町山智浩『最も危険なアメリカ映画』『さらば白人国家アメリカ』を語る

町山智浩『最も危険なアメリカ映画』『さらば白人国家アメリカ』を語る たまむすび

(町山智浩)本人が作りました。ウォルト・ディズニー自身が作ったもので。しかもこれを、連合国側の、その頃の大統領のルーズベルトとかにわざわざ見せているんですよ。つまり、「こういう風にしなさい。東京を爆撃しなさい」と。それでこのアニメ『空軍力の勝利』のいちばんラストのクライマックスは、連合国による東京大爆撃なんですよ。

(赤江珠緒)実際に……そうなりましたしね。

(町山智浩)実際になっているんですよ。でも、この映画がどのぐらい影響を与えて実際に東京大空襲が行われたか? はちょっとわからないところがあるんですけども。はっきりと、因果関係は。ただ、ウォルト・ディズニーが「東京を爆撃せよ」と言ったのは事実なんですね。そのために、わざわざ自分のお金を出して作っているんですよ。

(赤江珠緒)はー……

(町山智浩)まあ、それだけ味方の戦死者を減らすためなんだと。早く戦争が終わらすために……

(赤江珠緒)まあ、戦時中だからね。どっちも、日本にもそういうアニメとか、映画を作っていたというのはありますけども。

(山里亮太)戦意高揚の。

(町山智浩)そうなんですけども、ただすごく違うのは、「民間人を殺せ」って言っていることになるんですよね。これは。

(赤江珠緒)そうか。

(町山智浩)「戦争に勝とう」ということではなくて、いきなり頭を飛び越えて東京を爆撃しろっていうことは、それは民間人が死ぬことですから。それが、あのディズニーの素晴らしいアニメで描かれているという内容なので。これは日本ではたぶん見れないと思います。ただ、YouTubeには載っているんですけどね。

『空軍力の勝利(Victory Through Air Power)』

(赤江珠緒)ああ、そうですか。

(町山智浩)詳しくこのアニメについて、僕が書いているんですけども。それが『最も危険なアメリカ映画』なんですけども。で、この『最も危険なアメリカ映画』のクライマックスのところは、『フォレスト・ガンプ』っていう映画なんですよ。

(赤江珠緒)はいはい。日本でもヒットしましたね。

(町山智浩)トム・ハンクスが知能指数の低い青年を演じて、1960年代に彼がベトナム戦争に行ったりいろいろするという、1960年代を描いた感動コメディーみたいなやつでしたね。

(赤江珠緒)ありました。うん。

(町山智浩)でも、この映画が実はアメリカではものすごく怒っている人が多い映画なんですよ。

(赤江珠緒)えっ? そうなの?

『フォレスト・ガンプ』の問題点

(町山智浩)「許せない!」って言っている人も多いんですよ。これ、どうしてか?っていうと、『フォレスト・ガンプ』の舞台は1950年代から60年代のアラバマなんですね。で、アラバマで白人のフォレスト・ガンプがのんびり暮らしている話なんですけども。それで、ベトナム戦争に行ったりするんですが……この映画、アラバマで起こっていた重大な事件を一切描いていないんですよ。アラバマには、モンゴメリーという市があって、そこでキング牧師が黒人の人権を獲得するために、ものすごい戦いをしていたんです。50年代、60年代は。

(赤江珠緒)うん、うん。

(町山智浩)一切出てこないですよ。『フォレスト・ガンプ』には。全く出てこないんですよ。キング牧師の「キ」の字も出てこないです。

(赤江珠緒)そっか。あのお話、ちょっとそういう時系列みたいなのが出てきたりしてましたもんね。

(町山智浩)そう。公民権運動が全く出てこなくて、黒人差別も出てこないんですよ。1ヶ所だけ、黒人が白人の大学に行くことになって、それを妨害しているところにフォレスト・ガンプが出くわすっていうところはあるんですけども。一体どうしてそうなっているのかが全くわからないです。『フォレスト・ガンプ』って見ていると。それに至った黒人差別であるとか、それに対する反差別の運動が全く描かれていないから、あのシーンだけボトッとあるんですけど……そういうのがまるでわからないんですよ。

(赤江珠緒)そっか。

(町山智浩)でも、アラバマは当時は全世界が注目していて。もう延々と何年にもわたって……1950年代半ばから1965年にかけて、ものすごい闘争が続いていたわけですね。黒人と白人の。全然出てこないっていうのは、それはあり得ないんですよ。

(山里亮太)あえて隠しているとしか思えない。

(町山智浩)あえて隠そうとしなければ、隠れないんですよ。

(赤江珠緒)そっか。ちょっとニュースっぽいものが差し込まれてましたもんね。あの映画ね。

(町山智浩)そう。いろんなニュースが差し込まれているにもかかわらず、黒人の人権運動に関しては一切出てこないんですよ。だからこれは完全に、南部の黒人差別を隠すことになっているんですよ。『フォレスト・ガンプ』っていうのは。ただひとつだけ出てくるのは、黒人の過激派のブラックパンサーの人たちが出てきて。それがものすごい悪い人たちとして描かれるんですよ。要するに、黒人差別を描かないで、黒人の運動の過激で悪い人だけを描くというやり方になっているんですよ。だからものすごい実際の歴史をねじ曲げているんで、非常に怒っている人が多い映画なんですね。

(赤江珠緒)そうだったんですか。

(町山智浩)あと、もうひとつ。ベトナム戦争に対する描き方が、ベトナム戦争にフォレスト・ガンプが行くんですけども、ベトナム戦争に勝ったか負けたかがわからないんですよ。映画の中で。いつ間にか終わっていて、負けているんだけど「負けた」ということは出てこない上に、ガンプが「ベトナム戦争はどうでしたか?」ってインタビューされる時に、音声が聞こえないんですね。演説するところでベトナム戦争について彼が語る時に、音声が消されちゃっているんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)それが実は、シナリオでは……っていうか、トム・ハンクス自身は実際に映画の撮影現場では「ベトナム戦争では故郷に帰れないで死んだ人もいっぱいいて、悲しいことです」と言っているんだけど、その音声を消しちゃっているんですよ。『フォレスト・ガンプ』の中では。

(赤江珠緒)うーん!

(町山智浩)「ベトナム戦争は悪かった」っていうことを全部消しちゃっているんですよ。『フォレスト・ガンプ』って。

(赤江珠緒)ちょっと都合の悪そうなところは、全部なかったことに?

(町山智浩)そう。だからなんでこんなになっちゃっているんだ? というようなことをいろいろ書いているのが、この『最も危険なアメリカ映画』ですね。だから、危険っていうことでね、実際に見れなくなっちゃった映画だったり、危険な示唆を出しちゃった映画だったり、禁じられていたり、封印されていたり。あと、普通に見られているのに、『フォレスト・ガンプ』みたいによく考えると非常にプロパガンダ映画として危険だという映画だとか。そういったものを集めています。

(赤江珠緒)いくつもの映画が載っていますからね。それが『最も危険なアメリカ映画』。

(町山智浩)はい。そうです。あ、時間がなくなっちゃった。すいません。もう1冊の方はですね、『さらば白人国家アメリカ』というタイトルで、講談社から10月28日に発売されます。これはですね、ずっと僕アメリカ大統領選を追っかけていたんですけども。それを時系列で、リアルタイムで最初から最後まで並べた本なんですよ。で、たぶんドナルド・トランプがどうして候補になっちゃったか?っていうことがわかりにくいと思うんですよ。日本の人は。予備選をあんまりちゃんと報道されていなかったし。

(山里亮太)そうですね。「過激な人」っていう。

(町山智浩)そう。なんでこんなものが候補になっちゃったんだろう?って。

(赤江珠緒)いまとなってはね、なんでこの人が?っていうね。

(町山智浩)そうそうそう。それを全部時系列で書いている本で、しかも各選挙の現場に僕、自分で行ってます。『たまむすび』では現場から話とかしてきましたけども。で、その背景にあるのは、白人の国としてのアメリカがもう終わるんだということが見えてくるはずなんですよ。だからもう、2040年代には白人は50%を切っちゃうんですけども。で、今回は白人大統領が出る最後の可能性があった、ラストチャンスに近かったんですね。それで、トランプが出てきたっていうことをいろんな形で分析している本が『さらば白人国家アメリカ』で、28日に出ます。これ、もう時間がないんで。

『さらば白人国家アメリカ』

さらば白人国家アメリカ
Posted with Amakuri at 2018.3.19
町山 智浩
講談社

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)これ、2冊ともリスナーの方々5名様ずつにプレゼントします。

(赤江珠緒)ありがとうございます。

(中略)

(山里亮太)いや、すごいね。

(赤江珠緒)でもこれ、両方の角度からアメリカが見えてくるということで、面白いですよ。町山さん。

(山里亮太)『最も危険なアメリカ映画』ではトランプは60年前の映画で予言されていたっていう……

(町山智浩)はい。そうなんですよ。ドナルド・トランプとそっくりな人がね、映画の中で昔から出てきているんですよ。で、「こういうものを出しちゃいけないよ」っていう映画が何本も作られているのに、出てきてしまいましたっていう話もありますので。

(山里亮太)へー!

(赤江珠緒)なるほど、なるほど。ねえ。今日もお時間いっぱいになってしまいました。町山さん、ありがとうございます。

(町山智浩)はい。じゃあ、よろしく。来週、日本に行きます。

(赤江珠緒)はい。来週に帰国中ということで、スタジオ登場予定です。町山さん、今週もありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした!

<書き起こしおわり>

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