黒井文太郎 北方領土返還交渉の行方を語る

黒井文太郎 北方領土返還交渉の行方を語る 水曜日のニュース・ロバートソン

軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんがBSスカパー!『水曜日のニュース・ロバートソン』にゲスト出演。モーリー・ロバートソンさん、プチ鹿島さんと日本とロシアの北方領土返還交渉について話していました。

証言 北方領土交渉

(プチ鹿島)じゃあ、気になるテーマ。日本ですね。「北方領土交渉 2島返還に根拠なし」。ちょっとこの話をぜひお伺いしたいです。

(松本有紗)北方領土問題についてなんですが、まずはこちらをご覧ください。去年11月に行われた日露首脳会談。それを受けて新聞各紙では「歯舞・色丹の2島返還を軸に交渉を加速させた」と大々的に報じました。そして年が明けると、安倍総理は新年会の場で北方領土問題を含むロシアとの平和条約交渉について「私とプーチン大統領の手で終止符を打つ」と力強く宣言。今月下旬に再度行われる首脳会談に向けて意気込んでいます。

(プチ鹿島)「終止符を打つ」って安倍さんがおっしゃっていますが、要は2島なら帰ってくるみたいなムードになっていると?

(黒井文太郎)だから、彼はそういう風には言わないわけですよ。「かならず2島は帰る」とかそういう話を両方の首脳がしないんですね。で、言っているのは「平和条約を結ぶんだ」っていうことしか約束をしていなくて。まあ、それは日本側から見れば領土返還がないとできない話なんですけども。まあ、これはもう無理でしょうね。

(モーリー・鹿島)無理(笑)。

(黒井文太郎)ありえないですよね。私、軍事雑誌で記事を書いているんで、軍事ジャーナリストという風に名乗ってはいるんですけども。実は軍事雑誌で書くようになる前に日露関係をやっていたんですよ。で、ロシアにも2年ほど住んでまして。ゴルバチョフからエリツィン時代の頃なんですけども。この問題、結構取材をしていまして。まあ、ずっと見ているんですね。で、当時からロシア側からなにか島を返すような話っていうのは新聞でずっと何度も、ゴルバチョフの時でも「お金がないから売る」みたいな話が出てきたり。エリツィンの時にも同じような話があって。で、プーチンの時も……っていう話をずっと見ているんですけども。

これね、不思議なことにロシア側は誰も言っていないんですよ。で、全部日本側の政府およびその周辺から出てきている話だけで日本のメディアの人も専門家の人もしゃべっちゃっているということですね。ですから、たとえばいま、「プーチンは2島返還をするんじゃないか?」っていう話があるんですけど、プーチンは「2島を返還する」なんていうことは1回も言っていない。

(プチ鹿島)言ってないんですね。

(黒井文太郎)1回も言っていないです。これはもう、断言しますけども。

(プチ鹿島)でも、そういうムードは日本のマスコミに……(笑)。

プーチンは一度も「2島返還」と言っていない

(モーリー)「プーチンとしては2島までならいいのに、日本は4島にこだわっているから進まない」みたいなフィクションの中のさらにフィクションができているんですけども。

(黒井文太郎)それは全部日本側が言っているんですよ。だからプーチンサイドはそんなことはわざと一切言わないようにしている。はっきりとは。で、なんとなく「4島の要求はよくない」とか、そういう言い方をするんです。ただ「2島を返す」なんて言い方は絶対にしていないんです。絶対にしないっていうのはホワーンとさせて、向こうの日本側の期待だけを煽っておけばなんかお金をくれたりするかもしれないですからね。

(モーリー)そう。日本はそのホワーンとした状態、いい雰囲気を維持するために先行投資のように1000億単位で渡しちゃう傾向があるんですか?

(黒井文太郎)だからそういう風に動きつつあるんですけども。まあ、やっぱりなにかしらの実がないとなかなか難しいということでちょっと停滞はしているんですね。停滞はしているんですけども、日本側としてはまあ多少、ちょっとずつでも協力をしましょう。あと外交もね、先ほど言いましたようにプーチンって世界中からもう「ダメだ、こいつは!」って言われている中で、日本の政府だけが「プーチンさん、はいはい」なんですね。だからそういったことも含め、プーチンサイドとしては日本を切り捨てるっていうメリットもあまりなくて。期待だけを持たしておこうと。

(プチ鹿島)そうか。向こうからすり寄ってくるから。日本自体が秋田犬みたいになっているわけですね(笑)。

(モーリー)なついちゃった(笑)。

(黒井文太郎)僕がよく例に出すには、それこそたとえば好きな人に「お食事でもどうですか?」みたいな話で「そのうちに……」って。

(プチ鹿島)まあ、無下にはしないっていう。

(黒井文太郎)っていうだけなんですね。で、それに対して2島返還。これはもともと2001年、プーチンになってすぐなんですけども、イルクーツク声明っていうのがありまして。そこで「1956年の日ソ共同宣言を基本としてやりましょう」みたいな話が出たんですね。なので、「ああ、それを言うということは、2島返還を約束したんだろう」なんて日本側だけが思っているんですけども。

(プチ鹿島)森喜朗さんの時でしたっけ?

(黒井文太郎)そうですね。ただね、そんなことはロシアとしては言っていないんですね。「だからそれはそれとして、時代は変わっているんでお互いの妥結のできるところでやりましょう」っていう言い方しかしていないんですけど、日本側はそれをもって、去年の日露首脳会談もそうですけども、日ソ共同宣言を否定はしないんですよね。ただ、「日ソ共同宣言に基づいて2島返還で行きましょう」っていう言い方はロシア側は絶対にしていない。

(プチ鹿島)言っていない。だから聞けば聞くほど不思議な話なんですよ。たとえば今年の年明けの新聞各紙を読んでみると、今年は参院選があるじゃないですか。じゃあ安倍さん、12年前の参院選。いのしし年は負けて退陣しているから、今年は雪辱だと。で、読売新聞の1月4日に書いてあったんですけど、じゃあそれで政府は何をやっているか? G20っていうのを本来ならサミットの後で開催のスケジュールが組まれているのをサミットの前にしてもらったっていうんです。つまり、参院選の前にしてもらった。そこで見せ場を作って。なにかロシアと派手な話、おめでたい話をブチあげて参院選に臨むんだっていう、そういう解説が……。

(モーリー)「2島が返ってきた。よーし、圧勝だ!」みたいな?

(プチ鹿島)それありきでスケジュールを組んでいるんですけども、いまのお話を聞くとこれはじゃあ、勝手に騒いでいるだけなんですか?

(黒井文太郎)だから官邸に影響力のある誰かがそれを言っているんですよね。ただ、それは日本側だけの話で、誰もロシア側の当局者は言っていない。

(モーリー)あの、黒井さんの雑誌なりツイートを安倍総理が読めば、これはだいぶ前に進む話なんじゃないんですか? 認識が。

(黒井文太郎)というか、おそらくこれをご覧になっているみなさんの中にも、これはもう25年ぐらい続いているんですよ。「進展する、進展する」って言われながらも……。

(モーリー)あと、「墓参りの権利」とかね(笑)。

(黒井文太郎)だから「それに対して、1ミリも返ってきてないんだから、また同じことなんじゃないのか?」みたいに思っている方は多いと思うんですけども。もうとにかく、これだけは確実なのはロシア側は「返す」なんてことは言っていないんです。これは実は僕が単に新聞を読んでいて思っていたわけじゃなくて、自分なりの経験もあって。エリツィン時代なんですけども、僕はロシアに行っていたんでロシア外務省に知り合いが多かったんですよ。で、そこの人たちから当時は話を聞けたんですね。そうすると「日本側はなにを言っているんだ? ただ、ケンカしてもしょうがないから話だけは合わせるけど、そんなの返すわけないじゃん」って。

(プチ鹿島)そもそも返すわけがないと。

(黒井文太郎)これは誰に聞いてもそうなんですね。ただ、その当時も日本側は……当時、エリツィン時代。なんか「返ってくるんじゃないか? 少なくとも2島は……」みたいな話になっているんで。これは全部、日本側の情報源なんですね。ですから、メディアの人もおかしいなと思うのは、「ロシア側を取材してください」っていう話なんですよ。

(モーリー)あの、希望的観測がある種の性善説およびお人好しでなついちゃって独り歩きをしている。ところが、同じユーラシアの反対側のクリミア半島でロシアがなにをやっているのか? シリアでなにをやっているのか?っていうのを見ると、そんなお人好しなわけがないじゃんっていうことがわかると思うんだけど。つながらないんですか? 日本のその政治家やメディア関係者の間で「ここでやっていることとここでやっていること、同じ人物ですよ?」っていう。

(プチ鹿島)で、もっと言うと参院選の前にG20をやって。じゃあ「プーチンさん期待してます」っていうこっちの雰囲気は当然、伝わっているわけですよね。もう完全にアドバンテージは向こうにあるわけじゃないですか。

(黒井文太郎)ですから、向こうはそれをただ、手綱を締めたり緩めたりするだけで日本側はずーっと日和ってくるんで。あんまりもう、向こうから見れば楽勝なんですよ。

(プチ鹿島)ですよね。はー!

<書き起こしおわり>

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