プチ鹿島 『スリー・ビルボード』と『デトロイト』を語る

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プチ鹿島さんがYBS『キックス』の中で映画『スリー・ビルボード』と『デトロイト』について話していました。

(プチ鹿島)今日は、こちら。『スリー・ビルボード』と『デトロイト』という映画の話をしてみようと思うんです。この間、『スリー・ビルボード』っていう映画を見たんですよね。マーティン・マクドナーさんっていう方が監督なんですけど。わかりやすく言うと「スリー・ビルボード」、「3枚の看板」っていう意味です。これはホームページに物語の説明があるので、ちょっと読んでみましょうか。「アメリカの片田舎の大通りに並ぶ3枚の看板にある日突然現れた真っ赤な広告。それは地元で尊敬されている警察署長への抗議のメッセージだった」と。ねえ。

(塩澤未佳子)はい。

(プチ鹿島)これ、アメリカのミズーリ州っていう、まあまあ牧歌的な、アメリカの田舎っていうところですよね。そんなに人は通らないんですよ。アメリカの道路ってデカいじゃないですか。でも、そこにバンバンバーン!ってデカい看板が3枚ならんだ。そこには1枚目「レイプされて死亡」。2枚目「犯人逮捕はまだ?」。3枚目「なぜ? ウィロビー署長」と書いてある。だからこれ、車で通った人はこの3枚のメッセージで、「えっ、レイプされて死んだのに、犯人が逮捕されていない。……署長、まだ? つまり、地元警察の署長さんは何をやっているんですか?って、そういうメッセージ。そういう事件があったんだな」っていう、それを思い起こさせるという、まあ意見広告みたいなもんですよね。その3枚の看板は。

(塩澤未佳子)ああ、はい。

(プチ鹿島)それを出したのは7ヶ月前に何者かに娘を殺されたミルドレッドさんという女性の方なんです。で、やっぱりミルドレッドさんは何の進展もない警察の操作状況に腹を立てて、その看板を安くないお金を出しておっ立てたんですよ。そしたら、街の人は一斉に「あの看板、見たか?」って話になるじゃないですか。もしくは、街の外から来た人も「この街でいったいなにが起こっているのか?」って。まあ、問題提起になるわけですよね。そうすると、当然警察もそんな看板を立てられた手前、動かなくちゃいけないっていう、そういうある種の「警察、もう1回ちゃんとやれよ」っていう、そういうメッセージなんですよ。

(塩澤未佳子)はい。

(プチ鹿島)これは上手いこと考えたなと思うし、観客は「ああ、こういう手があるんだ。どんどんやれ!」って思うわけじゃないですか。これで少しでも、娘を殺した犯人がわかればいいじゃないですか。だけど見ていくと、その地元の警察署長。なんか適当な操作をして杜撰で、なんだろうな……みたいな空気もまとわりついているわけです。一方で、暴力的な警官もいるわけです。結局、これはね、白人が黒人を差別しているみたいなのの延長で、相変わらずそういう差別的で、差別と暴力がセットになっているような警官もいて。もうどう考えても観客はミルドレッド支持なんですよ。

(塩澤未佳子)はい。

(プチ鹿島)地元の警官でこんな杜撰な……ある種田舎の象徴なんです。その閉鎖された社会、閉鎖された警察っていうので。「どんどんやれ!」って思うんですが、どうやらその街ではその警察署長っていうのは、一方で人情派で街の人たちに慕われていたり。街の人々は「あの看板、気持ちはわかるけどやりすぎだよね。警察だって手を抜いているわけじゃないし……」みたいな、そういう空気もあって。「あれっ?」ってなるわけですね。で、まあこれは映画を見ていただければわかるんですが、途中である事件というか出来事が起きて、急に物語は展開していくんですけども。まあ、ミルドレッドが看板を出して警察を追い詰めて捜査を進展させるはずだったのが、逆に孤立していくんです。

(塩澤未佳子)はー!

(プチ鹿島)でも、そうであればあるほど、看板を出したミルドレッドさんは態度を頑なに、硬化させていくんです。これを見てね、なにかに似ているなって思ったんです。貴乃花親方と相撲協会の感じそのままなんですよ。もちろん、全部がピタリ一致じゃないですよ。たとえば、3枚の看板を貴乃花も出したじゃないですか。「日馬富士に殴られた」「相撲協会の対応、まだ?」「どうする? なぜ、八角理事長」っていう。ある意味それを看板じゃなくてスポーツ新聞とかの一面でバーン!って。あれは看板、広告だと思えばいいんですよ。それによって世の中に訴えたわけですよ。

(塩澤未佳子)たしかに。

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貴乃花親方と相撲協会の感じに似ている『スリー・ビルボード』

(プチ鹿島)だってそうでしょう。自分の弟子が殴られて、あれだけひどい暴行を受けたのに、これをまた内々で済まそうとしている。それは許せん!ってことで警察に訴えた。イコール、それは世の中に訴えたわけですよ。「こんな隠蔽体質でいいんですか? こんな杜撰な体質でいいのか?」って。だから世の中はみんな貴乃花に喝采を送ったでしょう? だから本当に似ているなと。

(塩澤未佳子)ああーっ!

(プチ鹿島)でも、この報道も面白くて。一方で貴乃花もどうなんだ?って。最近では貴乃花も暴力を振るっているという話も出て、なにが正義かわからなくなってきているわけ。ねえ。だから絶対に直さなくちゃいけない、許されないことは隠蔽体質であり、暴力事件。貴乃花の暴力というのも、もし本当であれば、その貴乃花の暴力も相撲協会の隠蔽体質に入るわけですよ。

(塩澤未佳子)ああ、そうですね。

(プチ鹿島)これはいま、相撲の話をしちゃっていますけど。そう言っていくと、映画の方は物語が変わっていくんですよ。もう完全に悪役だと思っていた人が、あることをきっかけに少しずつ変わろうとしていく話なんですよ。だから僕、その映画を見てどう思ったか? というと、看板で「ああ、そりゃあこいつが悪いよ」ってワーッ!ってなるんだけど、よく見ていくと当たり前だけど人間にはいろんな面があるし。あることがきっかけで少しずつ変わろうという気概を見せるのであれば、僕はもう相撲協会も貴乃花もどっちが正義でどっちが悪かって、どうしても決めたがっちゃうじゃないですか。前にも言ったように、どっちも高い理想はあるし、どっちも面倒くさい弱点もあるし、突っ込まれどころもあるし。それはグチャグチャになっているのがある意味人間だと思うので。

(塩澤未佳子)はい。

(プチ鹿島)だから僕はこれ、どっちもどっちっていう話じゃなくて、みんな少しずつでも変わっていくしかないんだなって僕は思ったわけですよ。そういう意味でこの映画はすごく人間の多面的なものを見させてくれて。で、似ているでしょう? アメリカのだだっ広い田舎。普段なにもない、牧歌的な田舎。でもそこは閉ざされて、ちょっと独特の暴力的な習慣もあったりして。お相撲もそうじゃないですか。牧歌的な……普段はのんびりしていますよ。だけどそういう部分もあったりして、それがやっぱり看板を立てられて目にした方からすると、「それはおかしいんじゃない?」っていう。で、実際にそれは正しいんですよ。その突っ込みは。

(塩澤未佳子)はい。

(プチ鹿島)だけど見ていくと、じゃあみんなで変わっていくしかないじゃないか、変わっていこうっていう気持ち。だから、貴乃花の変わっていこうっていう気持ちも美しいと思うし、じゃあ相撲協会もなおさら変わっていかなくちゃいけないんじゃない?っていうのも思ったわけです。

(塩澤未佳子)はー! あら、まさかのね、両方がつながってきた。

(プチ鹿島)あくまでも、僕がこの映画を見てそういう風に考えた。だから善と悪で割り切って、どっちが正義でどっちが悪いって言うのは簡単だけど、もっと多面的な方を見て、考えれば考えるほど、これはみんなが少しずつ変わっていくしかないんじゃないか?って。で、そこでもう、絶対にアウトだって言われているのは暴力じゃないですか。だから暴力はダメ。

(塩澤未佳子)そこははっきりとしている。

(プチ鹿島)そこは今回、わかったことでしょう? だからさっき言ったように、じゃあ他で許される、許容されるローカルルールってあったら、そこはやっぱりこっち側の通りすがりの通行人は許容してもいいのかなとも思うし。いろんなことを考えさせられた映画です。

(塩澤未佳子)へー!

(プチ鹿島)あともうひとつ。『デトロイト』っていう映画を見たんですよ。これもね、実は50年前の話なんです。これ、女性初のアメリカのアカデミー賞監督賞を受賞したキャスリン・ビグローさんという方が監督なんですけども。まあ「人種差別の闇、正面から描く」っていう、朝日新聞にインタビューが載っているんですけどね。50年前の、暴動。ミシガン州デトロイトで死者43人。負傷者が1000人を超えた1967年の暴動事件を描いたというんですよ。で、やっぱり人種差別が本当に激しく、厳しくて。もう白人警官たちが黒人青年らに本当に尋問とか暴行とか。拷問ですね。

(塩澤未佳子)うん。

『デトロイト』

Boyega. Mackie. Poulter. Smith. #DETROITmovie is in theaters August 4.

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(プチ鹿島)(黒人たちは)受けているんですよ。で、本当にささいなことから始まるんだけど、結局こういうデカい話になるっていうのは……でも、アメリカはちゃんと恥ずかしい部分をこうやって映画にしたわけですよ。で、なぜいま映画にするか?って言ったら、やっぱりいまもトランプが出てきて、白人警官が黒人を……っていうニュース、あるじゃないですか。それを見て、「昔もいまも変わってないじゃないか」っていう問題提起だと思うんですけど。

(塩澤未佳子)おおーっ。

(プチ鹿島)でも、これをちゃんと、恥ずかしい部分を映画にしているっていうのはやっぱりすごいなとは思うんですよね。だからなんか、日本も恋愛で美しい話もそれはすごく素敵だとは思うんですけども。もうすぐ死んじゃうとかね。だけど、もうちょっとこういう恥ずかしい問題とかにも向き合って、題材にしてもいいのかなとも思いました。これができるだけ、まだアメリカはすごいなと思いましたね。

(塩澤未佳子)そういうところ、いまちょっとないかもね。

(プチ鹿島)うん。と、思いましたね。だからこの朝日新聞の記事にも書いてありますよ。「政治的主題踏み込まぬ邦画」って。別に邦画を作っている人が全部悪いとは言わないし、素敵な映画をたくさん作っているけども、中にはそういう邦画をね、これから作っていってもいいんじゃないかなと。

(塩澤未佳子)ほー!

(プチ鹿島)そう思いました。プチ総論でございました。

<書き起こしおわり>

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