松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でグラミー賞の授賞式のために訪れたロサンゼルスの空港で、ミュージシャンのダンテ・ウィンスローと偶然出会った話をしていました。
(松尾潔)……まあ、いろんな出会いがあった今年のグラミーだったんですが。ええとね、グラミーはいつも出会いがあるというか。まあ、ある時もあれば、ない時もある。僕、何回か行きましたけども。たとえば、まあ会場の近くの飲食店。しかも僕が行くようなところですから、音楽業界の人が集うようなところなんですけども。そういうところで、昨日ステージに立っていた人と、次の日にランチで隣の席になるみたいなことはあるわけですよ。ですが、ある程度想定内とも言えますよね。そういった人たちが集うようなホテルであったり、カフェであったり。そういうところに行っているわけでね。
ですが、そういうのとはちょっと違う、愉快な出会いっていうのが今年、あったんですね。それはね、グラミーが終わって翌朝の便でLAを立って東京に戻ってきたんですが、ロサンゼルスの空港で審査を受けている時に結構な行列ができていまして。で、その時に僕の隣にドレッドのね、まあアフリカンの男性がいたんですよ。見るからに音楽関係という感じだったんですけど、「この人は名のある人なのかな? どうかな? レゲエの人なのかな? なんかずいぶんと人当たりが良さそうだな」なんて思って。まあ、さっきも話しましたように行列が長かったものですからね、自然な感じでお話をしておりましたら……。
空港での審査待ちで隣り合わせる
「ところで、なんの仕事をやっているの?」という話をどちらからともなく話をしていたら、まあまあ「ミュージックビジネスなんだ」っていう話になって。「おお、俺もだよ」みたいな話になって。で、聞きましたところ、その彼は「俺はこれだよ」って言って自分が持っているスーツケースに家族と思しき方々……奥さんとお子さんたちと一緒に映っているのを写真をイラストに起こしたようなステッカーを貼っていて。「演者さんですか?」っていう質問をしたら、「実は自分はジャズトランペッターなんだ」「はー、ごめんなさい。ちょっと不勉強で気づきませんでしたけども。お名前は?」「ダンテ・ウィンスローだ」っていう。それでも僕、わかんなかったんですね。
「どんな人とお仕事しているんですか?」って言ったら、出てきたのが「チック・コリアとかデニス・チェンバースとか……知ってるかな? ヒップホップのドラマーでクエスト・ラブとか」っていう、もう僕にとってのごちそうがバンバン出てきたんですよ。「ええっ?」っていう話で。「ジャスティン・ティンバーレイクがグラミーに数年前に出た時、『Suit & Tie』ってやっただろ? あの時のトランペットソロ、俺」とか言い出すわけです。「ええっ? 僕も昨日、グラミーに行ったけど、あなたもグラミーの会場にいたんですか?」「今年は全然関係なかった。たまたまいま、韓国に向かう飛行機で。審査、長いな~」みたいな普通の話にまた戻っちゃったりして。
「はー!」と思って。いま、もうこの時代ですから話をしながら、「こいつが言っていることは狂言じゃあるまいな?」と。失礼な話ですけども(笑)。調べたら、普通に配信サイトとかで彼のアルバムとかバンバン出てきまして。「あれれれ……名のあるお方だったんですね」というような形で。しかもね、そんなレコーディングアーティストとしての顔以上に、僕にとって興味深かったのは彼がウォーリン・キャンベルっていうこの番組でその名前も何回か出しているし、よくかかるアーティストのプロデュースをしている人ですよ。メアリー・メアリーですとかね。それこそ、ミュージック・ソウルチャイルドの『Greatest Love』なんてのも僕の大好きな曲ですけども。
そういったウォーリン・キャンベルの作品群でよく一緒にホーンのアレンジメントをやったり、たまにはプログラミングしたり。場合によってはコーラス。そしてラップまでやるという器用な男性がそのダンテ・ウィンスローだったんですね。で、さっきお話した家族と一緒に映っているというイラストがあるというお話をしましたけども。それもそのはず。ダンテ・ウィンスロー&ウィンスロー・ダイナスティーという名前で家族でそういうジャズユニットもやっているというね。本当に愛妻家でございまして。奥様がマシーカさんという人なんですけどもね。シンガーですね。この人と一緒に活動をしているという、そういうアーティストがたまたま隣にいたということで。僕、ずっとそれでダンテという人と話が盛り上がってね。そりゃそうですよね。R&Bの現場の話も聞けるわけですから。まあ偶然の出会いが楽しかったので、いつか話そうと思ったんですけど、このタイミングでお話しさせていただきました。
それでは彼のプロデューサーとしての作品をご紹介したいと思います。このアルバム、以前にもご紹介しましたよ。『Calling All Hearts』というキーシャ・コールのアルバム。2010年の作品ですね。『So Impossible』というジャム&ルイスのナンバーをその時にご紹介したんですが、今日はこのダンテ・ウィンスローのプロデュース作品をお聞きいただきたいと思います。キーシャ・コールで『Two Sides To Every Story』。
Keyshia Cole『Two Side’s To Every Story』
お届けしたのはキーシャ・コールで『Two Sides To Every Story』。プロデュースド・バイ・ダンテ・ウィンスローでございました。さっきお話しましたダンテ・ウィンスローとの偶然の出会い。ロサンゼルスの空港で並んでいる時にたまたま、僕のひとつ前がダンテだったのかな? で、結局気がつくと小一時間ぐらいずーっとしゃべりこんでいまして。で、僕はその時に同業の音楽プロデューサーの人たちと何人かでLAに行っていましてね。その終わった後に、みなさんもご存知かと思います。小林武史さんが「松尾くん、ずいぶんなんか友達と話し込んでいたね?」「友達じゃないですよ。さっきはじめて会った人です」って言ったらずっこけてましたね。
(中略)
ということで、今週のザ・ナイトキャップ(寝酒ソング)。今夜はダンテ・ウィンスロー&ウィンスロー・ダイナスティーの『Mashica & Jedi』を聞きながらのお別れです。お察しの通り、ダンテの奥様とお子様のお名前でございます。これからお休みになるあなた、どうかメロウな夢を見てくださいね。まだまだお仕事が続くという方。この番組が応援しているのはあなたです。次回は5月1日(月)夜11時にお会いしましょう。お相手は僕、松尾潔でした。それでは、おやすみなさい。
Dontae Winslow & WinslowDynasty『Mashica & Jedi』
<書き起こしおわり>