宇垣美里と宇多丸『ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語』を語る

宇垣美里と宇多丸『ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語』を語る アフター6ジャンクション

宇垣美里さんが2020年6月30日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で映画『ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語』について宇多丸さんと話していました。

(宇垣美里)最近……ああ、『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』を見に行きました。

(宇多丸)『ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語』を。先週ね、ちょうど僕がムービーウォッチメンをやったっていうのもあったんですけども。元々日比さんがいち早く見てて、もう大喜びしてて。で、見たら素晴らしくて。「宇垣さんも絶対にお好きですよ」っつってね。

(宇垣美里)いやー、よかった。まず久しぶりの映画館。たまらん! やっぱりあの映画館の匂いがあるじゃないですか。空気というか。「はー!」ってなって。あの四方八方から音が聞こえてくる感じもたまらないって思ったんですけども。

(宇多丸)周りのリアクションもありますもんね。

(宇垣美里)何と言っても『若草物語』、ジョーは私!

(宇多丸)ああ、やっぱりジョーですか? 思い入れは。

(宇垣美里)はい。「ジョー is 私」と思いながら見ておりましたので。

(宇多丸)元の小説も読まれていたんですか?

(宇垣美里)小さい頃に読んでいたので、なんでしょう? 小学生時代を一緒に過ごしたみたいな気持ちなんですよね。

(宇多丸)そうね。その時の視点だとそういうことかもね。特にあの最初の1巻目は割と楽しい子供時代っていうところの話だからね。

(宇垣美里)それとなんかこう、行ったり来たりする感じもすごく楽しかったですし。私はあと、姉だということもあって、エイミーがあんまり好きじゃなかったんです。今まで。

(宇多丸)元の小説とか、そういうのだとちょっとエイミーという末っ子というか、四女はちょっと悪役とは言わないけども……。

(宇垣美里)「いいよなー、末っ子は」みたいな。

(宇多丸)フローレンス・ピューが今回、演じていてね。

(宇垣美里)「末っ子はいいよな」みたいな気持ちがあったんですけど。今回、改めてこういう描き方をされると、彼女は彼女で自分の役割をどこかで知ってしまって。「ああ、こうしなきゃいけないんだ」って思う部分もあったし。ある意味一番、つらい……本当、「あ、自分って才能がない」って気付くのって、どれだけつらかろうと。そこを乗り越えて「じゃあ、結婚をしよう」って思うまでの表情がすごくつぶさに描かれていた感じがして。「嫌いになれん」って思いました。

(宇多丸)今回はその主人公のジョーとちょっと裏表の関係っていうか。そこが強調されてましたもんね。あとやっぱりその女性の、やっぱり基本にあるのは経済的自立ができるかどうかっていう問いかけで。やっぱり当時も……もちろん今も、ちょっとそこが解決しきっているとは言えない。選択肢がちゃんと十分に示されていないとか、あとはもしくはその示されていないということを女性がもう内面化してしまっていて、その選択肢を思いもよらないというような社会構造にもなっちゃっているみたいな話だから。彼女が「だったらちゃんと結婚して……」って。で、あのメリル・ストリープのおばさんも、今までは割と……。

(宇垣美里)結構嫌なやつだったんですけども。

(宇多丸)ズケズケ言うだけの非常に保守的な価値観のおばさんというだけだったけど。今回のメリル・ストリープの演じ方ってちょっとさ、ちょっと……「いや、私だってあんたの言ってる理想は分かるけど、現実が許さなかったのよ」って彼女ももう疲れ切ってしまったっていう感じで演じているじゃない?

(宇垣美里)彼女は彼女でその人生をサバイブしてきたがゆえの、「つらい思いをしてほしくないから……」っていうのがすごい伝わってきて。

(宇多丸)だからもう……。

(宇垣美里)「みんな頑張ってる!」って。

(宇多丸)そこのバランスもすごい良かったですよね。

(宇垣美里)あと、ローリーね!

(宇多丸)出ました。シャラメですか。

(宇垣美里)シャラメは美しい!

美しいティモシー・シャラメ

(宇多丸)日比さんのよだれ案件。特にこれ、グレタ・ガーウィグはシャラメの一番いい角度をよく分かってる。

(宇垣美里)もしかしたら一番美しくて……「ヒロイン?」って思いながら。

(宇多丸)ああー、たしかに! そのジョーがね、割とチャキチャキしたタイプなだけに。どっちかっていうとプリンセス。取り合うしね。ある意味ね。

(宇垣美里)「えっ、ヒロイン?」っていうか。かつ、その本を読んでいた時のなんともいえんチャランポランのボンボンみたいな感じがよく出ていて。それがイヤミじゃないというか。「そうね、全てを持っているがゆえに持て余しちゃうのよね」っていうのは伝わってくるというか。

(宇多丸)彼は彼でその生き方をそれこそ……男は男で生き方がもうガチガチに決められている時代だから、そこに反発していろんなことやったりしてるんだけど。でも彼のそのガキっぽさ、もしくはその既存の社会にはまるまいとする気持ちがジョーと当然ね、響き合うわけで。そこがさ、「我々も社会にちょっと収まりましょうよ」っていうとこで「いや!」っていうさ。ちょっとお互いのテンションの差が出てくる感じ。

(宇垣美里)あそこも良かったんだよ! 「愛せないの」っていうのが私はすごく好きで。

(宇多丸)いいセリフでしたね。

(宇垣美里)はい。その「『結婚したくないから』じゃない。ただ、私はあなたのことを好きだけど、愛してはいない。だから、できないの」っていうのがすごくその答えとして私は良かったなと思っていて。「私は仕事がしたいから結婚ししない」とかってもう、それはそれで現代に沿わないなと思っていて。仕事がしたくても結婚すればいいし。

(宇多丸)したいのであればね。

(宇垣美里)そう。ただ彼女は「結婚したくないし、そしてあなたのことが好きだけど、愛しているわけではない」っていうのがすごくその答えのひとつとして「そうなのよね。この2人の関係ってそうだったよね!」っていう感じがしました。

(宇多丸)でね、そのジョー側がでも、いろいろ頼りにするものがなくなっちゃった時に、やっぱりその逃避としてのローリーっていうところに行こうとしちゃう感じも……。

(宇垣美里)でも別に好きなわけじゃない……いや、好きなんだけど、愛じゃないっていう。

(宇多丸)そう。でもちゃんとお母さんに突っ込まれていたもんね。「それは愛じゃない」って。言われてたもんな。

(宇垣美里)オカンがエエ!

(宇多丸)ローラ・ダーン、またここのところね、好演を続けてるし。僕はあのさ、手紙の……すいませんね。ぜひ見てくださいね。あの名作の映画化なんでね。一応ね、そういうのもありますけどね。あの、ちょっとすれ違う手紙というか。あの手紙ボックスも、まあ今で言うとですね、「ああ、そっちのアドレス? そのアドレス、今は見てないわ」みたいな。「あ、mixi? mixiは見てない。ログインしてないわ」みたいな。

(宇垣美里)「インスタしか見てない」みたいな(笑)。

(宇多丸)そう。だからかつてはその彼らのコミュニティーの共通項だったのを、ジョーはそこに送るんだよ。子供時代と同じ通知方法でをやろうとするんだけども。でも、ローリーはそれをチェックしていないみたいな。

(宇垣美里)もう彼は新しいところに進んでしまった、みたいな。

(宇多丸)まあ、よくも悪くも彼はやっぱり大人になろうとして……みたいな。

(宇垣美里)新しい可能性の方に進んでいったっていう。

(宇多丸)大人になるにつれ、彼が前髪パラリしなくなりますから。前髪が落ち着いてくるんですね。

(宇垣美里)くぅーっ! あの、ちょっと手足を持て余してる感じがするじゃないですか。長い手足を優雅にフニャフニャしているんですけども。それがなくなってくるんすよ。

(宇多丸)最後は赤ちゃんを抱いて普通にね。早めに子供ができたヤンキーパパみたいな雰囲気を出していましたけどね。

(宇垣美里)美しいんですけどね(笑)。

(宇多丸)それはそれで素敵でしたけどね。

(宇垣美里)あと、いっぱいあった原作のシーンをひとつにギュッとしたりしてるじゃないですか。それがすごいなって。「あれってこのシーンとこのシーンとこのシーンだよね?」っていうところがひとつになっていて。でも、無理がなくて。でも絶対なくしちゃいけないシーンもちゃんとあって……っていうのも。

(宇多丸)おなじみのね、みんなご存知の『若草物語』もありつつ。髪を焼き切っちゃったっていう、そういう場面とかもね。

(宇垣美里)いや、そう。「あれ、ムカつくよね!」って思いながら。でもあれもなー、わかっていたんだろうな、とか。エイミーはきっと「彼女は本物だ」っていうのはたぶん、どこか……。

(宇多丸)ああ、才能の部分っていうところね。で、同時にグレタ・ガーウィグ自身のその女性クリエイターの元祖としてのオルコットっていうのを重ねたジョーでもあるから。

(宇垣美里)最後!

素晴らしいエンディング

(宇多丸)やっぱりその「本で終わる」っていうことですよね。あの映画って実はオープニングタイトルも本じゃないですか。その、だからこの本としてメッセージが世界に発されるまでっていう、この作りもスマートだし。

(宇垣美里)素晴らしい!

(宇多丸)ねえ。すいませんね。本当に。『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』、もう見た者同士っていうね。

(宇垣美里)ぜひ見ていただきたい!

(宇多丸)素晴らしい作品です。『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』。

(宇垣美里)あと「うわーっ!」って書く時になんか男っぽい格好になって。

(宇多丸)ミリタリールックみたいなね。

(宇垣美里)あれ、最高!

(宇多丸)あれはだからシアーシャ・ローナンのアイデアとか言ってたかな? とにかく書く時、やっぱり彼女なりの戦闘モードっていうかね。

(宇垣美里)ねえ。そう。「戦っている!」っていう感じがして。

(宇多丸)あと、彼女はそこで子供時代を総括するわけよね。相対化する。自分はそこに逃避してた人が、その総括をすることで彼女なりの成長というのを遂げるというところ。

(宇垣美里)そこから一歩踏み出す感じが……。

(宇多丸)すいませんね。『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』、これ見た者同士で(笑)。

(宇垣美里)申し訳ない(笑)。

<書き起こしおわり>

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