松尾潔さんと吉岡正晴さんがWOWOWぷらすと『90年代洋楽R&B考』に出演。西寺語さんとR.ケリーの歌詞について語り合っていました。
WOWOWぷらすとをご覧の皆様、長時間の余談?にお付き合いくださいまして、ありがとうございました。
大先輩と大後輩との共演、楽しいもんですね。ちなみに大後輩は渡辺祐パイセンから教わったオコトバ(^_-)
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— 松尾潔 (@kiyoshimatsuo) 2015, 6月 29
(松尾潔)ただR.ケリー(R.Kelly)のね、歌詞っていうのは本当に中身がないってよく・・・
(西寺郷太)『エロい』とかね。
(松尾潔)まあ、エロいんだけど。その中身のなさっていうのも一貫してて。僕はそこも込みで好きなんだけど。この間、あるアメリカの映画を見てましたら、中身がなくて、いつも同じようなものを繰り返している代表として、R.ケリーの歌詞とホールマークのメッセージカードっていうのが(笑)。
(西寺郷太)ホールマークのメッセージカード?
(松尾潔)『Happy Birthday Dad』とか、アメリカのスーパーなんか行くと、売ってるでしょ?まあ、逆に言えばあれと同じぐらい、決まり文句ばっかりだってことですね。
(吉岡正晴)なるほどね。上手いこと言うね、それも。
(西寺郷太)でもなんか、ビーチボーイズ(Beach Boys)でね、ブライアン・ウィルソン(Brian Wilson)が大してサーフィンとか興味なかったのに、それをネタに書いていたみたいな。まあ、サーフィンできたのは弟だけだったとか、そういう話と一緒で。なんか1個、テーマ決まっていると、まあ楽っちゃ楽ですよね。作詞もキャラとして。『こいつ、いつもエロいことを歌ってる』みたいな。
R.ケリーの大衆に愛される歌詞
(松尾潔)だけどやっぱりこういう見方を僕はしてるんだよね。あの、たしかに彼が歌っているのはいつも同じことかもしれない。でもそれは、いつも愛される同じことなんじゃないかな?って思うんだよね。
(西寺郷太)なるほど。
(東美樹)なるほど。愛される、か。
(松尾潔)大衆に愛されるものを、もうキャリアの早い時期に見つけてしまった人っていう。だからずっと繰り返しているのに、愛されている。日本でもそうじゃないですか?桑田さんの『いとしのエリー』と、最新アルバムの『葡萄』の中に入っているバラードの曲と、ストラクチャーとかそんな変わらないんじゃないかな?と思うんですよね。
(西寺郷太)まあ、出来上がっている。最初からちゃんと。
(松尾潔)完成品の形で世に出てきた・・・
(西寺郷太)それで言うと、よく松尾さんがおっしゃる話で、僕もそうだなってずいぶん昔に思ったんですけど。だいぶ初期に書かれていたことだと思うんですけど。なんかその、日本で言うと歌謡曲っていうのはちょっと世の中にあふれすぎていて、R&Bとか向こうのソウルみたいなものは、ちょっと高尚なものっていうか、まあ高いお金を払って買うというか。そういう人が輸入盤とかの時代から多かったから、さぞ、おしゃれな、かっこいいものだと思っていたけど、当時、ベイビーフェイス(Babyface)かなにかのライブに行った時にみんなが歌詞を歌っていて。これって、こっちで言う本当の歌謡曲。流行歌なんだなって思ったって。
(東美樹)うんうんうん。
(西寺郷太)それで言うと、R.ケリーの『You Are Not Alone』っていうマイケルに書いた。『君は1人じゃない いつも僕はそばにいる』ってずっと言っているだけの歌だけど。
(西寺郷太)それこそ、それによく似た『I Believe I Can Fly』とかも、『飛べると僕は信じてる』とか。そんなの本当に・・・(笑)。
(松尾潔)まあ、セルフ・パクリって言いますね。だけどね、まあセルフ・パクリって言ったらあれだけど、この間亡くなった映画音楽のジェームズ・ホーナー(James Horner)ね。『タイタニック』の。彼も、古い自作曲に似すぎだってよく言われてたわけ。まあ、他所の楽曲にも似ているって言われていたけど。とにかく、昔の映画の時にやっていたネタをまた使っているみたいな。けど、僕、それでいいと思っていて。
(西寺郷太)はい。
(松尾潔)大瀧詠一さんにね、生前、こういう話をしたことがあって。『松田聖子さんの「風立ちぬ」っていうのはあれですね。大瀧さんの昔の「青空のように」だったかな?大瀧さんご自身の曲にちょっと似てませんか?』って言ったら、『うん。あれはね、4回やった』みたいな(笑)。
(西寺郷太)(笑)。この形ね。
(松尾潔)ご自身の中のモチーフっていうか、ある黄金比みたいなのがあって。それの汎用例が4つあるってことだと思うけど。で、それは僕は凄みを感じる一言で。
(西寺郷太)なるほど。
(天明晃太郎)でも、その人が発明したんだから、別にいいんですよね。
(松尾潔)そういうことです。
(西寺郷太)あの人の音楽だなって思うからね。
(松尾潔)『○○節』って語られるだけの個性を持った人っていうね。
(西寺郷太)いや、僕本当ね、最近小西康陽さんのカバーアルバムというか、セルフカバーに歌手で参加して。そん時も・・・
(松尾潔)素晴らしかったね。
(西寺郷太)いや、松尾さんからも早々にメールをいただいて。僕もうれしかったんですけど。やっぱりその、彼も同じように、小西さんだな!って。別に曲だけ聞いても、歌詞だけ聞いても。
(松尾潔)小西さん節っていうのをお持ちですね。
(西寺郷太)ちゃんと、誰が歌ってもっていうのもある。まあ、松尾さんももちろんあると思うんですけど。そういうところって、なんかやっぱりある人っていうのは強いなって思いますけどね。
ベイビーフェイスの歌詞
(松尾潔)そう。さっき、ひとつ前の話題で、郷太くんがベイビーフェイス云々っていう話をしていたの。それね、僕が書いたのか言ったのか忘れたけど、郷太くん、正確に言うとこういう話だよ。あの、ベイビーフェイスが当時、やっぱり日本のR&Bファンにも、いまのR&Bシーンでいちばんの美しいメロディーメイカー。美メロメイカーって言われて。もう、キレイなメロディーと言えばベイビーフェイスっていう風なことが日本でも定評になっていたのに、僕が取材でアメリカに行って、ミュージシャンもそうだけど、より市井の人々っていうかそういう人たちと話すと、『うーん!ベイビーフェイスはもう最高!彼の詞は最高!』ってみんな言ってたんです。
(西寺郷太)ああ、なるほど。
(東美樹)詞なんだ。
(松尾潔)あ、詞の方に行ってるんだっていうね。そうそうそう。で、『メロディーも?』って言ったら、『もちろんメロディーもいいけど、詞が最高じゃない!あんなに女心がわかる歌詞かけるなんて、本当スモーキー・ロビンソン(Smokey Robinson)以来だよ』みたいな。
(西寺郷太)ああ、なるほど!
(松尾潔)たしかにそういうところ、あるじゃないですか。で、スモーキー・ロビンソンは、まあボブ・ディラン(Bob Dylan)が彼のことをすごく褒めたっていうのもあって日本でもスモーキーの歌詞は他のソウルのシンガー・ソングライターとちょっと違うステージにあるらしいってなんとなくあるんだけど。
(西寺郷太)『My Girl』とかね。
(松尾潔)ベイビーフェイスの歌詞の素晴らしさって、それを語ってくれるR&B畑以外の人があまりいなくて。たとえばね、R.E.M.の人がね、マイケル・スタイプ(Michael Stipe)とかみたいなね、ああいうタイプの人が・・・
(西寺郷太)まあ、ボノ(Bono)とか。
(松尾潔)ボノとかが、『俺は1人になったら、家ではベイビーフェイスの歌詞しか聞かないんだ』とか、そういうことを言ってくれたらぜんぜん位置づけも違ったんだけど。
(西寺郷太)(笑)。スティング(Sting)とか、ああいう、ちょっと小難しい人がね。うん。
(松尾潔)なかなかそういう対象にならないんだよね。もうあくまでも、アフリカンアメリカンのミドルクラスの人たちが、よく『ワイン付きディナー(Dine with Wine)』って言葉がありますけどね。その時のBGMとして。
(西寺郷太)なるほど。
(松尾潔)『今日は奥さんと週末だから、ジャケット着用で食事に行こうか』っていう時の気分ですよね。その時に、レストランまで車に行く時に流れている音楽がベイビーフェイス。
(西寺郷太)なるほどねー。
(天明晃太郎)そこらへんがわかんないんだよね。日本だとさ。そのニュアンスがね。
(松尾潔)僕はたまさかね、90年代そういう環境で時間をたくさんすごしたからわかりますけど。そうじゃなかったら、たしかに僕も、メロディーきれいだなってことしかわからなかったかもしれないな。
(天明晃太郎)だから映画もやっぱりそうでさ。その文化がわからないと、本当にわかったことにならないから。できるだけ近づきたいじゃない。でも。楽しむためにはね。だからやっぱり勉強するっていうかさ、知るの、大事だな。本読んだりとかしてね。
(西寺郷太)うーん。なるほどなー。
(松尾潔)そういうことを知るとね、どんどん曲が立体的な魅力をもっと自分に届けてくれますよね。
<書き起こしおわり>
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