松尾潔 1975年アメリカ R&Bチャートを振り返る

松尾潔 1975年アメリカ R&Bチャートを振り返る 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中で1975年のソウルチャートを振り返り。この年にヒットした曲を聞きながら、解説をしていきました。

(松尾潔)続いては、こちらのコーナーです。いまでも聞きたいナンバーワン。2010年3月31日に始まった『松尾潔のメロウな夜』。この番組は、メロウをキーワードにして、僕の大好きなR&Bを中心に大人のための音楽をお届けしています。ですが、リスナーのみなさんの中には『そもそもR&Bって何だろう?』という方も少なくないようです。そこでこのコーナーでは、アメリカのR&Bチャートのナンバーワンヒットを年度別にピックアップ。歴史的名曲の数々を聞きながら、僕がわかりやすくご説明します。

第30回目となる今回は、1975年のR&Bナンバーワンヒットをご紹介しましょう。久々の70年代ですね。75年という年をいま、おおまかに説明するならば、ソウル・ミュージックが豊かに実り、そしてディスコのビートに侵食される前。そんな時期と言えるんじゃないでしょうか。わかりやすく言いますとね、まあ、僕の語彙でお話させてもらうと、「『What’s Going On』以降、ディスコ前」。これ、自分で言っていていちばんしっくり来るんですけどね。まあ、豊穣なるソウル・ミュージックの実りの1年でございました。

まずはね、1曲、2曲聞いていただきましょうか。ご説明の前に、サウンドの方が雄弁かなと思いますので。この時代を象徴する2組。バリー・ホワイト(Barry White)、いかがでしょうか。バリー・ホワイトの『You’re the First, the Last, My Everything』。もう、この頃はバリー・ホワイトの絶頂期ですね。この1年だけでも、この『You’re the First, the Last, My Everything』以外にも、『What Am I Gonna Do With You』とか、あとはこの人の手がけたね、ラブ・アンリミテッド(Love Unlimited)の『I Belong to You』とかね、そういった曲がナンバーワンを次々に獲得した、そんな1年でした。これは1月18日付けでナンバーワン担っています。

そして、年末。12月13日付けでナンバーワンになりましたのが、ファミリーゴスペルグループ。ゴスペルを歌う家族グループ、ザ・ステイプル・シンガーズ(The Staple Singers)で『Let’s Do It Again』です。この間、2週前になりますけどね、『メロウ・パープル』と銘打ってプリンス(Prince)の追悼特集をした時に、メイヴィス・ステイプルズ(Mavis Staples)という女性シンガーの名前だけ、ご紹介したんですけども。

松尾潔 プリンス追悼特集『メロウ・パープル』
松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』でプリンス追悼特集『メロウ・パープル』を放送。プリンスからの影響を受けて誕生した楽曲たちを選曲し、紹介していました。 (松尾潔)改めましてこんばんは。『松尾潔のメロウな夜』、5月最初の放送です。...

彼女が在籍していたグループがこのザ・ステイプル・シンガーズでございます。もちろん、メイヴィスの本当に音楽業界屈指と言われる美しい力強い歌声も聞けます。では、2曲続けてお楽しみください。バリー・ホワイトで『You’re the First, the Last, My Everything』。そして、ザ・ステイプル・シンガーズで『Let’s Do It Again』。

Barry White『You’re the First, the Last, My Everything』

The Staple Singers『Let’s Do It Again』

1975年のR&Bナンバーワンヒットをお届けしております、いまでも聞きたいナンバーワン。バリー・ホワイトで『You’re the First, the Last, My Everything』に続きましては、ザ・ステイプル・シンガーズで『Let’s Do It Again』でした。ザ・ステイプル・シンガーズ、これは家族グループという風に申し上げました。メイヴィス・ステイプルズという女性シンガー、お嬢さんが中心になっているんですけども。まあ、精神的な要っていうのはお父さんでございまして。ポップス・ステイプルズ(Pops Staples)という、まあ好々爺という言葉が似合う佇まいのお父さんがいてね。ビジュアル的にも示しているように、ともすれば離散してしまう危険にいつも晒されているアフリカン・アメリカンのコミュニティーに対して、連帯を呼びかけるような歌をたくさん歌っておりました。

『I’ll Take You There』という72年のナンバーワンヒットがございまして。こちらでR&Bチャート、そしてポップチャート、どちらも制覇していたのですが。それを経験済みだったのですが、この75年の『Let’s Do It Again』で再び両チャートを制覇という。当たると大きいステイプル・シンガーズという、そういう印象がございます。で、この『Let’s Do It Again』の仕掛け人は、かの有名なカーティス・メイフィールド(Curtis Mayfield)なんですね。カーティス・メイフィールドという人はご存知のように、インプレッションズ(The Impressions)というボーカルグループのメンバーでしたが、そのグループ内の活動にとどまらぬ、溢れんばかりの才能で、ソロになって。そして、自分の作品でもたくさん名作を残していますが、それ以外にもたくさんいろんな提供曲の方でも知られております。

こういったステイプル・シンガーズのようなグループものはもう、大の得意ですね。なにしろ本人がボーカルグループ出身ですし。あとは、アレサ・フランクリン(Aretha Franklin)のね、『Sparkle』というアルバムを手がけたことでも有名ですが。中でも、このステイプル・シンガーズはカーティスにとってとても大きなヒットでしたね。なぜなら、本人が主催するレーベル、カートムレコード(Curtom Records)のヒットだったからですね。つまりもう完全にクリエイティブコントロールを握った状態で、しかも実力のあるステイプル・シンガーズにこの曲を提供して。

で、これはね、同じタイトルの『Let’s Do It Again』っていう映画の主題歌でもあったんですね。いかにも70年代を象徴するアフリカ系の俳優、シドニー・ポワチエ(Sidney Poitier)。そして、コスビー・ショーというテレビの人気ショーでも知られる、アメリカの国民的な存在ビル・コスビー(Bill Cosby)。この2人が出演した映画ですね。もうこの『Let’s Do It Again』を聞くだけで、あの70年代の黄金の日々を思い出す。ちょっと涙が出てくるよって語ったアフリカン・アメリカン、僕は何人も知っています。年配の方々ですけども。それぐらい、ちょっと時代を背負った曲ですね。バリー・ホワイトとザ・ステイプル・シンガーズをご紹介いたしました。

75年のR&Bナンバーワンヒット。合計43曲ございます。その全てをここでご紹介するのはとても叶わぬことなんですけどもね。当時を象徴するようなヒットっていうと、まあバリー・ホワイトっていうことになるんじゃないかなと思うんですが。というのは複数ね、ヒットを放っていますからそういう印象があるんですが。たとえば、オハイオ・プレイヤーズ(The Ohio Players)とか、そういった人たちも複数ヒットを放っているんですね。この年ね。

たとえば、『Sweet Sticky Thing』。もうトロトロのバラード。そして、『Love Rollercoaster』。

後にね、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)がカバーすることでも知られますけども。で、そういったヒットがあったかと思えば、たとえばアース・ウィンド・アンド・ファイアー(Earth, Wind & Fire)の『Shining Star』で、もう切り込み隊長のような活きのいいサウンドを聞かせたり。

ソロに身を転じたスモーキー・ロビンソン(Smokey Robinson)が『Baby That’s Backatcha』っていう曲を歌ってみたりとかね。

まあ本当にうーん、そうですね。豊かな、豊かな1年という気がいたします。年間を通していちばんヒットしたR&Bヒット、なんだと思います? これね、僕も調べてみてちょっと意外でした。アイズレー・ブラザーズ(The Isley Brothers)でしたね。アイズレー・ブラザーズの『Fight the Power (Part 1)』。いまのアイズレーっていうと、トロトロのベイビー・メイキング・ミュージック。もう本当にベッドの上で戯れるための曲みたいなイメージが強いんですけども。この頃はやっぱりファンク路線の曲のヒットが強かったですね。しかも、もっと言えばこれはファンクと言うよりも、『Fight the Power』はブラックロックという言葉が添えられてヒットした、そんなイメージがございます。

なにしろね、この『Fight the Power』。同じタイトルの曲を80年代の終わりにね、パブリック・エナミー(Public Enemy)がラップの、それもまたラップヒストリーの中の超名曲としていまでは知られますけども。メッセージを継承したわけですね。このアイズレー・ブラザーズのね。それぐらい、影響力があったアイズレー・ブラザーズ、75年のことでございました。

で、この後に1曲、なにをご紹介しようかなと思ったんですが、うーん。これまた、いまの気分で、やっぱりメロウな夜に相応しいのはこちらかなと思って、こんな曲をピックアップしてみました。メジャー・ハリス(Major Harris)です。メジャー・ハリスで、これは6月7日付けナンバーワンに輝いております。『Love Won’t Let Me Wait』。

Major Harris『Love Won’t Let Me Wait』

お届けしましたのはメジャー・ハリスで『Love Won’t Let Me Wait』。これはR&Bチャートナンバーワン。そしてポップチャートでも五位まで上がったんですね。まあ、メジャー・ハリスにとっての名刺的な1曲と言えます。間違いないです。メジャー・ハリスという人はもともとデルフォニックス(The Delfonics)というボーカルグループのメンバーでございまして。デルフォニックスも名門として知られていますが、ソロになってからハマッたこの『Love Won’t Let Me Wait』。やはり印象深いですね。

ルーサー・ヴァンドロス(Luther Vandross)がこれを90年代にカバーしたことでまた再注目が集まりましたし、ルーサーが亡くなって、さらにそのルーサーバージョンを踏まえて、ジョン・レジェンド(John Legend)もこの曲を歌いましたね。なんかこういう風に話してみますと、スタンダードナンバーを紹介するコーナーみたいですけども(笑)。1975年のナンバーワンヒットということでご紹介しております。メジャー・ハリスの『Love Won’t Let Me Wait』。そして、そのメジャー・ハリスも2012年に亡くなりました。時代は流れております。このメジャー・ハリスの『Love Won’t Let Me Wait』、僕がこの曲に気づいたのは、もちろん75年ではありません。75年の時は僕はまだ小学校低学年ですからね。

いくら早熟を自負している僕でも、小学校低学年の子がこれを聞いてトロトロにはなりませんよね。で、まあそうですね。高校生ぐらいの時にはもうこの曲、メロディーを把握しておりましたけども。ずいぶんと後になって、大学生ぐらいになってからですね。メジャー・ハリスをいろいろ聞き漁るようになってびっくりしたんですけども。この『Love Won’t Let Me Wait』、結構なおじさまが歌っていると思っていたんですが、これを歌った時点で、実はまだメジャー・ハリス、20代だったんですね。28才。この色気! うーん、世の中全体がマチュアだったのか、メロウだったのか。それともメジャー・ハリスがそうなのか。はたまた、その両方なのか。たぶん答えはいちばん最後が合っていると思うんですけどもね。1975年のR&Bナンバーワンヒットをご紹介いたしました。

(中略)

さて、楽しい時間ほど早く過ぎてしまうもの。今週もそろそろお別れの時が迫ってきました。ということで、今週のザ・ナイトキャップ。寝酒ソング。これも75年のナンバーワンヒット。ジ・オハイオ・プレイヤーズの『Sweet Sticky Thing』を聞きながらのお別れです。これからお休みになるあなた、どうかメロウな夢を見て下さいね。まだまだお仕事が続くという方。この番組が応援しているのは、あなたです。次回は来週、5月23日。月曜夜11時にお会いしましょう。お相手は僕、松尾潔でした。それでは、おやすみなさい。

Ohio Player『Sweet Sticky Thing』

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/32657

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