町山智浩 2018年アメリカ中間選挙直前レポート

町山智浩 2018年アメリカ中間選挙直前レポート たまむすび

(町山智浩)僕、そこの会場に行ったら1万人ぐらい集まっていましたね。で、なんでこの人たちが熱狂しているのか?っていうと、まず彼が「私は最高裁判事を2名も任命して、最高裁判事9人中5人を保守派にした!」って言った途端にもう会場は大熱狂でしたよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)なぜかと言いますと、アメリカの最高裁というのは9人の判事による多数決によって判決を決定します。憲法上、合憲か違憲かということを。それでいま、保守派が5:4で過半数を取ったので、今後アメリカでは人工中絶が違法になる可能性があります。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)アメリカではずっと、1973年までは人工中絶は多くの州で違法で、犯罪でした。それが1973年に憲法判断でもって、「それは個人の人権の範囲内である」ということで、「人工中絶を罰することが憲法違反である」という判断が出たんですけど、それがひっくり返る可能性があるんですよ。

(赤江珠緒)そうですか!

(町山智浩)それで各州ごとに人工中絶は違法かどうかを決定することになると思うんですよ。もうひとつは、同性婚。男と男、女と女同士で結婚をするということが憲法上許されるという判断がくだったのはオバマ政権時代だったんですけど、これもひっくり返る可能性があります。

(山里亮太)うわー……。

(町山智浩)だから、チャタヌーガのトランプ大統領の集会に来ていた人たちは大喜びしていたんです。テネシー州のチャタヌーガというところはいわゆる「バイブルベルト」と言われているところで、聖書原理主義者が非常に多いところです。で、この近くにはデイトンという街がありまして。すぐ近くなんですけども。そこでは「進化論裁判」というのが行われたところなんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)そこで、テネシー州では昔、進化論を公立学校の授業で教えることが法律違反で、進化論を教えると逮捕されていたんですよ。

(赤江珠緒)進化論が!? また聖書とは全く違うからっていう?

(町山智浩)そうなんですよ。全ての動物は神様が使ったということなので、進化論は学校では教えてはいけない。教えたら、逮捕っていう法律があったんですよ。

(赤江珠緒)もうとんでもないですね、それは。

(町山智浩)その裁判があったのが、そのチャタヌーガのすぐ隣町なんですよ。そういうところなんですよ。

(赤江珠緒)へー! いまだにそういう話が通用している街があるんですね。

(町山智浩)その裁判は1925年のことなんですよ。その後、やはりそれはおかしいということで違憲判決をしているんですけど、それは1980年代なんですよ。1986年までずっと進化論は公立学校では教えちゃいけなかったんですよ。で、そういうところだから、みんな大喜びしているんですね。で、もうひとつ喜んでいたのはトランプ大統領が「私はエルサレムにアメリカの大使館を移転させた!」って言ったらみんな大熱狂。なぜだと思いますか? 彼らはキリスト教原理主義者なのに、なぜそれで熱狂したのかわかりますか?

(赤江珠緒)たしかにね……。

アメリカ大使館のエルサレム移転の意味

(町山智浩)黙示録によれば、エルサレムにもう一度ユダヤの民の国が建国されたら、そこから悪魔と神の最終戦争(アルマゲドン)が発生して全世界が滅びるという予言が書いてあるんです。ファンダメンタリスト(キリスト教原理主義者)は聖書に書いてあることを一字一句信じるので、エルサレムがイスラエルの首都として認定されると、世界の終わりが近づくからうれしいんですよ。

(赤江珠緒)い、いいんですか、それで?

(町山智浩)キリスト教を信じる人だけが神の世界で生き残れて、他の人は全部死滅するからいいんですよ。

町山智浩 アメリカ大使館エルサレム移転を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でドナルド・トランプ大統領によるイスラエルのアメリカ大使館のエルサレム移転について話していました。 (町山智浩)それで、今日はアメリカというかイスラエルの話なんですけども。5月14日が「エルサレム...

(赤江珠緒)ほー! それを信じているって言われると、話にならないですね……。

(町山智浩)はい。まあ、信じているんですよ。それで大熱狂なんですよ。まあ、そういうところでした。はい。ただね、やっぱりすごいなと思ったのはもうトランプさん、嘘ばっかり言っているんですよ。演説でチャタヌーガの人たちに。たとえば「私は国民年金であるソーシャルセキュリティーを守る」って言ったり、「国民を支える医療保険を守る」って言ったりしているんですよ。

(赤江珠緒)えっ?

(山里亮太)だって真っ向からそれをなくした人じゃないですか?

(町山智浩)そうなんですよ(笑)。オバマケアを撤廃しようとしたり、ソーシャルセキュリティーをなくそうとしていた人なのにそれを「守る」って言っているんですよ。ところが、そういう嘘というか逆のことを言っているのに、お客さんはそこで大熱狂するんですよ。「どういうことだろう?」っていう。明らかに逆を言っているんですよ。あと、いま難民の人たちがホンジュラスから数千人、アメリカに向かってメキシコを北上しているんですよ。

(赤江珠緒)そうですね。うんうん。

(町山智浩)それを「あれは民主党が呼び寄せた」って言っているんですけど、そんなわけはないわけで。それで「民主党は国境をオープンにしようとしている!」とかね、もう次から次へと「それはないよ」っていうことを言い続けるんですけど。

(赤江珠緒)でも、アメリカの選挙ってそこまであることないこと言うのがありなんですか?

(町山智浩)いや、それはやっぱり明らかにおかしいから、演説があるとその後にすぐワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズ、CNN、NBCなどのメインの主流派メディアが「いまの演説のどこが嘘だったのか?」っていうのを検証します。すぐに。ところが、ドナルド・トランプは演説の最中に何度も繰り返して「彼らはフェイクニュースで嘘だから信じるな。読むな!」って言い続けるんですよ。

(赤江珠緒)うわー……。

(山里亮太)でも、そっちを信じちゃうんですか? 「フェイクニュースなんだ!」っていうのを。

(町山智浩)そう。だからいくら嘘を言っても全然問題ないっていう形になっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)そうか。だから支持率も結局4割以下にはなかなかならないですもんね。

(町山智浩)ならないですよ。ただ、トランプが成功していることは、あります。それは、経済です。

(赤江珠緒)ああー。好景気が来ている。

(町山智浩)めっちゃくちゃいいです。もうほとんどバブルのピークみたいな感じで、買い物ができないぐらいインフレがすごいです。

(赤江珠緒)ほー!

未曾有の好景気・アメリカ

(町山智浩)ものすごいいま、景気がいいです。それで不動産とかもすごく良くて。建築ブームがものすごいですから。アメリカはどこに行ってもそこらじゅう、建築だらけですよ。だからクレーンだらけ。いま、ニューヨークにいるけども、すごいですよ。もうクレーンが何本たっているかわからない状態です。

(赤江珠緒)そういう意味じゃあ雇用とかも生まれて、経済も活性化して。じゃあ良かったって思っている人ももちろん?

(町山智浩)そう。チャタヌーガってね、建築資材を作る工場が多いんですけども。だからビルを作るためにいっぱい建築資材を作るじゃないですか。だからいま、アメリカ全体が潤っていますよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)ものすごい経済が良くて、それで失業率はここ50年ぐらいで最低です。

(赤江珠緒)へー! じゃあ、結果を出しているからいいっていうことですか?

(町山智浩)そう。それなのに、トランプの支持率は上がらないんですよ。だからいま現在、今回の中間選挙は普通なら経済がいちばんの論点、争点になるんだけど、そうはならないだろうと言われているんですよ。もうそこじゃなくて、アンケートを取るといまみんながいちばん気にしていることはなにか? まずは「最高裁」なんですよ。

(赤江珠緒)ああ、さっきおっしゃったね。

(町山智浩)最高裁は1回、判事に任命されると死ぬまでそこから外れないんですよ。辞めさせることができないんですよ。三権分立で司法が政治の影響を受けないようにするために。で、演説の最中にトランプ大統領が言ったのが「私は任期中、さらに2人の最高裁判事を任命する!」って言ったんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)そうすると、現在は「5:4」なんですけどもう数が「7:2」とかになっちゃうんですよ。共和党に任命された判事は若い人が多くて、50代の人が多いのでこれから彼が死ぬまでだと30年ぐらい最高裁はもう動かないんですよ。なぜトランプ大統領が「2人」って言ったのかというと、民主党に指名されたリベラルな判事の2人が両方とも80代のご高齢なので、トランプの任期中に亡くなってしまう可能性が出てきたんですよ。

(赤江珠緒)あらら……。

(町山智浩)そうすると、トランプ大統領はたとえ2020年に大統領選挙で負けたとしても、アメリカの保守派にとっては向こう30年間ぐらいのアメリカを「保守」としてキープするために偉大な決断をした偉大な偉大な大統領になるんですよ。彼は。

(赤江珠緒)はー……。

(町山智浩)もちろんそれは、それに反対するような人たちにとっても大変な事態なので。で、最高裁の判事を承認するのは上院議会なんですよ。だから上院議会の多数派を取ろうとして民主党と共和党が争っているんですよ。

(赤江珠緒)でも、現時点では民主党は過半数、取れそうにないんですよね。

(町山智浩)取れそうにないんですよ。だから、トランプがいま評価されたり評価されなかったりする部分っていうのは「最高裁」なんですよ。アメリカの国の方向性を決定するものなので。ここ20年以上を。

(赤江珠緒)そうか。じゃあ本当にこの中間選挙は大事なんですね。そこがね。

(町山智浩)そうなんです。たぶん移民とかに関する法律もどんどん変わってきちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)という大きな問題が背景にあります。で、どうなるか。たぶん上院は取れないと思います。まあ、結構大変なことになっていくだろう。アメリカはこれから相当法律とかが変わっていくだろうと思います。

(赤江珠緒)へー! そのトランプ派と反トランプ派が全く相容れないというか。お互い歩み寄れるところが全然ない感じに傍から見ても見えますね。

(町山智浩)それ、いま時間がないからその話を振られて大変なんですが。まあ、トランプはとにかく自分に反対する人たちを全て「反米」と決めつけるという形で。そして「私に賛成する人は全て愛国者なんだ!」っていうレトリックを使うので。すごく敵と味方に分けるというやり方をしているからそうなっちゃうんですよね。

(赤江珠緒)ふーん、そうかー!

(町山智浩)はい。

(山里亮太)だからいよいよ今夜ですよね?

(町山智浩)そうです。あと数時間後にこちら、選挙が始まるんですけども。実は中間選挙にもかかわらず、アメリカの将来を決定する非常に重要な選挙になっています。ということで、注目してください。

(赤江珠緒)はい。町山さんにアメリカ中間選挙について解説いただきました。しかしね、我々としては見守るしかないっていうことなんでね。

(山里亮太)『報道ステーション』で生で町山さん、出てきますよ。

(赤江珠緒)町山さん、どうもありがとうございました。

(町山智浩)はい。どうもでした。

<書き起こしおわり>

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