石山蓮華とでか美ちゃん『哀れなるものたち』を語る

町山智浩『哀れなるものたち』を語る こねくと

石山蓮華さんとでか美ちゃんさんが2024年1月30日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『哀れなるものたち』について町山智浩さんと話していました。

(石山蓮華)そして先週、町山さんにご紹介いただきました『哀れなるものたち』、早速私、石山もでか美ちゃんも見てまいりました。こちらの作品は自ら命を絶ったベラという女性が、ある天才外科医によって蘇生され、女性として成長する姿を描いた作品でしたが。本当に衣装も美術も素晴らしいですし。どこからこの感想を言っていいんだろう?っていうのを迷っちゃうぐらい、私はよかったです。

(町山智浩)ああ、そうですか。

(でか美ちゃん)私も大好きな作品でした。

(石山蓮華)で、「熱烈ジャンプ」っていう言葉が出て。翻訳版だと、なんだろうな? その性交渉のことを熱烈ジャンプって……。

「熱烈ジャンプ」とは……

(でか美ちゃん)ベラがまだ、性交渉というものがなにかを理解しきれてない、なんか快楽が得られる、ちょっとしちゃいけないことかもしれない。わからない、みたいなのが翻訳だと「熱烈ジャンプ」って出ていました。

(石山蓮華)これ、英語版だとなんて言っているんですか?

(町山智浩)えっ、なんだろう? 普通の英語だったと思いますけど。

(でか美ちゃん)ああ、そうなんですか。

(町山智浩)脳が子供なんですよね。ベラちゃんはね。で、子供なのにセックスの喜びを覚えちゃうっていう話なんですけども。

(石山蓮華)で、そのベラちゃんがどんどん成長していく過程を見ている中で、私自身も「ああ、こういうこと、あったな。多かれ少なかれ、あったな」っていうことを思い出して。「私はベラの成長曲線で言うと今、何号目まで来てるのかな?」っていうのを考えながら、見ました。

(町山智浩)ああ、どのへんですか?

(でか美ちゃん)たしかに。どのへんだったんだろう?

(石山蓮華)どのへんっていうのは今、何合目か?っていうことですか? そうですね。まあ、そのハチャメチャな前半のところを抜け、自我が芽生えて。ただ、そうですね。

(でか美ちゃん)何を山頂とするかも、あるもんね。

(石山蓮華)私はたぶん船に乗って、いろんな価値観を持つ人と出会い。哲学とか議論の面白さを理解するところまできて。で、印象的だったのがアレクサンドリアっていう章で。主人公のベラちゃんが貧富の差というものを初めて知るシーンがあって。あそこって、ベラは高いところから引きの画でお金がなくてひどい目に遭っている状況の人たちを見るじゃないですか。あの引きの感じが、なんかSNS的だなという風に私は感じました。見た後に。

(町山智浩)ああ、なるほどね。あのね、ヨーロッパってね、昔なんですけど。貴族の人たちって、要するにもう貧しさとか、全然知らないじゃないですか。だからそのまま領主になると非常に危険だから、領主になる前に、青春時代にただの人として外国を旅するという、なんていうか、決まりがあったんですよ。

(でか美ちゃん)修行みたいな期間が?

(町山智浩)そうそう。日本も企業なんかでトップのお坊ちゃんは対立企業で下っ端から働かされるっていう伝統があるんですけど。ヨーロッパには「グランツアー」って言って、貴族は必ずただの人として、いろんなものを見て。貧しさとか、そういったものを経験するっていう義務みたいなものがあるんですよね。で、ベラはたぶんそれをしたんですよ。

(でか美ちゃん)なるほど。それ比喩的なワンシーンだったってことなんですね。

(町山智浩)そうですね。でか美さんはどうでした?

(でか美ちゃん)いや、私も本当にこの作品、刺さりまくりまして。女性の自由が性一辺倒なのかってことに関してはいろいろ思う部分はもちろんあったんですけど。特に、ダンスシーン。役名を忘れちゃった。連れ出してくれたスケベ親父とのダンスシーン中に……。

(町山智浩)ああ、マーク・ラファロですね。

マーク・ラファロとのダンスシーン

(でか美ちゃん)ダンスの途中でベラが自由に踊り出したら、男性も一緒に踊り出す。そこでちょっと、なんだろうな? ベラが奔放なので、自分の思った通りに踊ってくれないみたいなのが、あるじゃないですか。なんか、あの自由に生きていてほしい……歌い踊る奔放な女が好きなくせに、思ったように踊ってほしい。目の届く範囲で自由にいてほしいっていうのがめっちゃ、むかつきましたね! 身に覚えがありすぎて! じゃあ「自由にしていていい」とか言うなよ、みたいな。

(石山蓮華)ねえ! お前の言う「自由」ってなんだよ?って。

(町山智浩)ダンスっていうのは男性がリードするものだから。で、勝手にいろんな踊りをするから、怒っちゃうんですよね。

(でか美ちゃん)あれもなんか、すごいいろんな皮肉とか意味を込めたシーンだなと思いましたし。私はラストシーンで『哀れなるものたち』っていう日本のタイトル。すごく全てが回収されていった感じがして、見ててめちゃめちゃ気持ち良かったです。

(町山智浩)そうですね。あれで、スカッとした終わり方で終わるというのがね。

(でか美ちゃん)そう。スカッともしたし。なんか、ベラが哀れじゃないかと言ったらそうじゃないというか。なんか、いろいろ反省もしながら見たし。なんか身に覚えがあるなっていうのもあったし。大好きな映画のひとつになりました。

(町山智浩)そうですね。ネタバレになると、あれなんですけど。最後のところは、あの世界以外の、外の世界全部はやっぱりまた、なんていうか父権主義、男性主義の世界がまだ続いてるんですよね。だから『バービー』のバービーランドと同じなんですよね。ラストはね。だからそのへんもね、また皮肉が効いてるなと思いましたね。

(でか美ちゃん)見てほしい。

(石山蓮華)ちょっともう、まだまだたくさん感想が出てくるところなんですが。今日もちょっと1本、映画をご紹介いただきたいと思います。

<書き起こしおわり>

町山智浩『哀れなるものたち』を語る
町山智浩さんが2024年1月23日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『哀れなるものたち』を紹介していました。
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