(町山智浩)それがもう1本の映画で『止められるか、俺たちを』という映画で。これはね、若松孝二という監督が昔いまして。その人が1970年代から72年にかけてやっていた若松プロの映画作りを描いた映画が『止められるか、俺たちを』という映画なんですが。
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— 映画.com (@eigacom) 2018年6月15日
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)監督は白石和彌監督ですね。『凶悪』とかの。彼は若松孝二さんのお弟子さん筋なんですよ。で、この頃、要するに若松さんがやっていたのは全部見た目はエロ映画なんですけども。中身は全然違っていて。たとえば『現代好色伝』っていう映画があるんですよ。で、なんだろう?って思って見に行くと、本当のタイトルは『テロルの季節』っていうタイトルなんですよ。
(赤江珠緒)うん!
(町山智浩)で、中身はその頃、1970年の70年安保で日米安保条約を阻止するために学生運動がものすごかった時代なんですね。で、学生運動家の1人が潜伏しているところに公安警察の人が盗聴をしているという話なんですね。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)ところが、頭頂をしているとずーっと、次々と女の人がその部屋に来てエッチばっかりしているんですよ。その運動家と。で、「ああ、これはもう何もしないのかな? これから総理大臣が羽田からアメリカに飛行機で飛んで日米安保条約の調印に行くのに、何もしないみたいだな」って刑事が諦めていると彼がダイナマイトを体に巻き付けて羽田に行って羽田を爆破するんですよ。
(赤江珠緒)はー!
(町山智浩)でも前半は完全にエロ映画になっているんですよ。そういうものを撮っていて。で、その頃の学生運動に参加していた人たちを熱狂させていたのがその若松孝二の若松プロなんですね。で、この『止められるか、俺たちを』という映画は主役はこちらも……さっきの映画の『菊とギロチン』も主役は東出くんじゃなくて、本当の物語の中心にいるのはその女相撲の花菊さんという選手なんですね。で、こっちの『止められるか、俺たちを』も門脇麦さん演じる吉積めぐみっていう実在の若松プロの助監督がヒロインなんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、彼女がまず『ふしぎの国のアリス』みたいにして異常な映画づくりの中に迷い込んでいくっていう話になっていくんですね。で、若松監督を演じるのは井浦新さんなんですよ。で、ものすごく線が細いんで最初は大丈夫かな?って思うんですけど、だんだんだんだん東北弁になっていって。「オラッ、オラァッ!」みたいな、若松監督になっていくんでね。これは完全に役が入った感じですごいですね。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)で、そのエロ映画を撮っているわけですから、その中で女性の助監督というは非常に珍しい形なんですよね。で、どうしたらいいのかわからない中で試行錯誤をしていくんですけど、この若松監督というのはめちゃくちゃで。たとえばその時に日本赤軍というのがあってですね。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)パレスチナでイスラエルによってパレスチナの人々がひどい目にあっているということで、パレスチナゲリラに日本人が参加したということがあったんですね。で、パレスチナで軍事訓練をしているというので、そこまで若松監督は行くんですよ。
(赤江珠緒)ええっ!
(町山智浩)で、行って、彼らの映画を撮って。それで日本で公開するとか、そういうことをやっているうちに若松監督の脚本とかをやっていた足立正生さんという人は本当に日本赤軍に入っちゃうんです。
(赤江珠緒)ああ、撮りに行ったのが結局感化されて?
(町山智浩)そう。本当にゲリラに参加しちゃったりして。このへんはだから、さっきの『菊とギロチン』っていう映画もそうなですけど。あれも東出くんが演じる『中濱鐵』っていう人は詩人なんですよね。で、詩人としての芸術活動とその革命と青春の区別がつかなくなって渾然一体としたものすごい熱にうなされたような状況っていうのが当時、あったんですね。
(赤江珠緒)うん。
1920年代と1970年代が重なり合う
(町山智浩)で、この1970年当時もそうだし、1923年ぐらいもそうなんですよ。で、ものすごい熱い人たちが行き場がなくなっていってテロの方と絡むんですけども。で、実際にその若松さんの日本赤軍の映画とかのスタッフは赤軍派の内ゲバに巻き込まれて殺されたりしているんですね。そういうすごい時代があったんですね。もう映画を撮っているのか革命をしているのか、何をしているのかわからない状況っていうのがあった時代なんですよ。その2つの時代が。だからすごく大正時代の終わりとこの1970年ぐらいの安保闘争の直後の時代が重なり合うんですね。この2つの全然関係のない映画が。
(赤江珠緒)そうか。はい。
(町山智浩)ただ、この足立さんという人がその後に日本に帰りまして。その後にさっき言った『菊とギロチン』の監督の瀬々さんと一緒に映画を撮ったりしていたんですよ。だから実は全部このへんは絡んでいるんですよ。井浦さんも『菊とギロチン』の方にも出ているんですよ。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)活動家の役で。だからすごくこの2つの映画っていうのは、公開は『菊とギロチン』の方は現在公開中なんですけども。この『止められるか、俺たちを』は10月公開なんですね。でもこれはね、2本混ぜて見てもらわないとならないなと思ったんですよ。底のところでつながっている映画なんですね。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)で、ただやっぱりどっちも弾圧されていって、革命の動きというのは1920年代の革命も1970年代の革命もはっきり言って潰れていくんですよ。ほとんど自滅に近い形で潰れていくんですね。どちらも。彼らの空回りみたいな形で。特に1970年代はあさま山荘事件があって。それで赤軍派の内ゲバが発覚して……ってなるんですけど、その時に若松プロは『天使の恍惚』っていう映画をあさま山荘事件と全く同時に作っていて。それが東京爆破計画という形で東京中を爆破していくっていう話なんですけども。
(赤江珠緒)はー!
(町山智浩)映画なのか現実なのかわからなくなってくる状況っていうのが当時、あったんですよ。ただね、この映画の中ですごく大事なのは「じゃあ、テロをしろ」っていうことじゃないんですね。若松監督はその門脇麦さんにこう言うんですよ。「お前、なにをしたいんだよ?」って言うんですよ。「わかりません」って言うと「お前、なんかぶっ壊したい物はないのか? なんかムカつくことはねえのかよ?」って言うんですよ。まあ「ムカつくことがない」っていうのはちゃんと世の中を見ていないからなんですけども。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、「ぶっ壊したいものがあったら、それを映画にしろ!」って言うんですよ。実際にはぶっ壊さなくていいんですよ。「映画を作ればいいんだ」って言うんですよ。「映画の中なら何をしたって自由なんだぜ」って言うんですよ。
(赤江珠緒)はー!
(町山智浩)そういう時代があったんですよ。
(赤江珠緒)そうですね。その時代の熱量がすごいですね。
「映画の中なら何をしたって自由なんだぜ」
(町山智浩)すごいんですよ。だからこれはね、僕もそういう時代に遅れて来ているんですよ。僕なんかは瀬々敬久監督よりもさらに若いんでね。でもいま、「映画だったら何をしても自由」ではなくなっていますよね?
(赤江珠緒)そうですね。同じ日本だけどその熱量というのは時代によって全然違いますね。
(町山智浩)だっていまは映画の中で万引きを描いただけで「万引きはいけない!」って怒られるんですよ?
(山里亮太)『万引き家族』の時にそうなりましたね。
(町山智浩)そう。昔は「テロ」でしたからね。爆弾テロですからね。『太陽を盗んだ男』なんて東京で原爆を爆発させますからね。
(赤江珠緒)ああーっ!
(町山智浩)昔は映画だったらなんでもよかったんですよ。いま、どうなっちゃったんだろう?っていう気がしますので。まあそういう、なんていうかこの日本でいまこそ見てほしい映画だと思いますね。
(赤江珠緒)なるほど。なんかついつい自分たちの生きている時代のことしか見えなくなりがちですけどね。日本人もこうやって見ていくと若者の熱量とかっていろいろですね。
(町山智浩)この人たち、みんな20代ですよ。すごいですよ。だって映画をね、8年間に70本撮っているんですよ。若松プロって。
(赤江珠緒)ええーっ!
(町山智浩)ものすごかったんですね。ということで、東出くんのお尻も見れる『菊とギロチン』。
(山里亮太)そこもポイントとして。
(町山智浩)そして『止められるか、俺たちを』。
(赤江珠緒)『菊とギロチン』は現在公開中。そして『止められるか、俺たちを』は10月13日公開となっております。今日は2本、紹介していただきました。町山さん、ありがとうございました。
(町山智浩)はい。2本一緒にどうぞ!
<書き起こしおわり>