菊地成孔さんがTBSラジオ『粋な夜電波』の中で鈴木智彦さんの著書『サカナとヤクザ』についてトーク。自身の故郷・銚子に関する描写などについて話していました。
(菊地成孔)(メールを読む)「先日の放送で菊地さんは年内いっぱいの粋な過ごし方についておっしゃられておりました。『粋』という言葉自体、最近は耳目に触れる機会が少なくなってるように感じています。たまにテレビなどで目にするものは宣伝・販促のための視聴者プレゼントに対して『粋な振る舞い』などとのたまっており、そんな意味への変容は勘弁してほしいなと思っている今日この頃です。さて、私は普段漁業関係の仕事に従事しておりますが最近『サカナとヤクザ』という本が出版されました。
漁業という産業、そしてそれをシノギのネタにするヤクザについて、現場への潜入ルポがメインコンテンツのとても興味深い本でしたが、この中で千葉県銚子市についても取り上げられていました。私の中では銚子といえば菊地さん。それも幼少期にご実家である大衆割烹での客同士の喧嘩と、その後始末の話が強烈に残っており、現代の銚子の実態に期待しながら読み進めてきました。しかし銚子の項については主に昭和初期から戦後までの銚子のヤクザに関する資料をまとめた解説のような内容。
それでも暴力団の大親分てある高寅氏の人物像や当時の町の様子に関する記述だけで十分に強烈で。極めつけは、その時代の後もしばらく、その頃の名残りが続いていたという解説に菊地さん著『スペインの宇宙食』から当時、菊地少年が目にした漁師対ヤクザの喧嘩エピソードがまるっと抜粋、そのまま引用されており驚きました。菊地さんの体験について改めて何とも言えない気持ちになるとともに、銚子という町の歴史とそこで生活していた人々。その時代性のようなものについて思いを馳せています。菊地さんはこの本をお読みになられたのでしょうか? 本の感想やいまの銚子の町についてのお話をいただけと幸いです」。
あのね、もちろんこの本は献本いただきました。まあ、そりゃあね、抜いてるわけですからね。まあ、光栄ですよ。とてもいい本です。あのね、私はよくね、「あいつは話を盛っているだろ? いい調子だし、躁病質だし。話を盛っているに違いない」って思われるんですけど。まあ、たしかに盛っている時もあります。というか、話は誰だって盛りますよね? 話を盛らない人っていうのは「私は嘘をついたことはありません」って……まあ本気で信じて言っている人がいたら狂人ですからね。絶対に誰でも嘘つきますし、話は盛るわけです。
なんだけど私の銚子の話は……っていうか、私のエグい話は盛ってエグくなったわけじゃないんです。まだ引いてるんだから。だって俺、高寅さんの名前、1回も出したことないもん。『サカナとヤクザ』はね、はっきりと高寅さんの名前を出しちゃってるから。出しちゃっているんで、まあリアルですよね。銚子の人間で「高寅」っていう名前を知らない人はいないです。あの、仕切っている方ですからね。で、私も自分の幼少期のエッセイにどんだけ高寅さんの名前を出して「高寅さんの子分が……高寅さんの一門が……」って書きたかったんだけど、さすがに実名を出すのははばかられたんで、1回も出したことなかったんですよ。
実名を出すのがはばかられた名前
で、まあいくら「銚子が荒れ場だった」って話を書いても、まあそこは伏せておこうっていうような感じで行ったんだけど、まさか今年になってね……『サカナとヤクザ』もね、この番組が終わるフラグだったかもしれないですよね。あの……(笑)。あそこで引用されたんで終わっちゃったんじゃないか?っていう気もしますけど。まあ、気がついたらなんでもかんでもフラグになっちゃいますけども。まあね、そうなんですよ。なんて言ったらいいのかな? 高寅さんは本当に畏敬の人っていうか。
うちの親父なんかももうめちゃめちゃ怖がっていたし、尊敬もしてましたよね。まあまあ、今日はちょっと時間がないんで。これはいい本ですよ。いまはもう、どうだろう? どなたが仕切ってどんな風になっているのか、全然わからないですけどね。私が書いたのがほぼほぼ昭和40年代の話なんで。まあ、そんな感じですね。あんまり帰らないんでね。まあ、番組なんかで「ちょっと銚子に帰って思い出の地を回ってみましょうか」なんて番組があって、都度都度帰るんですけどね、前番組で滑っているんで(笑)。さすがにもう帰る気もなくなりましたけどね(笑)。
<書き起こしおわり>