松尾潔 山下達郎の国内外アーティストへの影響を語る

竹内まりや 山下達郎の自宅レコード棚を語る NHK FM

松尾潔さんが2022年6月25日放送のNHK-FM『今日は一日”山下達郎”三昧2022』の中で山下達郎さんが国内外のアーティストたちに与えた影響について紹介していました。

(杉浦友紀)はい。この時間は音楽プロデューサー、松尾潔さんとお届けしていますけれども。達郎さんの音楽がこれまでどんな風に音楽シーンに影響を与えてきたのかを松尾さんにお話していただきたいと思います。題して「達郎 Influence」です。

(松尾潔)素敵な音楽が流れてまいりましたけど。甘やかな雰囲気にスタジオが包まれてきましたが(笑)。

(杉浦友紀)ちょっとメロウになってきました(笑)。

(松尾潔)そうですね。達郎さんの音楽……もちろん達郎さんご自身がこれ、僕によくお話されることなんですけど。「松尾くんね、音楽っていうのは歌う音楽、やる音楽だけじゃないんだよ。もちろん作る音楽もあるけど、読む音楽、聞く音楽、語る音楽……いろんな音楽っていうものがあって。それが僕らが一言で『音楽』、音の楽しみって言ってるものなんだ」ってことをおっしゃってて。それを最初に達郎さんがお話になった時、僕は今は「音楽プロデューサー」っていうのを職業名にしてますけど。その当時の生業は僕はプロデュースじゃなくて、音楽ライターだったんで。

で、だから自分はミュージシャンにも影響を受けてきたけど、世界中の評論家だとか、ラジオDJなんかにも影響を受けてきて。その僕が音楽を作っているんだと。だからそこに貴賎はないんだっていう話をよくなさってたんですけど。もとい、達郎さんはいろんな音楽体験に影響を受けてらっしゃるんだけども、達郎さんの音楽がまた、いろんな人たちにInfluenceを結果として植え付けていくっていうのもある種、必然なのかなっていう風に今になってよく思いますね。

(杉浦友紀)これ、国内はもちろん影響を受けているアーティスト、多いと思うんですけども。実は海外も、いるんですよね?

(松尾潔)そうなんですよね。このことは以前からマニアの間ではたとえば「○○のハワイの人たちが達郎さんのカバーをやってるよ」とか「アメリカの○○のヒップホップアーティストが達郎さんをネタ使いしてるよ」っていうのはマニアの間ではささやかれてきたけど。それがやっぱり……そうだな。大きな理由としてはやっぱりネットとSNSの普及がその世界中の潜在的なというか、それまで息を潜めていた達郎さんファンの存在を顕在化したというか。浮き彫りになってきた。そんな印象が特にこの数年、強いですね。

(杉浦友紀)しかも松尾さん、よくそれをチェックしていて。

(松尾潔)僕、ヒップホップ警察なんで(笑)。

(杉浦友紀)ヒップホップ警察(笑)。ウィーン!って?(笑)。

(松尾潔)まあ、世界中にもちろん警察の仲間もいますから(笑)。「警察」っていう言葉はよくないな(笑)。

(杉浦友紀)「探偵」ぐらいにしておきますか?

(松尾潔)「ヒップホップアンダーカバー」とでも言わせていただきましょうか(笑)。なので、「こういう音楽あるけどこれ、達郎ネタじゃない?」とか。そういうのは情報共有をする……そうですね。もう長らくそういう友達がたくさんいますけど。

(杉浦友紀)しかもそれを達郎さん本人にもお話をなさるっていう?

(松尾潔)そうです。割と僕、口の軽い探偵ですので(笑)。

(杉浦友紀)見つけたらすぐ情報を?

(松尾潔)はい。ご本人に。それはね、僕はね、達郎さんがそういうことでなんか感情的に反応されたりだとかっていうよりもまず、音楽ファンでいらっしゃるっていうことを知ってるから。その反応を見てみたいっていうね、ちょっとその気持ちがあって。もちろんさっき、ヒップホップっていう言葉を使いましたけど。ヒップホップの世界って正規のもの、非正規のもの含めて、線引きしないことがひとつの楽しみ方になってるような、そういうジャンルでもあるので。だからあんまり目くじらを立てずに楽しまなきゃ野暮とされるっていうとこもあるんだけど。「それにしてもこれは技ありだな」とか、そういうのは達郎さんにお伝えしてきたり……それを俗に「チクってきた」って言うんですけども(笑)。チクってきましたね(笑)。

(杉浦友紀)なんか忍者のように、忍びの者として(笑)。

(松尾潔)はい、忍びです(笑)。

(杉浦友紀)その中から、いくつか今日はピックアップしていただいたんですが。

(松尾潔)そうですね。今日、ご紹介するものはもちろん正規のものばかりです(笑)。

(杉浦友紀)許可が取れてます(笑)。

(松尾潔)まずはヒップホップ、ヒップホップって言ってももちろん日本のヒップホップもあるわけで。一番有名なところですとKICK THE CAN CREWが『クリスマス・イブ Rap』っていう、これは公認のラップソングとして、いわゆるお茶の間的なヒットになった曲なんですが。今日、ご紹介したいのは日本を代表するDJであるだけじゃなく、山下達郎さんご本人とも交友があるMUROさんというDJの方。MUROさんがかつて、R&BシンガーのBOOさんっていう方と一緒にこういう曲を作っております。まあ、ご存知の方も多いかと思うんですが、改めてご紹介したいなと思います。『SMILE IN YOUR FACE』という曲なんですけど。杉浦さん、ご存知でした?

(杉浦友紀)いや、知らなかったです。これですね。

BOO feat MURO『SMILE IN YOUR FACE』

(杉浦友紀)このイントロは!(笑)。もちろん……。

(松尾潔)「あっ、来た!」っていう感じなんですけども。

(杉浦友紀)『SPARKLE』ですね。

(松尾潔)このラップをしているのがMUROさんですね。それで、このビートの方は後付けで、元々のパーツのものに合わせ技で1曲にしているわけなんですけども。主にMUROさんはこのビート作りというところでこの曲の中でご活躍されているように思います。で、新しい歌メロっていうのをやってまして。だから歌う部分が始まって「ああ、『SPARKLE』じゃないんだ」ってそこで初めてお気づきになる方もいらっしゃるかもしれないんだけど。これ、松本良喜っていう有名なところですと中島美嘉ちゃんの『雪の華』なんかを作曲してる方。松本良喜くんっていう僕の音楽仲間でもありますけど。彼が歌メロを作って。それで『SMILE IN YOUR FACE』という1曲に仕立て直したというか、リサイクルしたというか。そういう曲ですね。

(杉浦友紀)MUROさん自身はめちゃくちゃ達郎さんのファンなんだそうですね。

(松尾潔)そうですね。しかも彼、伝道師のように山下達郎っていう人の魅力を国内外にアピールしてますよね。MUROさんの作るミックステープという、いろんなヒップホップだとか歌物とかを集めたテープ。今はもちろんミックスCDとか、いろんな言い方しますけども。その中によく達郎さんを彼は好んで使っていて。で、ヒップホップの世界ではMUROくんの作ったミックスCDっていうのは、もう本当ワールドワイドに愛されてるんで。そこを入り口にして、山下達郎を知ったアメリカのヒップホッププロデューサーはたくさんいるんですよね。

(杉浦友紀)ああー、なるほど!

(松尾潔)中でも一番有名なのはジャスト・ブレイズっていう人なんですけれども。この人の話はまた後でするとして、ヒップホップシーンでまず、いわゆるネタ使いということで、愛されてきてる山下達郎さんというところをお話しましたけども。そのMUROさんが、さっきもお話したミックスCDですとか、あるいはクラブでDJプレイする時に好んでかけていた曲っていうのがいくつかあって。ちょっと変り種をひとつ、ご紹介したいと思います。

(松尾潔)「また達郎さんじゃん?」って思われるかもしれないんですけれども。

(杉浦友紀)(イントロを聞いて)また『SPARKLE』が……。

(松尾潔)「やっぱり『SPARKLE』だ!」っていう感じなんですが。ちょっとボーカルを聞いてみてください。

(杉浦友紀)でも、完全に『SPARKLE』ですよね? (ボーカルを聞いて)おおーっ!

(松尾潔)はい。英語カバーなんですよね。これ、ハワイに住んでいる日系のミュージシャンたちによる、グリーンウッドっていうバンドのカバーなんですけどね。レコーディングされたのはずいぶん前なんですが。MUROさんがクラブよく好んでかけたり、彼がコンパイルしたアルバムに入ったりすることで広く知られることになったという経緯がありますね。

(杉浦友紀)これ、達郎さんの『SPARKLE』をグリーンウッドというバンドがカバーして、それをMUROさんがDJプレイで……。

(松尾潔)そういうことです。

(杉浦友紀)すごい(笑)。インフリューエンス、インフリューエンス、インフリューエンスみたいな(笑)。わー! そうやって広がっていくんですね。

(松尾潔)だからMUROさんがBOOさんの『SMILE IN YOUR FACE』をリメイクする時っていうのはもう、MUROさんの中ではもう脳内シミュレーションは十分済まされてたっていう。そんな仕上がっていた状態であの曲ができていたんじゃないかなっていう風に察することができますが。

(杉浦友紀)さらに、まだまだ曲を増やしていただけるんですよね?

(松尾潔)そうですね。グリーンウッドのこの『SPARKLE』っていうのは達郎さんの曲を英語でカバーして。「そんなのまだ甘いよ。俺、もっと達郎の……なんなら達郎さんの歌うその歌詞の世界観も、全部そのまんま再現したいんだ」っていう海外の方もいるわけです。

(杉浦友紀)流れてきましたね。

Tahiti 80『DOWN TOWN』

(松尾潔)これ、タヒチ80っていう日本でも大変人気がある方々の……。

(杉浦友紀)『Heartbeat』とか。

(松尾潔)そうですね。そういうヒットもございますけども。これ、日本語で歌っているんですよ。タヒチ80って知らなかったら、「フレンチっぽくアンニュイに歌ってるね」ぐらいの日本語発音ができてますよね?

(杉浦友紀)たしかに! 

(松尾潔)「フレンチっぽい」じゃなくて本当にフランスの、しかも有名なタヒチ80がやっているんですよね。

(杉浦友紀)なんか私これ、ちょっと調べたんですけど。あれなんですよね。タヒチ80が来日した時に、なんかお気に入りの日本のロックバーに行った時にこの『DOWN TOWN』が流れていて虜になったっていう。

(松尾潔)ああ、いい出会いですよね。なんかね、そういう出会いっていうのは達郎さんの場合、たくさんあって。今をときめくブルーノ・マーズ。シルクソニックでの活動なんかでも……

(杉浦友紀)はい。大好きです。

(松尾潔)もう世界的な成功をおさめてますけども。彼のお父さんってハワイでホテルのディナーショーなんかで演奏するようなバンドマンだったんですけども。その活動の一環として、80年代にたとえば大阪にやってきて。大阪のホテルで1ヶ月、定期演奏をやるみたいなことをやっていたらしくて。その時に日本でたまたま手にした『ON THE STREET CORNER』のミュージックカセットを「こんなの、あるんだ」ってことで。それをハワイに持ち帰ってずっと家で聞いていて。それを子守唄代わりに聞いて育ったのがブルーノ・マーズだったていう、嘘のような本当の話がありますね。

(杉浦友紀)ええーっ! じゃあ、ブルーノ・マーズのあの美声とかグルーヴは……?

(松尾潔)和声の付け方とかは達郎さんの影響がストレートにあるってことですよね。

(杉浦友紀)おおー! そこにも達郎インフリューエンスが!

(松尾潔)ここから先は噂話として聞いたことなんで。僕、独り言として言いますよ? 独り言です。達郎さん、どうおっしゃるかわからないので。で、ブルーノ・マーズはそういう経緯もあって日本に来た時に「Tatsuro Yamashitaに会いたい!」って言ったんだけども、達郎さんは「フンッ!」って……(笑)。

(杉浦友紀)アハハハハハハハハッ! まあ、「らしい」と言えばらしいのかな?

(松尾潔)本当かな?っていう。それで実現しなかったという噂話を聞いたことがあります。

(杉浦友紀)ぜひ会ってほしいなと思っちゃいますけども(笑)。

(松尾潔)どこかでね、コラボレーションしてほしいですよね。

(杉浦友紀)そしてもう1曲。これは私も知ってます。タイラー・ザ・クリエイター。

(松尾潔)これはもう本当に今のヒップホップシーンの大立者っていうか、代表するアーティストですよね。でもご存知ない方のために一応、申し上げますとグラミー賞でも最終ラップアルバムを1度ならず、2度も受賞してるような人なんですが。彼が2019年に発表した『Igor』っていうヒット作というか、全米1位のアルバムがあるんですが。その中で達郎さんの楽曲を聞くことができるんですね。達郎さんの『COZY』っていう90年代の終わりに出たアルバムがあるんですけども。その中の『Fragile』という曲ですね。ちょっとまずは、このオリジナルの『Fragile』を思い出していただくという意味も込めて、聞いていただきましょうか? 「この曲か!」っていうね。もちろん、ご存知の方にはもう釈迦に説法もいいところなんですが。「Thank you for your love♪」っていうあの掴みで知られる曲なんですけど。

(杉浦友紀)これもかっこいいですね!

(松尾潔)この曲がハートをわしづかみにしたのは日本のリスナーだけじゃなかったということなんですよね。では早速、タイラー・ザ・クリエイターの方を。

(杉浦友紀)このフレーズがどう使われたのか?

Tyler, The Creator『GONE, GONE / THANK YOU』

(松尾潔)山下達郎『Fragile』の一風変わったカバーをみんなで静かに聞く時間になってますね(笑)。

(杉浦友紀)アハハハハハハハハッ! これ、だからサンプリングっていうことではないんですね?

(松尾潔)歌い直してますよね。歌い直してさらにピッチを調節したりしてるんでしょうけども。

(杉浦友紀)さらにメロウな『Fragile』になっていますね。

(松尾潔)そうですね。これ、タイトルが『GONE, GONE / THANK YOU』っていうんですけども。もちろん、この「THANK YOU」っていうのは達郎さんの『Fragile』の冒頭の歌詞を引用したことで、まず間違いないでしょう。これ、だからサンプリングもしつつ、本人もたまらず歌ったみたいな感じなのかな?

(杉浦友紀)「いやー、これは歌っちゃいたい!」みたいな衝動があったのかしら?

(松尾潔)こういうのってね、僕は子供の頃から父親がジャズ好きだったってのもあって。洋楽に親しんできたんですね。杉浦さんと一緒です。で、もう10代の頃にはもういっぱしの……「僕はブラックミュージックしか聞かないね」ぐらいの感じになってたんですけど。でも「山下達郎は除く」みたいな。「達郎さんはだってあれ、洋楽じゃん?」みたいな、なんか……まあちょっと古い聞き方かもしれないんですけども。そういった人たち、今日番組をお聞きになってる方ではたくさんいらっしゃると思うんですよ。基本的には洋楽ばっかり聞いてるけど、山下達郎の新譜はチェックしてますみたいな人、たくさんいらっしゃるけども。

そういった人たちが「ああ、自分の聞き方って、あながち間違ってなかったのかな?」みたいな。なんて言うんでしょうね? なんか太字でなぞってくれるような感覚がありますね。だから僕なんかからすると、このタイラー・ザ・クリエイターはもちろん気鋭のヒップホップアーティストとしてこの10年ぐらい、注目して見てますけども。彼が不意に達郎さんネタをやったりすると、なんかずいぶん長い時間をかけて自分が巡ってきた音楽の旅を回収してるような。伏線張ったつもりもないんですよ。ないんだけども、「うわっ、今、大きな回収が行われてる。しかも全米ナンバーワンになっちゃった!」みたいな。

(杉浦友紀)そうですね。

(松尾潔)これ、たとえばね、YMOなんかを聞いてる方も、ジェニファー・ロペスがYMOをサンプリングしてるとか、そういう時に得た感覚だと思うんです。ただ山下達郎さんって僕らは70年代……僕は聞き始めたのは80年代ですけれども。この洋楽のような達郎さんのサウンドを聞いて、いわゆるその達郎さんの音楽の、古い言い方で言いますと、本場とされるアメリカとかイギリスの方はどのように感じらられるのか?っていうのは絶えず疑問としてあったと思うんですよね。それが今、いろんな答えがずいぶん遅れて帰ってきてる感じですけどね。

(杉浦友紀)しかも世代的にもちょっと若い世代だったりとか。

(松尾潔)そうなんですよね。これはやっぱりね、ネットで音源もたくさん流通するようになっただろうし。あとネットでそのリアクションを我々がまた確認しやすくなったっていうこともありますよね。

(杉浦友紀)でもね、サブスクリプションには達郎さんの音楽は配信されてませんし。

(松尾潔)その不思議ですよ(笑)。

(杉浦友紀)どこで非公式な……それこそ、あれなのかもしれないですよね。そのDJ MUROさんのようにDJが各地でレコードをプレイすることで知ったりとか。

(松尾潔)あと、もうちょっとロマンチックな言い方すると、やっぱり優れた音楽っていうのはそれがたんぽぽの綿毛が風に乗って運ばれるように、どこかに不時着のような形であっても、そこで芽吹いて、心あるリスナーの耳に届くんじゃないかなっていう気がしますね。

(杉浦友紀)ロマンチック!

(松尾潔)僕、2002年のサッカーワールドカップを韓国と日本とでやった時に、日本側のプロデューサーとして公式ソングをやって。その時は韓国でまだ日本語の曲がまだ解禁されてなかったんで。どれぐらい僕らがやってる仕事をご存知かなと思ったんですけど、どっこいアンダーグラウンドではもうJ-POPマニアと言えるような方々がたくさんいらして。「音楽ってたくましいものだな!」と思ったんですが。

(杉浦友紀)各地で根を張っているんですね。

(松尾潔)そういった事象のひとつだと思います。だって達郎さんがたくさん所有されてるようなドーナツ盤とかも、アメリカのそのオリジナルのアーティストとかがが聞いたら「なんでお前、持ってるんだ?」っていうのをたくさん達郎さんはお持ちなわけで。

(杉浦友紀)たしかに! その逆で。

(松尾潔)そういうのもね、非常に有機的なやりとりが時間をかけて達成されたってことじゃないかと思いますね。

(杉浦友紀)そういう意味では、この曲もそうなんですね。

(松尾潔)そうですね。ヒップホップ軸で語ると達郎さんの曲はこの曲に尽きるのかなという風に僕は思います。最近、スヌープ・ドッグという大物ラッパーが出したアルバムに『After the Party』っていう曲が収録されているんですが。その『After the Party』という曲に引用されていたのが達郎さんの『DANCER』でございます。ちょっと『DANCER』、聞いてみましょうか。

(杉浦友紀)はい。『DANCER』ですけども。この『DANCER』をスヌープ・ドッグが?

(松尾潔)そう。スヌープ・ドッグの『Metaverse: The NFT Drop, Vol. 1』っていう今年に入って出たアルバムがあるんですけども。その中の『After the Party』っていう曲で、かなりの部分を引用してるんですね。で、この『After the Party』って曲、最近のアルバム出てたんですけど、実はこれもう10年前に別のタイトルで。『1st We Blaze It Up』っていうタイトルで出てまして。それが今、バックで流れているものですね。

Snoop Dogg『1st We Blaze It Up』

(松尾潔)わかりますか? 僕ね、これを達郎さんにチクったんですよ(笑)。

(杉浦友紀)フフフ(笑)。

(松尾潔)そしたら達郎さんはやっぱり昔に比べるとずいぶんと細かく使って。一聴してすぐには気づかないぐらいの感じで使ってるんだなというところに感心されていらっしゃったんですけど。とはいえ、達郎さんファンならわかりますよね。これはね。

(杉浦友紀)さっき『DANCER』を聞いたからわかるっていう感じかも。

(松尾潔)最初に種明かしをしたような感じもありますけど。で、この2022年に今、出し直しましたけども。スヌープドッグは2012年にまず出したんですね。で、それに先駆けて2005年に『Can’t Get Out The Game』っていうタイトルでニコール・レイっていう女性シンガーがこの『DANCER』ネタで。これ、結構まんま使ったような形で。ただ、それは非正規で出たんですけどね。

(杉浦友紀)なので今回はちょっと大人の事情で流せないということですが(笑)。

(松尾潔)まあ、おそらくはそこからまたさらに派生したのがスヌープの曲ってことになるかと思うんですけど。ニコール・レイの『Can’t Get Out The Game』っていうのはプロデュースをジャスト・ブレイズっていう人が手がけていて。これ、さっきお話しましたけど、MUROさんのお友達なんですよね。だから世界中のレコード好き、ネタを掘りまくる人たちのことを「ディガー」って言ったりしますけども。そのディガーの間では、もう割と達郎さんの70年代の『SPACY』とかあのあたりは、もう定番のお皿になってますよね。

(杉浦友紀)でもそういう意味では、やっぱり70年代、80年代をディグしていって、自分たちの曲に引用していくっていうのはなんとなく感覚的にわかるんですけども。さっきのタイラー・ザ・クリエイターは90年代後半……結構2000年代に近い曲でしたよね。だからまた、新しい風だなっていう風に思って。

(松尾潔)あれはだからもう子請け、孫請けみたいなニュアンスを感じますよね。あと、そもそも70年代のネタを掘ったというんじゃなくて。達郎さんとしては比較的新しい、CD時代になってからの曲なんで。まあ別ルートで彼は耳にしたのかもしれませんね。今、ヒップホップ軸でずっと語ってますけど、達郎さんネタをリクリエイトしていくってことで言うと、ヒップホップじゃなくてヴェイパーウェイヴっていう世界的なムーブメントの中でもたくさんの人たち。これはもう、本当にアメリカのヒップホップシーンとは全く違った文脈になるんですけど。まあ本当に数多……もうちょっと僕の警察機能も働かないぐらい(笑)。

(杉浦友紀)パトロールが行き届かないぐらいの(笑)。

(松尾潔)だから、ネットでいろんな音源を流しっぱなしとかにしてると「あれ? さっき、達郎さんのネタが流れていたよな?」みたいな。僕もだんだん麻痺して、ちょっとアンダーカバーを怠っています(笑)。

(杉浦友紀)また海外の音楽の中と、本当に違和感なくその延長で聞けるっていうすごさっていうか。まあ、どっちがすごいとかじゃなくて。そのあんまり差がないっていうのがすごいなって思いますし。それはやっぱり達郎さん自身も最新の海外の音楽、世界中の音楽を聞いているからっていうのもあるんでしょうね。

(松尾潔)相互作用っていうのはありますよね。だからさっき、ブルーノ・マーズの話をしましたけども。僕、さっきの言い方はもしかしたら誤解を招くかもしれませんけど。「ブルーノ・マーズが達郎さんに影響受けてるらしい。達郎さんとの面会を所望している」みたいなのも達郎さんが「えっ?」ってリアクションを返されるのも「本当?」っていうことであって。達郎さん、それは喜ばしいと思ってらっしゃいますよ。実際、達郎さんご自身が少年時代の初恋とも言えるような音楽との出会いっていうのを後に、ご自身もカバーされたりしてきたわけですよね。そういったことがまあ、より若いジェネレーションで、今度は達郎さんを起点とする新たなナラティヴが創造されているっていうことですよね。

(杉浦友紀)もしかしたら何年か後ぐらいにはコラボがあったりなんかして?(笑)。妄想しちゃう!

(松尾潔)それは楽しみですね。なんかね、まりやさんもシルクソニックとかブルーノ・マーズのことをお好きだっていう風に聞いてますからね。これはもしかして……みたいなこともちょっと、ファンとしては期待しちゃいますけどね。

<書き起こしおわり>

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