K.I.Nと宇多丸 日本のフリースタイルラップバトル誕生の瞬間を語る

K.I.Nと宇多丸 日本のフリースタイルラップバトル誕生の瞬間を語る 宇多丸のウィークエンド・シャッフル

(宇多丸)即興かどうかわからなかった可能性もある?

(K.I.N)うん、それも……俺の中ではほら、緊張しちゃっているからさ。「ここで即興をやってやった!」とは自分では思っているけど。

(宇多丸)そん時、俺も当然いるじゃん。俺、どういう反応していた? 全然思い出せないんだ。

(K.I.N)いや、俺もなんか反応がないなっていう。「K.I.Nちゃん、がんばったじゃん」っていう、あのビールの件と全然近いっすよ。

(宇多丸)でも、やっぱりたぶんその場ではなにが起こったか、みんな本当には理解してなかったっていうことじゃない? たぶん。そのK.I.Nちゃんが「いまのは完全即興です」っていうのはわかってかもしれない。

(K.I.N)そうかもしれないですよね。でも、結構その即興はステージ上ではないところではやっていたから、まあもしかしたら士郎さんは「あ、やっている」ぐらいかもしれないけど。

(宇多丸)ああ、事前に身内ではそろそろ始まっていたと?

(K.I.N)うん。と、思うんだよな。

(宇多丸)まあでも、スラムダンクディスコって月1じゃん? そこでやってみました。そっから継続的にというかさ、やっていくうちにだんだんK.I.Nちゃんというか俺たち周辺は完全即興のフリースタイルで、しかも人にケンカを売ってくるっていうのが定着していくわけじゃん?

(K.I.N)そうだね(笑)。

(宇多丸)そのへん、どうなっていったのか、覚えている?

(K.I.N)いや、そこのスラムダンクディスコから……スラムダンクディスコのフリースタイルっていう時間があったじゃん。あそこでそれほど即興即興はしていなくて、結局、俺はその後もやってんのよ。で、「出てこいよ!」とか言ってるんだけど、誰も出てこない。

(宇多丸)ああ、だってそりゃそうだよ。これ、問題は完全即興のフリースタイルをやっている人間が他にいない以上、バトルもクソも……っていうことなんだよね。

(K.I.N)で、またFG(Funky Grammar)が虐げられていた時代でもあるから。虐げられていたっていうか……

(宇多丸)まあ、コンプレックスが。

(K.I.N)コンプレックスがあるから、なんかさ、「これだ! これでやつらに勝てる!」みたいな。

(宇多丸)ああー。でも、それはあったよね。つまり、さっき言ったペイジャーショックがあって、ある意味、ちゃんとペイジャーに学んで、「あいつらにちゃんと認めさせねえとダメだ!」っていう気持ちが俺ら、RHYMESTERも強かったじゃん。で、すっごい気合いを入れて常にスラムダンクディスコのライブに臨んでいて。で、その一貫としてフリースタイルを……たぶんその帰りなり後で、「これだ!」みたいな。で、俺たちはここでそれを磨いて……要するに、一段ネクストレベルのテクノロジーの武器を手に入れているわけじゃん?

(K.I.N)そうそうそう(笑)。

ネクストレベルの武器を手に入れた

(宇多丸)誰も銃を持っていない時代に、ドゥラララーーーーッ! だよ、もう(笑)。

(K.I.N)(笑)

(宇多丸)ダーーーーーーッ!っていう。たしかに、その意識も当然あったし。あとね、K.I.Nちゃん、俺、ひょっとしたらこれ、記憶を書き換えちゃっているかもしれないけど。当時、いわゆる日本語ラップ冬の時代で僕らもファーストアルバムを出したけど、その直後にたとえばソニーっていう当時唯一日本語ラップを出してくれる可能性があるインディー会社ファイル・レコードの親会社が「もう日本語ラップには金を出しませんよ」っていうのを会議で決定して下に通達が来るという、もう信じられない……俺らにとっては「終わった……」っていうさ、あったじゃない?

(K.I.N)うんうん。

(宇多丸)で、もうみんな怒り狂って。それこそスラムダンクディスコのチームはもうさ、「許せねえ!」みたいな感じで。その時代に、俺が覚えているのはK.I.Nちゃんはそういう時に「腐っていてもしょうがなくないっすか?」みたいな。俺、結構説教された覚えがあるんだけど。

(K.I.N)マジっすか?

(宇多丸)うん。「だから即興とかいろいろ新しい試みをいま、やってみなくちゃダメなんじゃないですか?」みたいな。で、俺はたぶんずっと……

(K.I.N)……言ってました!(笑)。

(宇多丸)どっちどっち? 本当に? それとも、思い出せない?

(K.I.N)うーん、思い出せない。

(宇多丸)で、僕はやっぱさ、自分のラップのスタイル的にね、カッチリカッチリ作っていくタイプだから基本、渋ったと思うのよ。相当、即興をやることを。それ、覚えていない? 最初、渋っていたのを。

(K.I.N)覚えている。だからそのビールの一件から士郎さんがやるまでにやっぱりGALAXYの夏合宿ぐらいっすよ。

(宇多丸)それ、93年の夏ね。

(K.I.N)士郎さんがガンガン乗ってきてくれたのは。

(宇多丸)ああ、だからやっぱりその時には「これはすごい!」って。だから、「やらないと!」っていう感じにもなってきていて。

(K.I.N)なっていたのかな?

(宇多丸)で、K.I.Nちゃんにそう言われて渋々始めたら、まあ楽しくて。で、まさにいま聞いた93年の夏、もう一緒にさ、だって合宿だけじゃなくて普通に海に遊びに一緒に行って。で、行き帰りとか海でもずーっとね。

(K.I.N)ずーっとね。

(宇多丸)ずーっとフリースタイルやって。

(K.I.N)(笑)。「信号が……」っていうね、どうでもいいやつ(笑)。

(宇多丸)もう帰り道、完全にフリースタイル、クオリティーが下がりすぎてて(笑)。俺たち、自分たちも「これ、もうラップじゃなくね?」って(笑)。

(K.I.N)「そこに、信号が……」って(笑)。「ダメだろ、これ?」っていう(笑)。「車が、ある~♪」って(笑)。

(宇多丸)(笑)

(K.I.N)「あるぜ~♪」(笑)。

(宇多丸)まあでも、そうやって結構夢中になったっていうこともあったし。あとさ、これもK.I.Nちゃん、ちょっと覚えているか聞きたいんだけど。その直前ぐらいに、V.I.Pクルーだと思うんですけど、レゲエ勢と僕らFGがなんか営業みたいなのがクラブで1回あって。で、要はレゲエ勢のパフォーマンスを見て、即興っていうかすごくフレキシブルに状況を読み込んでいろいろやっていく様を見て、俺はすごいその時にFG勢、割と真面目に「これは、マズいぞ。ヒップホップのパフォーマンス、完全に負けてるぞ。あの、ちゃんと巻き込んでいくコミュニケーション力を学ばないとダメだ」って話したの、覚えている? それ。反省会したのを。

(K.I.N)ああ、本当? それ、覚えていない。

(宇多丸)そう? これ、日時を含めちょっと岡田ちゃんとかにたしかめていこうと思うんだけど。まあ、そんな要するに土壌は会ったと思うんだけどね。

(K.I.N)なんか工夫してたよね。こうやっていった方が即興ってわかるんじゃないか? とかさ。

(宇多丸)だからそのさ、一時期初期MCバトルでよくあった「お前のかぶってるその帽子……」っていう、相手の服いじりみたいなのはその中から生まれてきたやつだよね。やっぱね。で、その後、その他のグループの反応みたいなのがどうだったんか、覚えている?

(K.I.N)他のグループ? 当時の? そのさ、ペイジャーとの……まあスラムダンクディスコでは直接バトルはなかったんだけど、その後の(芝浦)GOLDでペイジャー主催のイベントだったのかな?

(宇多丸)芝浦にGOLDっていう巨大ディスコがあって。

(K.I.N)そうそうそう。そこで、本当にステージの右側にはペイジャー、左側にはFGクルーっていうかRHYMESTERと俺らみたいなので。あれは3階かな?

(宇多丸)まあいいや、それは。階はいいわ(笑)。

(K.I.N)そこで、ライブが終わった後にバトルみたいになったのよ。

(宇多丸)へー! ペイジャー対FG。こわいよー!

(K.I.N)怖いでしょ? で、スラムダンクディスコの件もあるからちょっとさ、ペイジャー側も練習じゃないけど……まあ、PHフロンなんだけど。

(宇多丸)PHフロンっていうね、中でいちばん若手のラッパーがいて。で、いちばん戦闘的なね。

(K.I.N)そうそうそう。フロンはね、俺がやった後に出てくるんだよね。で、ラップになっていないんだよ。「フリースタイルラップはできないけど……♪」みたいなさ。でも、やっているの。

(宇多丸)返してくれるんだ。

(K.I.N)そうそう。でも、できないけどやっているみたいな感じのがあって。それでマイクをパスし合うわけですよ。マイクを投げたりするけど、それを拾ってやったりとか。こう、バトル形式というかね。

(宇多丸)ああ、でも俺、それは覚えていて。だからフロンがいちばんペイジャー組の中の回答というか。要するに、「フリースタイルラップなんか俺は認めねえ」と言いながら、フリースタイルで返してくれたの。で、そこに俺は「おおーっ!」って思って。なんて言うの? 「う、うれしい!」じゃないけど、「ああっ!」みたいになるよね?

(K.I.N)「おおーっ!」って。

(宇多丸)「か、会話……会話ができた! 対話ができた!」みたいな、この感じがあったのはすごい覚えている。でもそれ、GOLDだったのは忘れていた。

(K.I.N)GOLD。そっからすごいフロンと仲良くなったんだよ。

(宇多丸)そうだよね。そう。結局ね、最初のスラムダンクディスコのピリピリしながらも切磋琢磨もそうだし、結局戦った方が仲良くなるんだよね。

(K.I.N)なるんだよね。不思議だよね。

(宇多丸)不思議なもんだよね。で、たぶんそのあたりで「バトル、面白い!」っていうことになって我々は各いろんなクラブに出かけていっては、当時、何度も言いますけども完全即興でラップをできる人なんかいないわけですよ。こっちは要するに次世代のウェポンを手にして……

(K.I.N)(笑)

(宇多丸)もう要するに一方的にやりに……いままでの恨みを晴らさんとばかりに人のクラブに出かけていってはまさに辻斬り。背中から斬りつけるような辻斬りフリースタイルを重ねていったという。このへんも覚えていますか?

辻斬りフリースタイルを重ねる

(K.I.N)いろいろ行ったのは覚えていますね。で、どのタイミングで……ほら、オープンマイクもなければさ、なにも当時、そういうフリースタイルっていうかオープンマイクの場所もなかったから。どういう風な形でやっていたのかは覚えていないんだけど。1回、士郎さんとCAVEに行った時に……

(宇多丸)CAVEっていう当時渋谷にあったクラブ。

(K.I.N)っていうクラブがあって。そこでブースを見たらマイクがあったんですよ。「おおっ! これ、やっちゃおうぜ!」みたいな。で、士郎さんと2人でブースにガーッ! 行って。「YO!」なんてやっていたら店員が飛び込んできて、「なにやってんすか?」みたいな。すんげー冷たく。

(宇多丸)(笑)。それで、怒られてね。

(K.I.N)うん。怒られて。

(宇多丸)で、フォローしておくとCAVEはその後、結構日本語ラッパーのたまり場になって。もう全然フリースタイルOKになったんだけど、やっぱりそれぐらい時代がね……じゃあちょっとね、その場がない中で俺たちはどうやっていたか? に関して貴重な証言がありますので。もうちょっとね、彼が登場してくるのは1年ぐらい……94年のことだと僕は思うんだけど。こんな方からコメントをいただいておりますので。お聞きください。どうぞ!

<コメントスタート>

(PES)『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』をお聞きのみなさん、こんばんは。PESです。いろんなイベントに行ったりすると、始まりだした1、2年間だったと思いますけども。90年代頭のらへんは。で、僕もはじめてライブでFGクルーっていうのは見ていて。その同じ年ぐらいにみんながやっているイベントにお邪魔した時にメローイエローのK.I.Nさんにはじめて会ったんですけど。で、K.I.Nさんに「はじめまして」って言ったらいきなり、「お前、フリースタイルしろ」って言われたんですよ。「ジョーダン5でフリースタイルしろ」って言われたんですけど……「すごい怖いな、この人」って思って(笑)。いろんな意味で怖いなと思ったんですけど。

K.I.Nさんとかは結構巡業形式というか。人のイベントにフリースタイルっていうコーナーがない時代に、無理やりダンスイベントとかに行ったりして、フリースタイルをやるっていう興行スタイルを始めたと思うんですよね。で、それに宇多丸さんと僕は一緒に行って。毎日のようにやっていましたね。なんか……すごいですね。いま思うとね。そのコーナーがないのに、「フリースタイルをやらせて!」っていう感じで。だからその方向性をはじめて見たのはK.I.Nさんですね。

結構ダンスイベントとか普通のパーティーの方が「ワーッ!」って盛り上がったりしていたんですよ。最初の頃は。余興みたいなところもあったんで。まあ、基本的にみんなやっていたって思っていると思うんで。もう、昔すぎてあやふやになっちゃっていると思うんですけど(笑)。まあたしかに士郎さんに「K.I.Nさんだ」って言われたら「そうかもな」って思うし。「そうじゃない」っていう人がいたら、「そうじゃないかもな」って思っちゃうぐらいの感じではあるんですけど。でも、ラップイベントじゃないところでやったのは確実にK.I.Nさんだと思うんですけど。そこの部分は元祖かなとは思いますけどね。

飽きっぽいんで、すぐに飽きちゃったんでしょうね。たぶん。『フリースタイルダンジョン』、楽しみに待っています。テレビの前で。以上、PESでした。

<コメントおわり>

(宇多丸)はい。RIP SLYMEのPESでございます。ちなみにPESがいるRIP SLYMEは来週の水曜日、7月13日にライブDVDとブルーレイ『RIP SLYME Tour of Ten FINAL at BUDOKAN』。ここに私、コメンタリーで参加しておりますので。BOSEくんと一緒に先輩風を吹かしていますけども。

(K.I.N)さすがっす!

(宇多丸)ねえ。先輩風、吹かしていいるじゃないですか。初対面で、94年だと思うけど。

(K.I.N)だからその新しいウェポンを手に入れて、俺、調子乗っていたんですよ。それでFG Nightが始まって。それで「オープンマイクにしようぜ!」って。

(宇多丸)でも、少なくとも最初の2年ぐらいは本当に無敵だもんね。だって、誰もできないんだから。

(K.I.N)無敵っすよ、本当。「この武器!」みたいな。

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