松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でR&Bの定番曲、The Stylistics『Betcha By Golly, Wow』を紹介。様々なカバーバージョンを聞き比べながら解説していました。
(松尾潔)さて、この後はお待ちかね、帰ってきたいまなら間に合うスタンダード。今夜はその第26回。今日のその再始動した……CHEMISTRYじゃないですけども再始動したいまなら間に合うスタンダード。最初にお届けします曲はザ・スタイリスティックスで『Betcha By Golly, Wow』という曲ですね。1971年にリリースされた彼らの伝説的な名作。デビュー作にして最高傑作との誉れ高き『The Stylistics』。こちらに収録されておりました。
いい曲だなあ。。Now Playing:
'Betcha By Golly, Wow' from 'The Stylistics' / The Stylistics pic.twitter.com/5XlAEaGlu6— ナポリノロク (@napoli_6) March 2, 2015
プロデュースを手掛けるのは名手トム・ベルでございます。作詞はリンダ・クリード。アルバムから4枚目のシングルとしてカットされて世界的なヒットになったということは有名なお話かもしれません。日本でもいろんな人たちがカバーしておりますね。我らがゴスペラーズがこの曲をメジャーデビューアルバムでカバーして、その気概のほどを示したという。
そういう時に出てくる曲ですよ。『Betcha By Golly, Wow』はね。もったいぶりましたけども、じゃあそのスタイルスティックスのバージョンを聞いていただきましょう。1971年の歌声です。ザ・スタイリスティックス『Betcha By Golly, Wow』。
The Stylistics『Betcha By Golly, Wow』
お届けしましたのは1971年のザ・スタイリスティックスの『Betcha By Golly, Wow』でした。そしていま、バックに流れておりますのはプリンスの『Betcha By Golly, Wow』。1996年、オリジナルのスタイリスティックスが出てから25年。四半世紀後のカバーでございます。
この時、プリンスは『Emancipation』というアルバムをリリースいたしまして。そのタイミングで日本にやってまいりまして。ライブではなくて記者会見というのを珍しく開いたことがあって。僕もその時、会場にいたんですけどね。その時にこの曲をなぜカバーしたか?っていうのを自分で語ってましたよ。「地球上で最も美しいメロディーだ」という風にプリンスは言っておりました。「ああ、プリンスもこういう美しさをそのように表現するだけの普遍的な感性っていうのを持ち合わせているんだな」というのを本当に目の当たりにしました。まあ、本人の声で聞いたわけですからね。
ともすれば「風変わりな天才」というようなイメージで語られるプリンスなんですけども、彼の音楽を聞いてますと、その中に嵐の中の動かぬ一点というか、絶対的な普遍みたいなものが時おりに含まれてることにハッとさせられますがね。これ、自らその自分のルーツを定点観測のような形で、しかも大げさな装飾を加えることなく、誇張もせずに自分の音楽観を形成したものを素直にカバーしたという、そういう実例かと思いますね。
で、「この地球上で最も美しいメロディー」という風にプリンスが言うぐらいの曲。この美しさを認めてる人っていうのは他にも沢山いましては。これは数多のカバーが生まれております。で、僕に言わせるとトム・ベルと同レベルのソウルミュージック史上の天才、レジェンドっていうスモーキー・ロビンソン。スモーキー・ロビンソンがミラクルズ時代にこの『Betcha By Golly, Wow』をカバーしてるわけですからね。あれだけの曲を書くスモーキーがね、思わず歌いたくなったメロディーとも言えますよね。
本当にあのスタイリスティックスと同時期にこれを歌ってますからね。で、スタイリスティックスはカバー、カバーっていう風に言ってまいりましたけれども。実はこの曲、最初に世に出たのはこのスタイリスティックスよりもやや前でございまして。コニー・スティーブンスというちょっとアイドル的な人気もあった、『ハワイアン・アイ』っていうアメリカの有名なテレビシリーズがありましたけども。あれに出ていた女優さんとしても知られますが。
彼女が『Keep Growing Strong』というタイトルでまず歌ったのが先駆けですね。スタイリスティックスのデビューアルバムは71年に出たんですが、この『Betcha By Golly, Wow』はアルバムのサードシングルかな? で、72年。年が明けてシングルヒットしたんですが。それよりさらに2年前。つまりスタイリスティックスのアルバムが出た71年の前年にリリースされたのがコニー・スティーブンスの『Keep Growing Strong』というタイトルの曲でございます。
そのオリジナルでもプロデュースを手掛けていたのがトム・ベルでした。ただしトム・ベルはいまほどの名声は当時なかったんですね。で、コニー・スティーブンスの数あるヒット曲の中でもこれは特にベル・レコードっていうところからちょっと変則的に出たっていうのもあって。あまり彼女のディスコグラフィーの中で語られることもないのですが、後にスタイリスティックスがタイトルを変えて世界的ヒットにしたことで改めてコニー・スティーブンスがその前に歌っていたんだという風に注目をされるようになったという経緯がございます。
で、まあこの曲、メロディーの美しさ、そしてトム・ベルならではの流麗なストリングス。まあ「ストリングス、ストリングス」ってね、「フィリー・ソウル、ストリングス」なんてよく言いますけども。トム・ベルのサウンドはまた、フィリーの中でもトム・ベル印ですよ。さっきの同じフィリーの話でミュージック・ソウルチャイルドがね、フィリーからのネオソウルの流れの中でいろんな人が出てきたけども、場所もそうなんだけども本人が発するところが大きかったっていう話をしましたよね? トム・ベルもね、そのフィリーのムーブメントの中から注目をされるようになった人ではあるが、やっぱり本人のね、その才覚というかセンスっていうのはね、唯一無二ですね。
さて、この曲はカバーがたくさんあるのですが、今日はノーマン・コナーズのカバーをお聞きいただきたいですね。ノーマン・コナーズについて語りだすと僕も長いですけども。今日はちょっと短くしておきますが。クインシーがやろうとしたことをクインシーに先駆けて、あらかたやったという。まあジャズから、ソウルの歌物の世界へのクロスオーバーというのをやった、元はドラマーでプロデューサーという人でして。まあ、クインシーとかエムトゥーメイとかがやろうとしたことをできた人なんですけども。この人、ロマンティックな世界観を持っていまして。いろんな名義でアルバムを出したりしています。『Aquarian Dream』なんていうのはレコードマニアの間ではよく知られていますが。ノーマン・コナーズ本人名義の76年の『You Are My Starship』という、表題曲でも大変によく知られるヒットアルバムがあるんですが。そこでフィリス・ハイマンをゲストボーカルに迎え入れて。当時、ノーマンのお気に入りでございましたフィリス・ハイマンがリードを取ったこちらをお聞きください。『Betcha By Golly, Wow』。ノーマン・コナーズ with フィリス・ハイマン。
Norman Connors & Phyllis Hyman『Betcha By Golly, Wow』
お届けしましたのはノーマン・コナーズのバージョンでリードボーカルにフィリス・ハイマンを迎えてカバーしております『Betcha By Golly, Wow』でした。今夜は2年半ぶりに戻ってまいりました、いまなら間に合うスタンダード。その第26回『Betcha By Golly, Wow』をお届けしております。『Betcha By Golly, Wow』、これはどういう意味なんでしょうね? はい。解説いたします。「Betcha」っていうのは口語でよく使いますけども。「I bet you」っていう。まあ会話の中で「……だと思うよ」みたいな、そういうことですね。
で、「By golly」の「golly」っていうのは「By God」っていうのをちょっと大げさに。というか、もっと古めかしい言い方で言った表現ですね。まあ口語表現ですね。「いやはや」とか「はははは」みたいな、ちょっと日本語でもこういう風にちょっと古めかしい言い方でそkに諧謔味を加える時っていうのがありますけどもね。で、この「Wow」っていうのは文字通り「ワオッ!」っていうことですから。ますだおかださんじゃないですけども(笑)。なので「I bet you by god」っていう意味ですね。「神に誓って言うよ」とかっていうことですよ。うん。
で、このサビの部分で「Betcha by golly, wow You’re the one that I’ve been waiting for forever」って言っていますね。「神に誓って言うよ。いやいや、言わせていただきますよ。君こそがただ1人、僕にとってのオンリーワン。僕がずっと待ち続けていた人。そう、永遠にね」という。で、「And ever will my love for you Keep growing strong」という風に、ここで元のコニー・スティーブンスの時の原題が出てきますね。「僕のこの君への愛というのはどんどんと強く、どんどんと大きくなっていくんだよ」っていうね、もう本当にロマンティックな歌詞ですよね。
「Candyland appears each time you smile」って、「君が笑うたびにお砂糖でできた国が現れる」みたいなね。もうアイドルでもいまやこういう、ここまでロマンティックな歌詞は歌わないんじゃないか?っていうぐらいね。ロマンスがすぎる!っていう感じなんですけども。これが、このメロディーとアレンジと一緒だと、なんか素直に聞けちゃうんですよね。ええ。もうそれがトム・ベルマジックかと思います。はい。今日は『Betcha By Golly, Wow』。いまなら間に合うスタンダードをお届けいたしました。
(中略)
さて、楽しい時間ほど早く過ぎてしまうもの。今週もそろそろお別れの時が迫ってきました。ということで今週のザ・ナイトキャップ(寝酒ソング)ですが、先ほどからいまなら間に合うスタンダードでお届けしてまいりました『Betcha By Golly, Wow』。今夜はこちらを引用して全く新しい自分の歌世界を作り上げたマライア・キャリーの『Stay The Night』。こちらをご紹介したいと思います。
これは僕も大好きなジャズピアニスト、ジ・イン・クラウドなんかで有名なラムゼイ・ルイスの73年の『Betcha By Golly, Wow』。ラムゼイ・ルイスバージョンを非常に大胆に引用しております。仕掛け人はカニエ・ウェスト。つまり、ラムゼイ・ルイスっていうとまあシカゴのジャズシーンの重鎮なんですが。そのシカゴの後輩のカニエ・ウェストがこの曲に砂金をふりかけたって感じですかね。
マライア・キャリー『Stay The Night』。こちらを聞きながらのお別れです。これからお休みになるあなた、どうかメロウな夢を見てくださいね。まだまだお仕事が続くという方、この番組が応援しているのはあなたです。次回は来週9月9日(月)、夜11時にお会いしましょう。お相手は僕、松尾潔でした。それではおやすみなさい。
Mariah Carey『Stay The Night』
<書き起こしおわり>