松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』で『メロウなクリスマス』と題し、クリスマスソングを特集。後編は『メロウ&ブギー』な曲を中心に選曲されていました。
(松尾潔)改めまして、こんばんは。松尾潔です。『メロウな夜』、早いもので2015年最後の放送となりました。12月放送、2回しかなかったんですが、2回ともクリスマスソング特集ですね。今日はメロウなクリスマス 後編でございます。サブタイトルに『メロウ&ブギー』といたしましょう。まあ、ブギーだけをお届けするわけではないんですけれども。
さっきのSkoop On Somebodyの『Winter Boogie』に続いて、こんな曲をご用意しております。2013年リリースのサントラですね。タイラー・ペリー(Tyler Perry)というアフリカン・アメリカンの中でもカリスマ的人気を誇る映画監督・俳優がいますけども。タイラー・ペリーのクリスマスアルバムの中に収められておりまして。
これはもう、そうですね。この数年、世に出たクリスマス曲としてはもう屈指のブギーですね。はい。聞いていただきましょう。ケヴィン・ロス(Kevin Ross)『Favorite Thing』。
Kevin Ross『Favorite Thing』
The Jackson 5『Give Love on Christmas Day』
2曲続けてクリスマスソング、みずみずしい歌声でお届きました。まずはケヴィン・ロス『Favorite Thing』。これは2013年にリリースされましたアメリカ映画界の本当に異色の人物ですね。アフリカン・アメリカンのコミュニティーではカリスマ的な人物、タイラー・ペリーが彼の人気定番シリーズでマデアおばちゃんっていう、女装して演じるシリーズがあるんですが。そのマデアシリーズのクリスマスアルバムの中から、『Favorite Thing』という曲をお聞きいただきました。
で、このクリスマスアルバムがリリースされたのはモータウンレーベルからなんですけども。モータウンと言えばね、クリスマスソング。数々の名曲を生み出しております。もう本当に、豊かな土壌があるところですけども。その中からジャクソン5(The Jackson 5)の『Give Love on Christmas Day』。1970年の作品ですね。もちろん、リードを取っているのは若きマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)。まあ、幼き日のマイケル・ジャクソンと言ってもいいかもしれません。
『Give Love on Christmas Day』。まあ、モータウンレーベルのアーティストはこれをたくさん歌っております。モータウンというレーベルの財産と考えて差し支えないかと。つまり、会社に帰属する楽曲ということで、いろんな人がこの曲を歌い継いでいたという、そんな歴史があるんですね。先月、この番組の中でダニー・ハサウェイ(Donny Hathaway)の『This Christmas』をご紹介した時に、あれが世に出る背景として当時、公民権運動からまだ日が浅い頃のアメリカ黒人社会において、本当に自分たちで作った、いわゆる黒人としての自覚が織り込まれた、そんなクリスマス曲がまだ少なかったから、それも創作の理由のひとつになったというダニー・ハサウェイの話をしたんですけれども。
まあ、同じ時代に、ダニーのようなちょっとストイックなイメージではなくて、よりコマーシャルにブラック・オウンド・カンパニー。黒人経営の会社として大きな成功をおさめて、かつ、自社楽曲をたくさん世に出していたモータウンっていうのは、実はそれを体現していたんですね。ここからちょっと、モータウンのクリスマスソングをいくつかご紹介したいと思います。スティービー・ワンダー(Stevie Wonder)の『Someday At Christmas』。最近、新しいバージョン、デッドバージョンの方でもね、スティービーの歌声を聞くことができますけども。
これもまあ、モータウンの数あるクリスマスソングの中でも代表的な1曲かと思いますし。いろんなアーティストが名曲を出していると同時に、レーベルとしてね、『クリスマスアルバムを歌うから、今回は10組分、アーティスト参加してください』みたいな。録りおろしのコンピレーションとかも出したりしてきました。モータウンは。中でも、僕は89年のモータウンクリスマスアルバム『Christmas Cheers from Motown』。これはやっぱりよく聞きましたね。
ザ・ボーイズ(The Boys)、ジョイス・アービー(Joyce Irby)、ジェラルド・アルストン(Gerald Alston)。こういった人たちで始まって。そしてジョニー・ギル(Johnny Gill)が熱唱を聞かせたりする。もちろん、テンプテーションズ(The Temptations)とかスモーキー(Smokey Robinson)も当時、まだ健在だったという、そういう頃のアルバムですし。
94年にはモータウンの中の、モージャズという、ちょっとジャズ系のレーベルで『Mojazz Xmas Album』。こんなものも出してましたね。今日、久々に取り出してスタジオに持ってきました。いま、バックに流れております。後に、それこそダニー・ハサウェイの後継者として有名になります。フランク・マッコム(Frank McComb)の『Christmas Day』という曲も94年のアルバムに収められておりました。
まあ、そんなクリスマスソングというだけでもこれだけの歴史のあるモータウンなんですが、これからお聞きいただくのは、やっぱりモータウンの華、ボーカルグループの中では横綱と言えるでしょう。ザ・テンプテーションズ。テンプテーションズはクリスマスアルバム、複数出ておりますけども。僕が最も好きな1980年にリリースされた『Give Love At Christmas』の中から、これはクールな曲です。聞いていただきましょう。ザ・テンプテーションズ『Everything For Christmas』。
The Temptations『Everything For Christmas』
Boyz II Men『Let It Snow』
ブラックミュージックの老舗レーベル、モータウンレコードからリリースされたクリスマスソングを2曲続けてご紹介いたしました。いずれもモータウンの華。男性ボーカルグループによる作品です。まずは1980年のザ・テンプテーションズのアルバム『Give Love At Christmas』の中から、『Everything For Christmas』。これはモータウンの創立者でありますベリー・ゴーディ(Berry Gordy)とテディ・ランダッツォ(Teddy Randazzo)。この2人で作った曲なんですね。まあ、ほとんどテディ・ランダッツォが主導権を握ってやったようですね。
テディ・ランダッツォの人となりに関しては、山下達郎さんがいろんなところでよくお話しされてますけども。R&Bというよりもポップス畑の人なんですけども。まあ、テンプテーションズはね、幅広い音楽性を持っていますから。こういった曲もしっくり見えますね。クールな仕上がりだと思います。
そして、1993年リリースの『Christmas Interpretations』というヒットアルバム。こちらからの曲をご紹介しました。こちらはボーイズIIメン(Boyz II Men)ですね。ボーイズIIメンの『Let It Snow』。この曲の作者でありプロデューサーでもあるブライアン・マクナイト(Brian McKnight)をフィーチャーして。言うなれば、5人組状態で歌ったという『Let It Snow』。これはまあ、90年代のクリスマスソングとしては屈指の出来栄えじゃないでしょうかね。
曲の入りがいいですね。『Let It Snow♪』って。ブライアン・マクナイトのキャッチーな曲作りがもちろんあるんですけど、90年代もっとも愛された男性ボーカルグループであるボーイズIIメンの歌声でこのメロディーが歌われるからいいだなという、そんなことを考えながら聞いておりました。ブライアン・マクナイトが1人で歌った『Let It Snow』もすごくね、厳かな感じはボーイズIIメンと歌ったものより、むしろソロで歌った時の方が出るんですけど。
クリスマスって何て言うんでしょうね?もちろん、荘厳な儀式であると同時に、やっぱりそこに街の喧騒ですとか、個人個人のザワザワする気持ちですとか。そういった、いろんな感情が入り混じったものがクリスマスというイメージの総体だという風に思っているんで。そう考えると、やっぱりボーイズIIメンと一緒にやるのがいいんですよね。やっぱり、ワインなんかと同じですけど。ある種の雑味みたいなのが味になるっていうのがこのR&Bの世界のキモなんでしょうね。なんて、わかったようなことを言ってますけども(笑)。
『メロウな夜』でしか電波に乗るようなことのないような曲っていうのを、いつもそういう奇をてらった選曲をしているわけじゃないんですが。僕自身、この番組、いま6年目ですけども。これだけやってますと、自宅のレコードラック、CDラックのものを聞きながら、『うーん、これはメロ夜っぽいな!』とか思いながら聞く時、あるんですね。『メロウな夜』より随分前に出た曲であったとしても、『メロ夜っぽいな!』なんて思ったりするんですが。
いま、バックでお届けしております。『Mary Mary In Love At Christmas』。これ、ケリー・プライス(Kelly Price)がメアリー・メアリー(Mary Mary)をフィーチャーしてレコーディングした曲ですが。
これなんかは、メロ夜っぽいということのひとつの証明になろうかと思うんですが。久保田利伸さんが2年前にね、クリスマスシーズンにゲストにお出になった時に、『ほら、ケリー・プライスのあれ、あったじゃん』って。ケリー・プライスのクリスマスのアルバムが1枚、出てますから。それを聞いて。『たぶん、久保田さんが言ってるのはこれだろうな』と思って。『これですか?』って言ったら、『これよ!これ以外、なにがあるの?』って言われたぐらいなんですが。
実はその3年前にも、『メロウな夜』のクリスマスシーズンにかけていたというね。ええ。もうだからこれ、僕は『メロ夜クラシックス』って言ってるんですが(笑)。これからご紹介する2曲っていうのは『メロウな夜』でも初めてご紹介する曲なんですが。これ、いい意味で。みなさん、僕、言ってますよ。たぶんね、どっかで聞いたことあるような気がするはずなんです。それぐらい、この『松尾潔のメロウな夜』の性格を凝縮したような、そんな印象を与える2曲。聞いていただきましょう。
2004年にリリースされたヴァネッサ・ウィリアムス(Vanessa Williams)のホリデーアルバム『Silver & Gold』の中から、『December Lullaby』。そして、ジェラルド・リヴァート(Gerald Levert)のボーカルを久々に堪能してみましょうか。ジャーメイン・デュプリ(Jermaine Dupri)のソー・ソー・デフレーベルがリリースしました『12 Soulful Nights of Christmas』というね、90’s R&Bシーンを代表するクリスマスアルバムですが。その中から、『Christmas Without My Girl』。それではヴァネッサ・ウィリアムスとジェラルド・リヴァート。2曲続けてどうぞ。
Vanessa Williams『December Lullaby』
14:35からスタートします
Gerald Levert『Christmas Without My Girl』
2曲続けてお聞きいただきました。ヴァネッサ・ウィリアムスで『December Lullaby』。そして、ジェラルド・リヴァートで『Christmas Without My Girl』でした。もういまね、ジェラルド・リヴァートはすでにこの世にいませんから。僕はこの曲を聞く度に、『Christmas Without Gerald』だよ!と思いながらね、切ない気分で聞いちゃうんですけども。まあ、こうやって歌声が残っているっていうことは素晴らしいことですね。
さて、僕の好きなクリスマス曲をたっぷりと、先週今週とご紹介しております。まあ、R&Bベースで考えますと、先週アンソニー・ハミルトン(Anthony Hamilton)のバージョンでご紹介しました『What Do The Lonely Do At Christmas?』。オリジナルはエモーションズ(The Emotions)ですけども。このあたりが僕はもっとも好きな、特Aクラスの曲って言うことになるんですよね。まあ、アレクサンダー・オニール(Alexander O’neal)の『My Gift To You』とか、そういった曲もあるんですけども。
まあ、スタンダードなクリスマスナンバー。いわゆるスタンダードナンバーという部類に入るものでR&Bアーティストが取り上げているものということで言うと、『The Christmas Song』。この間、お話しましたね。メル・トーメ(Mel Torme)がオリジナルですけども。『The Christmas Song』。そして『Have Yourself A Merry Little Christmas』。こんな曲っていうのは僕の好みですね。『Have Yourself A Merry Little Christmas』、これも好きなバージョンはたくさんあるんですが、いまバックで流れておりますキーシャ・コール(Keyshia Cole)なんていうのは、この人は何を歌っても女の恨み節になるんで。
もう本当、深読みしたくなる。同じ曲がちょっと違った位相で楽しめるっていうが、これはスタンダードのカバーならではの魅力ですし。クリスマスではそういう曲をたくさん味わうことができます。そんなキーシャ・コールのライバルと言える存在、K.ミッシェル(K. Michelle)もクリスマス曲を出してますね。2シーズン前ですかね。『Christmas Night』という作品を作り出しましたが。これもなかなかのものでした。
今日は、そちらをご紹介したいと思います。この番組では初めてのオンエアーですね。K.ミッシェル『Christmas Night』。
K. Michelle『Christmas Night』
The Stylistics『When You’ve Got Love, It’s Christmas All Year Long』
この番組では初めてご紹介する2曲のクリスマスソング。K.ミッシェルで『Christmas Night』。これは2013年リリース。比較的新しい1曲ですね。K.ミッシェルの声で、あの譜割りで歌われると、本当にクリスマスソングという規定演技がね、いまの作品を発表する場所、いまのR&Bを提示する場所として輝きだしますよね。本当に歌う人次第だなと思います。『またクリスマス曲ね』なんて言ってナメてかかると、もったいないっていう気がしますね。
同じように、この作品っていうのも僕にとっては特別な曲ですね。92年にリリースされました、名門ボーカルグループ、ザ・スタイリスティックス(The Stylistics)のクリスマスアルバム『Stylistics Christmas』。そちらの中から、『When You’ve Got Love, It’s Christmas All Year Long』。やや長めのタイトルなんですけども。意味的には『そこに愛があれば、クリスマスは1年続くよね』っていう。そういうことですね。まあ、『毎日がクリスマス』って意訳してもいいかもしれません。
まあ、スタイリスティックスっていうとね、ご存知のようにフィラデルフィアソウルの代表的なグループでありまして。ラッセル・トンプキンスJr.(Russell Thompkins, Jr.)というファルセット使いの特徴的なボーカルでも知られております。日本でも、有名曲多いですよね。『愛こそすべて』なんていう。本国よりも日本で愛された曲なんていうのもあるぐらいの人たちですね。スタイリスティックスなんですけども。この92年の時点で、ちょっと懐メログループみたいな印象、たしかにありました。
僕もそういうイメージで捉えていたこと、いま、ここで告白しましょう。で、その時に新譜として手にとった92年に、まあそこにたくさんいろんなスタンダードのカバーが入っているわけですよ。さっきちょっとご紹介した『Have Yourself A Merry Little Christmas』も収められてますし。ダニー・ハサウェイの『This Christmas』も入ってますし、メル・トーメの歌、『The Christmas Song』も入っている。『The Little Drummer Boy』も入っている。『本当になんか普通の選曲で当たり障りない感じで入っているな』なんて思って聞いていたんですが、アルバムの中でこの7曲目に入っているんですが。
この『When You’ve Got Love, It’s Christmas All Year Long』。なんといい曲なんだ!と。このね、ひっそりと、滑りこませるようにして収められていたこのオリジナル曲の存在にノックアウトされまして。まあ、それこそこの曲のタイトルみたいに、1年中聞いているわけではないんですけど。この時期になると、このポップかつメロウなメロディーが恋しくなりますね。ザ・スタイリスティックス『When You’ve Got Love, It’s Christmas All Year Long』。隠れた名曲と言えるんじゃないでしょうか?
さて、続いては日本人アーティストの曲をご紹介したいと思います。まあ、クリスマスと言うとね、さっきも話しましたように、ザワザワっとしたりとか、ウキウキしたりとか。そんな擬態語がどんどん出てきますけども。どうしてもハッピーなね、ところっていうのに目が向きがちだし。そうですね。体感としてはクリスマスソングの大半はハッピーな曲かと思います。
R&Bの世界ですと、ちょっとしっとりした、『クリスマスなのに私は寂しいんですけど』みたいな曲もありますが。そういったものとまた違う、なんて言うのかな?クリスマスの裏側を丁寧に描いたような曲。具島直子さんの『12月の街』という曲をご紹介したいと思います。実はこれ、『メロウな夜』でも2011年に1度だけオンエアーしております。99年にリリースされた彼女にとってこれ、3枚目のアルバムだったかな?『mellow medicine』の中に収められていた曲。
そうですね。日本語でつづられた12月の街模様を歌った曲としてはこれは僕は本当にもっとも好きな曲のひとつと言えます。具島直子さんで『12月の街』。
具島直子『12月の街』
お届けしたのは具島直子さんで『12月の街』でした。1999年の作品。僕は初めてこれを聞いた時は、イントロからアレサ・フランクリン(Aretha Franklin)の『Call Me』を思い浮かべたりもしたんですけども。まあ、この彼女のね、メロウな歌声が始まりますと最後までこのストーリーを追っていきたいという、なんて言うんだろうな?変な言い方ですけど、読書をするような快感と、あとはやっぱりこの曲がいつまでも終わらないでほしい。結末を見たくないっていう2つの気持ちがせめぎあって。そういう気持ちにさせてくれる曲を名曲と言うことに、僕はいささかのためらいもございません。
<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/32020