町山智浩 『ファントム・スレッド』を語る

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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で2018年アカデミー賞の衣装デザイン賞を受賞したポール・トーマス・アンダーソン監督、ダニエル・デイ=ルイス主演の映画『ファントム・スレッド』を紹介していました。

(町山智浩)はい。アカデミー賞がこの間、あったんですけども。今回はアカデミー賞で衣装デザイン賞を受賞した映画なんですが。これが、まあ本当に素晴らしい映画なんですけども。『ファントム・スレッド』という映画を紹介します。

(町山智浩)はい。美しい音楽。素晴らしいですね。なんと言うか、この『ファントム・スレッド』は作曲賞もノミネートされていたんですけども。音楽が素晴らしいんですよ。

(山里亮太)なんかね、すごい優雅な、豊かな。

(海保知里)心が洗われるような。

(町山智浩)ねえ。これね、1950年代の世界的なドレスデザイナーについての映画なんですね。それで、この音楽ですよ。「なぜ町山がこんな映画を?」って思いません?(笑)。

(山里亮太)ああ、町山さんもこういうおしゃれな優雅な映画も紹介するんだってびっくりしていますよ。

(海保知里)うんうん。

(町山智浩)1950年代の世界的な、いわゆるオートクチュールの高級女性服を作るスーパーデザイナーが主人公なんですよ。で、この音楽。こんなすごい優雅で。これ、予告編をご覧になっていただけました?

(山里亮太)先ほど拝見しました。

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予告編

(町山智浩)ものすごい美しい映画ですよ、これ。美術品のような映画なんですよ。なぜ、これをオイラが紹介するのか?っていう、それ自体がミステリーなんですけども(笑)。

(山里亮太)だからそこにちょっと我々も、ひょっとしたらこれは普通の、ただただ優雅な映画じゃないんじゃないかな?っていうのはなんとなく思っているんですよ。

(町山智浩)そんなただの優雅な映画を俺が紹介するわけないね!(笑)。

(海保知里)アハハハハハッ!

(町山智浩)まあ、これは一言、最初に言っちゃうと恐ろしい映画なんですよ。

(山里亮太)あっ、恐ろしい?

(町山智浩)はい。これはまず、監督はポール・トーマス・アンダーソンという監督なんですが。この人はまあ、いまの映画界の中の天才の1人です。で、『ブギーナイツ』という映画でまず有名になりまして、その後に『マグノリア』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『ザ・マスター』といった映画を作ってきているんですけども。この監督の特徴は、徹底的な完璧主義なんですよ。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)とにかく画面の隅々まで……いままで作ってきた映画がどれも、別の時代の話なんですね。たとえば『ブギーナイツ』だと1970年代のディスコブームとハードコアポルノの世界なんですけども。あと、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』だとアメリカで石油産業が始まった頃の話ですね。20世紀はじめ。それを画面で再現するんですが、何から何まで完璧なんですよ。

(山里亮太)ふーん!

(町山智浩)完璧なのはほとんど本物を使うからなんですよ。作り物ではなくて。たとえば、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』でラストシーンがある石油王の邸宅での大惨劇になるんですが、実際にその石油王の邸宅で殺人事件があった現場で撮影しています。

(海保知里)へー! そこまで?

(町山智浩)そこまでやるか?っていう人なんですよ。で、いろいろと問題になっちゃったりするんですけども。『ザ・マスター』っていう映画では1950年代から1960年代にかけてのサイエントロジーという宗教団体の創始者の話なんですね。で、それで留置所に入れられるシーンで、わざわざその1950年代終わりぐらいの留置所が残っているところを探して、それで撮影しているんですよ。

(山里亮太)へー!

(海保知里)本格志向なんですね。

(町山智浩)だから要するに留置所とかのトイレっていまはアルミ製、金属なんですよね。それだと現代になっちゃうんで、当時の陶器製のものが残っているところを探して、そこで撮影しているんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)そのぐらい、本物主義の凝り性の完璧主義者なんで、とうとう今回のこの『ファントム・スレッド』では監督のポール・トーマス・アンダーソン自らカメラマンとして撮影までしているんですよ。で、これはいま、デジタル時代なんで、映画というのはほとんどデジタルで撮られているんですけど、これは昔ながらの35ミリと70ミリのフィルムでわざわざ撮っています。

(海保知里)そこもこだわったんですね。

(町山智浩)ものすごいこだわりの人なんですよ。で、この『ファントム・スレッド』の主演はダニエル・デイ=ルイスです。この人は名優中の名優で、いま映画界最高の名優で、アカデミー賞も何回もとっていますね。『マイ・レフトフット』とか。『リンカーン』でエイブラハム・リンカーン大統領を演じた人ですね。

(山里亮太)はいはい。

(町山智浩)で、ポール・トーマス・アンダーソンとは『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』という映画でアカデミー賞の主演男優賞を彼はとっています。で、そういうすごい天才たちが集まって作った映画で、しかもこの美しさ。音楽もすごいし。それで、全部この50着のドレスを衣装デザインの人が全部この映画のために作ったんですね。

(山里亮太)はー!

(町山智浩)で、ダニエル・デイ=ルイスは実際にそのドレスデザイナーのところに弟子入りして、実際に縫えるようになっているんですよ。

(海保知里)そこまで?(笑)。

(町山智浩)本当に完璧主義者なんですよ。で、ものすごい映画なんですけど、怖い映画なんですよ。これがまた。どのように怖いか?っていうと、たとえば『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』っていう映画は実際にいた石油王をモデルにしているんですが。それをダニエル・デイ=ルイスが演じているんですけども、最後に大変な大暴力が起こるんですね。見ていない人のために言えないんですけども。で、その演技でアカデミー賞をとったんですよ。ご覧になっています?

(山里・海保)見てないです。

(町山智浩)これね、ちょっと言えないんですがとにかくこのダニエル・デイ=ルイスがこういうセリフを言うんですよ。ある1人の人に対して。「お前がもしミルクシェーキをグラスに入れて持っているとするだろう? そしたら俺はどんなにお前と離れていても、ものすごく長い長いストローを使って、そのミルクシェーキを飲み干してやるぞ!」って言うんですよ。

(海保知里)はあ。

(町山智浩)意味、さっぱりわからないんですよ(笑)。でも、あまりにもそのシーンのダニエル・デイ=ルイスの演技が怖いから、その後にアメリカでは「お前のミルクシェーキを飲み干してやる!」っていうのが脅し文句として流行ったんですよ(笑)。

「お前のミルクシェーキを飲み干してやる!」

(海保知里)アハハハハハッ!

(町山智浩)だから喧嘩していると、「お前な、お前のミルクシェーキを飲み干してやるぜ!」っていうのが流行ってTシャツとかにもなったというね(笑)。さっぱりわからないですけども。

(山里亮太)意味がありそうでないんだ。

(町山智浩)怖すぎて流行っちゃったという、それぐらいのコンビなんですね。まあ、どうかしているというのもあるんですけども(笑)。で、このドレスデザイナーの話もどうかしているんですよ。『ファントム・スレッド』というのは、「ファントム」っていうのは幽霊で、「スレッド」っていうのは縫い糸みたいな意味なんですね。これはね、「幽霊の縫い糸」っていう意味なんですね。これは一種のホラー映画なんです。

(山里亮太)えっ、ホラーなんですか?

(町山智浩)ホラーとロマンチック・ラブコメディーの異常な……。

(海保知里)えっ、コメディーも入るんですか?

(町山智浩)コメディーも入ります(笑)。さっき言ったミルクシェーキのところって、観客は戦慄しながら笑うんですよ。

(山里亮太)恐れおののきながら。

(町山智浩)だから非常に説明しにくいんですが、僕がアメリカの映画館で見た時には、やっぱり笑いが起きていましたね。

(山里亮太)笑っちゃうんだ。

(町山智浩)戦慄の爆笑ロマンチックうっとり映画ですね。

(山里亮太)はじめて聞いたジャンルですよ、町山さん!

(町山智浩)よくわかんないですけど(笑)。でも本当にそうなんでびっくりしましたけど。で、主人公はね、ヒロインでこのドレスメーカーじゃないんですよ。アルマという名前のこれは新人女優さん。ビッキー・クリープスという人が演じているんですが、イギリスの田舎のウェイトレスの女の子なんです。で、彼女はウェールズという非常に海のきれいなリゾート地の海岸沿いでウェイトレスをやっているんですが。そこに世界的なファッションデザイナーのダニエル・デイ=ルイス、名前はウッドコックっていうんですけど。それがやってくるんですね。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)で、「ウッドコック」っていう名前自体がジョークになっているんですよ。ウッドコックって、「木彫りのチンチン」っていう意味なんですよ。

(山里亮太)おおっ!

(町山智浩)こんな名前のやつはいねえ!って思うんですけども(笑)。そういう変なジョークを入れてくる映画なんですが。で、そこにウェイトレスさんが出てくると、もういきなりその場でウッドコックが「君と今晩、デートがしたい」って言うんですよ。

(山里亮太)ほう。

(町山智浩)で、まあいきなりものすごいハンサムなね……この人は60才ぐらいなんですけども。服装もキチッとしているし、ダニエル・デイ=ルイスだからハンサムですね。もう大金持ちですよ、しかも。いい車に乗っている。1950年代なんですけど。その人から「今日、ディナーに誘うよ」って言われたら、ねえ。田舎のウェイトレスさんは……イギリスは階級社会で非常に貧富の差が激しいので、いきなりシンデレラ状態なわけですよ。そしたら今度、いきなり家に連れて行かれるんですよ。ねえ。「いきなりかよ!」って。で、「脱げ」って言われるんですよ。

(海保知里)ええーっ!

(町山智浩)「それはいくらなんでも急すぎる!」って思うと、いきなりメジャーを取り出して、体中の寸法を取り出すんですよ。このウッドコックが(笑)。で、「あれっ?」って思っていると、そこにウッドコックのお姉さんがやってくるんですね。お姉さんはそのウッドコックのマネージャーで、結婚をしていないんだけども一緒に住んでいて、ずっとデザイナーとしてのウッドコックを支えている社長さんみたいな人なんですけども。すると、いきなり全身のアルマちゃんの寸法を測りまくって、それをそのお姉さんがずっとメモしているんですよ。

(山里亮太)はいはい。

(町山智浩)で、全身の寸法を測り終えたところで、「君は完璧だ。これから、一緒に住め」って言うんですよ。

(山里亮太)「住め」って、だいぶ上から……。

(町山智浩)そう。どういうことかと思ったら、彼女を見ているとドレスのアイデアが浮かぶんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)3時だろうと4時だろうと、いきなり叩き起こされて寸法を測られるんですよ。型を取られるんですよ。要するに、生きたマネキンとして住み込みをさせるんですよ。そういう話なんですよ。

(山里亮太)なんか、思ったのと違うな。

生きたマネキンとして住み込みをさせられる女性

(町山智浩)思ったのと違うでしょう? だから、いちばん彼女自身が「思ったのと違う!」って思っているんですけども。

(山里亮太)そうですね。「やった、玉の輿だ!」ぐらいの感じで行ったら……。

(町山智浩)違うんですよ。もう、寸法を取られるだけなんですよ。朝から晩まで。

(山里亮太)なにそれ……。

(町山智浩)エッチもしないんですよ。

(海保知里)えっ? そういう男女の仲にもならない?

(町山智浩)ならないんですよ。最初の方は。だから、人と思っていないんですよ。ただね、彼女がすごく、「なぜ私なの?」って言うんですよ。「私はそんなおっぱいもないし、お尻がすごく大きくて、肩幅が張っていて腕は太くて、顔も地味だし。なんで私なんですか?」って言うんですよ。すると、そのウッドコックが言うんです。「君はもしかして、お母さんに似ているんじゃないか?」って言うんですよ。

(海保知里)はあ。

(町山智浩)「えっ?」って言うと、「君のお母さんの写真が見たい」ってそのウッドコックが言うんですよ。「なにを言っとんねん?」って思うわけですけど。「僕はね、いつもお母さんと一緒にいるんだ」って言うんですよ。

(海保知里)ちょっとよくわかんないですけど(笑)。えっ?

(町山智浩)「お母さんの髪を自分の服の胸に縫い付けているんだ」って言うんですよ。

(山里亮太)ええっ?

(町山智浩)「お母さんは僕が16の時に死んだ。でも、お母さんはいつも僕のところにいるんだ。僕と一緒にいるんだ」って。「お母さんがドレスの作り方を教えてくれた。夜、眠ると夢の中にお母さんの幽霊が出てくる。僕はいつもお母さんといるんだ」って言うんですね。

(山里亮太)あれっ? ヤバいな……。

(町山智浩)いちばん付き合っちゃいけない男ですね。はい(笑)。

(山里亮太)かなり危険な香りがしてきましたね!

(町山智浩)「お前、ダメだろ?」っていう感じなんですよ。もう。だって最初の方でそれですから。

(山里亮太)エスカレートしていくに決まってますもんね!

(町山智浩)ねえ。まあ、危ないんですけど、ただこのアルマちゃんは彼のことが好きになっちゃうんですねー。

(海保知里)惚れちゃうんだ。

(町山智浩)惚れちゃうんです。だからエッチじゃないんだけど、体の寸法を取られるのってすごくセクシーなんですよ。で、彼女のためにものすごく美しいドレスを作るんですよ。彼は。で、もともと彼は16の時に、お母さんが再婚する時のためにウェディングドレスを作ったんで、そこからそのドレス作りに取り憑かれているんですよ。だから、彼女はおそらくお母さんに似ているからなんですよ。体型とか。

(海保知里)ああーっ!

(町山智浩)いちばん付き合っちゃいけないやつですよね。

(山里亮太)って言いますよね(笑)。

(町山智浩)だいたいお母さんのことばっかり言っているやつって最悪でしょう、それ?(笑)。

(山里亮太)ああー、町山さん、それ僕もよくお母さんの話ばっかりするから、なんとも言えないです……。

(町山智浩)フフフ(笑)。絶対にダメだよ、それ!

(山里亮太)マジっすか?(笑)。

(町山智浩)絶対にダメだろ、それ(笑)。

(山里亮太)気をつけよう。この映画を見て、反面教師にしよう。

(町山智浩)そう。でもね、好きになっちゃうんですよ。っていうのはね、彼が作るドレスは完璧なんですよ。で、一生懸命ドレスを作って、最高のものを作っているから、やっぱり男も女も関係なく、一生懸命になにかに打ち込んで楽しそうに仕事をしている人を見るのって最高にかっこよく見えるし、惚れちゃうでしょう?

(山里亮太)なるほど。うん。

(町山智浩)どんな仕事をしていても、その人がスポーツでもなんでも、芸術家でも、打ち込んでいる姿を見ると人は惚れちゃうんですね。だから、どんどんアルマはウッドコックが好きになっちゃうんですけども、彼はアルマちゃんのことをマネキンとしてしか思っていないわけですよ。

(山里亮太)ふんふん。

(町山智浩)ねえ。で、とうとうエッチはするんですけど、全然格が上がらないんですよ。

(海保知里)生きたマネキン的な。

(町山智浩)そう。だからね、たとえば朝ごはんを食べるじゃないですか。一緒に。すると、朝ごはんのバターをトーストに塗る時にカリカリッて音がするじゃないですか。「うるさい!」って言うんですよ。

(海保知里)ええっ、やだー。

(町山智浩)とんでもないやつで。とにかく彼はドレスを作る以外、全く神経を集中していない男で、趣味が全く無いんですよ。だから、朝から晩までドレスのことを考えていて、それ以外のことは考えたくないんですよ。だからもう、「カリカリッ」っていう音もダメ。

(山里亮太)うわー、息苦しい……。

(町山智浩)息苦しいっていうか、全くかまってくれないわけですよ。これって、でもあるでしょう?

(山里亮太)えっ、どこでですか?

(町山智浩)だってさ、その人が一生懸命仕事をしているのを見て惚れるんだけど、付き合ってみたらその人が仕事ばっかりしていたら、「私はどうなるの?」っていう人、いるじゃないですか(笑)。

(山里亮太)ああーっ!

(海保知里)まあね、それはそうでしょうね。

(山里亮太)そしてダメなら、「私と仕事、どっちが大事なの?」モードになっちゃう。

(町山智浩)そう。「お前、俺の仕事を見て惚れたんじゃねえのかよ?」って思いません?

(山里亮太)いやー、悲しいかな、引き出しを開けてみても私はないもんでね。

(海保知里)アハハハハハッ!

(町山智浩)えっ? ちょっとその歳でないのは問題だと思うけど……。

(山里亮太)ちょっと町山さん、そこは、ねえ……。

(町山智浩)でもさ、普通「私と仕事、どっちを取るの?」っていう話になるじゃないですか。っていうね、これはとんでもない高級ドレスの優雅な世界のように見えて、それこそ貴族とかお姫様にしかドレスを作らない、ドレスデザイナーのトップに立っている男なのに、よくある恋愛あるあるネタみたいなところがあるんですよ。

(山里亮太)うん!

(町山智浩)これ、どうしてこんな話になっているんだろう?って思ったら、これは監督自身にあったことなんですって。インタビューで答えていて。どうしてこんな話を思いついたのか?っていう。この人、奥さんはマーヤ・ルドルフっていう人で。ただ、このポール・トーマス・アンダーソンっていう人はいつも、さっき言ったみたいに完璧主義だから、映画のことばっかり考えていて、家をほったらかしの人なんですよ。

(山里亮太)うん。

(町山智浩)で、奥さんは3人も子供がいて大変なのに、この監督は映画のこと以外なにも考えないわけですよ。家庭をほったらかしにして。ところが、この監督のポール・トーマス・アンダーソンがインフルエンザになっちゃったんですって。そしたらいつも「私はほったらかしね!」って怒っている奥さんが、ものすごく優しかったんですって。看病してくれて。お母さんのように。

(山里亮太)ふんふん。

(町山智浩)で、「どうしたの?」って。あったかいものを作ってくれて。天使のように、聖母のように優しかったんですって。で、監督はその時にこう思ったんですって。「ウチのカミさん、俺がこのままずっと病気でいればいいと思っているな」って。

(海保知里)おおう……。

(町山智浩)そしたら、仕事とか他の人に取られないで、自分のものに独占できるから。なんか、江戸川乱歩の『芋虫』のような非常に怖い話になっているわけですけども(笑)。ここから先は言いませんが。ちょっとホラーの匂いがしてきましたね?

(山里亮太)香りはね。「これはヤバい映画だな」とは思っています。ちゃんと。

(町山智浩)でしょう? だって最初は『マイ・フェア・レディ』なわけですよ。田舎のウェイトレスを取り上げて、いきなりもう高級な貴族の世界に連れてきてくれたわけですよ。それでドレスの着方からなにからなにまで作法を教えてくれたんですよ。ところが、だんだん気がついてくるのは、彼にはいままでそういう女性がたくさんいて、何人もその家に住まわせて。でも、仕事の邪魔になったり結婚をしようとすると、追い出していたことがわかるんですよ。

(山里亮太)うわーっ!

(町山智浩)これ、映画の頭のところで説明されるんですよ。このお姉さんが「あなたはもう彼を自分のものにしようとしてるから、出ていって」ってお金を渡して追い出していたんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)だからマネキンとして、そしてセックスの相手として家に飼っておくんだけど、まあ邪魔になって奥さん面をしようとすると追い出すっていうのをやっていた家だったんですよ。それが冒頭で出てくるんですよ。その中で、このアルマがどうするか?っていう話なんですよ。

(山里亮太)うわーっ!

(町山智浩)この駆け引き。こういうことってないですか? これ、お二人に聞くんですけども。たとえば、夫婦とか恋人同士で喧嘩をするじゃないですか。その時に「もういい!」とか「もういいわ!」って言って出ていっちゃう。その時、出ていった方は、まあ女の人が出ていくことが多いと思うんですけど……「彼、私のことを探しに来るかしら?」っていうの、ないですか?

(海保知里)ああ、それはありますよね。

(町山智浩)ありますか? それ。あるでしょう? あと、口を聞かなくなった時に、どっちが先に口を聞いて負けてしまうか?っていう駆け引き。で、負けた途端にそれはマウンティングを取られるわけですよ(笑)。それを繰り返していくうちに、上下関係が逆転したりするわけですよ。

(山里亮太)はー、なるほど。

(町山智浩)これ以上は言えないですけど。

(山里亮太)そこが……ああっ! なんか、そこはそういうことが?

(町山智浩)そういう話なんです。「出てけよ!」「出ていくわ!」って出ていった後、「ああ、出ていった。これで仕事がはかどるな」ってやるんだけど、全然はかどらないわけですよ。心配になっちゃって。「こんな夜中に出て行って大丈夫かな?」って。で、心配で「やっぱり探しに行こう!」って、探しに行っちゃうわけですよ。誰の話をしているのか? まあいいや(笑)。

(海保知里)アハハハハハッ!

(山里亮太)誰かいるんですか? 誰かモデルがいるんですか?(笑)。

(町山智浩)それが負けなんですよ。それを探させた方が勝ちですから。「勝ち! ポイントゲット!」みたいな世界ですね(笑)。

(山里亮太)ゲームですな(笑)。恋愛もゲーム、駆け引き。

(町山智浩)ゲームですよ。という、いますごく断片的に話していて、ネタバレにならないように言っていますんで、それをパズルのようにつなぎ合わせてこの『ファントム・スレッド』という映画の恐ろしさと苦笑いなところをちょっと、想像してほしいというところですね。

(山里亮太)はー! 面白そうだな!

(町山智浩)これは面白かったですよ!

(山里亮太)力、入ってますね!

(町山智浩)もう、あるあるなんですよ(笑)。

(海保知里)アルマちゃんがどうするんだろう?

(町山智浩)この恋愛ゲームはいったいどうなるんだろう?っていうね。「うわっ、そうなったか! それはダメだろ?」っていうね、いろんなことを叫びながら見てしまうというね。

(海保知里)うわっ、気になる!

(町山智浩)「それは犯罪だよ!」とかね、いろいろと考えましたよ(笑)。

(山里亮太)犯罪? うわーっ! 面白そうだな、これ!

(海保知里)見たい! これ、日本では5月26日公開ですね。『ファントム・スレッド』。見たくて見たくてたまらなくなってきた。

(町山智浩)すごいですよ。これね、本当に説明しにくいんですけど(笑)。まあ、本当に誰の身にも、心にも迫るような話ですね。はい。

(海保知里)わかりました。『ファントム・スレッド』、ご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

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