渡辺志保 Eminem『Kamikaze』を語る

渡辺志保 Eminem『Kamikaze』を語る INSIDE OUT

渡辺志保さんがblock.fm『INSIDE OUT』の中でエミネムがサプライズリリースした新作アルバム『Kamikaze』について話していました。

Kamikaze [Explicit]

(渡辺志保)つい最近、DJ YANATAKEさんとも「今年の上半期ベスト、どうしよう?」みたいな話をしていたんですけど、あっという間に9月になっちゃって。このままだと本当にあと1週間ぐらいしたら年末になっちゃうんじゃないか?っていうような、そういうスピード感で我々日々新譜をチェックする毎日ですけども。もう今日は本当は冒頭にBun Bの新しいアルバムの話をしようと思ってきたんだけど、もうそれどころじゃないみたいな。あとでBun Bの話は追ってするんだけども、それどころじゃないっていう感じになってしまいました。

なんと8月31日、あのエミネムが急遽サプライズアルバムって言っていいんですかね? 急遽新アルバム、その名も『Kamikaze』を発表しました。みなさん、もうお聞きになられたでしょうか? タイトルの『Kamikaze』っていうのはいろいろと、特に我々日本人だとちょっと複雑に思うところもあるんですけども。ちなみに日本時間の昨日か今日か、ルペ・フィアスコもトラビス・スコットとドレイクの『SICKO MODE』のフリースタイルで、今度は『Pearl Harbor』っていうのを出していてさ。

なんかちょっと『Kamikaze』が来て『Pearl Harbor』が来て。ちょっとなんか嫌って言ったら変ですけども。複雑な胸中っていう感じがしますので。『Hiroshima』なんてのが来たら嫌だななんて思っているんですけども。まあ、それはそれという感じで。で、『Kamikaze』っていうのはもちろん神風特攻隊って言われるような方々がかつていたということなんですけども、結論から言うと本当に私はこのエミネムがね、自分の命 a.k.a 自分のキャリアをも失ってもいいから、とにかく攻める。突撃するしかない!っていうような思いでこの『Kamikaze』っていうアルバムを出したんじゃないかなっていう風に思っています。

で、背景からいいますと、去年の年末に『Revival』っていうアルバムをエミネムが発表しまして。で、ビヨンセをフィーチャーした『Walk On Water』っていう曲がリードシングルになりましたけども。

私もその『Revival』が発売されてすぐにこの『INSIDE OUT』でもお話をしていて。まあね、私もその『Revival』はあんまりいいアルバムだとは思わなかったんですね。

渡辺志保 Eminem『Revival』の第一印象を語る
渡辺志保さんがblock.fm『INSIDE OUT』の中でエミネムの最新アルバム『Revival』の第一印象について話していました。 NEW SONG + ALBUM PREORDER #UNTOUCHABLE #REVIVAL LINK...

で、当然といいますか、世論といいますか。まあリスナーであるとかアメリカ、海外の音楽ライターであるとか、そういった人たちも結構酷評していて。なんでか?っていうと、エミネムって本当に「ラップゴッド」って自分でも言っているぐらいですけど、全然ラップゴッドっぽくないアルバム。で、私も以前に言ったんですけど、『Walk On Water』もさ、最後にご丁寧にかつてのエミネムのヒット曲『Stan』にあらわれていたような鉛筆で紙に手紙みたいなのをサササッ、サササッて書いているような音も入っていたりとか。ちょっとね、ご丁寧な仕掛けとかがあったから、てっきりその『Revival』っていうアルバムはエミネムじゃなくてスリム・シェイディ……ちょっと昔のエミネムが出していたキャラクター、スリム・シェイディ色がめちゃめちゃ濃く出ているアルバムになるんじゃないかとかすごい期待していたんですけども。

でもやっぱりフタを開けてみるとビヨンセとの曲もそうだし、あとはエド・シーランとかピンクとかケラーニとかアリシア・キーズとか。あんまりね、ラッパーも参加していないし、ポップヒットを狙ったような曲もすごく多かったし。「うーん……エミネムの新しいアルバムというには、うーん……」みたいな感じだったのね。で、その後にこれもかつて、『INSIDE OUT』でおしゃべりした内容なんですけども。年末に『Revival』が発売されて、あんまり反応がよろしくなかった。

そして年明けにエミネムが『Revival』の中に入っていた『Chloraseptic』っていう曲があるんですけど、そのリミックスを発表したんですね。そのリミックスは2チェインズがフィーチャーされていて。で、もともとこの曲は2チェインズがいたらしいんだけど、アルバムに収録される時には2チェインズのバースが……もう悲しい! カットされてしまって収録されたっていうことらしいんだけど。

で、その『Chloraseptic』のリリックの中で「『Revival』が弱いアルバムだとお前ら、思ってんだろ? 俺のこと、見くびるなよ」みたいなことをラップしていて。まあベテランと言われるラッパーがアルバム1枚出してあんまり反応がよくなかったからそれに対する反撃の曲をその直後にリリースしたというストーリーがあります。で、ここに来てその『Kamikaze』。そこでなにをラップしているか?っていうと、『Revival』を出した時に酷評したラッパーとか音楽評論家とかを全員ぶった切る、本当に怒りのアルバムなのよね。

本当にね、面白いし、エミネムならではのワードプレイとかシニカルさというのがめちゃめちゃよく出ているし。で、私がすごい「おおっ!」って思ったのは裏ジャケのところにエグゼクティブ・プロデューサーの名前が書いてあって。もちろん毎回、ドクター・ドレーが参加していて。今回はドクター・ドレーとスリム・シェイディって書いてあるんですよね。だからエミネムじゃなくて完全にシニカルで場を引っかき回すようなそういうスリム・シェイディとしてのエミネムが全面に出たラップっていう感じなんですよ。

で、もともとエミネムがデビューしたころはブリトニー・スピアーズとかイン・シンクとか、当時MTVで司会をしていたカーソン・デイリーとかをめちゃめちゃディスっていたわけよ。だからポップシーンに殴り込みをかけてきた白人ラッパーみたいな感じだったんですけど。今回、殴り込みをかけているのはそのカーソン・デイリーじゃなくてシャーラメイン・ザ・ゴッド。『ブレックファスト・クラブ』とかに出ている司会者のシャーラメイン・ザ・ゴッドだったりとか。

まあブリトニーとかではなくてディスる相手もドレイクとかさ、リル・ヨッティとかさ、そういう若手のラッパーになっているんですけども。まあこのディスがいちいちよくできたディスでございますことっていう感じなの。で、聞けば聞くほど……私もリリックサイトのRap Geniusをディグりながら聞くんだけど、聞くたびに「うわっ、ここめっちゃおもろい!」とか「うわっ、こここんなワードプレイになっているんだ」とかそういう発見が絶えないアルバムになっているんで。本当にめっちゃおもろいからみんな、聞いて!っていうのがとりあえずの伝えたいことではあるかなという感じです。

たとえば、これは先週土曜日に放送した別の自分の番組でもかけたんですけど、『Greatest』っていう2曲目に入っている曲があるんだけど。そこでもケンドリック・ラマーの『HUMBLE.』の「My left stroke just went viral(俺が左ストロークを打てばバイラル・口コミヒットになるぜ)」っていうリリックを「Revival didn’t go viral!(俺の『Revival』は全然口コミヒットになんなかったぜ!)」っていう風に自分で替え歌にしていて。あともう1個、ケンドリックの『DNA.』の「これは俺の体に刻み込まれたDNAなんだ」みたいなリリックもそのまま他の曲(『Lucky You』)で替え歌(「I got spite inside my DNA)」にして使っていたりとか。ケンドリック・ラマーのことを相当気にしてるのかな?っていうか、相当好きなんだろうな、みたいなところが現れているし。

で、『INSIDE OUT』では絶対にこれをかけようって最初にアルバムを聞いた時から思った曲があるんですけど。先に紹介しますと『Not Alike (Ft. Royce da 5’9”)』っていう曲があるんですね。で、これがまたもう意地が悪い感じでできているのよね。ビートを作っているのはテイ・キースなんですよ。で、テイ・キースって何のビートを作っているプロデューサーかっていうと、ブロックボーイ・JBの『Look Alive』。

それを作っているビートメイカーなのね。で、たぶんエミネムもわざわざテイ・キースに「『Look Alive』によく似たビートをくれ」って言ったのかはわからないけど、本当によく似たビートになっているのね。っていうことは、そのいま流行りのああいう若手のラッパーたちをまるっとディスっている曲ということなんです。わざと模倣しているという。で、最初のフックの部分を聞いたら「あっ!」って思うと思うんですけども。フックの部分がさ、私は「ミーゴスだけはディスらないでくれ……」って思いながらこのアルバムを聞いていたんですけども。もう本当に明らかにミーゴスの『Bad and Boujee』をわざと真似しておちょくっているようなフックになっているんですね。

まあ、ちょっとランダムにいろんな単語をラップしながら「俺たち共通点はたくさんあるけど、マイクを握ればそんなもんは1個もない。俺とお前は全く似ていない(Not Alike)」っていうようなことをラップしています。で、最初のバースはRoyce Da 5’9″ですけども、その後にまたエミネムがラップしていて。これまたもう本当にね、巧みにいろんな人の名前をネームドロップしながら現状の不満をただつらつらとラップしているんですけどもね。本当にいちいち面白いギミックがたくさん登場していますので。まずは聞いていただきたいなと思います。エミネムで『Not Alike (Ft. Royce da 5’9”)』。

Eminem『Not Alike (Ft. Royce da 5’9”)』

はい。いまお聞きいただきましたのはエミネムの最新アルバム『Kamikaze』から『Not Alike (Ft. Royce da 5’9”)』を聞いていただきました。いやー、でもすごい。その怒りの感情だけでこんなにすぐにアルバムを1枚作るのはエミネムならではだなって思いましたし。で、同じたとえばベテランからの一言みたいなアルバムだと去年のジェイ・Zの『4:44』があったりとか。あとは中堅どころですけどもJ・コールの『KOD』もそういう文脈のアルバムだったし。まあ、そういうSoundCloudラッパーとか若手のちょっと言ったらあれだけどもワンヒットワンダー(一発屋)的なラッパーがどんどん台頭していけばいくほど、こういうおっさんからのカウンターみたいなのが今後増えるのかなという風にも思いました。

でもエミネムのこの『Kamikaze』、本当におもろ!っていうラインがたくさんありますので。英語が100%わからなくても固有名詞とかを見るとこういうことをしゃべっているのかな?っていうのがだいたいわかると思いますので。ぜひぜひRap Geniusなんかも参照しながら聞いていただくのがいいのかなと思います。

(DJ YANATAKE)ヤナタケです。タイトル云々の話は置いておくんですけど、俺は全然聞いてて気づかなかったけど、Hypebeastの記事を見て「えっ?」って思ったことが1個あって。『Good Guy』という曲があって。それ、宇多田ヒカルさんをサンプリングしているらしいっていう。

(渡辺志保)ねえ。でも聞いてわからなかった。


(DJ YANATAKE)聞いてわからなかった。で、インタビューを読むと「めちゃめちゃ加工して判別できないようにしている」ってプロデューサーが言っているから俺も全然わからなくて。

(渡辺志保)ヤナタケさんも?

(DJ YANATAKE)わかんない。けど、「聞く人が聞いたらわかるからちゃんとクリアランスを取ったんだ」って書いてあって。急いでクレジットとか探したんだけど、まだ全然サンプルのクレジットが載っていなくて。なんだけど、それはそれで面白いなって。

(渡辺志保)ねえ。たしかに。エミネムがっていうか、そのビートを作ったプロデューサーがっていうことですけども。なんと宇多田ヒカルさんがサンプリングネタで使われているという。

(DJ YANATAKE)まあ『キングダムハーツ』っていうゲームで使われているから結構ビートジャックっていうか、よくサンプリングされている曲ではあるんだけど。なるほどなと思いましたね。

(渡辺志保)ちょっとじゃあ、そういったところも注意深く聞いていただけると、また面白い楽しみがひとつ増えるんじゃないでしょうかという感じです。

<書き起こしおわり>

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