(町山智浩)で、いちばん彼が葛藤したものっていうのはセクシャリティーの問題なんですよ。このフレディ・マーキュリーさんの。フレディ・マーキュリーさんって、見た目はどう思いました?
(赤江珠緒)見た目ね。やっぱり……割とピタッとした服とか着られていて。
(町山智浩)ハードゲイでしょう。ハードゲイですよ、はっきり言って。ハードゲイっていうものがいちばん流行った時が1980年代の終わりなんですけど、その時に芸能人で真正面からその格好をして出てきたのがフレディ・マーキュリーさん。角刈りに近い感じでヒゲで、白いランニングを着て、筋肉モリモリで、パツンパツンのパンツで出てくるっていう。ハードゲイっていうものはアメリカですごく流行っていて、大変な問題になっているっていうことを聞いていて。それが本当に出てきた!っていう感じだったんですよ。
(赤江珠緒)ふーん。
(町山智浩)で、なにが問題になっていたのか?っていうのは後で説明しますけども。でも、フレディ・マーキュリーさん自身が愛していたのは女性だったんですよ。
(赤江珠緒)あ、そうなんですか?
(町山智浩)メアリー・オースティンさんっていう人を愛していたんですね。で、曲をかけていただけますか? 『Love Of My Life』です。
Queen『Love Of My Life』
(町山智浩)これはバロック的な歌なんですけど。これは「僕の生涯を通して愛する人は君だけだ」っていう歌なんです。「僕を捨てないでくれ」っていう歌なんですけど、これはメアリーさんという女性に対して歌っています。彼ははっきり言って生涯、彼女だけを愛し続けたんです。
(赤江珠緒)そんな一途に?
(町山智浩)そう。で、最後までほとんど一緒に暮らしていたし。財産もほとんど彼女に上げているんですよ。遺産も。ただ、彼は彼女を心では愛しているんだけども、体は男の人を求めていたんです。
(赤江珠緒)ああー、そんな複雑な感じ……。
(町山智浩)引き裂かれる感じだったんですよ。で、彼自身もすごく悩んで辛かったみたいですね。で、いちばん問題なのは、その時に何が問題になっていたのか?っていうと、ハードゲイの人たちは非常に危険なセックスを当時していたんですよ。金属製のリングをあそこにはめて、それでセックスをするというような、傷がつくようなこと、痛いことをやっていて。その時、実はエイズというものがまだわかっていなかったので、それで非常に多くの人がエイズに感染して大量の死者を出すということになってくるんですよ。80年代の頭に。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)で、ちょっと次に『地獄へ道づれ(Another One Bites the Dust)』をお願いします。
Queen『Another One Bites the Dust』
(町山智浩)これ、歌詞は「また1人、また1人死んだ」っていう内容なんですね。これは1980年なんですけども、その後にエイズによって82年ぐらいからどんどん死者が出ていくという状況を予言するような感じの歌になっちゃったんですね。で、フレディさん自身もエイズになってしまうんですけど、その時に彼は非常に荒れていて。アイデンティティーの問題だったり、その頃にはイギリスではゲイであることを公表できなかったんですよ。差別があって。
(赤江珠緒)ええ、ええ。
(町山智浩)言えなかったんですね。で、すごく辛かったりしたところがあって。
(赤江珠緒)えっ、亡くなるまで公表はされていませんでしたっけ?
(町山智浩)エイズ自体ははっきりと公表していなかったんですよね。で、彼自身セクシャリティーをはっきりとは言っていなかったんです。まあ、見たらすぐにわかるんですが。で、バンドもバラバラになっていったりしたんですけど。で、一瞬消えていくのかな?って僕は思ったんですよ。そしたら1985年にクイーンが一種再結成みたいな形を取りまして。『ライヴエイド(LIVE AID)』っていうアフリカの飢餓を救うという全世界同日コンサートっていうのがありまして。そこでクイーンが復活して登場したんですね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、その時にフレディ・マーキュリーは実はエイズですでにかなり死期が迫っていた状態だったんですよ。僕は全然知りませんでした。みんな知らなかったんです。公表されていなかったから。で、僕はその時にすごく感動をしたんですけども。ちょっと『We Are The Champions(伝説のチャンピオン)』をお願いします。
Queen『We Are the Champions (Live Aid, Wembley Stadium, 1985)』
(町山智浩)これで久しぶりに歌って、非常に感動したんですけども。実はその時に彼はすでに死に向かっていて、死を覚悟していた状態だったんですね。で、それをいま知ってこの歌を聞くと、歌詞がすごい歌なんですよ。これね、「僕は人生を通して債務を果たしてきた。刑罰も受けた。何の罪も犯していないのに。ひどい過ちもたしかに少しはしたさ。いろんな屈辱を甘んじてきたさ。でも、それを全て乗り越えてきたんだよ」っていう。自分の人生のことになっているんですよ、これ。
(赤江珠緒)そのものをずっと歌ってこられた方なんですね。
(町山智浩)そう。だから最初の『We Will Rock You』もそうなんですけど、負け犬とか屈辱を受けた人たち、いろんなものを抱えて言えない人たちのための歌を歌ったんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)で、クイーンっていうバンド名もはっきり言ってスラングでゲイの女装をしている人のことなんですよ。
(赤江珠緒)ああ、そうなんですか!
(町山智浩)そうなんですよ。ドラァググイーンって言うでしょう?
(赤江珠緒)ああ、そうか。
(町山智浩)だからそういったもの、いままで差別があった時にその中で屈辱を受けながら、でも勝つ! 負けないぞ!っていう歌だったんですよ。クイーンの感動というのは。実は。
(赤江珠緒)はー!
(町山智浩)で、この歌がまたね、「僕のカーテンコールなんだ。これでショーは終わりです。この富と名声を僕にもたらしてくれたみなさんに感謝します(I’ve taken my bows. And my curtain calls. You brought me fame and fortune and everything that goes with it. I thank you all)」って、お客さんたち、全てのファンたちに向かって歌っているんですよ。
(赤江珠緒)別れの曲だったんですか!
(町山智浩)別れの曲だったんですよ。で、「たしかに辛い道でした。でも、僕の挑戦を全人類が見ているんです。負けるわけにはいきません(But it’s been no bed of roses. No pleasure cruise. I consider it a challenge before the whole human race. And I ain’t gonna lose.)」っていう歌なんです。
(山里亮太)へー!
(町山智浩)で、「僕らは勝者なんだ。チャンピオンなんだ!(We are the champions)」っていう歌なんですよ。これをその、エイズで死が迫っている状態で歌ったんですよ。もうすごい、まあびっくりしましたね。
(赤江珠緒)それは強烈なメッセージになりましたね。
(町山智浩)だからこの歌はいまもいろんな映画で……『ナーズの復讐』っていう映画があって。これはオタクの子たちがいじめっ子たちに復讐する映画なんですけど。それでも最後の歌はこれ、『We Are the Champions』なんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)あとは『飛べないアヒル』っていうダメなアイスホッケーチームの子供たちががんばる映画も最後はみんなで『We Are the Champions』を歌うんですよ。だからすごく屈辱の中でがんばってきた人たちが戦って勝った時にはかならずこの歌を歌うっていうのがアメリカの、世界の伝統になっていますね。だからクイーンっていうのはたしかにきらびやかだったんだけども、その裏にはフレディ・マーキュリーっていう人のいろんなコンプレックスとか屈辱とかそれとの戦いとか死とか、そういったものがあったんだっていうことがわかりますね。
(赤江珠緒)なんか魂からの手紙みたいな歌だったんですね。
(町山智浩)そうです。『Bohemian Rhapsody』の「Bohemian(ボヘミアン)」っていうのは(葛城ユキの)「ボヘミアン♪」でご存知のように「流れ者、寄る辺なき者」っていうことなんですよ。で、どこにも仲間がいないんだと思っていたら、最後にいたんですよ。それはファンだったし、バンドの仲間だった。「You are my best friend!」っていうことなんですよ。
(赤江珠緒)はー!
(町山智浩)それで「みんな、ありがとう!」っていうことなんですね。「俺たちは勝ったんだ!」っていう、そういう感動的な映画が『ボヘミアン・ラプソディ』という映画で11月9日公開ですが。たぶんね、大合唱上映とかを開くと思います。そうすると、ジャスラックが邪魔しにくるんですよ。「カラオケと同じだから、金を取るぞ!」とかって映画館に金を取りに来るんですけども、みんなで蹴散らした方がいいと思います(笑)。
(赤江珠緒)こんな魂の雄叫びを!?
(町山智浩)『We Will Rock You』を歌いながらね、ジャスラックのやつらを蹴散らしてみんなで合唱上映するといいと思いますよ!
(山里亮太)「Rock You」って、揺さぶりますね!
(赤江珠緒)こんな魂の叫びのような曲の時にそんな細かいことを言いますか?
(町山智浩)そんな「カラオケだろう? 金取るぞ!」とか、うるせえぞ、馬鹿野郎!って思いました。ということで、もう次の仕事があるんで失礼します!(笑)。
(赤江珠緒)わかりました。いやー、町山さんもお忙しい中、ありがとうございます。
(山里亮太)映画、見たくなった! これで予習は完璧でしょう!
(赤江珠緒)はい。今日は『ボヘミアン・ラプソディ』公開直前、クイーン予習特集でした。町山さん、ありがとうございました。
<書き起こしおわり>