町山智浩 頭脳警察・PANTAを語る

町山智浩 頭脳警察・PANTAを語る アフター6ジャンクション

(町山智浩)で、PANTAさん自身はフランス・ギャルっていうフレンチポップスの歌手とかが大好きだったり、すごいアイドル好きなんですよ。最近だとほら、制服向上委員会のために曲を書いたりしていますよね。制服向上委員会の『理想と現実』っていう曲を書いたりしていて。この人、デビュー当時からアイドルが大好きなんですよ。

(宇多丸)その、なんかでも軽やかさもかっこいいですね(笑)。

(町山智浩)そう。両方行くんですけども。で、80年代は結構ポップでやっていたんですけども。ところがだんだん80年代もね、変わっていって。僕、その頃に1回だけインタビューをさせていただいて。全然覚えてないと思いますけど。で、80年代にいちばん問題なのは冷戦が崩壊して、完全に左翼体制とかそういったものはもうありえないものになっていくんですね。

(宇多丸)うんうん。

(町山智浩)で、その国際情勢とかを反映した、すごいんですよ。『R☆E☆D』っていうアルバムは冷戦崩壊の国際情勢を繁栄した冒険アクション映画。船戸与一さんが書いていそうな架空の冒険アクション映画のサントラっていうコンセプトで出したりするんで。すごいだからコンセプトアルバムが面白いんですよ。

R☆E☆D
Posted at 2018.12.4
PANTA
インディーズ・メーカー

(宇多丸)うんうん。あとやっぱり知的ですね。

(町山智浩)ものすごく知的。だから歌詞に出てくる言葉がいろいろとわからないんで。『エヴァンゲリオン』が出てきた時に結構いろんな、聖書とかいろんな宗教とかの言葉をいっぱい使ったじゃないですか。あれが出てきた時にPANTAファンは結構「おっ、PANTAみたいだな?」って思ったっていう。「『エヴァンゲリオン』ってPANTAみたいだな」って。

(宇多丸)ああーっ! あと、僕はお話をうかがっていて、やっぱりサブテキストをちゃんと読み込んで成り立つ作品もあるっていうのはすごい町山さん好みだなって思います。

(町山智浩)ああ、そうそう。聞いているとなんだかわからない固有名詞がいっぱい出てくるので、一生懸命調べたりとか。で、どんどんオタク的にハマって行ったんですけども。ところがそれを一切バッとやめちゃうんですよ。PANTAさんは。1990年に。で、それは90年っていうのは1989年ぐらいに昭和天皇の崩御があって。その時にも僕、行っているんですけども、頭脳警察を再結成するんですよ。で、その時にセカンドが出たりして。で、頭脳警察でそれまでPANTAさんがやっていた非常に知的で高度でおしゃれなハイブロウな音楽をバーン!ってやめて。『頭脳警察7』っていうのを出すんですけど、それはもう完全な、はっきり言うと部族の音楽なんですよ。

7
Posted at 2018.12.4
頭脳警察
SPACE SHOWER MUSIC

(宇多丸)へー!

(町山智浩)そういう、もう戦いの前に槍を持って、腰ミノをつけて「これから戦いに行くぞ!」っていう戦士たちが戦意を高揚するために。

(宇多丸)トライバルミュージックというか。

(町山智浩)トライバルミュージック。そうそう。もう太鼓を叩いて、「これから行くぞーっ!」っていう戦士の音楽になっちゃうんですよ。それをちょっと聞いていただきたいんですけども。『Blood Blood Blood』をお願いします。

頭脳警察『Blood Blood Blood』

(町山智浩)はい、『Blood Blood Blood』。これ、ライブなんですけども。

(宇多丸)はい。ボンゴが!

(町山智浩)ボンゴもドラムもすごい! もう、これは松明をガンガンに焚きながら真夜中にやっているんですよ、これ。

(宇多丸)へー!

(町山智浩)幻野祭っていうのもそうだったんですけども、まったくこれは祭りでしょう。戦いに行く前の祭りですよ。このまま戦士たちが行くんですよ。

(宇多丸)うんうん。これが90年。

(町山智浩)90年なんですよ。で、これがね、やっぱりまあボンゴのTOSHIさんってあんまり語られないんですけど、TOSHIさんのボンゴがあるから野性味が増すんですよ。戦いの音楽になって、頭で考えない音楽、体の音楽になっているんですね。で、PANTAさん自身はさっき言ったようにものすごく知的な音楽を作りながら、やっぱり「そうじゃねえんだよ」っていうので。

(宇多丸)すごい抜けがいい。さっきの『ふざけるんじゃねえよ』じゃないけども。

(町山智浩)ねえ。TOSHIさんのボンゴでガーッと自分の初期衝動みたいなのを走らせるみたいなのは頭脳警察の魅力で。頭脳警察って言いながらも頭脳が全然ない感じがすごくよくて。

(宇多丸)頭のいい人がちゃんと抜けのいい、いい意味でバカな曲を作るっていうのはなかなかね、この抜けが出せないんですよね。

(町山智浩)フランク・ザッパの「頭脳警察」っていう歌詞はどういう歌詞か?っていうと、「俺の頭の中に頭脳警察がいやがるんだ。それが俺を抑制してやがるんだ」っていう。

(宇多丸)内面化したルールとか規範っていうことですかね?

(町山智浩)そうそう。「頭脳警察がいるために、俺たちは好きなことをできねえじゃねえか!」っていう。頭脳警察ってもともとそういう意味なんですよ。だから頭脳警察には頭脳警察がいないんじゃないか?っていう気が……(笑)。そういう曲も多いんですが。

(宇多丸)だから抑制してないんじゃないか?っていう(笑)。

(町山智浩)でね、ちょっと75年ぐらいの曲を1曲かけたいんですけども。なんでこんなことをPANTAさんはしているんだ? なんでこんな過激なものばっかりをやっているんだ?っていうひとつの分析になっているのが『悪たれ小僧』っていう歌なんで。流してもらえますか?

頭脳警察『悪たれ小僧』


(町山智浩)『悪たれ小僧』という曲なんですけども。頭脳警察の第一期の最後の曲なんですが。

(宇多丸)リズムがもろにニューオリンズのセカンドラインファンクというか。

(町山智浩)そう。ボ・ディドリーでしょう? それでこのボンゴがすごくいいんですけど。これ、歌詞がめちゃくちゃで。「悪たれ小僧がツバを吐いた 線香に向けてツバを吐いた」って、お線香に向けてツバを吐いてもしょうがないわけで。これは「先公」ですよ。

(宇多丸)ああ、なるほど。先生ね。

(町山智浩)先生のことですよ。で、「悪たれ小僧がなにをかいた アグネス・チャンを見てなにをかいた 悪たれ小僧がおなにをかいた 生死をかけて……」って。

(宇多丸)ああーっ! そういうことね。

(町山智浩)アグネス・チャン、あの頃大人気だったんですね。ロリ巨乳の元祖で。

(宇多丸)うんうん。さっきの『戦争しか知らない』じゃないけど、ちょっと替え歌、モジりのいたずら感っていうか。

(町山智浩)だから「悪たれ小僧」なんですよ。舌出してって、悪たれ小僧は自分のことなんですよ。だからこういうふざけたことを言ってみんなを怒らせるんだと。で、先生とかいろんな人を怒らせる。だから頭脳警察の最初のアルバムがものすごく過激だと。それは、じゃあ彼らが非常に過激な思想を真面目にPANTAさんとかが信じて、それこそ革命の理想とかを信じていたのか?っていうと、そうじゃないんですよ。これはだから、サルトルが革命を信じていたけども、カミュは反抗しか信じていなかったっていう非常に有名な話があるけども。カミュなんですよ。

(宇多丸)うんうん。

(町山智浩)つまり、悪たれ小僧のようにみんなが真面目ぶっている時に……真面目ぶっている葬式で笑ったりとか、授業中にふざけたことをしたりとか、放送禁止用語を歌ったりとか。そういう悪たれ小僧なんですよ。

(宇多丸)それが僕がさっき言った党派性とか世代とかを超えてなんか抜けがいい感じっていうか。

(町山智浩)そうなんですよ。永遠のいたずら小僧なんですよね。PANTAさんは。そうじゃなきゃ、ステージ上でチンコ出したりしないですよね?(笑)。

(宇多丸)フフフ(笑)。そしてそれを聞いているまた町山さんが完全にいたずら小僧の顔になっているわけだから(笑)。

(町山智浩)俺、いまこれをかけていることにものすごい興奮していますからね。もうそういうウキウキする感じがあって。それが頭脳警察の楽しみなんですけども。

(宇多丸)たしかに。なんか元気出る感じがやっぱりそこですね。

(町山智浩)元気が出るんですよ。「もうやっちゃえばいいじゃねえかよ! 気にすんなよ! お前、頭の中に頭脳警察がいるんじゃねえの? それ、取っちまえよ!」みたいな感じなんですよ。ただ、そういうことを歌いながらも、その逆の歌も歌っていて。いま、面白い歌ばっかりをかけちゃったんですけど、そうじゃない歌もあるんですね。で、『それでも私は』っていう曲をお願いします。

(町山智浩)これは初期の頃の歌なんですけども。これは過激な歌とかとんでもない挑戦的な歌ばかり歌っているんだけど、俺自身は本当はどう思っているんだ?っていうことを自分に内省的に歌っている歌なんですよ。だからこれにすごくPANTAさんの本音が出ていて。言葉は非常に素のままなんですけど、僕はすごい好きな歌なんですよ。

(宇多丸)はい。

『それでも私は』

(町山智浩)これは非常に初期の頃にPANTAさんが歌った歌なんですけども。めちゃくちゃ過激に行動的な歌ばっかり歌っている中で、「なぜ俺はこんなことをしてしまうんだろう? なんで俺は放送禁止になるようなことをしてしまって、世間を怒らせたりしちゃうんだろう? そんなことをしなければ、もっと幸せになれるのに。でも、せずにはいられないんだよ!」っていう。だから、朝礼とかでみんなが真面目に校長先生とかの話を聞いていると、「なんでこんなの聞いてるんだよ? なんで俺はこんな校長の話を聞かなきゃいけねえんだよ?」って言っちゃう人なんですよ。

(宇多丸)うんうん。

(町山智浩)「おかしいだろ、これ!」って。社長の訓示とかを。「ふざけるんじゃねえよ、バカヤロー!」っていう気持ちというのを抑えるのが「頭脳警察」なんですよ。全ての人の頭の中にある。「でも、それでいいのかよ? 俺はできねえよ!」っていうことを非常に正直に歌っている。だから「なんでそんなことをするんだよ?」っていうと、「それは俺の性分だからしょうがねえだろ!」って歌っているんですよ。ものすごくよくわかるんですよ!(笑)。

(宇多丸)うんうん。町山さん自身が(笑)。

(町山智浩)だから俺も映画評論家で真面目になってネクタイ締めてさ、映画について偉そうなことを言って。それこそ大学教授の席とかあるかもしれないけど、そういうのを全部ブチ壊す方向で行動するじゃないですか。でもそれは、そうせざるをえないものがなにか、あるんですよ。で、それはやっぱりロック的なものだったり……僕、ロックって孤独のことだと思っていて。これは孤独についての歌なんですよ。「なぜ、みんなと同じことができないのか?」っていう歌をPANTAさんは歌っていて。

(宇多丸)うん。

(町山智浩)で、たとえばこれはパッと言いますけども、レッド・ツェッペリンが『Rock And Roll』っていう歌を歌っているんですけども、あの歌は「ずっと俺はロックをやってきた。孤独だった」っていう歌なんですよ。

(宇多丸)うんうん。

(町山智浩)ローリング・ストーンズが『It’s Only Rock ‘N’ Roll』っていうのを歌っていて、「俺がやっているのはロックンロールだ。わかんないのか? 俺は孤独なんだよ」っていう歌です。ロックの孤独っていうのは「友達がいない」っていうことじゃないんですよ。「みんなと一緒のことができないんだ」っていうことなんですよ。

(宇多丸)うんうん。もちろん「俺は人と同じことはやらねえぜ!」っていう歌も歌うけど、それ以前に性分としてできないと。

(町山智浩)できないんですよ。それはだから、かっこつけてやっているわけじゃなくて、できないんですよ。同じことが。本当にだから僕、いろいろな障碍なのかとも思いますけども。

(宇多丸)いやいや、でも映画とかでもたとえば、こうとしか生きられなかった人……たとえそれが破滅しても、正しくなくてもこうとしか生きられない人の話がやっぱり胸を打つじゃないですか。そういうようなことですかね。

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