町山智浩さんがBS朝日『町山智浩のアメリカの”いま”を知るTV』の中でドナルド・トランプの大統領就任式を取材した際の模様を紹介。アナーキスト(無政府主義者)たちの活動や、トランプを支援するオルト・ライトたちについて話していました。
(ナレーション)アメリカ第一主義を唱え、世界中に大きな波紋を広げたトランプ大統領の就任演説。町山はその様子を現地で取材。今回の就任式をどう感じたのか?
(町山智浩)就任式に入ろうとしたんですけど、入れなかったんですよ。
(杉山セリナ)なんでですか?
(町山智浩)演説をもう目の前でやっていて、声が聞こえるんですけど、ゲートのところでセキュリティーチェックをしていて。セキュリティーチェックの5メートル手前で演説が終わってしまいました。
(杉山セリナ)えっ! それは、時間に間に合わなかったっていう?
(町山智浩)4時間並びました。ものすごく早く行って並んでいたんですよ。でも、ダメだったんですよ。
(杉山セリナ)セキュリティーが結構厳しかったっていうことですか?
(町山智浩)セキュリティーが厳しかったっていうのもあるんですけど、まずひとつのゲートは反トランプの人たちが襲撃して閉鎖されたんですよ。で、もうひとつはアナーキスト(無政府主義者)と呼ばれる人たちが破壊活動をしたんで閉鎖されたんです。
(杉山セリナ)ああ、結構デモも多かったんですもんね。
(町山智浩)デモも多かったんですよ。
アナーキストたちの破壊活動
(ナレーション)「トランプ大統領就任に反対するグループが一部暴徒化した」などと報道されていたこの黒ずくめのグループ。実は「アナーキスト」と呼ばれる集団なのです。そのアナーキストの集団を取材すべく、町山も緊迫した最前線に潜入した。
(町山智浩 アナーキスト取材映像が流れる)
(町山智浩 取材音声)いま、「撃ってみろ!」って言ってるんですね。アナーキストの人たちが(警官に向って)「いますぐ拳銃を撃ってみろ!」って。「最近、すぐ銃を撃つじゃねえか」っつってるんですけど、もう銃に手をかけているね。警官がいま、銃に手をかけてますね。あの、「撃ってみろ!」みたいな感じで挑発をしていて……あ、挑発するもなにも、銃を持っちゃっているわ、もう。あと、これは催涙ガスですね。催涙ガス銃を発射したんですね。
(町山智浩)(映像に映っているのは)警官たちがペッパースプレーガンっていう、トウガラシのエキスが入った液体をばらまいた後なんですよ。この人が持っている水鉄砲がそうなんですよ。で、僕がこの後、ペッパースプレーがかかっちゃったりするんですけども。
(杉山セリナ)ああ、そうなんですか!
(町山智浩)これ、僕が撮影してるんですけどね。
(杉山セリナ)相当近い距離で取材されていますね。
(町山智浩)近いんですよ。僕ね、失敗したのはアナーキストと警官の間に入っていたんですよ(笑)。
(杉山セリナ)いちばん危険なところに(笑)。
(町山智浩)だからペッパースプレーがかかっちゃうのは当たり前なんですけども。日本ではあんまり報道されてないんですけど、アナーキストの人たちはね、選挙の途中から「ヒラリーが勝とうとトランプが勝とうと大統領就任式は潰す!」って言っていたんですよ(笑)。
(杉山セリナ)なんでここまで反抗を続けるんですか?
(町山智浩)政党政治とか選挙による政治っていうのを否定しているんですよ。アナーキストの人たちは。「そんなことをやっても金のあるやつが勝つんだ。だから民主党が勝とうと、共和党が勝とうと、全部ぶっ潰す!」っていうのをやっている人たちで。しかも、お店を破壊するのも破壊するお店が決まっているんですよ。
(杉山セリナ)ええっ、どういうことですか?
(町山智浩)スターバックスとかの大企業なんです。
(杉山セリナ)ああ、お金を持っている企業をメインに潰していくんですね。
(町山智浩)そう。だから、反トランプのちゃんとしたデモの人たちもアナーキストが来ると「お前ら、関係ねえじゃねえか!」ってアナーキストとモメたりしているんですけど。
(杉山セリナ)うん。もうごっちゃごちゃになっちゃうんですね。他の場所も取材されたんですよね?
(町山智浩)はい。「Deplorable Ball」。「Deploraball」っていうのを取材に行ったんですよ。これね、「Deplorable(嘆かわしい)」っていう意味なんですね。
(杉山セリナ)「Deplorable」?
(町山智浩)「嘆かわしい」っていう意味なんですけど。これはトランプ支持の人たちのパートナーだったんですよ。これ、ヒラリーさんが「トランプを支持しているような人たちはみんな”Deplorable”なんだ」と……
(ナレーション)大統領選挙期間中、ヒラリー・クリントン氏は資金調達イベントで「トランプ支持者の半分は嘆かわしい人々の集まり」と発言。「人種主義者、性差別主義者、同性愛者嫌い、外国人嫌い、イスラム嫌いで救いようがない」と語り、「嘆かわしい人」はたちまちTwitterのトレンド入りをして炎上。翌日、クリントン氏は発言を撤回した。
(町山智浩)で、それに対して「そんなひどいことを言いやがって! じゃあ、俺たちは嘆かわしくて結構だよ!」ってことで、自分たちをそういう風に名乗って。
(杉山セリナ)あえてその名前で。
(町山智浩)そうなんですよ。
(杉山セリナ)なるほど。パーティーを開いたんですね。
トランプを支援するオルト・ライトたち
(町山智浩)ただね、ヒラリーさんがそう言った理由っていうのはあるんですよ。ヒラリーさんはその後、もうひとつの演説で「”Alt-Right(オルト・ライト)”と言われているオルタナティブの右翼によってトランプは支援されていて、彼らがネットでゲリラ活動を行っている」ということを言ったんですが、このオルト・ライトの連中のパーティーだったんですよ。これは。
(杉山セリナ)この中ではどういうことが行われていたんですか?
(町山智浩)中で行われていたのは、ヒラリーさんを攻撃した男がいるんですよ。顔(写真)がね、ここ(オルト・ライト関係者一覧)にはないんですが、マイク・セルノビッチという男がいまして。この人が、ヒラリーさんが一時すごく健康状態が悪いという噂が流れたじゃないですか。それを流した男なんですよ。
(杉山セリナ)えっ? あれってデマなんですか?
(町山智浩)デマだったんです。
(ナレーション)ヒラリー重病説。昨年、ヒラリー・クリントン氏がアメリカ同時多発テロの追悼式典で体調を崩して途中退席。この件について、「4年前に起こした脳震盪が原因で脳に深刻なダメージを受け、パーキンソン病も発症している」という噂が広まった。
(杉山セリナ)本当にもう、すごい体調が悪いみたいな報道は……
(町山智浩)「パーキンソン病だ」という情報を流したんですよ。ウソニュースっていうやつですね。
(杉山セリナ)うわー、びっくり。初めて知りました。
(町山智浩)これ、こいつ(マイク・セルノビッチ)が張本人なんですよ。で、彼がこのパーティーの主催者だったんです。
(杉山セリナ)悪い人ですね(笑)。
(町山智浩)ネットでウソニュースを流す人たちがここに集まっていたんです。で、あとピーター・ティール。この人はFacebookの出資者で大金持ちです。
(杉山セリナ)ああ、そうなんですか? Facebookにお金をあげて?
(町山智浩)最初にお金を出したんで、Facebookが巨大になったんで、彼はそれと同時に大金持ちになった人。この人はトランプの支援者なんですけども、この人はこういうオルト・ライトの元締めに近い人なんですよ。お金をいちばん持っているんで。彼がいろんなところにお金を出しているんですよ。で、いちばんお金を出したので有名なのは、ハルク・ホーガンっていうプロレスラーをご存知ですか?
(杉山セリナ)知らないです。すいません。
(町山智浩)80年代のスーパースターなんですけども、彼は破産していて……
(ナレーション)ハルク・ホーガン美人局事件。
(町山智浩)息子さんが交通事故を起こして、(車に)同乗していた友達が前頭葉を失ってしまって。お父さんであるハルク・ホーガンさんがそれを賠償することになって。で、一生その人の面倒を見なきゃならないんで、お金がなくなっちゃったんですよ。あと、奥さんにも離婚されて。
(杉山セリナ)ええーっ!
(町山智浩)で、ハルク・ホーガンさんが落ち込んでいるところに、ある男が来て。「いろいろ大変だろうから、うちの奥さんを抱いていいよ」って言ったんですよ。そしたら、ハルク・ホーガンさんが嫌々、なんかすすめられたんでその奥さんを抱いたら、それをビデオに撮られて。それがネットに載せられちゃったんですよ。で、ハルク・ホーガンさんが落ち込んでいたら、ピーター・ティールが来まして。「裁判で勝ちたいだろう? 僕が裁判費用を全部出すから、そのサイトを訴えてくれ」って言ったんですね。
(杉山セリナ)へー!
(町山智浩)実はそのサイトは「Gawker」っていうサイトなんですが、そのサイトはこのピーター・ティールがゲイであることをバラしたサイトなんです。
(杉山セリナ)復讐っていう意味で?
(町山智浩)復讐なんです。それでハルク・ホーガンの裁判はハルク・ホーガンの勝利に終わって。3100万ドル(約35億円)の賠償金という判決が出ました。
(杉山セリナ)それを得たんですね。
(町山智浩)ハルク・ホーガンさんは完全に破産していたから、それで立ち直ったんですよ。
(杉山セリナ)うわっ、すごいですね! 彼には実際にお金は入ってこないですけど、復讐ができたと。
(町山智浩)入ってこないんです。けど、Gawkerを潰すという復讐ができたんです。だから、ものすごい怖い人なんですよ。この人は、なんでもやる人で。ものすごい莫大なFacebookのお金で。
(杉山セリナ)本当に映画に出てきそうなヴィランの1人ですよね。
(町山智浩)そうなんですよ。マイケル・フリン・ジュニアっていう人がいて。この人はこの中に入っていわゆるゲリラ活動をやっている仲間なんですけど。この人のお父さんがドナルド・トランプの国家安全保障省の顧問なんですよ。マイケル・フリン。で、このマイケル・フリン・ジュニアとマイケル・フリン(父)は「イスラム教は地球のガンである」という風に言って。「イスラム教を徹底的に潰す!」って言っている人たちなんです。もうゴリゴリのカトリックだから、宗教的な意味でイスラム教を潰したいんですよ。
(杉山セリナ)なるほど。
(町山智浩)で、それを言っちゃったりいろいろあったために息子の方(マイケル・フリン・ジュニア)は閣僚入りできなかったんですよ。で、この人たちが流していたウソニュースっていうのはすごく大きなニュースで。「ピザゲート事件」というのになったんですよ。
(杉山セリナ)はい。
(ナレーション)ピザゲート事件。
(町山智浩)コメット・ピンポンっていう名前の普通のピザレストランが首都ワシントンの北にあったんです。そこで「幼い子供たちを誘拐して売りさばいている」っていう噂が流れたんですよ。
(杉山セリナ)ピザ屋さんで?
(町山智浩)ピザ屋さんの地下で。で、「そのピザ屋さんっていうのはヒラリーが支援しているんだ! ヒラリーの一味なんだ」っていう噂が流れたんですよ。
(杉山セリナ)……あり得ない!(笑)。
(町山智浩)あり得ないですよね(笑)。なぜ、ヒラリーがそんなことをしなきゃいけないのか? 全くわからない。ただ、そのニュースをばらまいていたのがこのマイケル・フリン親子なんです。で、それを信じたアメリカの田舎の銃マニアの人がそのピザ屋に行って銃撃しました。
(杉山セリナ)ええっ!
(町山智浩)「子供を誘拐してるんだろ! お前ら! 子供を助けに来たぞ!」って。信じちゃって。
(杉山セリナ)うわー……
(町山智浩)すごいんです。それがいま、トランプ政権の国家安全保障省の顧問です。本当の話です。
(杉山セリナ)(笑)。なんかもう、笑っちゃいますね。あまりにもひどすぎて。
(町山智浩)笑っちゃうでしょ?
(杉山セリナ)「ウソでしょう?」って思っちゃいますよ。
(町山智浩)そう。陰謀論かと思うじゃないですか。でも、全然陰謀論じゃないというね。
(杉山セリナ)じゃあ、私たちが思っている以上にすごいメンバーが国家をこれから取り締まっていくっていうことですか?
(町山智浩)動かしていく。そうなんですよ。「ブライトバート」というインターネット右翼ニュースがあるんですね。それは反ヒラリーとか反オバマのニュースを流しているインターネットのニュースサイトなんですよ。そこにいろんな共和党系の政治家とか企業からお金が入って、それがこういうウソニュースをする人たちに回るという仕組みになっています。で、それだけだったらよかったんですけど、ブライトバートの編集主幹のスティーブン・バノンっていう人は現在、ドナルド・トランプの最高戦略顧問です。
(杉山セリナ)えっ?(笑)。すごい人が……
(町山智浩)だからマスコミでもなんでもなくて、完全な右翼メディアで、いま言ったようなウソニュースをでっち上げて……「ウソニュース」っていうか、ドッキリカメラに近いものですね。
(杉山セリナ)なるほど。隠し撮りして。
(町山智浩)そうです。トラップですよ。隠し撮りして、リベラルであるとか共和党の投票に加担する人たちを貶めるためのドッキリカメラをやっている人たちを支援しているメディアであるブライトバートの編集主幹がトランプの最高戦略顧問です。現在。
(杉山セリナ)……
(ナレーション)CNNは世界各国から避難されているシリア難民とイスラム圏7ヶ国からの入国凍結の大統領令にも、このスティーブン・バノンが大きな影響力を発揮していると報じています。
(杉山セリナ)私たちもどの記事を見ても全く反対のものが書いてあるのもあるので、もうどれを信じていいかもわからなくなっちゃうんですね。
(町山智浩)はい。その通りで、すごかったのは実は僕、就任演説のところになかなか入れなかったんですけど、入ってみたら中はガラガラだったんですよ。
(杉山セリナ)空撮の写真、見ました。オバマ大統領の就任式のと……
(町山智浩)ガラガラでしょう? で、ガラガラなのにトランプ陣営は「かつてないほどの人が集まった」っていう風に発表したんですね。で、「それは違うじゃないか!」っていう風に追求されたケリーアン・コンウェイというトランプの女性のスポークスマンの方がいるんですけど。「事実にはいろいろあるんだ」と。で、「オルタナティブ・ファクト(Alternative Facts)」って、オルタナティブっていうのは「もうひとつの」っていう……
(ナレーション)トランプ大統領就任式について、大統領報道官は会見で「就任式を目撃したのは過去最多の聴衆だった」と発言。これが「事実と違う」という指摘が相次いでいる中、大統領の側近ケリーアン・コンウェイ大統領顧問は「オルタナティブ・ファクト(もうひとつの事実)」という言葉で反応した。
(町山智浩)事実はもうひとつではなくて、アメリカでは現在いろんな事実があるという状況になっています。で、「たくさん就任式に集まったという事実もあるんだよ」って言っちゃっているんですよ。
(杉山セリナ)意味がわからないですね。
<書き起こしおわり>