プチ鹿島さんがYBS『キックス』の中で2018年の成人の日の新聞各社の社説を読み比べ。「成人の日が1年でいちばん面白い社説」と考えている鹿島さんがその読みどころを紹介していました。
(プチ鹿島)昨日ね、お休みだったじゃないですか。成人の日。あれ、なんなんですかね? 連休を増やすために成人の日が彷徨っているじゃないですか。ハッピーマンデーって。昔は1月15日というのでね。
(塩澤未佳子)バシッと決まっていましたから。
(プチ鹿島)で、どんど焼きとか青年の主張とかセットで、(お正月から)2週間ぐらいたって。それがよかったんですよ。
(塩澤未佳子)のんびりと。それまでお正月気分で。
(プチ鹿島)早いでしょう? だいたいね、1月の気持ちを考えてみてほしいんですよ。もし自分が1月だったらですよ。人からどう思われているのか? だいたいほら、出オチ扱いされているじゃないですか。ねえ。元日から三が日しかみんな、興味ないでしょう? だからもう、コントで言うなら最初の部分しかみんな、興味ないんですよ。自分のことは。1月キャラで言うと。
(塩澤未佳子)はー!
(プチ鹿島)それが以前だったら15日という真ん中にイベントごとがあったんで、まだそこまで興味は引っ張れたんですけども。もう、なんですか?
(塩澤未佳子)もういまや、15日なんて言ったら……。
(プチ鹿島)よくわかんないですよね。ただまあ、僕は新聞を読むのが大好きなんでね。そんな新聞マニアから言わせていただくと、実はこの成人の日の新聞というのが1年の中でも最もと言っていいぐらい楽しみな日なんですよ。本っ当に楽しみなんです。
(塩澤未佳子)成人の日?
(プチ鹿島)待ってました! と。
(塩澤未佳子)ああ、そんな感じですか?
(プチ鹿島)これはなぜかと申しますと、僕は常々社説をね……社説って難しいじゃないですか。小難しいことを書いて。でも、それを擬人化した方がいいんじゃないかと。で、新聞を擬人化すると僕はおじさんだと思っていますのでね。おじさんだと擬人化して、しかも社説を書くような人って新聞社の中でも偉い人ですから、たぶん師匠的な人なんですよ。ですから、「社説というのは大師匠が毎日世の中に対して小言をおっしゃってくれている」と読むと俄然、「ああ、また師匠はこんな小言をおっしゃっている。ありがとうございます! いただきました!」っていうので社説を楽しむことができるよっていうのを僕は昔から提唱していたんですね。
(塩澤未佳子)ええ。
(プチ鹿島)で、その中でも、成人の日ですよ。毎年、ここ数年なんですが新聞の社説で「成人の日」というタイトルで若者にメッセージを送るんです。これ、おじさんが楽しそうなんですよね。だって、そうじゃないですか。もうおじさんがおじさんであるという理由だけでアドバンテージが発生するわけですよね。
(塩澤未佳子)アハハハハッ!
(プチ鹿島)だって、大人の世界では大先輩でしょう? 新成人に。「まあまあまあ、新成人おめでとう!」みたいな感じで講釈を垂れるんですよ。それがまあ、僕が言った擬人化をすると師匠がここぞとばかりに、お説教というか小言というかありがたいお言葉をウキウキとしてくださる様が大好きなんです。
(塩澤未佳子)はー!
(プチ鹿島)ご紹介しましょうか。これね、僕はいままで本を何冊か書いているんですけども、あまりにもこれが好きすぎてもう2冊の本に……ジャンルは違えど、『教養としてのプロレス』っていう本と、あと去年に出した『芸人式新聞の読み方』の2冊で引用させてもらった傑作社説があるんです。2012年。いまから6年前ですね。朝日新聞の成人の日の社説。これがもう僕は傑作だと思っているんです。タイトルが「尾崎豊を知っているか?」っていう。ほら、来た!
(塩澤未佳子)ほう(笑)。
伝説の2012年朝日新聞社説「尾崎豊を知っているか?」
(プチ鹿島)社説が若者に向けて問いかけている。「えっ、なぜ尾崎?」って思いますよね。ちょっと読んでみましょう。「『ああ、またオヤジの居酒屋若者論か』などと言わずに聞いてほしい。君が生まれた20年前、ロック歌手尾崎豊が死んだ」。もう、ここから出だしなんですよ。もうね。つまり6年前の成人が生まれた年に尾崎豊さんが亡くなった。死んだと。で、いいじゃないですか。「オヤジの居酒屋若者論か』などと言わずに聞いてほしい」と。ねえ。まあそういう風に「オヤジの小言で申し訳ないけども……」って言いながら、だんだん饒舌になってくるんですね。
(塩澤未佳子)フフフ(笑)。
(プチ鹿島)行きますよ。「彼(尾崎豊)が『卒業』『15の夜』といった曲で歌ったのは大人や社会への反発、不信、抵抗。恵まれていないわけじゃないのに、ここではないどこかを探し、ぶつかり、傷つく。その心象が若者の共感を生んだ。尾崎の歌は高校の教科書にも採用されたほどだ」と言って、この後に朝日おじさんはですね、「尾崎豊はどこに行ったのか?」って問いかけるんですよ。
(塩澤未佳子)ほー。
(プチ鹿島)これ、どういう意味か?っていうと、続けますよ。だから、「若者は白けないで、社会に対してもっと怒れ!」って朝日おじさんは言っているわけですよ。ちょっと引用します。「いくら『若者よ、もっと怒れ!』と言っても、『こんな社会にした大人の責任はどうよ?』と問い返されると、オヤジとしてもな……でも、言わせてもらう」。もう完全に独り言になっているわけですよ。もうね。
(塩澤未佳子)アハハハハッ!
(プチ鹿島)「でも、言わせてもらう」。なんと言うのでしょうか? 「私たちは最近の社説でも、『世界の政治は若者が動かし始めた』と説き、『若者よ、当事者意識を持て』と促した。それだけ社会が危うくなっていると思うからだ。だからくどいけど、今日も言う。成人の日っていうのはそんなもんだ。ともあれ、おめでとう」。ねえ。もう完全に、居酒屋で絡まれている感じなんですよ。おじさんにね。
(塩澤未佳子)アハハハハッ!
(プチ鹿島)で、見てくださいよ。「尾崎みたいに社会に対してもっと怒れ!」って言って、「おじさんの言うことだけど……」って言うんですけど、言うだけ言って最後に「おめでとう」っていう(笑)。なんなんだよ、これは?っていう。もうおじさんの力技というか酔っぱらいというか、上から目線の傑作だと思っているわけですよ。
(塩澤未佳子)うん!
(プチ鹿島)これが好きすぎてね、僕はあらゆるところで新聞の……だから社説っていうのはこういうところが面白いでしょう? だからこれを擬人化せずに、おかしみを持って対峙しないと、「なにを偉そうなことを言うんだ。はあ? 尾崎? 偉そうに……」とか。ストレートにガチンコで当たってもしょうがないじゃないですか。ああ、おじさんが尾崎を引っ張り出してきたぞ! 自分はまだ若いぞと言っている。でも若者に「もっと社会と戦え!」って……だからこの数年、SEALDsっていう若者集団が出た時に朝日おじさんはすごくかわいくて仕方なかったような感じが僕は行間からうかがえたんです。
(塩澤未佳子)はい(笑)。
(プチ鹿島)だって社会に抗っているわけですから。白けないでね。で、まあこういう傑作があったので、僕はそれ以降毎年。ここ5、6年、成人の日となると今年はどんなメッセージというかお説教というか小言というか、あるのかな?って楽しみにしているんですね。で、昨日調べてみたところ、やっぱり面白かったのが朝日新聞と産経新聞だったんです。昨日の朝日新聞、読んでみます。「成人の日、希望と不安と焦燥と」。いいじゃないですか。
(塩澤未佳子)うん。
(プチ鹿島)『愛しさとせつなさと心強さと』みたいなね。ちょっと、もう詩に入っているわけですね。「いったい自分は何者なのか?」。始まったよ!
(塩澤未佳子)うわっ、もう?
(プチ鹿島)「いったい自分は何者なのか? 二十歳の頃は誰しも見えない未来に思い悩む」。待ってました!っていうぐらいの成人の日の社説芸が始まります。「いったい自分は何者なのか? 二十歳の頃は誰しも見えない未来に思い悩む」と。で、昨日のこの社説はいろんな著名人の若い頃のエピソードをひいているんです。たとえば漫画家の水木しげるさんですね。二十歳の頃にこんな手記を残していたという。「時代は我が理想を妨害する。どうだっていい。理想を押し通そうじゃないか」って水木しげるさんは言っていた。あと、小説家の朝井リョウさん。
(塩澤未佳子)はい。
(プチ鹿島)その前の日に朝日新聞に「大学生活を送る中で小説家になる夢を忘れかけていた」っていうことを書いていた。だからそれを引用していた。で、3人目の著名人。朝日新聞の社説は誰を引用していると思います?
(塩澤未佳子)ええっ?
(プチ鹿島)水木しげるさん、朝井リョウさん、3人目は……お笑い芸人の山田ルイ53世さん(42才)。
(塩澤未佳子)うわーっ!(笑)。男爵!?
(プチ鹿島)男爵。朝日の社説に登場です。つまり、ほら、男爵はあの面白い本を書いたじゃないですか。引きこもりのね。あれがやっぱり……今回だけじゃなくて、朝日新聞とかにも受験の頃とか男爵は取り上げられて。たぶん朝日的に「こいつ、使えるぞ」っていう(笑)。「こいつの青春時代、いい訓話として使えるぞ!」って気に入られているんです。だから、堂々と。「お笑い芸人の山田ルイ53世さんは二十歳まで引きこもり続けた。中学は進学校で成績も上位。だが中2の夏休み明けに心が折れてしまった」と。つまり、この3人を引用して何を言いたいか?っていうと、朝日おじさんは「それぞれ、そんなに焦るな。希望も持ち、不安も持ち、焦燥もあるけど、マイペースで行こうよ」というようなことを言っているんですが。
(塩澤未佳子)ええ。
(プチ鹿島)この最後の締め方がね、こんなことが書いてあります。だから、こういう風に励ましたんです。「二十歳という通過点での生き方で一生が決まるわけじゃない」と。励ましているんですね。ただね、これで終わればいいのに朝日おじさんは最後、こんなことを書いているんですよ。「自分は自分の道を行けばよい。大人に、ましてや新聞に『かくあるべし』なんてお説教されるのはまっぴらだ! と思うぐらいでちょうどいい」と。どこかね、もう自分が説教をしているというのを打ち消すために先回りして予防線を張っているわけですよ。
(塩澤未佳子)あら!
(プチ鹿島)「『新聞になんて説教をされるのはまっぴらだ!』って言われるぐらいがちょうどいいんだよ」って。じゃあ、いままで書いてきたのはなんなんだ?っていう話なんですよ(笑)。
(塩澤未佳子)アハハハハッ!
(プチ鹿島)だからちょっとズルいんですよ。書き方が。だから正直、僕はこの尾崎豊の社説を2冊の本に書いたり、あらゆるところでネタにさせてもらいました。たぶん師匠の耳に入った、お目々に入ったんじゃないですかね? 逆・山田ルイ53世。
(塩澤未佳子)もうね(笑)。
(プチ鹿島)「こいつは俺のこと、いじってるな!」っていう。だからあんまり説教じみると、また突っ込まれるというので、自分で書いちゃった。「新聞に『かくあるべし』なんてお説教されるのはまっぴらだ! と思うぐらいでちょうどいい」。ここがね、ちょっと朝日の先進的な、説教をしている自分に対しての1人突っ込みというか。くすぐったさを自分で先回りしちゃっている。違うんです! 僕が見たいのはもっと堂々と説教をするおじさんなんです!
(塩澤未佳子)いつも通りでいいの!(笑)。
(プチ鹿島)そんなおじさん、いねえかな?って思ったら、いました。産経新聞。同じ日の社説。主張。「誰かではなく、自分が」。ほら、来たよ! 「大人の仲間入りをした二十歳のみなさん、まずは成人の日、おめでとうとお祝いを申し上げたい」。「まずは」っていう。もうもうもう、説教をする気、満々ですよね! 「まずは」と来ましたよ。産経おじさん、いいですね!
(塩澤未佳子)そうね、そうね(笑)。
説教する気満々の産経新聞
(プチ鹿島)朝日新聞のあの先回りした照れとか、ないですよ。で、要は「大人ってなんだろう?」っていうことを問いかけるわけですね。「そこで忘れないでほしいのは、大人の自覚があるかどうかが重要なんだ」という。だから歳じゃないんだと。18だ、二十歳だとかじゃなくて、大人の自覚があるかどうか。で、この後にとんでもないたとえを出してくるわけですよ。「大人の自覚とは何か? これには様々な見方があろうが、考えるひとつの糸口として『想い出がいっぱい』という歌を紹介したい」という。で、俺はここまでで「はあ?」って。『想い出がいっぱい』ってあれ、1983年……もう35年も前のH2Oの曲なんですけどね。
(塩澤未佳子)はいはい。あんな歌を出して。
(プチ鹿島)「『大人の階段上る』の一節の後、詞は『君はまだシンデレラさ 幸せは誰かがきっと運んでくれると信じているね』と続く」と。で、そこで産経師匠はこう言うんです。「誰かが幸せにしてくれるのを待ち続ける姿勢は『シンデレラ症候群』と呼ばれるが、ここには大人の自覚は見られない」と。フハハハハハッ!
(塩澤未佳子)おおーっ!(笑)。
(プチ鹿島)「自らの人生は自らの力で切り開くと決意することこそ、大人の階段の第一歩なのだ」と。もう35年ぐらい前の曲を引っ張り出してきて、叱っているわけですよ。「大人の自覚がない、ここには!」って(笑)。
(塩澤未佳子)アハハハハッ!
(プチ鹿島)もう、無茶苦茶です。威張り方が。でもね、僕はね、朝日のちょっと先回りした、「俺、説教をしているけど……恥ずかしい。まあ、聞いて」っていうよりは、相変わらず堂々と、「若者よ、聞け!」っていう社説らしい社説を出してくれて。もう最高です、このコンビ! もう朝日と産経のコンビ。
(塩澤未佳子)コンビ(笑)。
(プチ鹿島)これが昨日、たまらなかったんです。だから僕ね、いま文春オンラインっていうところで毎週、新聞の読み比べ記事をさせてもらっているんですけど。やっぱり僕の成人の日というのは担当者が楽しみにしてくれていて。「鹿島さん、今週は成人の日をテーマに書いてください」ってもう、指定が来ましたから。
(塩澤未佳子)オファー(笑)。
(プチ鹿島)本当は締切が月曜日なんですけど、これは昨日じゃないですか。だから昨日の夜に書いたんですよ。ちょっと締切を1日、待ってもらって。そしたらね、僕が寂しかったのは、読売新聞が昨日、成人の日の社説を書いてこなかったんですよ。スルーしちゃって。
(塩澤未佳子)あれっ?
(プチ鹿島)読売新聞も産経と同じような、おじさんおじさんした説教をしてくれるおじさんですよ。だけどそれがなかったから、すごく寂しかった。でも、びっくりした。今日あずさに乗ってこっちに来る時に読売新聞を開いたら、なんと読売新聞、今日の社説に「成人の日 新たな世界の扉を開けえよう」って。1日ズラしてきました!
(塩澤未佳子)どうしたの!?(笑)。
1日遅れの読売新聞
(プチ鹿島)ここがちょっとこう、「自分はしんがりだ。真打ちだ」という自負があるんですかね? 1日ズラしちゃった。
(塩澤未佳子)大トリで。
(プチ鹿島)で、こんなことを書いてらっしゃるんです。読売師匠は。「新成人が生まれたのは1997年だ」と。で、この年は山一證券が自主廃業するなどいろいろあったということで、こんなことを書いてある。「国民の10人に1人はインターネットを利用し始めた頃でもある」と。で、この後にどう論を広げるのか? というと、「ネットはいま、不可欠な社会基盤となった。LINEなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)は若者同士の連絡手段として定着している」という。いつの間にか……つまり「今年の成人が生まれた年がインターネットを国民の10人に1人がやっていた」というところから、なんか今年の成人イコールSNSの代表みたいな感じの論の展開に……なんか危なっかしい展開になっていくわけですよ。
(塩澤未佳子)アハハハハッ!
毎年恒例、成人の日の新聞の社説。新聞おじさんは張り切って新成人にメッセージをおくる。しかしだいたい説教臭くなる。今年は読売新聞が書いてなくて寂しかったが1日遅れの本日登場という変化球。 pic.twitter.com/Zdd42OGl8z
— プチ鹿島 (@pkashima) 2018年1月9日
(プチ鹿島)ネットの代表みたいな感じでね。で、こんなことを言うんです。「たしかにSNSは手軽で便利な道具だ」って。もうちょっとネットをお叱りモードになっているわけですね。「賢く上手に活用すれば新たな世界が広がるだろう」と。だから読売師匠は「まあまあ、ネットをみんながやりだした時期に生まれたみなさんだからあえて申し上げるけど、SNS。賢く上手に活用すれば新たな世界が広がるぞ!」って。そういうご提案をしている。
(塩澤未佳子)はい(笑)。
(プチ鹿島)……みんな知ってる。フフフ(笑)。でもいいんです。これはありがたい師匠の、「いや、お前らが生まれた年。ほら、ネットが流行り出したから。言うぞ、言うぞ? 賢く使え!」って。読売師匠、いただきました。ということで、最高です。だから来年も楽しみなんです。これ。
(塩澤未佳子)もう楽しみになってきた!
(プチ鹿島)これ、普通に読めば、「何をいまさら言ってるんだ?」っていう話になるけども、読売師匠が若者に「そうか、成人になったか。なに? 97年? わかった。山一證券の自主廃業、あったな。あとでも、ネットが流行ったな。じゃあ、聞けよ。ネットは、使い方次第では賢く利用できるぞ!」っていうのを社説で今日、満を持して書いてらっしゃいます!
(塩澤未佳子)ありがたい……(笑)。
(プチ鹿島)来年の成人の日が楽しみです。火曜『キックス』、スタートです。
<書き起こしおわり>