(松尾潔)さて、まあニューオリンズで開催したからニューオリンズの人ばかりか?っていうと、もちろんそんなこともないわけで。メアリー・J.ブライジなんていうのはもう生粋のニューヨークの人ですし。今回はその中でもさっきから度々出てきてる地名ですけども、フィラデルフィア勢がちょっとした盛り上がりを……。面白いですね。ニューオリンズの中でフィラデルフィア勢が盛り上がりをみせるっていう瞬間があったみたいで。具体的にはどういう面々だったんですか?
(林剛)あの、ルーツがバック演奏。ホストバンドみたいになって、ジル・スコットとエリカ・バドゥがステージをシェアするというか、共演するというね。
(松尾潔)それだけで夢の共演だな! もうある種、宇多田ヒカルと椎名林檎がどっちともステージに立ったみたいな、そういうノリですよね。
(林剛)だからいわゆるネオ・ソウルの女性シンガーっていうと、エリカとジルみたいな言い方をされてますよね。でもなんとなく、こう接点があるようでないというか。で、共にやっぱりルーツと一緒にやっていたところから出てきて。
(松尾潔)たしかに役回りというか、果たす役割が似ているから2人いらないっていうポジションなのかもしれませんね。
(林剛)ただ、2人をやっぱり改めて比べてみると、全然スタイルが違うっていう。まあ当然なんですけども。
(松尾潔)そうか。一緒に見てみると全然別物だったっていうことですか。
(林剛)それを……もちろんエリカ・バドゥのファーストはルーツがバックアップしていた。それでジル・スコットのファーストアルバムも、ルーツではないんですけども、ジャジー・ジェフの一派なのですけども。
(松尾潔)フィリー一派でやっていましたね。
(林剛)ただ、2人に共通するのはルーツに『You Got Me』っていう曲がありますよね。あれを最初にジル・スコットが歌っていた。デモのバージョンで。で、その時はあまり知名度がなかったんで、MCAがエリカ・バドゥに歌わせて世に出した。それがまあ、ヒットしたっていうね。
(松尾潔)まあ、ルーツがグラミーにノミネートされたりするようになった時には、エリカ・バドゥがフィーチャーされていたということで知られたけれども、元々はジル・スコットが……ということなんですね。同郷ですからね。まあ、エリカ自身はダラスでしたっけ?
(林剛)そうですね。ダラスですね。
(松尾潔)ねえ。南部の人ですもんね。
(林剛)で、ニューヨークに行って……ということだったんですけども。まあ、ルーツと繋がりがある2組の女性がステージで共演して、お互いのファーストアルバムの曲を順番に歌いあっていくっていうね。もう、だからこのフィラデルフィア産ネオ・ソウルの、なんか昔の当時の盛り上がっていたムーブメントの原点を改めていま、20年後にお見せしましょうというか。
(松尾潔)なんか歌う年表みたいな感じですよね。
(林剛)そうですね。まあ、最後の方はですね、ファースト以外の曲もお互いに歌い合うんですけども。そこでジル・スコットの『So In Love』っていうね、これは西海岸の曲なのかな。アンソニー・ハミルトンが出てくるかな?って思ったら、出てきて。アンソニー・ハミルトンが自分の曲をまたさらに数曲歌って。
(松尾潔)へー!
(林剛)それで終わるかと思いきや、カーク・フランクリンが乱入してきましてですね。カークも自分の曲を4、5曲歌ったのかな? 3、4曲歌ったのかな?
(松尾潔)「乱入」っていうか、普通に参加ですよね(笑)。
(林剛)参加ですよね(笑)。ただ、そのカークとどこに接点があるのかな?っていうね。ルーツ、ジル・スコットに……。
(松尾潔)だけど、あれですね。共演がある/ないを別にして、ファンはかなり被っているはずですよね。僕もそうですけど。
(林剛)まあ、そうだと思います。
(松尾潔)刺激してくれるツボが一緒かもしれないな。まあ、熱い人たちですよね。わかりました。じゃあ、そのホストバンドを務めたザ・ルーツのリーダー作品を、せっかく林さんからこういうお話を頂きましたので。まあ彼らの代表曲わからん代表曲『You Got Me』を、エリカ・バドゥをフィーチャーした有名なバージョンではない、知られざるジル・スコットとイヴをフィーチャーしたそちらのバーッジョンをを聞いていただきたいと思います。これはフルーツの企画盤のようなね、『Home Grown』っていうアルバムに含まれておりまして。2005年にリリースされた作品です。ザ・ルーツ feat. ジル・スコット&イヴで『You Got Me』。
The Roots feat. Jill Scott and Eve『You Got Me』
(松尾潔)ザ・ルーツ feat. ジル・スコット&イヴで「風の噂を」……違う違う『You Got Me』でした。
(林剛)フフフ、「風の噂を」って空耳で聞こえるというね。
(松尾潔)聞こえますね。あの、イヴもね、フィラデルフィア出身で。この人はラフ・ライダーズ。それこそDMXなんかを擁したラフ・ライダーズのファーストレディーのような形で有名になったんで、まあニューヨーカーであるかのようなイメージがつきがちですけど、たしかオーディションで選ばれたんですよね。もともとフェリーでミュージック・ソウルチャイルドとかと無名時代一緒にやってたということで。
(林剛)ということですね。で、もあの今回のライブ、エッセンスではジル・スコットとエリカ・バドゥが2人でこの曲を歌ったっていうところがやっぱり……。
(松尾潔)それはレアな機会ですね。
(林剛)そう。ただ、この2人コメディアンのデイヴ・シャペルっていますよね。彼の『ブロック・パーティー』で2人とも出ているんですよね。で、たぶんこの曲を共演していたはずなので。
(松尾潔)なるほど。しかし、あれですね。「ここであの人が出てきたらいいのに」っていうのが本当にどんどん出てくるっていう。
(林剛)そう。本当に今回はそういうサプライズと言うか、まあ初めからわかっていたものもあったんですけども。そういうのがすごい多かったです。
(松尾潔)まあけど、それでもやっぱり予定調和と言わずにあえて「サプライズ」と言いたいぐらい、夢の組みあわせっていうことですよね。
(林剛)そうですね。他にクイーン・ラティファのショーとかもあったんですけど、本当にもう女性MC続出みたいな、連発で登場するっていう。
(松尾潔)それは、あれですよね。ブランデーのお『I Wanna Be Down Remix』の面々が揃ったというやつですね。MCライトとか。
(林剛)そうです、そうです。そこにあとミッシー・エリオットが加わったり、ソルト・ン・ペパが加わったりとかっていう。すごかったですね。
(松尾潔)じゃあもうコンテンポラリーなシーンだけというよりも、林さんがいままで音楽を聞いてきた……まあ80年代まではいかないにしても、90年代、ゼロ年代とかからの人脈図みたいなのがまさに目の前で?
(林剛)そうですね。で、今回はいままではベテランっていう基準を多分、70年代、80年代のアーティストで置いていたのが、今回からはというか最近……っていうか今年が特にすごかったのかな? 90年代に基準を置いてるんですよ。
(松尾潔)もうソウル・ミュージックというよりも、基点をR&Bっていうところに置いている感じですね。となってくるとね。
(林剛)だから3日目のトリがジャネット・ジャクソンだったんですけども、ジャネットがいちばん年上になるぐらいの、そういう設定ですよね。で、今回面白かったのは、ダギー・フレッシュがしょっちゅう出てくるんですけども。彼は「お客さんの中で60年代生まれはいるか? 70年代生まれはいるか?」ってみんなちょっと、あれを取ったんですよ。で、その時にいちばん多かったのが80年代生まれ。
(松尾潔)ええーっ!
(林剛)だから、予想はしていたんですけども、30代から40代ぐらいのお客さんが多いのかなと思ったら、やっぱり80年代生まれがいちばん多くて。70年代もやはり次に多くて。で、60年代生まれと90年代生まれが同じぐらいの数の歓声があがるっていうね。
(松尾潔)なるほどね。もうあのフェスも20年以上たっちゃったから、そういうことか。
(林剛)だからその人たちのリアルタイムで体験した懐メロというかクラシックっていうと、もう90年代のものになるっていうね。
(松尾潔)しかもね、近年はエッセンス・フェスに行く女性たちを主役にした映画ができたぐらいで。
(林剛)そうですね。『Girls Trip』っていう映画。実はその影響が大きかったのか、今年はフェス史上最多の観客動員数を。述べ50万人ということで。それで三日間ソールドアウトだったみたいですね。
(松尾潔)素晴らしい経済効果があったんですね。
(林剛)ですね。