町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で、ダニー・ボイル監督、マイケル・ファスベンダー主演の映画『スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)』について話していました。
(町山智浩)今日はですね、『スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)』というタイトルのスティーブ・ジョブズについての映画を紹介します。
(赤江珠緒)わかりやすい。
(町山智浩)はい。まあ、アップルを作った人ですけどね。この方は2011年に亡くなっているんですけど。ああ、嫌だな。56才ですね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)もう自分がその歳に近づきつつあるので、なんか嫌な感じがしますけど。
(赤江珠緒)ああー。そうかー。
(町山智浩)もうそんな歳ですよ。もう本当に悲しいですけど・・・
(赤江珠緒)あんなに下ネタを活き活きとしゃべっている人が。
(山里亮太)あのジョブズと比べると、みんな自分のことをね・・・
(町山智浩)精神年齢がね。あ、精神年齢、似たようなものです。スティーブ・ジョブズさんとはね。この人も、いろいろと問題がある人だったんですけど。
(赤江珠緒)ああ、そうなんですね。
(山里亮太)じゃあ一緒だ(笑)。
(町山智浩)はい。あの、どういうイメージですか?たとえば赤江さんは。スティーブ・ジョブズさんっていう人は?
(赤江珠緒)なんかやっぱり日本に来て、禅とかをやってらっしゃるイメージですね。
(山里亮太)そこですか?
(赤江珠緒)やっぱりなんか、すごい偉人っていう感じがしますけど。
(山里亮太)そうよ。企業家の憧れの的みたいなね。
亡くなる直前、すごく評判が悪かった
(町山智浩)ああ、そうですか?ああ、この人でも、亡くなる直前はものすごく評判が悪かったんですよ。
(赤江珠緒)ええっ?
(山里亮太)なんかすごい誰もが憧れる。この人の言葉とかね、本になったりとかしてるぐらいだから。そういうすごい人なイメージですけど。
(町山智浩)いや、もうとにかく独裁者で。もう社員をみんなの目の前で罵倒してクビにして。それをまたその場で社員に録音されて、ネットに流されてたりしてましたからね。
(赤江珠緒)ええー、そうですか!?
(山里亮太)悪いイメージ、ないですよね。あんまり。日本では。
(町山智浩)そう。自分で立ち上げた企画を社員に任せたら上手く行かなかったから、『俺の素晴らしいアイデアがお前のせいでダメになったんだ!』ってみんなの前で罵倒したりとかですね。『いますぐ出て行け!』みたいな。
(赤江珠緒)うわっ!結構やりづらい感じの人ですね。
(山里亮太)嫌な天才。
(町山智浩)まあ、面倒臭い人だったみたいですね。すごくね。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)自分が服とかを選ぶのは時間がもったいないっていうんで、全員に同じ、自分がいつも着ている黒いタートルネック、あるじゃないですか?と、あのジーパンを社員の制服にしようとして、押し付けようとしたら『ふざけるな!』って言われて怒られたりとかね。社員にね。
(山里亮太)他人にまで?へー!
(町山智浩)そう。なんでそんな・・・自由を求めて彼はもともとパーソナルコンピューターっていうものを作ったはずなのに、どんどん独裁者になっていって。自分自身が掲げた理想を裏切っていったんですよね。死ぬ前にね。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)たとえば・・・そうだ。アップルっていうコンピューターがなぜそんなにすごいって言われたか?っていう根本的な話をまずしますと、彼がアップルっていうコンピューターを出すまで、パーソナルコンピューターっていものは基本的に、あまりなかったんですよ。
(山里亮太)そうなんでしたっけ?
(町山智浩)そうなんですよ。そもそもコンピューターっていうのは、前はですね、IBMが作っていたんですけど。大会社とか国家とか軍事関係とか。そういったものが持っているもので。個人が持つものじゃなかったんですよ。
(赤江珠緒)はー!
(町山智浩)だから、体制側とか企業側とか資本家側の、はっきり言って、まあ抑圧する側のものだったんですね。イメージとして。
(赤江珠緒)ほー。うんうん。
(町山智浩)だから、その当時のSF映画。1970年の未来を描いた映画ではコンピューターっていうのは大抵、悪の管理の道具だったんですよ。
(山里亮太)ふん。
(町山智浩)それを、そうじゃなくて、1人1人の手に与えることによって民主化がなされるっていうことで、パーソナルコンピューターっていうのは一種、政治的な理想としてまず、掲げられたんですよ。
(赤江珠緒)ああ、そういう。なるほど。
(町山智浩)で、自由にコンピューターっていうのは作って改造していっていいんだと。完全にこれを自由化しないと、企業とかエリートに独占されてしまう。国家とかに。情報が。だからこれを1人1人のものに、自由に扱えるようにしようってことでパーソナルコンピューターが提唱されて。それを実現に持っていったのがアップルなんですよ。
(赤江・山里)へー!
(町山智浩)だから、政治的に非常に重要なものだったんですよ。
(赤江珠緒)壮大な思想にもとづいたことだったんですね。へー!
(町山智浩)そうなんです。だから元ヒッピーの人たちが開発したものなので。で、ヒッピーの・・・スティーブ・ジョブズもヒッピーだったわけなんですけども。ヒッピーが、要するに政治的闘争でベトナム戦争では敗北したわけですね。ベトナム戦争を中止させようとしたけど、できなかったわけですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)アメリカの保守的な右派勢力に選挙で負けまして。大統領選で。ベトナム戦争は結局やめられなかったと。で、その敗北感っていうのがコンピューターで復讐戦を挑むっていうことだったんですよね。ヒッピーの人たちが。
(赤江珠緒)はー。ええ、ええ。
(町山智浩)ところがアップルっていうのは最終的には内部を、情報公開をしないで、改造ができない。他のメーカーが自由にアップルのコンピューターを作ったり。コンパチブルって言うんですけども。アップルと互換性のあるコンピューターを作ったりすることができないっていう風に、完全に独占体制になっちゃって。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、スティーブ・ジョブズ自身が最初に言っていた理想とまったく逆の方向に行っちゃったんですよ。
(赤江珠緒)はー。あまり他を寄せ付けなかった?
(町山智浩)そうなんです。独裁者になっちゃったんですね。王様を憎んでいたからこそ、自分がトップに立ったら王様になっちゃったんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
過去のスティーブ・ジョブズ映画との違い
(町山智浩)ということで批判されていたんですよ。結構、死ぬ前は。で、亡くなってからすでにもうスティーブ・ジョブズに関する映画はこの映画を含めて3本も作られているんですよね。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)で、1本目は亡くなった翌年に作られたんで。結構あわてて、アップルを作る時の話を映画にした『スティーブ・ジョブズ』っていうタイトルの映画でしたけど。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)で、2本目は去年公開された映画で、これは完全にドキュメンタリーで。スティーブ・ジョブズの周りの人たちに話を聞いていくっていう『スティーブ・ジョブズ マシンの中の男』っていう映画なんですね。それはさっき言ったみたいにスティーブ・ジョブズっていうのは最初は理想を掲げて自由を、民主主義を掲げたのに、どんどん独裁者になっていきましたっていう話になっていました。
(赤江珠緒)ふんふんふん。
(町山智浩)で、今回が3本目なんですよ。で、どういう映画だろう?と思って。もう2本も作られているのに、いまさら何をやるんだろう?と思っていたんですよ。僕。そしたらね、すごく不思議な映画でした。今回の『スティーブ・ジョブズ』は。
(赤江珠緒)そうですか。いままでとまた違う?
(町山智浩)いままでとぜんぜん違いましたね。っていうのは、これ、三幕構成のお芝居みたいになっている映画で。今回の『スティーブ・ジョブズ』は。で、それぞれの話がですね、30分ぐらいのリアルタイムの芝居になっているんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、一本目が1984年にアップルの株主総会で初めてマッキントッシュ。マックを世界にお披露目した時の株主総会の幕が開く30分前の舞台裏のドタバタを描いているのが最初の30分です。一幕目になります。
(赤江珠緒)ええ、ええ。
(町山智浩)で、そこでマックが誕生するわけですね。で、二幕目は、その後スティーブ・ジョブズってクビになっちゃうんですよ。アップルを。自分が作った会社なのに。ワンマンだからね。で、自分で別の会社を作って、1988年にネクスト(NeXT)っていう新しいワークステーション。教育用のコンピューターシステムを発売した時の発表会の幕が上がる30分前の出来事。幕が上がるまでの30分間の出来事が二幕目なんですね。
(赤江珠緒)はー。ええ、ええ。
(町山智浩)で、三幕目は1998年に、アップルがまた経営が傾いたんでスティーブ・ジョブズが呼びもどされて、また社長になるんですね。そこで、iMacを発表したんですけど。そのiMac発表会の幕が上がるまでの30分間。
(赤江珠緒)あ、全部発表までの?
(町山智浩)っていうのが3つ。そうそう。だから幕が上がってからは画面に出てこないんですよ。
(赤江珠緒)あ、出てこないんですね。へー。その直前まで。
(町山智浩)幕が上がるまでの、舞台裏でドタバタやっている30分間がリアルタイムで描かれるんですよ。30分ずつ。
(赤江珠緒)へー!
(山里亮太)そこの30分だけの繰り返しで、内容って伝わってくるもんなんですかね?
(町山智浩)だからすごく変な映画なんですよ。ずーと幕は裏側からしか映されないし。その、ステージの実際になにをやるか?とか見せないんですよね。準備しているところしか見せないんです。すごい不思議な映画になっていますね。だからこれ、たぶんね、舞台劇として再現可能でしょうね。
(赤江珠緒)はー。でもこの三場面を選んだっていうことは、これによってなにかスティーブ・ジョブズのことを語れる場なんですか?それぞれが。
(町山智浩)そうなんですよ。だからまず一幕目はマックを発売して。コンピューターの歴史を変えるっていうその直前っていうことなんですね。で、それがまたすごくおかしくてですね。相変わらずスティーブ・ジョブズの評判通りなんですよ。っていうのは、その時にマックを動かした時にですね、『みなさん、こんにちは。私はマッキントッシュです』って自己紹介をコンピューターにさせようとしたんですね。音声で。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)したら、それが動かないことがわかって。もう怒鳴り散らすわけですよ。スタッフを。
(赤江珠緒)まあ、そりゃあそうですよ。世紀の発表みたいにね、大々的にやるわけですからね。
(町山智浩)そうなんですよ。『これで俺は革命を起こすのに、テメーら、何やってんだ、バカヤロー!』みたいなことを言って、大暴れしてるんですね(笑)。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)で、そういう。『ああこの人、ヤベーな。面倒くせー人だな』みたいなところが最初に出てくるんですけど。そこに、その楽屋にですね、ステージが始まる直前に、ちっちゃい女の子が来るんですよ。5才ぐらいの。
(赤江珠緒)ふんふん。
(町山智浩)で、その女の子を連れて来た人が『あなたの娘、リサよ』って言うんですね。
(赤江珠緒)えっ?そんなドタバタしてる時に?
(町山智浩)スティーブ・ジョブズさんは、高校時代に付き合っていた女性と同棲してですね。それで、子供を作っているんですけど。それがリサっていう女の子なんですね。ところが、彼は彼女を自分の娘だって認めなかったんですよ。
(赤江珠緒)ふん。
(町山智浩)で、何度も何度もそのお母さんが連れて、まあ『養育費を払ってよ』みたいなこととかやっているんですけど。で、DNA検査で父親だって認定されたのに、それでも拒否し続けたんですよ。
(赤江珠緒)えっ?それはひどいじゃないですか。
(町山智浩)ひどいんですよ。で、今回の映画はどうしてそんな人なのか?っていうのを、まあ一種、軸として。スティーブ・ジョブズっていう人間の一種の軸として描いている映画なんですね。なぜ、彼は自分の娘を父親として引き受けなかったのか?と。で、それが彼自身の暴君的な性格の根本になっているんじゃないか?っていう風に推察していく映画なんですよ。
(赤江珠緒)ふんふんふん。
(町山智浩)だって、どう考えてもおかしいわけですよね。だって、DNA検査で娘だって出ている上に、そのお母さんと同棲してたんですよ?だから、どう考えても自分の娘なのに、『ふざけるな!何しに来たんだ?』って。『そんなの、俺の子じゃねえ!』とか言ってるんですよ。子供の目の前で言うんですよ。
(赤江珠緒)ええっ?
(町山智浩)ひどいんですよ。で、まあその時にですね、アップルの最初のマックのお披露目の時にですね、スティーブ・ジョブズがある歌を引用するんですね。で、ちょっとその歌を聞いてもらえますか?ボブ・ディランの『時代は変わる』です。
ボブ・ディラン『時代は変わる』
(町山智浩)はい。この歌はですね、ものすごく・・・この歌、ボブ・ディランの『時代は変わる』っていう歌なんですけど。この歌はものすごく重要な歌なんですよ。アメリカの歴史にとって。これは、1964年にボブ・ディランが歌ったんですけど。
(赤江珠緒)はい。
(町山智浩)まあ、『お父さん、お母さん、マスコミの人たち。いま、時代は変わろうとしてるんだ。あんたたちが信じているものとか、全部変わっちゃうんだよ』っていう歌なんですよ。
(赤江珠緒)へー!えっ、64年に?
(町山智浩)で、その後、本当に変わったんですよ。ビートルズがまず、もうアメリカ中で大ヒットしてですね。で、まず長髪っていうものが出てくるわけですね。髪の毛を伸ばすとか。それから、黒人の人権がなかったところにですね、人権を認めるっていう法律に変わっていって。で、女性の人権も認められて。今度、ベトナム戦争に対する反対運動でアメリカ国内がめちゃくちゃになっていくわけですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、会社に入って偉くなるっていう人生の道がひとつだったのが、それを全部、若者たちが否定して。ヒッピーになって、学校を飛び出して、会社にも行かないで、新しい生き方っていうものを探すようになって、大変な革命が起こるんですね。
(赤江珠緒)ふーん。
(町山智浩)これを『カウンター・カルチャー』って言うんですけど。すべての若者がアメリカの基本的な価値観に絶対的に『NO!』という形で反抗を示して。まあ、世界的にそれが広がっていって。若者革命の時代になるんです。60年代後半は。で、それを予言したのがこの歌なんですよ。
(山里亮太)へー!
(町山智浩)『こういう時代が来るよ。革命が来るよ』っていう歌なんですね。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)で、これを、実際は革命が起こったんだけど、負けちゃったんですよ。結局、その若者革命っていうのが。で、結局みんな若者たちはサラリーマンになっちゃったんですけど。世界中のね。で、ところがまだ革命の戦いを続けているのが、スティーブ・ジョブズだったんですよ。
(山里亮太)はー、なるほど。
(町山智浩)それで、そのパーソナルコンピューターっていうのを発明して。これで世の中を変えるんだ!ということでこの歌の歌詞を引用したんですね。その発表会で。
(赤江珠緒)発表会の時に、実際に。へー。
(町山智浩)実際に。彼は朗読しただけなんですけど。この歌は流さなかったんですけど。で、このボブ・ディランっていうフォークシンガーはアメリカでは60年代にすごく反体制的な歌を歌って、シンボル的な存在だったんですけど。学生たちの。で、スティーブ・ジョブズは彼をものすごく尊敬してて。もともとその、アップルを一緒に作った・・・アップルの実際のコンピューターを作ったのは、スティーブ・ウォズニアックっていう高校生の友達なんですけども。
(山里亮太)うん。
(町山智浩)高校の同級生なんですけども。あの、スティーブ・ジョブズっていうのは実際にコンピューターを作ったり、プログラムできなかったんですよ。
(山里亮太)えっ?あ、そうなんだ。
(町山智浩)そうなんです。実際に作ったのはスティーブ・ウォズニアックっていう高校のダチなんですよ。同級生なんですよ。で、この2人が仲良くなったのは、ボブ・ディランのファンってことで仲良くなってるんですよ。
(赤江珠緒)へー!でも圧倒的にスティーブ・ジョブズの名前の方が有名なんですよ。ねえ。
(町山智浩)そうなんですよ。みんなスティーブ・ジョブズがコンピューターを作る人だと思っているんですけど、とんでもない間違いなんですよ。で、実際に作っていた高校の同級生のウォズニアックさんもこの映画の中に出てきてですね。スティーブ・ジョブズに文句を言うところがあるんですよ。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)『君はプログラムもできないし、コンピューターもいじれねえじゃねえか!いままでずっとやってきたのは僕じゃないか!』って言うんですよ。
(山里亮太)うわっ、言っちゃうんですね。
(町山智浩)言っちゃうんですよ。で、『でも君はビートルズだったら、まるでジョン・レノンみたいに振る舞っているけども。僕はまるでリンゴ・スターみたいな扱いを受けているけど、君は楽器をできないくせに「バンドをやっている」って言ってるようなもんだよ!』って怒るシーンが出てくるんですけどね。スティーブ・ジョブズに対して。
(赤江珠緒)おおー!
(町山智浩)で、そのシーンも結構ひどくて。『俺はリンゴ・スターじゃない!』って怒るんですけど。ウォズニアックさんが。それ、リンゴ・スター言われてる方、かわいそうですよね。
(赤江珠緒)リンゴ・スターもいい迷惑だな、それ(笑)。
(町山智浩)リンゴ・スターだってちゃんと、ねえ(笑)。『ひどいな、これ』とか思いましたけど。結構そういう人なんですよ。スティーブ・ジョブズは。人の手柄を横取りしたりするタイプの人なんですね。
(赤江珠緒)あらー!
(山里亮太)へー。だから全企業家の憧れの人みたいなイメージで、勝手に見てたんだけど。違うんですね。
(町山智浩)そうじゃないことがこの映画で描かれていくわけですけど。で、その3つの時代をつないでいるのがボブ・ディランの音楽なんですね。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)スティーブ・ジョブズが大好きだった音楽っていうことで。で、次にですね、1984年にマックを発表して、革命が起こってから、88年にクビになって違う会社に行くそのつなぎの部分でかかる曲がありまして。ボブ・ディランの歌で。これね、『雨の日の女』っていう歌なんですけど、聞いてもらえますか?
(赤江珠緒)ああ、なんか想像してたのと違う。
(山里亮太)なんか、『あまちゃん』とかでかかってそうな感じ。
(町山智浩)そうそうそう(笑)。これ、『あまちゃん』の音楽に似てますね。
(山里亮太)そうですよね。『あまちゃん』でかかっていてもよさそうな。
(町山智浩)これね、ものすごくふざけた歌なんですよ。『雨の日の女』っていうタイトルなんですけど、ぜんぜん雨の日の女と関係なくて。この変な陽気な歌詞でボブ・ディランが歌っている歌は、『人は何をしても、世間は石を投げてくるんだよな』っていう歌なんですよ。『一生懸命いいことをやっても、世間はなんか文句をつけて、石を投げて来やがる』っていう歌なんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)で、これがここでかかるっていうのはすごく面白くて。この時、スティーブ・ジョブズはせっかくアップルでマッキントッシュを売りだして。マックを売りだして、コンピューターに革命を起こしたのに、クビになっちゃうんですよ。
(山里亮太)はいはい。そうですよね。
(町山智浩)だからやっぱりこの歌はすごくぴったり合っているわけですよね。
(山里亮太)ああ、石を投げられている自分の状況を。
(町山智浩)そう。『世間は石を投げてくる』と。で、でもクビになるのは仕方がないような人なんですけど。この映画の中で見ていると。
(山里亮太)何をしてたんだろう?(笑)。
(町山智浩)そこでこの娘がね、9才か10才ぐらいになって、また楽屋に訪ねてくるんですね。その1988年のネクストっていう、これね、教育用のワークステーションで。一般に売るんじゃなくて、学校とかに納品するためのコンピューターシステムを彼は考えて。まあ、それを売り出したんですけども。その発表会の楽屋にまた、10才ぐらいになった娘が来るんですね。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)でも、それをまた拒否するんですよ。ジョブズは。『お前なんか、出て行け!』みたいな感じで。
(赤江珠緒)うわー・・・ちょっと人でなしだな。へー!
(町山智浩)結構人でなしなんですよ。
(山里亮太)へー。イメージ、違うな。
(町山智浩)ただね、その娘に『出て行け!』って言っている時にね、後ろでかかっている音楽っていうのが、そのボブ・ディランの『血の轍』というアルバムがあって。1975年のアルバムなんですけど。そこの中から『朝に会おう』っていう曲がラジオからずっと流れているんですね。娘とのシーンで。
(赤江珠緒)うんうん。
ボブ・ディランのアルバム『血の轍』
(町山智浩)で、ところがこの『血の轍』っていうアルバムはボブ・ディランにとって強烈なアルバムなんですよ。っていうのはこれ、アルバム1枚まるごと、その頃別居していた奥さんに対して歌われた歌だけが入っているんですよ。
(赤江珠緒)えっ、ボブ・ディランが?
(町山智浩)これね、ボブ・ディランはこの頃ですね、奥さんと別居してたんですね。で、奥さんとの間にはもう4人も子供がいたんですけど。それでもう、10年ぐらいたっているんですよ。結婚してから。
(赤江珠緒)ふんふん。
(町山智浩)でもね、ボブ・ディランも人の子なんで。やらかしまして。ちょっと、やらかしまして。下半身の方で。それで、奥さんと別居してたんですけど、その時にアルバム1枚。9曲ぐらいある歌を全部、『君と会えなくて寂しいよ』とか『辛いんだ』っていう歌ばっかりなんですよ。あと、夫婦喧嘩の歌とか。
(赤江珠緒)(笑)。『血の轍』?そうやって聞くと、なんか・・・
(町山智浩)『血の轍』っていうタイトル通りの内容なんです。で、それをその娘を拒絶するシーンで流しているっていうのはすごく意味があって。『本当は、この娘を引き受けたいんだよ』っていう彼の、スティーブ・ジョブズの内面みたいなものを意味しているんですね。
(赤江珠緒)うんうんうん。
(町山智浩)家族のもとに戻りたいっていう歌なんで。ボブ・ディランのそのアルバムがね。だからそういうすごく不思議な使い方をしていますね。音楽の。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)はい。でね、まあこのボブ・ディランっていう人もすごくて。そのアルバム1枚まるごと、奥さんに対して『帰ってきてくれ。もう1回、一緒にやり直そう』っていう歌なのに、奥さんに拒否されたので、『じゃあもうはっきりストレートに言えばわかるだろう?』と思って、奥さんの名前、サラって言うんですけど。その後、『サラ(Sara)』っていう歌まで作っているんですよ。
(赤江・山里)(笑)
(町山智浩)で、その歌の歌詞がまたすごくてね。『サラ。僕の奥さん。行かないでくれ』っていう歌詞なんですよ。
(赤江珠緒)ストレートすぎるよ!
(町山智浩)そのまんまやんか!っていうね。それでもね、離婚されちゃったんですけどね。はい。
(赤江珠緒)そうかー。歌の力も無理だったか。
(町山智浩)そこまでストレートに歌ってもダメかいな!?みたいなね。それも、世界一の歌手が歌っても、ダメだったんですね。ちなみに奥さん、離婚した時にボブ・ディランの歌の著作権、半分持っていきましたけどね。
(赤江珠緒)(笑)
(山里亮太)おおー!たくましい!
(町山智浩)アメリカの離婚は全部半分に分けるから。夫婦で。大変なことになるんですけどね。はい。そういうね、歌が背景に流れているところが、上手くね、スティーブ・ジョブズと重なりあう不思議な映画でしたね。
(赤江珠緒)へー!
(山里亮太)この前ご紹介いただいたね、映画も歌とね、映画がリンクしていくっていう。ご紹介いただきましたけど。
(町山智浩)そうなんですよ。でね、まあ最後にね、非常に泣かせるね、『嵐からの隠れ場所』っていう歌が流れるんですけど。いま、かけてもらおうと思いますけど。これが、『君は僕に嵐からの隠れ家をくれるんだ』っていう歌なんですけど。『2人の間には壁があったんだ』みたいなね。娘との間の関係みたいなものにも聞こえるっていう歌なんですね。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)それがね、まあ『スティーブ・ジョブズ』っていう映画なんですが。こんなひどい人ですが、最後はあの、映画ですから。いい感じになりますけどね。
(赤江珠緒)ふーん!ああ、そうですか。
(町山智浩)はい。ただね、これね、ものすごく『実際のスティーブ・ジョブズと違う』ってものすごく批判されているんですけど。たぶんこれは、シナリオを書いたアーロン・ソーキンっていう人が、たぶんスティーブ・ジョブズをシェイクスピアの『リア王』にたとえたんですね。
(赤江珠緒)ほう。
(町山智浩)シェイクスピアの『リア王』っていうのは、まあ自分のいちばんいい娘だった末の娘を勘当しちゃうんですよ。生意気だって言って。本当はいい娘だったのに。で、最後にその、実はいちばん自分のことを思っていた娘なんだってことがわかって、和解するっていう話なんですね。
(赤江珠緒)ふーん!なるほど。
(町山智浩)だからこれはスティーブ・ジョブズをリア王に当てはめたシェイクスピア的解釈をしているんだなって思いましたけどね。
(赤江珠緒)そうですか。ちょっとスティーブ・ジョブズさんの見方が変わりますね。これはね。
(町山智浩)これ見ると、変わりますよ。結構ダメ人間ですね。はい。
(赤江珠緒)そっかー!
(町山智浩)あ、ちなみに演じているのはハリウッド一の巨根と言われているマイケル・ファスベンダーさんです。はい。
(山里亮太)(笑)
(赤江珠緒)もう50を超えているからね。町山さんね、そのあたりはいいんですよ。落ち着いて。
(町山智浩)あ、そうですか?はい。今回、楽屋裏でシャワーシーンがあるかと思ったけど、なかったです。はい。
(赤江珠緒)あ、いいんですよ。もういいんですよ。今日は映画『スティーブ・ジョブズ』をご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。
(町山智浩)はい。どもでした。
<書き起こしおわり>