渡辺志保 リル・ウェインのキャリアを語る

渡辺志保 リル・ウェインのキャリアを語る INSIDE OUT

いまお届けしましたのはリル・ウェインの『Tha Carter III』から『A Milli』でした。懐かしい!

(DJ YANATAKE)はい。ヤナタケでございます。ちょっと僕も入っていこうかなって思うけど。やっぱりどうしても渋谷中心にいると、ヒップホップの日本の歴史で言うと、どうしてもニューヨーク至上主義みたいなところがあったと思うんですけど。この『Tha Carter III』が出た時はやっぱり、本当に広い意味で日本でも全国にリル・ウェインの名前がいよいよ届いたのかなっていう感じがしましたね。

(渡辺志保)うん、しましたね。まさに。

(DJ YANATAKE)で、なんか志保も言うように、もちろん好きな人たちの中では盛り上がっていて「出たーっ!」っていう感じはあったのかもしれないけど。「えっ、なに? なんかめちゃくちゃ盛り上がってるやつ、いない?」みたいな人も結構いたと思うんだよね。で、言ったらモゴモゴしている感じとかもさ、なんか最初は受け付けにくい人もひょっとしたらいたのかもしれないけど……。

(渡辺志保)だって50セントと真逆のラップの仕方ですからね。

(DJ YANATAKE)だけど、ものすごいヒットチャートもあったし。それこそラジオの情報みたいなのを聞くとかかりまくっていて。いよいよ、この『Tha Carter III』からは日本中のヒップホップのDJとかも全員がかけるようになったのはこのへんかなっていう感じがしますね。

(渡辺志保)ああ、そうね。T・ペインとの『Got Money』とかもね、本当にどこに行っても当時かかってたなっていう感じがしますしね。

(DJ YANATAKE)だからその前の曲……『Fireman』とか『Go DJ』とか、そういうのはそれを経て、前のにさかのぼってかけられるようになってきたような感じがしてるんですけど。これね、あと結構覚えてるのが、そのへんの感じがこれもね、リル・ウェインはいろいろ作ってきたものはマンブルラップもそうだし、ミックステープとかからの成り上がりとかももちろんそうなんだけど、日本においてですよね、これものすごいヒットしたアルバムじゃないですか。でも、日本版のCDの出るタイミングがね、1年後ぐらいだったんだよね。

(渡辺志保)すごい遅かったですね。

(DJ YANATAKE)すっごい遅かった。だからそのへんも……なんかある意味、時代の境目だったのかなっていう。

(渡辺志保)そうかもね。かつ、すごいさ……うーん。まあ言い方が難しいけど、すごいこだわって邦題。日本語のタイトルを各曲につけてくださっていてね。翻ってですね、『Tha Carter』と『Tha Carter II』もだったかな? 後からリイシューみたいになった時かな? すごい凝った邦題がそっちにもついてまして。なんかね、私は当時ぶっちゃけすごい嫌な気持ちだったなっていうのをいま、思い出しました。

(DJ YANATAKE)まあ、たからそのへんもさ、すごい難しい時代だったんだよね、たぶんね。

(渡辺志保)そうね。昔は邦題、日本語のタイトルをあえてつけることがヒットの方程式っていう感じだったけど、ちょっとこのへんからそういう方程式も違ってきたような気もしますね。

(DJ YANATAKE)そのへんも俺ら、block.fmでこの『INSIDE OUT』を始めた時も割とそういう話をして始めたような気もしたから。そういうのも含めて、やっぱりリル・ウェインきっかけでいろんなヒップホップのいまのトレンドが作られていったのがすごく、こうやって聞いていくとわかるなって思って。改めて勉強になっております。

(渡辺志保)いやいや、まさにそういう感じだと思います。そして、『Tha Carter III』を出した後のリル・ウェインは、すげえなと思うのが今度は自分でレーベルを始めるんですよね。バードマン社長のいるキャッシュマネーの下に、今度はヤングマネー・エンターテイメントというのを作って。そこでデビューしたのがニッキー・ミナージュとドレイクなんですよ。だからドレイクもさ、いまや本当にもう出す曲出す曲、全部ヒットするじゃないですか。で、その先輩……ドレイクがいちばんお手本にしていた身近な先輩がリル・ウェインということになるんですよね。感慨深いと感じがします。

これ、それこそ『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門』の中でも私がちょっと話してるんですけど、こういうクルーって、いま日本にもたくさんいるけど、大体同じ地元のやつとかさ、自分とちょっと似たやつらはみんな集めるし、みんながそれで集まりやすいじゃないですか。で、リル・ウェインがめっちゃ自信があったんだろうなって思うのは、あえて自分と全然違うラッパーたちを集めたんですよね。

ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門
Posted at 2018.10.26
宇多丸, 高橋 芳朗, DJ YANATAKE, 渡辺志保
NHK出版

それがドレイクとニッキーにすごい顕著だと思うんだけど。もうリル・ウェインなんてさ、ニューオリンズのちょっと貧しいゲットーエリアで育った悪ガキって感じだったんですけれども、ドレイクはカナダ・トロントに生まれて、もうハイブリッド音楽家系みたいな感じなわけよ。お父さんは、まあお母さんとは別居していれるが、メンフィスの有名なミュージシャンだったりして。彼、ドレイク自身はめっちゃ不良の道を歩むこともなく、高校時代から役者を始めて、エンタメ業界にいたという。そういう、ラップのスタイルもちょっとお坊ちゃん風みたいなところも大きいラッパーだったけど、そういったドレイクを呼ぶ。

ニッキー・ミナージュもフィメールラッパーだし、ニューヨーク出身のちょっとはすっぱなニッキーちゃんを、これ彼女も彼女でその時にいろいろとドラマがあるんだけど、まずはアトランタのマネジメントのエージェンシーに入ったんだよね。それがワカ・フロッカ・フレイムのお母さんがマネージャーだったりするんですけど。それを話すと長くなるんで、また今度っていう感じだけど。なんでちょっと、ニッキー・ミナージュがその時にバービー風にイメチェンしてヤングマネーに入って、魔法のようなリル・ウェイン先生からの教えを受けてブレイクしたっていう。本当にそこに1人のラッパー以上の才能っていうかセンスを感じますね。

(DJ YANATAKE)本当にいまの子たちはドレイクとニッキーがどのくらい人気があるか知ってると思うけど、それの師匠みたいな人だからね。そう思ったら本当にすごいよね。

(渡辺志保)そうそうそう。リル・ウェインがいなければドレイクもニッキーもたぶんいまみたいなブレイクはなかったでしょうと思います。で、そのヤングマネーって私も当時、すごいラップの情報を追いかけていたけど、なかなかどういうグループ、どういう団体なのかちょっとよくわからなかったんですけど、この曲が出たあたりでやっと「ああ、こういうスターラッパーたちが集結しためっちゃすごいスーパーグループなんだ!」っていう風に、まざまざと感じたのこの『Bed Rock』という、これはヤングマネーのメンツにシンガーのロイドが入っていますけども。

この『Bed Rock』を聞いて、やられましたね。キャッチーだし。ここには、まあリル・ウェインは最初のバースをキックしていて、その後にガダ・ガダっていうラッパーが入っています。で、ロイドのフックがあり、その後にニッキーのバースが来て、ドレイクのバースが来るんだけど。このね、ニッキーとドレイクの2人のバースに当時、すっごいやられたし。ミュージックビデオもニッキーちゃんもいまの原型になるバービールックスでね、バッチリ決めてましたので。うん、すごいやられましたね。ドレイクの最初のバース「I love your sushi roll, hotter then wasabi」って……なんかよくわからないリリックだけどね。「君はワサビよりもホットな女の子だよ」って。まあ、ワサビは辛いからね。で、英語だと「辛い」は「Hot」っていう風に……まあホットソースなんて言うから。

「君はワサビよりも辛いから!」っていうので「なるほど!」とか思いながら当時聞いてたんですけど。いまだに、これもたまにクラブでかかるとスラスラとバースを私、言えちゃうんですよね。当時どんだけハマっていたのかわかるっていう感じなんですけど。なので、いかにリル・ウェインがカリスマ性のある若手ラッパーを当時、集めていたかっていうのをですね、ちょっと改めて聞いてほしいので。約10年前のニッキーとドレイクのバースも改めて皆さんに聞いてほしいと思いますので、ここで1曲、この『Bed Rock』を聞いてください。

Young Money『Bed Rock』

(渡辺志保)いまお届けしましたのはヤングマネーで『Bed Rock feat. Lloyd』でした。ドレイクの声が若いですね。やっぱりね。もう、なんかナヨっとしていていいですね(笑)。

(DJ YANATAKE)でもこれ、いま出てもヒットするよ。

(渡辺志保)いま出てもね、そう。キャッチーだし。で、当時、同じヤングマネーチームで『Every Girl』っていう曲もリリースして。それも「俺は世界中の女の子、エブリーガールとファックしたい」っていうそれだけの内容なんですけど。当時私、ニューヨークに遊びに行っていて。その時に現地の男の子……黒人の男の子と話していて、ちょうど『Every Girl』がすごいヒットしていてさ。で、ドレイクとかワーレイとかJ・コールとか、あのへんが一斉にだんだん世に出始めた頃だったんですけど。それで「お前はドレイクとキッド・カディだったらどっちが好きなんだ?」っていう風に言われて。

私が「うーん、やっぱドレイクかな?」っていう風に、当時からやっぱり好きだったから。「ドレイクかな」って言ったら「はあ? あんな世界中の女の子とファックしたいなんてラップしてるようなやつが好きなんて、お前はまだまだだな。ヒップホップのことをわかってねえな。キッド・カディの魅力が分かってこそ、真のラップファンだ」みたいな風にニューヨーク出身の男の子に言われて「ああ、そうなんだ」って思ったのをいまだに覚えてるし。だから今年さ、キッド・カディとカニエがアルバムを出しましたけど、その時もやっぱりそのエピソードが心の中に去来しました。

(DJ YANATAKE)でも、当時はすごかった。『YMCMB』って……。

(渡辺志保)そう。「Young Money Cash Money Billionaires」。長えよ!っていう(笑)。

(DJ YANATAKE)とにかくあのTシャツがほしくて。めっちゃ探して買いましたけどね。

(渡辺志保)ああ、たしかに! そうだった。そんなの、あった。

(DJ YANATAKE)とにかくその「Young Money Cash Money Billionaires」、YMCMBはあの1年、2年ぐらいは完全にヒップホップ界を制していたよね。リル・ウェイン軍団がね。

(渡辺志保)そうなんですよ。で、2008年に『Tha Carter III』が出まして。さっき聞いていただいた『Bed Rock』は2009年になります。だからその翌年ですよね。そのぐらいの頃はリル・ウェインもちょっとロック寄りのアプローチをしたり。あと、スケーターになったんですよね。スケボーにハマりだして。彼、いまもすごいスケートをやっているんですけど、だんだんスケーターモードになって。で、どんどん逆に言うとラップからは離れていく感じになるんですけど。で、いま後ろで流れているのが『6 Foot 7 Foot』というシングルなんですけども。

これは2010年の『Tha Carter IV』が出た時のヒットシングルですね。これもトリプルプラチナムを獲得したヒットになるんですけど。こういった動きもあり。あとはT.I.、ジェイ・Z、カニエと一緒に出した『Swagger Like Us』っていうシングルもあったりして。

どんどんどんどん……やっぱり当時、2010年ちょい手前ぐらいがみんながSWAG、SWAG言い始めた頃で、私は「SWAG戦争」ってて勝手に言ってるんだけど。まあ、そのめっちゃ渦中にいたのはジェイ・Zとかカニエな気もするけど、そのSWAG戦争の本当にね、中心にいたのがリル・ウェインですし、この『Tha Carter III』を出した後からは本当にね、G.O.A.T.(Greatest of All Time)。いまのGOAT、最強のラッパーという風に言われるようになったという感じでございます。

で、そのロック寄りのアプローチがあったり、あとちょっと違うコンセプトのアルバムを作ってみたりして、あんまりシングルヒットがドッカンという感じにはしばらくならなかったんではあるんだけど。ドレイクであるとかニッキー・ミナージュの客演であるとか、そういったところでやっぱり常にリル・ウェインのバースっていうのは世界中で耳にしてましたから。あんまりその不在感もなかったのかなとも思うんですけれども。ただ、リル・ウェインファンとしてはやっぱりその『Tha Carter V』が出る、出るっていうのをね、もう本当にもう7年間ぐらい……ひたすらその『Tha Carter V』を待つ日々。しかも、『Tha Carter V』がリリースが遅れてる理由のひとつとしてはね、ずっともう9歳、10歳の頃から自分のお父さんとして慕っていたバードマンとの確執がありまして。

やれ、キャッシュマネーがロイヤリティーを払っていないとか、ちょっと契約書と違うことしてるんじゃないか。その儲けの一部を自分たちで独り占めしてるんじゃないかっていうようなことでリル・ウェインが裁判を起こしたりとか。で、リル・ウェインがというよりもヤングマネーが裁判を起こして。キャッシュマネー、そしてその上にいるユニバーサルを相手取った裁判をしたりしまして。ようやく今年の5月ぐらいにいろいろと決着がつきまして、いろんなことがきれいになった。スクワッシュされたということになりまして、やっとやっとそれで今年の2018年9月にリリースされたのが『Tha Carter V』ということになります。長かったな。本当に待ってる間、長かった。

(DJ YANATAKE)最初、正直こんだけ開いちゃったから「大丈夫かな? どうなっちゃうのかな?」なんて。ロックアルバムのあれもなったし。なんか、でもこんだけ間が開いてどうなのかな?って思ったけど、でもやっぱり出てみたらすごいね、みたいな。

(渡辺志保)すごいですね。で、『INSIDE OUT』でも言ったけどさ、本当に「これ、いつ録ったんだろう?」みたいな曲が結構あって。だから、どれぐらいリル・ウェイン自身の満足度が高いのかな? ともふと思ったけど。

(DJ YANATAKE)前も言ったけど、ケンドリック・ラマーが参加してるけど、これはケンドリック・ラマーで言ったらいつぐらいに録った曲なんだろう? とかね。

(渡辺志保)そうね。で、自分でも明らかにしていましたよね。「これは数年前に録った曲だ」とは明らかにしていましたし。でもかと言えば、XXXテンタシオンとの曲とか、トラビス・スコットとやっている曲っていうのは本当にいまの2018年のビート感だったりするから。まあ新しく録っている曲もたくさんあるんだろうけど。

(DJ YANATAKE)お蔵入りも死ぬほどあるんじゃないかな?

(渡辺志保)死ぬほど、捨てバースいっぱいあるんでしょうね。

(DJ YANATAKE)でもすっごい話題になった作品で復活してくれて、よかったよね。

(渡辺志保)よかったです。またこれで、聞きどころがあんまりなくて「うーん、落としどころが見えないな」みたいな作品だったらそれはそれで嫌だなと思っていたんで。すごいよかったです。中でも、いま後ろでかかっていますけど。『INSIDE OUT』ではこのアルバムから『Mona Lisa』をかけてそのリリックを解説したんですけど。前回の『INSIDE OUT』でも言ったけど、スウィズ・ビーツさんもすっごい気合が入った曲を作ったぜ!っていう感じでこのリル・ウェインの『Uproar』を挙げていたぐらいですから。

渡辺志保 Swizz Beatz&Nas来日ライブを語る
渡辺志保さんがblock.fm『INSIDE OUT』の中でスウィズ・ビーツの来日ライブの模様について話していました。

ちょっと景気のいい曲ですね、このリル・ウェイン特集を締めくくりたいと思いましたので。ここでリル・ウェインの最新アルバム『Tha Carter V』から『Uproar』を聞いていただきたいと思います。

Lil Wayne『Uproar ft. Swizz Beatz』

はい。いまお聞気いただいておりますのはリル・ウェインの『Tha Carter V』から『Uproar』。プロデュースはスウィズ・ビーツです。すごいまとまらないような感じもしますけど、リル・ウェイン。本当に駆け足でダダダッとおしゃべりしながら振り返る企画でした。

(DJ YANATAKE)でも、「この曲、リル・ウェインなんだ」ていう若い子とかいたら、それでもうやった意味があるしね。

(渡辺志保)そうやって思ってくれる方がいたらうれしいですし。今後、またこのラッパーのことを知りたいなみたいなのがあれば、どしどしリクエストをいただければ、こちらで。『INSIDE OUT』で紹介させていただきたいと思います。

(DJ YANATAKE)そうですね。こうやって掘り下げたい人がもうちょっと何人かいますので。来週もやろうかなと思っています。

(渡辺志保)はい。「いまさら聞けない」みたいな。「いまさら聞けないJ・コール」とか「いまさら聞けないジェイ・Z」、「いまさら聞けないキャムロン」とか(笑)。

(DJ YANATAKE)「知ったふりしろ」っていうやつをね、やりましょう。

(渡辺志保)はい。お届けしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

<書き起こしおわり>

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