゲーム雑誌で掟ポルシェと2人でインタビュー連載をしていて。
(宇多丸)あの連載って好き放題の人、呼んでましたよね? どこがゲーム雑誌だ?っていう(笑)。
(吉田豪)なにも関係ない(笑)。それでショーケンさんに行きたくてオファーをしたんですよ。そしたら事務所の人が出て。「なんだ、そこ雑誌?」「『Continue』っていうゲーム雑誌です」「知らない」っていうことで。それで結構なことを言われたんですよ。「知らないな。じゃあ、ギャラは最低100万だ!」って言われて。
(宇多丸)うんうん。まあ「断りギャラ」っていうかね。
(吉田豪)そうですね。で、「それじゃあ無理です」って言ったら、「しょうがねえな。ゲームオーバー!」っていう、その「ゲーム」を拾った返しを……(笑)。
(宇多丸)フハハハハハハッ!
(吉田豪)すごい幻想あるじゃないですか。ただ断るにしても、こんなにちゃんと1ネタくれるっていうか。事務所の人までサービス精神がすごいと思って。
(熊崎風斗)すごいユーモアがありますね。
(宇多丸)すごい。怖いっちゃあ怖いけど。
(吉田豪)怖いけど……でもすごい僕は好きな話で。これを1回、ちょろっととあるラジオで話したことがあって。
(宇多丸)ええ、ええ。
(吉田豪)で、ちょっとそれが耳に入ったらしくて。実は僕、3、4年前にショーケンさんとディナーショーをするっていう企画があったんですよ。
(宇多丸)ちょっと待って。「ショーケンさんと」?
(吉田豪)ショーケンさんが歌って、トークコーナーを僕が司会っていう。とある地方でホテルで、しかもクリスマスイブ。
(宇多丸)すごいね……。
萩原健一とのクリスマス・ディナーショー計画
(吉田豪)オファーをされた時、葛藤はしながらも、でもすごいなんとかそれはやりたい!って思って。
(宇多丸)フフフ、辛いけど、でも目撃者としては最高っていう(笑)。
(吉田豪)最高。しかもクリスマスイブに地方に隔離されているわけですよ。僕ら、帰れないっていう(笑)。確実に2人で1泊みたいな。
(宇多丸)逃げれない(笑)。
(吉田豪)でも絶対にこれは楽しいって思って、腹をくくってやる気になったら、やっぱりその事務所のところで、ラジオでそのことをネタにしたっていうことでポシャッちゃって。
(宇多丸)あらららら……。
(吉田豪)それが悔やまれるんですよ。それをネタにするのを今日まで引っ張っていれば、もしかしたら実現できていたかもしれなかったのにっていう。
(宇多丸)なるほど。割とだから、ネタにされるのは良しとしない感じなんですね。裕也さんとかはそのへん、お構いなし感も?
(吉田豪)怒りはしますけどね。でも、たぶんそのへんは似ていると思いますよ。怒りながらも、最終的に謝ったらちゃんと許してくれる人っていうか。そのチャーミングさですよね。
(宇多丸)なるほど。でもすごい吉田さんテイストですね。この二大コクのある巨頭が……っていうね。
(吉田豪)本当にショーケンさんに会えなかったことだけは悔やんでいますよ。なんとか取材したかったんですけども。
(宇多丸)取材どころかね、クリスマスを過ごす予定だったのに(笑)。
(吉田豪)本が本当にハズレがないですからね。
(宇多丸)ああ、それぞれのね。裕也さんもショーケンさんも本があって。おすすめは?
(吉田豪)裕也さんの本は『俺は最低な奴さ』とかもいろいろとあるんですけど、『俺はロッキンローラー』という自伝が唯一、1冊出ていて。それを僕が文庫化しているんですよ。廣済堂出版から、いまは絶版になっていて高値で売買されていますけども。
(宇多丸)へー!
(吉田豪)僕が監修&帯文&解説も書いていますね。素晴らしい本です。
(宇多丸)パンチラインが多くあるっていう。
(吉田豪)パンチラインだらけですね。裕也さん本人も持っていなかったんですよ、これ。僕が取材した時に現物を持っていったら「俺も持ってないよ、これ!」って始まって。後半1時間は全部これの朗読ですからね。裕也さん。「俺、いいこと言ってんな!」って(笑)。
(宇多丸)自分の発言を(笑)。
(吉田豪)僕らに聞かせるんですよ。「おい、ちょっとここを読んでやるぞ!」って(笑)。「どうだ、これ?」「いや、最高ですよ!」「だろ?」みたいな。どんどんゴキゲンになっていって。
(宇多丸)最高に決まっているっていう(笑)。
(吉田豪)その時もそうですけど、裕也さんは最初にカマす人なんで。最初に僕らにカマして。「なんだ、このインタビュアー?」とか言った後でだんだんと機嫌がよくなって「酒でも飲むか?」が始まったりとか。アメとムチが気持ちいいんですよね。
(宇多丸)ZEEBRAのことを最後までね、「ゼブラ」って言っていたっていうね。
(吉田豪)それも大好きな話ですよ。その言い違いを許さないジブさんがそこだけはスルーっていう(笑)。
(宇多丸)いやいや、そりゃあそうでしょう(笑)。一方でショーケンさんの本は?
(吉田豪)ショーケンさんは自伝『俺の人生どっかおかしい』っていう1984年に出た自伝が本当に素晴らしくて。自伝というか、これはちょうど大麻で捕まった直後の本なんですよ。
(宇多丸)うんうん。
(吉田豪)捕まった直後で当然、反省とかを求められるような本のはずが、こんなにも清々しくドラッグ描写が書かれている本も珍しいっていう(笑)。
(宇多丸)へー!
(吉田豪)基本、「ハシシを吸った。うまかった」とかそういう描写だらけで(笑)。
(宇多丸)ポジティブ描写(笑)。これはいま、許されないやつだ……。
(吉田豪)いまは許されないと思っていたんですよ。ところが2008年に『ショーケン』という分厚い自伝がもう1回、出まして。これは半分ぐらいは実は『俺の人生どっかおかしい』と話がかぶっているんですよ。で、ちょっと描写がソフトになっていたりもしながら、その後のエピソードが追加されたりしていて。
(宇多丸)ええ、ええ。
(吉田豪)これも素晴らしい本なんですけども。これだけ時間がたっているから、当然リテラシーも変わって、内容もソフトになっているのかな?って思ったら、ドラッグ描写は全然変わっていなかったんですよ(笑)。
(宇多丸)そこは特に変わっていなかった(笑)。
(吉田豪)そこはキレがいいままっていう(笑)。
(宇多丸)さすが吉田さん、読み比べて浮かび上がるものもあるっていう(笑)。
(吉田豪)最終的には瀬戸内寂聴さんとの対談の『不良のススメ』っていうので衝撃を受けて。ショーケンさんのボーカルスタイルの原点はここだったっていう謎が解けるんですよね。
(宇多丸)おお、それは?
萩原健一・ボーカルスタイルの原点はジョニー・ロットン
(吉田豪)ドラッグで捕まった後、謹慎期間があったんですよね。で、仏門に入って。瀬戸内寂聴さんのお寺に預けられて……っていう時期があったんですけど、しょっちゅうお寺を抜け出していたんですよ。抜け出して坊主と飲みに行ったりとか(笑)。
(宇多丸)なんという生臭坊主(笑)。
(吉田豪)で、中でもいちばん抜け出したエピソードが、ちょうどその時にジョニー・ロットンが初来日していて。セックス・ピストルズのボーカルのジョニー・ロットンがパブリック・イメージ・リミテッド(PiL)を結成して初来日をしたんですよ。
(宇多丸)それは1980年代頭ぐらい?
(吉田豪)1983年とか84年とかですかね。その時に「行かなきゃ!」っていうことで、お寺を抜け出して京大西部講堂に行っているわけですよ。
(宇多丸)PiLを見に行ってるの?
(吉田豪)そう。それで気がついたのが、あのショーケンさんのボーカルはそういえばジョニー・ロットンかもしれないっていう。ショーケンさん、だんだんとボーカルスタイルが破壊的になっていって、アヴァンギャルドな歌い方になっていったっていうのは。
(宇多丸)ああ、ああいう風なのは。そうか。
(吉田豪)ストーンズとかを超えたなにかの歌になっているなと思っていたら、そこにはもしかしたらピストルズからの影響が入っているのかもしれないっていう。
(宇多丸)世代から言えば、どっちかというとストーンズかと思いきや。
(吉田豪)当然、ストーンズも大好きだろうけど、それも入っているんだろうなって。
(宇多丸)ひとつ飛び越してジョニー・ロットンだったという。
(吉田豪)裕也さんも世代は全然前の人なのにちゃんとパンクの影響も受けた人だったりとか。
(宇多丸)それとかね、ヒップホップ勢も。ニューイヤーロックフェスにもね、呼んできたり。
(吉田豪)それこそレゲエのね、『餌食』という映画がいかに素晴らしいかみたいな話も含めて。裕也さんは常にそうやって先端にいた人でもあったし。
(宇多丸)ねえ。そして常に若い人と交流もしていましたしね。1回、僕はやっぱり電撃ネットワークのギュウゾウさんの結婚パーティーの時に……吉田さんなんかもいらっしゃいましたけども。あの時、やっぱり「うわあ、裕也さんだ!」って。すごいモーゼのようにバッと人が割れて登場するみたいな。
(吉田豪)あれがちょうど僕がデリケートな時で、挨拶ができなかったんですよ。なんでかっていうと、僕の本が出たわけですよ。『人間コク宝』の1冊目。それが裕也ファミリー全制覇を目標にしてジョー山中さんとか桑名正博さんとかいまはもう亡くなった方々を掘っていて。
(宇多丸)これは貴重だよ。
(吉田豪)それを読んで、裕也さんが編集部に電話をかけてきたらしくて。「このジョーのインタビューはなんだ? これはジョーは全部本当のことを言っているのか?」って。ジョー山中さんが「裕也さんが酔っ払ってひどくて、2回ぐらい殴ったことがある」っていう風に書いていて、それでキレて。「ジョーが本当にこんなことを言っているのなら、俺はジョーとの付き合い方を考えなきゃいけない」みたいなことを言っていると聞いて、「どうしよう?」って思っていたタイミングで裕也さんがあそこに現れたんで(笑)。「ヤバい!」って。で、「僕はいないふりをしないと……」みたいな。
(宇多丸)でも吉田さんの原稿がきっかけで、そこで仲違いなんかされちゃあ嫌だからね。それで、どうなったんですか?
(吉田豪)全然何事もなく……僕の記憶だと、あの時にジョーさんもいた気がするんですよ(笑)。
(宇多丸)ああ、そうでしたっけ? というか、ジョーさんが連れてきていたよ。なんなら。
(吉田豪)だから、「ここの2人には僕は会えない」って思って隠れていたんですよ(笑)。「ヤバい!」っていう(笑)。
(宇多丸)フフフ、まあそのうち流されたというか、そういう感じですかね。
(吉田豪)何事もなかったようでよかったという。
(宇多丸)吉田さんがね、タイトロープを歩きながらここまでやってきてるという。さっきの『Continue』の連載とかもいろんな人を呼ぶうちに大変なのに当たっちゃったとか、いろいろとしてるんですから。大変なんですから(笑)。詳しくは、ここではちょっとね。
(吉田豪)この前は前川清さんのところに掟ポルシェと行ったら、掟ポルシェがなぜか前川清さんにすごい気に入られて。「ちょっと連絡先を教えてくれ」って。もしかしたら、いま前川清さんって九州で番組をやっているんですよね。掟さんもいま、月に半分は福岡じゃないですか。「俺もそうなんだよ!」みたいな感じで盛り上がって。この2人がうまいことこれでつながっていかないかなって思っていて。
(宇多丸)謎すぎるでしょ!
(吉田豪)謎すぎますけど、でも掟さんは基本、ムード歌謡も大好きだし。
(宇多丸)たしかに。掟さんも吉田さんもそういう人たちに合わせられるし。その俗っぽさとは一応表面上はフィットするから。表面上は(笑)。だから、かわいがられもするし。たまにそういうマジックが起きるんですよね。ショーケンさんとクリスマスイブとかさ(笑)。
(吉田豪)掟さんなんて、あのレベルで掟さんが気に入られたのは、その前だと吉幾三依頼なんですよ(笑)。
(宇多丸)フフフ、ラインがある?
(吉田豪)ラインがあるんですよ。なぜかあっち系の人にすごい気に入られて。
(熊崎風斗)吉幾三ライン(笑)。
(吉田豪)そう(笑)。
(宇多丸)やっぱり掟さんの豊富なオヤジたちとのバイト歴がさ。やっぱりそこはオヤジさんたちとの付き合い方は慣れているみたいなの、あるんじゃないですかね。
(宇多丸)でもますます、その吉田さんの『人間コク宝』的なインタビューで後から価値が上がりますよね。
(吉田豪)周辺の証言も含めて。だってHIROさんのインタビューなんて裕也さんが亡くなる前にやっていますからね。いま出ている号だけど。
(宇多丸)偶然にも。じゃあ、ちょっとどんどんとね。ヒップホップ界の面白い人とかもいますからね(笑)。
(吉田豪)そっちもがんばります(笑)。
(宇多丸)だいぶ掘っていますけどね。
(吉田豪)意外とね。なぜか。宇多丸さんとのパイプができてから、自然とそっちも広がっていって。
(宇多丸)ねえ。いずれそういうのも貴重になっていく瞬間もかならず来ますからね。よろしくお願いします。
(吉田豪)了解です。
<書き起こしおわり>