町山智浩 インディ500取材を語る

町山智浩 インディ500取材を語る こねくと

町山智浩さんが2023年5月30日放送のTBSラジオ『こねくと』でインディアナ州を訪れ、第107回インディ500を取材した際の模様を話していました。

(町山智浩)今ね、先に言っちゃいますけども。モニュメントバレーというところにいまして。それでちょっと電話が遅れてるんですね。インターネットで繋いでるんですけども。モニュメントバレーというのは、アメリカのちょうど真ん中あたりにあるんですけれども。ちょっとアメリカの四つの州がちょうどぶつかるところにあるんですよ。アリゾナとニューメキシコとユタとコロラドがぶつかるところがありまして。西部劇の西部のど真ん中ですね。

モニュメントバレーというのはね、ジョン・フォードの西部劇にいつも出てくる岩山なんですけれども。そこに取材に来てまして。あのね、いわゆるインディアンと言われていたアメリカ先住民の人たちの国があるんですよ。そこに。ナバホ族という人たちの自治国家で、ナバホネーションというところがありまして。そこに今、僕はいるんですよ。

(でか美ちゃん)じゃあ、1日取材に行かれて、ちょっとお疲れだとも思うんですけど。なんか、すごいものを見てきたと聞いたので。

(町山智浩)そうなんですよ。昨日はね、インディアナ州でインディ500というのを見てきたんですよ。これはカーレースなんですが、インディアナポリスという町で行われる500マイルレースのことですね。

(石山蓮華)500マイルって、キロに直すと?

(町山智浩)800キロぐらいじゃないかな? 東京から広島ぐらいですね。間違ってないと思います。そこを一気に走るんですよ。

(でか美ちゃん)800キロ走って、勝敗を決めるのか。すごい。

(町山智浩)そうなんです。で、そのコースがね、普通のレースコースってクネクネとまわっていたりするところも多いんですけども。ここはね、完全に楕円形なんですね。何にもないんですよ。曲がるところが何もない。で、フルスロットルでそれを200周するというね、レースなんですね。

(石山蓮華)フルスロットルの200周って、ちょっと怖いですね。

(町山智浩)だから、ほとんどブレーキを使わないっていうね。で、だいたい最高速度が時速380キロですね。

(石山蓮華)新幹線とかより、全然早いですね。

(町山智浩)新幹線より遥かに早いんですよ。

(でか美ちゃん)だって、のぞみが最高時速285キロらしいんで。それでグルグルグルグル、500マイル……あぶねえですね!

(町山智浩)危ないです。それを3時間、ドライバーを交代しないで、1人で3時間。時速300キロで走り続けるんですよ。

(でか美ちゃん)すごい集中力だし。なんだろう? 物怖じしないメンタルとかも必要だし。

(町山智浩)アクセルべた踏みで行くんですよ。ずっと。

(石山蓮華)他の車もいるじゃないですか。ちょっとしたら、すぐクラッシュしそうですね。

(町山智浩)33台で走るんで、すごく車と車の距離が近いんですよ。抜く時は。抜く時はね、数センチで抜くって言いますね。タイヤとタイヤの距離がね。

(石山蓮華)へー! でも3時間やってたら、その数センチの感覚がだんだんわからなくなりそうじゃないですか?

(町山智浩)もう300キロで走ってる感覚がなくなると思うんだよね。これ。3時間も走っていると、自分がどのぐらいで走っているのか、わかんなくなっちゃうと思うんですけど。

(でか美ちゃん)今回は大きな事故というか、そういうのもなく。大丈夫だったんですかね?

(町山智浩)いや、事故、事故、事故でしたよ。事故ばっかり。すごかったですよ。だから事故が起こるたびに一旦、レースを中断するんですけれども。それを繰り返していたんで、もう誰がトップに立つか、全然わかんない状態でしたよ。

(石山蓮華)そうなんですね。どれぐらいの観客が来るんですか?

世界最大のスポーツイベント・インディ500

(町山智浩)インディ500ってね、世界最大のスポーツイベントなんですよ。で、「最大」っていうのはね、観客数なんですね。30万人から40万人なんですよ。

(でか美ちゃん)ええっ、すごい!

(石山蓮華)そんなに一度に集まれるんですか?

(町山智浩)あのね、これはコースの半分が全部、観客席になっています。だから、フットボールのスタジアムが三つか四つぐらい、ある感じなんですよ。すごかったですよ。

(でか美ちゃん)でも、ちょっと意外なのがそれだけレースに興味ある人たちが集まってるってことなんですか?

(町山智浩)アメリカ中から来るんですね。はい。車のナンバーを見るとね、もう本当にテキサスとかカリフォルニアとかニューヨークとか、もうほとんど他の州から来ているんで。アメリカ最大のイベントなんで、もう家族みんなで来るというね。で、チケットが安いんです。

(でか美ちゃん)ああ、そうなんですね。じゃあ、席によってわかれていたりしないんですか?

(町山智浩)わかれていますけども。でも、それでも安い席だと4000円とか5000円ぐらいから始まるんで。結構、庶民のスポーツでもあって。ただ中で食べる食べ物とかはめっちゃ高いですけどね。アメリカのスポーツ、みんなそうですけども。ビール1杯1500円とかですから。

(でか美ちゃん)ああ、高いですね。取りますね!

(町山智浩)まあ、全部取りますよ。アメリカのスポーツはみんなね。でもビールはみんな、暑いとガンガン飲むから。いくら高くてもいいんでね。

(石山蓮華)町山さんも召し上がったんですか?

(町山智浩)はい。でも記者だからね、見られないようにこっそりと(笑)。取材で来ているので。で、日本からもお客さんが来てましたね。それはね、日本の選手が今回、優勝候補の1人だったんですよ。佐藤琢磨選手という選手がいまして。この人ね、インディ500で今まで2回、優勝してます。

(石山蓮華)佐藤琢磨選手、私は全然カーレースを知らない人間ですけども。やっぱりお名前は存じているので。でも2回優勝って、すごいですね。

(町山智浩)これ、すごいです。というのは、インディ500っていうのは他のレース……F1とか、ルマンとかあるんですけど。あっちと違って、日本の人とかアジアの人は佐藤選手以前は優勝したことがなかったんですよ。で、すごく日本人にとって、アジア人にとってものすごい快挙だったんで。インドネシアのファンとかまで、佐藤さんのところに来てましたね。

(でか美ちゃん)ファンもたくさんいらっしゃって。すごいな。

(町山智浩)インディ500って、F1とかとは全く違うものなんですよ。F1とか、モナコグランプリとか、他にもいろいろレースがありますけども。こっちの方がF1よりも早いんですよ。インディ500は。

(でか美ちゃん)だって、さっきの最高速度380キロ、平均354キロっていうのを聞くと、そうか。そうですよね。私、地元が三重県なんで。鈴鹿サーキットに見に行ったことがあるんですよ。でも、本当に子供の時なんで、記憶も結構おぼろげですけど。新幹線より早いような印象はなかったんですよね。さすがに。で、本当に「フォーン!」っていう、よくあるね。ああいうのは見ていたけど。だからどんだけ……それでもやっぱり、「すごい早いな。F1の車って、すごいな」と思った記憶あるんで。インディ500はもう、目視ができるのかな?っていうレベルの……。

(町山智浩)ほとんど何もわからないですよ(笑)。来たと思ったら、行っちゃうんで。みんな、その掲示板を見て「今、誰が行ったんだな」ってわかるんですけど。目の前に来た時は、もう何だかわからない(笑)。

(石山蓮華)音って、どんな感じなんですか?

(町山智浩)「フォーーーーォンッ!」ですよ(笑)。

(でか美ちゃん)アハハハハハハハハッ! それは一緒なんだ(笑)w。

(町山智浩)ステレオで、マイクが2つあったらね、ドップラー効果を出せたんですけどね(笑)。でも、それが200回「フォーン! フォーン!」って。33台ですから、まあすごいですけどね。はい。でも、日本から来てる人たちはすごかった。佐藤選手の追っかけの人たち。

(石山蓮華)追っかけもいらっしゃるんですね。

日本から来た佐藤琢磨ファンの人たち

(町山智浩)今、ほら。円安だから、ものすごい高いんですよ。ここまで来ると。で、「いくらぐらい?」って聞いたら、そのツアー代だけで……飛行機と、そこへ来るまでの交通機関とホテル代だけで57万ぐらいだって言ってましたね。

(石山蓮華)えええーっ!

(町山智浩)で、それにプラスチケットなんですけど。チケットはそんなに高くないんだけども、高いチケットがあるんですよ。別に。で、それを払うとね、選手がいるところのガレージとか、コースの中にあるピットっていう、タイヤを交換したりするところとか、あるじゃないですか。あそこにも入れる特別チケットがあって。やっぱりせっかく来たんだからって、みんなそれも払うから。みんな、ものすごい払ってましたよ。あとはグッズを買うの。グッズがね、その時しかないから。グッズを全部買うんですよ。その時限定だから。なので1人でだから平気で70万とかかかるんですよ。

(石山蓮華)70万か……今、どこの口座を探して70万、入ってないやって思っちゃいました(笑)。

(でか美ちゃん)かき集めたとて、ない(笑)。でも、応援していたら生で見たいですよね。

(町山智浩)ねえ。まあ、選手にちゃんと会えるんですよ。それで、握手したりね、サインもしてもらえる世界なんで。遠くから見てるだけじゃなくて、それだけ……ピットとか入れば、会えちゃうんで。それだけの価値はあるということなんですけどね。

(石山蓮華)そうですよね。憧れの選手が頑張ってる姿を見られるの、嬉しいですよ。

(町山智浩)佐藤選手は今、46歳で。結構、年齢的にはインディの限界の年齢なんですよね。このぐらいで、これから勝てなくなるんですね。今まではね。で、これまで2回、勝っていて。今年、もう1回勝てるかなと思ったんですけども、ちょっと今回は7位に終わったんですけどね。でね、インディで3回勝った人っていうのは、ほとんどいなくて。4回勝ったっていう人が歴史上、4人しかいないんですよ。それでインディ500ってね、100年以上続いてるレースなんですよ。

(でか美ちゃん)その歴史の中で……じゃあ、2回優勝してるだけでも相当すごいですよね?

(町山智浩)そう。すごいんですよ。もう超人の世界なんで。これはね、107年前からやっていてね。歴史的にも世界のレース中で最も古いぐらいのひとつですね。だからね、アメリカ人たちのね、お祭りがすごくてね。だいたい5日ぐらい前から来て、みんなその周りでキャンプをしているんですよ。

(石山蓮華)楽しそう!

(でか美ちゃん)いいなー。じゃあ、レースだけじゃないんですね。楽しみ方というか。

(町山智浩)そう。ずっとバーベキューして。で、みんなベロベロに酔っ払ってるから。で、そこを訪ねていくと「おおっ!」っていきなりビールをくれますからね。

(石山蓮華)ミルクが出るんですか?

(町山智浩)ビール。ミルクはね、優勝した人がミルクを飲むっていうきまりがあるんですよ。まあ、周りにいっぱい牧畜関係の、酪農業の人たちがいるんで。インディアナ州はね。田舎なんですよ。インディアナって。なので、地元の業者から貰ったミルクを飲むというような決まりになってますけどね。すごく、なんていうか教育上いいんで。喜ばれてますけどね。「あのレーサーも牛乳飲んでいるでしょう? あなたも飲みなさい」ってやるんですよ。向こうの親は。

(でか美ちゃん)たしかに! あと、どの国でも牛乳、飲みたがらないもんなんですね(笑)。

(町山智浩)わからないですけどね(笑)。で、あと今回優勝した選手がもらった賞金が、基本が3ミリオンドル。だから4億円以上ですね。

(石山蓮華)命のかかった優勝ですからね。

(町山智浩)でも今回ね、実は事故が連続したんで。最後の1周で勝負を決めるという、とんでもないレースになりまして。

(でか美ちゃん)本当に誰も予想できないですよね。

(町山智浩)予想ができない。レースが中断されて。中断された時点でエリクソンというスウェーデンの選手がトップを取ってたんですね。で、ニューガーデンというアメリカの選手が2位だったんですけども。だから198周で中断されて。ラスト2周で、最後の1周だけは追い越し禁止でやるんですよ。安全のために。

(でか美ちゃん)じゃあ、もう決まりみたいなもんだ。

(町山智浩)そう。で、199周目の、200周目で勝負が決まるんですけど。200周目だけ、その追い抜きがしていいっていうことになって。一瞬しかチャンスがないっていう、とんでもない事態になりまして。で、その1周のチャンスで2位だったニューガーデンっていう人が1位だったエリクソンを抜いて、いきなり優勝しちゃったんですよ。

(石山蓮華)番狂わせですね!

劇的なニューガーデンの勝利

(町山智浩)番狂わせですね。で、他のF1とかと違って、何が起こるかわからないんですよ。インディ500は。そのコースの構造とか、そのレースの性格上ね。だからね、見ている人たちはみんな、「今回は歴史に残るね」って言ってましたけどね。

(でか美ちゃん)見応えあるし、選手の方も命がけですしね。

(町山智浩)もうね、アメリカっていう感じのレースでしたよ。ただグルグル回るだけっていうところが、いかにもアメリカンな感じじゃないすか。豪快で。

(石山蓮華)たしかに。ざっくりした感じで。

(町山智浩)「細かいことはいいんだよ!」っていうね、世界でしたね。スピードはとにかく、めちゃくちゃ出るというね。クネクネ、細かいところ、狭いところに入ったりしないっていうね。広いコースをガーッと走るだけっていうね、いかにもアメリカな。

(石山蓮華)土地があるからこそですね。

(町山智浩)そうなんです。このインディ500のレース場の周りは何にもないんです。

(石山蓮華)ああ、だからキャンプがしやすいんですね。

(でか美ちゃん)バーベキューもできるのか。

(町山智浩)そうそうそう。豪快なところですけども。

(石山蓮華)あと、レースって旗を振ってる人がいるなっていうイメージがあるんですけど。インディ500でも旗振り、フラッグを振る人とかって、いるんですか?

(町山智浩)いますよ、それは。

(でか美ちゃん)それはどこにでもいるんだ。マリオカートにもいるもんね。

(町山智浩)あの旗、大事なんですよ。ものすごく大事で。事故が起こるじゃないですか。で、その事故が起こったことを知らせるための旗があるんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、そういう旗もあるんですね。

(町山智浩)事故が起こったら、レースを続けちゃいけないんです。

(でか美ちゃん)なんかイメージ的にはね、始まる前のね、パンパカパーンみたいな。

(町山智浩)始まる前の旗もあるんですけど。レースによって違うんですけど。インディ500はまず、そのペースカーっていうのを追いかけて、ゆっくり、みんなで抜かれないように走った後で旗が振られたら、そこからレーススタートで追い抜き、追い越しができるんですけども。事故が起こると、やはり旗が振られて。そこで追い越しが禁止になるんですよ。またもう1回、その緑の旗……まあ青っていうことですね。それが振られると、そこから追い抜きができるという。あの旗は信号の代わりなんて、大事なんです。ただ旗を振って「がんばれ!」って言っているわけじゃないんですよ。

(でか美ちゃん)「はじまるよー!」みたいな(笑)。

(石山蓮華)なんか旗を振っているなっていう、ふんわりとした、ねえ(笑)。

(でか美ちゃん)勉強になった(笑)。

(町山智浩)「がんばれ!」って言っているんだと思っていましたか?(笑)。

(石山蓮華)なんか応援しているんだなって思ってました(笑)。

(町山智浩)違う、違う(笑)。あれが大事なんです(笑)。ということで、よかったですね。で、今回、これから明日の朝4時に起きて、モニュメントバレーに行くんですよ。このへん、ナバホ国っていうのは北海道よりちょっと小さいぐらいなんで。その中でいろんなのがあるんで。毎日、5時間ずつ車に乗ったりするので、これから寝ます!

(でか美ちゃん)おやすみなさい(笑)。

(石山蓮華)夜遅くにありがとうございました。取材、がんばってください。

(町山智浩)はい。どうもありがとうございます。

<書き起こしおわり>

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