町山智浩『ウィンター・オン・ファイヤー: ウクライナ、自由への闘い』を語る

町山智浩『ウィンター・オン・ファイヤー: ウクライナ、自由への闘い』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年3月8日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でロシアのウクライナに対する侵攻についてトーク。ウクライナによる徹底抗戦の姿勢を理解するための映画『ウィンター・オン・ファイヤー: ウクライナ、自由への闘い』を紹介していました。

(町山智浩)とんでもないんですよ。で、今回ロシアのプーチン大統領がウクライナを占領することを正当化するために演説で「歴史的に我々ロシアとウクライナ元々ひとつなんだ」っていう風に演説したんですけど……実際はウクライナから食べ物を奪って、ウクライナの人々を殺しているわけで。ひとつでもなんでもないわけですけどね。で、そういう歴史的なひどいことをロシアがウクライナに対してしていたことがわかる映画がその『赤い闇』っていう映画なんですけども。

町山智浩『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』を語る
町山智浩さんが2022年3月8日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中でロシアのウクライナに対する侵攻についてトーク。ウクライナによる徹底抗戦の姿勢を理解するための映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』を紹介していました。

それでもう1本……今の『赤い闇』の方は劇映画なんですけども。もう1本の方は『ウィンター・オン・ファイヤー』というタイトルのドキュメンタリーです。で、副題が『ウクライナ、自由への闘い』というタイトルなんですが。これはNetflixで見れます。日本語字幕がついているやつはNetflixにあるんですが、今回ウクライナへのロシアの侵攻に対してNetflixは抗議をして。YouTubeでタダでこの映画を公開しているんですが。ただ、日本語字幕がついてないんで。日本語字幕を読むためにはNetflixを見なきゃならないんですけども。これね、字幕入りのやつを日本のNetflixもタダで流すべきだと思うんですが。

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(町山智浩)これね、2016年にアカデミー賞のドキュメンタリー部門にノミネートされたことがあったんですけれども。2015年にウクライナで起こった「マイダン革命」と言われる市民の抵抗運動の記録で。これ、普通のドキュメンタリーと少し違って、撮影者が10人ぐらいいて。その市民の抵抗していた人たちが撮ったスマホの映像とかそういうのをいっぱい集めて編集しているものです。で、これね、2013年から2014年の冬にかけて起こったんで『ウィンター・オン・ファイヤー』っていう、「燃える冬」というタイトルなんですけれども。

まず、ヤヌコビッチという人がウクライナの大統領になるんですね。この人はですね、お母さんがロシア系なのかな? 比較的ロシア寄りの人なんですけれども。それが「EU(ヨーロッパ共同体)にウクライナを参加させる」ということを公約として掲げてウクライナの大統領になるんですね。で、ずっとウクライナはロシアの一部とされていたんですけども、EUに入ることでロシアから独立して、ウクライナとしてヨーロッパに参加できるということで国民がそれをすごく支持するんですが……ところが、このヤヌコビッチ大統領はEUとの連合協定を調印しないんですね。

その一方で彼はこっそりとロシアのプーチン大統領と取引をしていたってことがだんだん分かってくるんですよ。要するに、ロシア寄りの国にしちゃおうとしているということで。ベラルーシなんかがそうですよね。結局独立していない、傀儡国家みたいなことになっちゃうんじゃないかとということで市民が怒って。「約束が違うじゃないか!」ということでヤヌコビッチ大統領の解任を求めてデモを始めるんですね。2013年の11月に。で、独立を記念して作られた街の中心にある広場に人が集まってくるんですけれども。これに対して、このヤヌコビッチ政権は武装警察で徹底的に弾圧を始めるんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)で、そこから90日間、約3ヶ月に及ぶこの反ヤヌコビッチの人々とヤヌコビッチ政権との戦いが始まるんですね。で、最初は本当に小さな平和的デモだったんですけども、武装警察……これはベルクトという武装警察なんですが。それが徹底的に殴る蹴る。それから鉄の警棒で人の頭を叩き割ったりしてそのデモ隊を弾圧して。彼らは弾圧をすることによってデモ隊が減ると思ったんですね。ところが、逆にどんどん増えてくるんですよ。最初は小さなデモだったのが、殴れば殴るほどそれに参加する人が増えてくるんですね。

それでものすごい人数になって、広場からはみ出るぐらいの、もう大変な群衆になっていって。しかもその人たちがそこで暮らし始めるんですよ。で、真冬なんてものすごく寒いんですけど、火を焚いたりして。そこで炊き出しをやって。そこで暮らし始めて。でも、徹底的に……そこに軍隊経験者の人がいっぱいいるんで、そこに来るんですけども。「絶対に武装警察に口実を与えるな。絶対に暴力をふるうな。無抵抗でいろ」って言うんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? 難しいことですね。その状況は……。

(町山智浩)「彼らはこっちが暴力をふるうのを待ってるんだ。こちらが暴力をふるったら、それこそ彼らは撃ってくるだろう。銃撃してくるだろう。だからどんなことがあっても暴力をふるうな」って言ってるんですが、そのうちに警察側が実弾を撃ってくるんですよ。それで、死者が出るんですね。それで「もうこれは戦うしかない」っていうことで、今度はデモ隊が火炎瓶を作っていきます。そしたらですね、このあたりからがすごいんですけども。芸能人の人たちがどんどん、そのデモ隊に参加していきます。今ね、ゼレンスキーさん。ウクライナの大統領でロシアと戦ってるあの人はこの間までコメディアンをやってた人ですからね。お笑いの人なんですよね。

でも、この2013年から2014年にかけての反大統領の抵抗もですね、一番の国民的歌手とか、ロックバンドとかがどんどんどんどんそのデモ隊に参加していくんですよ。で、食料とかを援助したりして。このへんがね、まあ日本の人たちには見てほしいところですね。芸能人とかテレビ出てる人たちが積極的にここへ参加していくわけですよ。で、こうなってくるともう大統領側も「これはもう徹底的にやるしかない」っていうことで、まず「デモ禁止法」っていうのを作っちゃうんですよ。議会をね、大統領側が支配しちゃっていて。たとえば、デモ隊がヘルメットをかぶっていったら、それで逮捕していいっていう法律を作っちゃうんですよ。

だからヘルメットで身を守ることはできないんで毛糸の帽子とかをかぶっていると、ボコボコに殴られるわけですね。で、怖いからってヘルメットをかぶると、それで逮捕されちゃうんです。で、それに対してデモ隊がどう抵抗したか? 鍋をかぶるんですよ。お料理の鍋を。家から持ってきて。「鍋だったら逮捕はできねえだろ?」ってことですね。これもすごいです。あとね、宗教関係者が次々と参加していきます。

(赤江珠緒)デモに?

(町山智浩)はい。ウクライナはいわゆる東方正教会なんですけども。そこの司教さんたちが聖書を持ってデモに参加するんですよ。で、彼らは怪我した人たちを保護するのに教会を解放します。これもすごいですよね。これね、デモ隊の人たちが警官隊に殴られそうになると、その間に聖書を持った司教が入ってくるんですよ。それでも、警官隊は司教をやっちゃうんですけど。司教も撃たれていますね。はい。これ、すごいんです。命だけで宗教家の人たちがデモ隊を守ろうとするんですよ。で、その中でとうとう、「もうこれはダメだ」と思ったんだと思うんですが。警官たちはそのデモ隊が膨れ上がるの抑えられないと思ったんでしょうね。狙撃用のスナイパーライフルで市民を1人1人、射殺していきます。

(赤江珠緒)ええっ? 市民を?

(町山智浩)はい。

(赤江珠緒)政権側が?

市民をスナイパーライフルで狙撃

(町山智浩)そうです。暴動の鎮圧ではなくて、完全に狙撃なんですよ。でね、このドキュメンタリーがすごいのは、狙撃される瞬間がいっぱい映っています。で、まず誰かを狙撃して、最初に怪我をさせて。足とかを撃って倒れると、それに担架を持って助けに来る人がいるじゃないですか。それを1人1人、狙撃して射殺していくんですよ。助けに来た人たちを。それは結構、狙撃の基本なんですけど。1人を怪我させて、助けに来る人を殺すっていうのは。その戦争でやる手段を市民に対して使うんですよ。これで100人以上亡くなるんですけども。

(赤江珠緒)狙撃する方も市民ですけどね……。

(町山智浩)まあ、警官ですけども。で、その中でヤヌコビッチ大統領は100人も市民を殺したから。「これはもうダメだ」と思ってロシアに逃げちゃうんですよ。まあ、だって裏切り者ですからね。そこでヤヌコビッチ大統領が倒れて。政権が倒れて新政権ができるってことで、ウクライナはそこで初めて本当にロシアから独立したんだということになるのがこのマイダン革命で。「マイダン」っていうのは「広場」っていう意味なんですね。それを最初から最後まで捉えている映画がこの『ウィンター・オン・ファイヤー』っていう映画で。

これを見ると、なぜこんなに今、ロシアに対してウクライナの市民が戦えるのがよくわかるんですよ。彼らは素手で、スナイパーライフルを持ってる警官隊と戦った経験が8年前にあるんですよ。だから、ロシアと戦えるんですね。ウクライナの人たちは。それに命がけで、本当に血を流して。100人以上の人の命を犠牲にしてやっと勝ち取った、掴み取ったロシアからの独立と自由だから、簡単にで手渡したりはしませんよ、これは。

(山里亮太)そうですね。うん。

(町山智浩)というドキュメンタリールなんですけども。その中でね、すごく感動的な……これは日本でもテレビで紹介されたんですが。そのマイダン、広場で……今、ピアノが流れてきているんですけれども。バリケードのためにピアノを置いといたら、そのピアノで20歳ぐらいの女性の学生さんがピアノを弾き始めるんですよ。で、弾いているのはショパンの『革命』なんですね。で、この「『革命』を弾いた」っていうことはすごく意味があって。ショパンっていうのはポーランド人だったんですけども。祖国ポーランドはやはりロシアに占領されたんですよ。

で、ポーランドの人たちが立ち上がって革命を起こしたことについて表現した曲なんですね。それをこの女性、その時に音楽学校の女子学生だったアントワネッタ・ミシチェンコさんっていう人が弾き始めると、それまでは銃撃していたような警官隊もみんな黙ってそれを聞くんですよ。これはね、音楽の力っていうものがすごくよく分かるシーンでしたね。ということでね、この『ウィンター・オン・ファイヤー』は今、Netflixで見れますけども。これを見てもらうとなぜ、ウクライナ人が戦えるのかがわかります。8年前に戦ったんですよね。

(赤江珠緒)そうですね。そしてその『赤い闇』でもわかるように、何度も何度もロシアは来ているんですね。

(町山智浩)そう。この2つを見ると。どうして彼らがそんなにロシアに対して従わないのか。そしてなぜ戦えるのかが非常によく分かる映画なんで、ぜひご覧いただきたいと思います。

(赤江珠緒)『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』は各配信サイトで今、見ることができます。そして『ウィンター・オン・ファイヤー ウクライナ、自由への闘い』はNetflixで配信中です。本当ね、アメリカの方の世論もどうなんですか? 町山さん。

(町山智浩)直接の対決はやっぱり恐れてますね。米露戦争になったら世界の終わりですからね。すごく難しいところですね。

(赤江珠緒)はい。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

『ウィンター・オン・ファイヤー ウクライナ、自由への闘い』予告

<書き起こしおわり>

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