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町山智浩『ビューティフル・ボーイ』『ベン・イズ・バック』を語る

町山智浩『ビューティフル・ボーイ』『ベン・イズ・バック』を語る たまむすび
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(町山智浩)それで、このベンくんが行方不明になってしまうんですよ。それで、どうする?っていう話なんですけども。でも、ジュリア・ロバーツはこう言うんですよね。「I will not leave you.」って言うんですよ。「私は決してあなたを放さないから」っていう。やっぱりそれがないといけないんで。だからこの中で、黒人のジュリア・ロバーツが再婚した相手の旦那さんが出てきて言うんですけども。「でも、ベンは恵まれているよ」みたいな話をするんですよ。「執行猶予になっているだろう? 刑務所に入っていないじゃないか。もし彼が黒人だったら、絶対に刑務所行きだよね」って。

(赤江珠緒)はー! またそのアメリカ社会独特の……そうですね。

(町山智浩)そうなんですよ。黒人は、それこそマリファナをポケットに入れているだけで、片っ端から刑務所にブチ込まれちゃうんですよ。アメリカは。だから、マリファナで厳罰化するのはやめようっていう動きはそこからも起こっていったんですね。で、もし刑務所に入ってしまったら、完全に前科者になってしまうんですよ。そうすると、前科者になると今度は社会復帰がものすごく難しくなるから、どんどんどんどんまた中毒の方向に入っていくんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうか。

(町山智浩)だからまず、こういう本人が個人的に使用しているだけの人を犯罪者として扱うと、その人は二度と社会に戻れなくなってしまうんで、それだけはダメということなんですよ。

(赤江珠緒)そういうメッセージ性がどちらの映画にも底辺にはあるということなんですね。

(町山智浩)どっちの映画も、彼らを復帰させるということはたしかに大変なことなんだけども。でも、諦めたらまた地獄に落ちてしまう。その人は「もう見捨てられた」と思ったら、他に行き場はないんだから、また中毒の方に行ってしまうんだよっていうことでもあるんですよね。

(赤江珠緒)なるほど。ちょっと町山さん、いまこの話は我々にものすごく沁みますよ。これは。ねえ。そうか……。

(町山智浩)やっぱりね、ベンが帰ってくると「かかわりたくない!」っていう人たちもいっぱいいるわけですよ。もう、みんな逃げて行っちゃう。

(赤江珠緒)まあ、その方が簡単ですからね。

(町山智浩)そう。みんな逃げて行っちゃうんですよ。でも、そうすると、じゃあその人たちは別にいいけど、その中毒の人は絶対にそこから元に戻れないんですよね。

(赤江珠緒)そうですね。でも本当、裁く人がいて、治療する人がいて、受け入れる人がいないとダメなんですね。

(町山智浩)そうなんですよ。特にこのティモシー・シャラメくんが出ている『ビューティフル・ボーイ』の方は覚醒剤なんですけども。覚醒剤はアメリカでは女性とか田舎の方とかでやる人が非常に多いんですよ。日本もそうなんですけど、女性の収監者の中で最も多い原因は覚醒剤なんですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)でも、彼らは別にそれで人を傷つけるわけではないし、個人使用をしているだけなので、そういった女性たちを刑務所に入れてしまうことで、家族も崩壊してしまうし、社会復帰もしにくくなってしまうので、果たしてそれがいいことなのか?っていうことがいま、アメリカでは問われているんですよね。

(赤江珠緒)ああー。

(町山智浩)日本もそうですよ。女性の収監者の多くは覚醒剤使用ですよ。でも、刑務所に入れることで何のメリットがあるのか? それよりは、治療をした方がいいんじゃないのか? 実際にドイツやポルトガルなどヨーロッパのいくつかの国は、個人の使用に関しては罪としない。犯罪としないということがもう20年ぐらい、続いているんですよ。

(赤江珠緒)へー!

薬物の個人使用の非犯罪化の動き

(町山智浩)でも、そうすることによって使用している本人が警察に「私は使用しました」って出頭をすると、その使用は罪としては問われずに、リハビリの方に連れて行かれるんですよ。

(赤江珠緒)なるほど。じゃあ、売ったりする人の方の罪は本当に重くなるけど……。

(町山智浩)そっちは厳罰にするんですよ。すごく厳罰にする。そうすると、家族とかも通報をしやすくなるんですよ。で、その自分がもうヤバいと思ったら、自分で行っちゃえば、売人とかのルートも警察側は確認ができるわけですよ。コントロールすることができるわけですよ。ところが、「使用は犯罪だ」ということにしてしまうと、やっている人も、やっている人の家族も、なかなか警察に届けないから完全に地下に潜ってしまって警察からは見えなくなってしまうんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。うん。

(町山智浩)だから顕在化させるために、その「個人使用に関しては罪に問わない」っていう方向で……つまりそれは逆に言うと取り締まりを強化するためになるんですよ。で、それが20年ぐらいヨーロッパではかなり主流になりつつあるんですね。で、アメリカでもそういう風にしようということになってきて。犯罪組織へお金が流れたりすることを止めるためにも、個人使用に関しては罪に問わない方向に持っていけないか?っていうことが検討されているんですけども。

(赤江珠緒)そうですね。現実にもうクスリっていうものが存在しちゃっている世の中で、じゃあどのように世の中で対処していくか?っていうと、実はその方法の方が蔓延を防ぐことができる手なのかもしれないですね。

(町山智浩)だから中毒になっている人が警察にいつ届けるのかわからないっていうことになると、売人は活動ができなくなりますからね。個人使用が罪に問われないなら、いつでも通報ができるわけですから。

(赤江珠緒)そうですよね。「病気として治療してほしい」って自分から言うことも可能なわけですもんね。

(町山智浩)そうなんですよ。そうすると、それこそ売買する組織が活動をできなくなるわけですよ。もういつ通報されるかわからないって。でも、使用自体を犯罪だということにすると、使用者は自分たちが捕まるのが怖いので絶対に通報をしないだろうっていうことで、売人たちは安心してクスリを売ることができるようになるわけですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だからそこの問題で、取り締まりのために個人使用の非犯罪化が進んでいるんですね。あと、この『ベン・イズ・バック』という映画ではピーター・ヘッジズという人はお父さんが牧師さんだったんですよね。

(赤江珠緒)ええっ? お母さんがアルコール中毒で、お父さんは牧師さん?

(町山智浩)そう。だから非常にキリスト教的な映画になっていて。この話自体が聖書にある「放蕩息子の帰還」という話が元になっているんですよ。もう本当にダメな息子がさんざん親に迷惑をかけてひどいことをして帰ってくるんですけど、それを父親が受け入れるという話が聖書に書かれていて。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)それがそのキリスト教における正しい神の精神なんだっていう風に書かれていて。それがこの話のモデルになっているんですけども。で、どんなに悪いことをしても、帰ってきたのならば受け入れなければいけないんだっていうことなんですよね。だから「放蕩息子の帰還」っていう非常に有名なレンブラントの絵があるんですけど、それとそっくりのカットがこの『ベン・イズ・バック』にも出てきたりするんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。だからクリスマスに帰ってくるみたいな話なんだ。

(町山智浩)そうなんですよ! まあ、見てもらうとクライマックスのあたりは完全にそういう話になっているんで、実はクリスマスに見るとボロボロ涙を流して感動するような話なんですけどね。ということで、もうすぐ公開の『ビューティフル・ボーイ』と『ベン・イズ・バック』でした。

(赤江珠緒)はい。『ビューティフル・ボーイ』は日本では4月12日公開。『ベン・イズ・バック』は5月24日公開でございます。

(町山智浩)でも日本でもアルコール中毒とかの問題はあるんで。本当に他人事じゃないと思います。

(赤江珠緒)本当にそうですね。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

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