町山智浩さんが2025年5月13日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で香港映画『年少日記』を紹介していました。
※この記事は町山智浩さんの許可を得た上で、町山さんの発言のみを抜粋して構成、記事化しております。
(町山智浩)コンクラーベのその直前にね、トランプ大統領さんがとんでもないツイートをしまして。自分がローマ教皇になっているAI画像を作ってSNSで投稿して。それもホワイトハウスの公式がそれを拡散するという異常な状態で。これ、アメリカ国内の非常に真面目なカトリックの人たちは本当に怒っていましたね。「みんながフランシスコ教皇の死を悼んでいる時にこのジョークはないだろう」っていう。トランプが「俺がなりたいよ」っていうね。
本当に亡くなって、お葬式があった直後にこれをやるっていうのもすごいなと思いましたけど。まあ、トランプさん自身はずっとフランシスコ教皇に批判されていたんでね。「ひどいことばっかりしてる」と言われて怒られていたんで、嫌いだったからそういうことをやったんだと思うんですが。ただ面白いのはね、トランプさんと同じ共和党の選挙参謀だった人でマイケル・スティールさんっていう人がいるんですよ。
この人が「これはひどい侮辱だけれども、これにいちいち怒ってはいけない」っていう風にツイートしたんですよ。「なぜならば、怒ったら思うつぼだからだ。トランプは怒らせようとしてるんだ」っていう。で、彼がいかに不真面目でナルシストかっていうことなんだけれども、そのマイケル・スティールさんはその後にこういうことを言っていて。
「トランプは78歳になった今でも、心は10歳の子供なんだ」と言ったんです。要するに「自分が大物だということを必死に証明しようする承認欲求の塊なんだ」と言ったんですね。で、どうしてか?っていうと「心に傷を負ってしまって成長できないんだ」って書いたんですよ。
During this period of Novemdiales (mourning the loss of Pope Francis) I’ll set this offense aside because Trump in his narcissism gets off on our being offended. More to the point, this affirms how unserious and incapable he is. At 78 he remains a 10yo child, emotionally scarred… pic.twitter.com/FLZGRuKHyE
— Michael Steele (@MichaelSteele) May 3, 2025
(町山智浩)これは一体どういうことか?っていう話をちょっと今日、したいんですけど。今日、ご紹介する映画がそういう話なんですね。これは香港映画なんですが『年少日記』という映画をご紹介します。6月6日から日本公開です。今、学校のチャイムみたいな音楽がかかりましたけども。これ、この映画のサントラなんですが、学校の話です。最初は高校が舞台で。そこでチェンという高校の先生がいるんですね。
で、この学校で大きな騒ぎが起こってしまって。ゴミ箱からですね、遺書のような、紙に書いた切れっぱしが見つかるんですよ。で、それは生徒の1人が書いたらしくて、どうも死ぬ覚悟にであるらしいということで「これは誰が書いたんだ?」っていうことで。それを防がなきゃというところから話が始まるんですね。
で、その主人公の高校の先生・チェンさんがそのノートの切れっぱしの一節を読んで衝撃を受けるんですね。そこには「僕はどうでもいい存在なんだ。僕なんかいなくなっても誰も、すぐに忘れちゃうんだ」ってことが書いてあったんですよ。で、その言葉は彼が見たことがある、子供時代の日記の言葉だったんですね。で、そこからそのチェン先生の子供時代が回想されて。現在のチェン先生と子供時代の思い出が行ったり来たりするという映画なんですが。だから『年少日記』というタイトルなんですね。これはまあ、「子供の頃の日記」というタイトルなんですが。
香港で大ヒットした切ない辛い映画
(町山智浩)これ、ものすごい切ない辛い映画なんですけど、非常に優れていて。で、香港で大ヒットしていろんな映画賞を取っているんですよ。これはもう全ての子供の頃に心に傷を持ってしまった人とか、あとお子さんを育てている人はぜひ、見ていただきたい映画です。で、このチェン先生のお父さんっていうのはものすごい苦労をして。貧乏から勉強してですね、苦学して弁護士として成功してるんですね。だから子供たちに「俺はこんなに頑張ったんだから、お前らも頑張れ!」という風に過酷なまでに「勉強しろ」という圧力をかけてくるお父さんなんですよ。
で、「これはお前たちのためなんだから。私は君たちを愛してるから頑張れ!」って言うんですよ。ところが兄弟が2人いて。その弁護士さんには息子さんが2人いて。で、弟の方はすごい父親の期待に応えて。英才教育でピアノをやるんですけど、そのピアノも上手で。発表会とかでもまあ見事に弾きこなすんですね。弟は。それで今、後ろでちょっと流れているこの映画のサントラは練習曲として弟がやるドビュッシーの『夢』という曲があるんです。
(町山智浩)これ、有名なねえ曲ですけれども。左手と右手の練習でやるんですけれども。で、お兄さんも同じ曲やるんですがお兄さん、全くマスターできないんですよ。それでそのことをチェン先生は思い出すんですね。で、このお兄ちゃんの方は非常に心優しいお兄さんなんですけど、勉強もちょっとできなくて。で、体罰をこの父親がするんですよ。しかもお母さんを「お前の教育が悪いから、こんなにできねえんだ!」って言って、お母さんもぶっちゃうんですよ。
まあ、そういうちょっと強烈な話なんですけども。これはね、この監督自身の大学の時の友達が「自分は必要のない人間だ」ということを書いていて。「何を言ってんだろう?」と思っていたら、その友達が自殺しちゃったという実際にあった体験がもとになっていて。しかも、このチェン先生を演じるロー・ジャンイップさんという俳優さんは、この監督とその自殺した人とも友達だったんですよ。
で、後からそのわかったのは……その亡くなった方は映画の道に進みたかったらしいんですよ。でもお父さんは「もっとちゃんとした仕事しろ」と言って、それでうまくいかなかったということがあるんですけども。で、兄弟っていると、やっぱり兄弟と親の関係ってすごく難しいじゃないですか。親はどうしても、完全に両方とも平等に愛してるつもりでも、その完全に平等に愛してるかどうかっていうのは子供はわからないですよね。
とても難しい親と兄弟の関係
(町山智浩)で、うちの娘は1人っ子だったんで、それなかったんですけど。でもなんか思わず「お兄ちゃんはできたのに」とか、言っちゃったりするんだろうなと思うんですよ。でも、それは子供たちに大変なプレッシャーをかけていくんで。で、これは香港ですごく子供の自殺が多くて、社会問題になっていて。日本もそうですけど、韓国も多いですね。インドも多いんですよ。で、やっぱりね、学校の競争社会なんですよ。どこも学歴社会でね。
で、まあ「勉強しろ!」っていうことで、できないと親が「なんでこんななんだ!」みたいなことで子供に失望したりするんで。まあ、非常にアジア全般の大きな問題になっていますけど。ただね、この映画を見ていて僕がすごく思い出したのはトランプ大統領なんですよ。