映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でクリント・イーストウッド監督作『アメリカン・スナイパー』を紹介。直接イーストウッド監督自身に聞いた話などを語っていました。
(赤江珠緒)あとね、町山さん。いま日本ではそのイスラム国の人質事件が大きく報道されてますけど、アメリカではどういう報道になってるんですか?
(町山智浩)いや、もちろんオバマ大統領が一般教書で『絶対にやっつける!』って言いましたからね。
(赤江珠緒)うーん。
(町山智浩)だからまあ、いちばん大きな問題ですよ。それでまあ、日本の人質になった方が亡くなられて。首を切られたんですけども。それに関して、アンジェリーナ・ジョリーさんが哀悼の意を表しましたね。
(赤江珠緒)ええ。
(町山智浩)あの、アンジェリーナ・ジョリーさんは2007年に『マイティ・ハート』っていう映画を自分で制作したんですけども。自分が主演してね。あ、旦那の制作か?ブラッド・ピットの。それで、それはやはりジャーナリストがアルカイダに捕らえられて斬首されたっていう事件がありまして。それの奥さんの話を、奥さんの役でアンジェリーナ・ジョリーさんが演じてるんですよ。
(山里亮太)はあはあ。
(町山智浩)だから今回の事件に関して、非常に共感を示してコメントをしてるんですけども。それに対しても、日本のあの『アンブロークン』にケチつけたやつらが『偽善だ!』とか言って怒ってんのね。ネットで。
(赤江珠緒)ええっ!?
(町山智浩)もう、哀悼の意を表してもそれだから、もうどうしようもないですね。もうね。
(赤江珠緒)そうですね。
(町山智浩)本当にまあ、酷いなと思いますが。今日もね、今日は実はそういう感じの話なんですよ。
(中略)
アメリカで大ヒット
(赤江珠緒)そして、今日の本題に行きましょうか。
(町山智浩)はい、今日紹介するのはですね、『アメリカン・スナイパー』って映画で。これ、いまアメリカで大大大ヒットして、すでになんか2億ドルを突破してるという大変な事態になっております。はい。
(赤江珠緒)ええ。
(町山智浩)で、これ、日本では2月21日公開なんですけども、これ、アカデミー賞の作品賞にもノミネートされましたね。はい。これはクリント・イーストウッド監督ですね。名優の。で、アメリカン・スナイパーっていうのは、スナイパーっていうのはわかりますよね?
(山里亮太)はい、狙撃手。
(町山智浩)狙撃手ですね。これ、アメリカの中での最強部隊の海軍の特殊部隊、ネイビーシールズの中の狙撃手だったクリス・カイルという人の語りおろしを本にしたものが原作なんですけども。彼はイラク戦争でですね、確認されたものだけで160人以上の敵兵を射殺した男なんですね。
(赤江珠緒)ふーん。
(町山智浩)はい。で、ただ、その人の役をですね、ブラッドリー・クーパーっていう俳優さんが演じています。この人は自分自身でこの映画の原作の映画化権を買ってですね、制作して、アカデミー賞をとるためにこの映画を作ってですね、ちゃんとアカデミー賞の主演男優賞にノミネートされましたね。はい。
(赤江・山里)へー!
(町山智浩)で、この映画がいまアメリカですごく大問題になってるんですよ。
(赤江珠緒)うん。じゃあもう、ずばりイラク戦争のことを描いている?
(町山智浩)イラク戦争のことを描いていることも問題なんですが、ひとつ、いちばん大きな問題になっているのは、160人も殺した狙撃手をヒーローとして扱っていいのかどうか?っていう問題なんですよ。
(赤江・山里)うん。
(町山智浩)で、あの『華氏911』っていう反イラク戦争のドキュメンタリーを作ったマイケル・ムーア監督は、Twitterでですけども、『狙撃手っていうのはズルい奴だろ。そんな奴は英雄じゃない』っていうツイートをして、それで炎上したんですね。
My uncle killed by sniper in WW2. We were taught snipers were cowards. Will shoot u in the back. Snipers aren't heroes. And invaders r worse
— Michael Moore (@MMFlint) 2015, 1月 18
(赤江珠緒)はー。
(町山智浩)狙撃兵っていうのは要するに、遠くから撃つわけじゃないですか。相手に気づかれないように。だからそれは英雄じゃないっていう風に言ったんですよ。
(赤江珠緒)マイケル・ムーア監督が。
(町山智浩)はい。で、あともうひとつの問題は、160人も殺しているだけじゃなくて、この人、その本の中でいっぱいいろんなことを書いていて。『殺したことをまったく後悔していない。俺が殺したのは野蛮人どもだ』って言ってるんですね。イラク人なんですけども。
(赤江・山里)うわー・・・
(町山智浩)で、まずすごいのは、この映画の頭でも出てきて、この原作の頭でも出てくるんですけど、この人が生まれて初めて殺した人は女の人なんですよ。
(赤江・山里)へっ!?
(町山智浩)イラクにアメリカ軍が入って、侵攻しましたけども、その時に自爆テロをしようとして、爆弾を持った女の人が出てきたんですけど、その人を射殺してるんですよ。
(赤江珠緒)うーん・・・
(町山智浩)最初に殺したのが女の人なんで、もう、これ英雄って言えるの?って問題になってくるんですね。
(赤江珠緒)たしかにね。
(町山智浩)まあ、自爆テロをしようとしたってことはあるんですけどもね。映画の中ではもっと強烈に・・・女の人の子どもを先に殺すことになってるんですよ。子どもですよ。
(山里亮太)うっ、あ、なるほど。自爆テロ・・・
(町山智浩)10才かそこらの。これを英雄と言っていいのか?と。で、もうひとつはそのイラク戦争そのものはいい戦争じゃなくて、911テロの黒幕はイラクなんだ!っていう風にブッシュ大統領が主張して、さらにイラクは核爆弾を持っているという風に言って、それで攻めこんでみたら、911テロとはなんの関係もなかったし、核兵器も見つからなかったんで、完全なそのイカサマの動機によって始まった戦争なんですね。
(赤江珠緒)うん。大量破壊兵器なんて言ってましたもんね。
(町山智浩)大量破壊兵器なんかなかったわけですよ。でっち上げだったんですけど。ブッシュ大統領の。ところが、この映画の中では911テロを主人公のクリス・カイルがテレビで見て、で、すぐ次のカットはイラクに侵攻するんですよ。彼が、兵隊として。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)すると、それを見るとまるで911テロの犯人がイラクだったみたいな感じになるんですよ。
(赤江珠緒)ああ、そういうつながりに見えますね。たしかに。すぐ・・・
(町山智浩)そう。だからこれはブッシュがでっち上げたことを補強するような映画なんじゃないか?ということで、ものすごい非難されてるんですね。
(山里亮太)なるほど。
(町山智浩)で、それに対してそのイラク戦争とかブッシュとか共和党を擁護する側の保守的な人たちは、『この映画は英雄の映画なんだ。これを批判する奴はこの国から出て行け!』とか言ってるんですよ。だからさっき言ったアンブロークンと同じなんですよ。『アンブロークンを見たいとか言う奴は、日本から出て行け!』っつってる人がいま、ネットにはいっぱいいますけども。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)まったく同じですよ。
(赤江・山里)えーっ!?
(町山智浩)で、もう昔に副大統領候補だったサラ・ペイリンっていう人がいるんですけども、その人とかは、『このアメリカン・スナイパーを批判している奴らはみんな左翼どもだ!』みたいな話をして。『こいつらはクリス・カイルっていう主人公の靴を磨く資格もない!非国民だ!』とか言ってるんですよ。『反米だ!』とか言ってるわけですよ。それで、ものすごい対立がいま起こってるわけですよ。
(赤江珠緒)ええーっ!?えっ、ヒットしてるけれども、そんなにわかれている?見方はね。
映画に対するアメリカ国内の評価と対立
(町山智浩)要するに、『この映画を良くないって言う人はみんな反米なんだ!』っていう風に言っている人たちと、『この映画はイラク戦争を擁護して、ものすごい大量虐殺をした男っていうものを英雄扱いしている危険な映画なんだ』っていうのがぶつかり合っているんですよ。で、ものすごいモメてるんですけど。
(赤江珠緒)ほー!えっ、クリント・イーストウッドさんは、どういう人なんです?
(町山智浩)会ってきました。
(赤江珠緒)あっ!
(町山智浩)会ってきて、ちゃんとしっかり話をしてきました。はい。
(赤江珠緒)あ、そうですか。はい。
(町山智浩)で、とにかくそういう論争が起っているっていうことに対して、ちょっと置いておいてですね。イーストウッドさんの答えを出しちゃうと面白くないんで(笑)。
(赤江珠緒)なるほど、なるほど。
(町山智浩)この映画、とにかく最初から最後まで殺しまくるわけですよ。イラク兵をバンバンバンバン、撃って撃って。ブラッドリー・クーパーが。で、このネイビーシールズっていうのは大男ばっかりなんで。ブラッドリー・クーパーって痩せた人なんで、体重をものすごく増やして、ガッチガチの体になって出てますけど。
(山里亮太)へー!
(町山智浩)で、ガンガンガンガン殺していくんですね。160人も殺したっていうのは、確認をちゃんとしてるんですね。っていうのは狙撃っていうのは、弾を撃つと反動でライフルが跳ね上がっちゃうんで、照準から外れてなにも見えなくなっちゃうんですよ。だから、当たったかどうか、本人は確認できないんですね。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)だから別の兵士が双眼鏡でずっと見ていて、当たったかどうか確認するんで、160人っていうのは確実らしいんですね。
(赤江珠緒)ああ、そうなんですね。ええ。
(町山智浩)そう。で、まあどんどん殺していくんですけど。じゃあこの人は英雄なのか?っていうと、この映画、どうも違うんですよ。この映画を見ていくと、家に帰ったりするんですね。途中で。4回、行ったり来たりしてるんですよ。アメリカとイラクを、彼は。クリス・カイルは。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、帰ってくるたびに奥さんが『この旦那、おかしくなってる』って思うんですね。
(赤江珠緒)おかしくなる?
(町山智浩)原作だと、奥さんのちゃんとしたコメントが入っていて。『うち、旦那が返ってきたけど、旦那がおかしい』って書いてあるんですよ。
(山里亮太)へー。
(町山智浩)で、旦那の方は『ぜんぜん平気だよ』みたいなことを言ってるんですけど。ぜんぜん矛盾してるんですけど。で、どういう風におかしくなるか?って言うと、まずその、ちょっとした音がガーン!って外で鳴ったりするたびに、ビクーッ!ってするんですね。この人。クリス・カイル。
(赤江珠緒)あー・・・はい。
(町山智浩)で、車で走っていて、後ろから車がついてくると、ドキドキドキドキしちゃうんですよ。要するにもう、非常に危険なところにいたんで、もういつもビクビクしている状態なんですよ。
(赤江珠緒)まあ、そうなりますよね。神経がね。
(町山智浩)そう。それで犬がワンワン!って吠えると、その犬を殺そうとするし、娘が生まれて病院に、産院に行くと、娘が泣いているのに助産婦が放っておくんですね。看護婦さんが放っておいてるんですよ。娘が泣いても。すると、『なぜうちの娘を放っておくんだ!なぜ放っておくんだっ!なぜ放っておくんだーっ!!』ってなっちゃうんですよ。
(山里亮太)ヒステリックになっちゃうんだ。
(赤江珠緒)ほー・・・
(町山智浩)頭、もうバーン!ってブチ切れちゃうんですよ。これ、ブラッドリー・クーパーっていう人はこの前にアカデミー賞にノミネートされた時、『世界にひとつのプレイブック』っていう映画だったんです。それも、怒りがコントロールできない男の話だったんです。
(赤江珠緒)そうでしたね。はい。
(町山智浩)またしてもやってんのか?って思いましたけど(笑)。
(山里亮太)怒りをコントロールできない役、上手いんですかね?
(町山智浩)怒りをコントロールできない役ばっかりやってるんですけど。まあ、リサーチしたんだと思うんですけど。で、原作の方を読むともっとすごく怖いことが書いてあって。心臓の鼓動とか脈拍、血圧がおかしくなっちゃうんですね。このクリス・カイルは。
(赤江珠緒)はー。
(町山智浩)で、おかしくなった時に銃に触ると止まるんですって。異常な脈拍が。
(赤江珠緒)ええーっ!?
(町山智浩)だから、いっつも銃を持っていて。寝る時も持っていて。肌身離さず持っている状態になるんですよ。家に帰って、アメリカでも。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)で、これは要するに典型的なPTSDなんですよ。
(赤江珠緒)そうですね。普通じゃないと。
(町山智浩)いわゆる、ポストトラウマ症候群ってやつなんですよ。もう実はイラク戦争に行った人の2割がこうなっているって言われているんですよ。
(山里亮太)へー!
(町山智浩)で、イラク・アフガン戦争が始まってからですね、もう10年以上たちますけども。その間に、アメリカでPTSDが原因での無意味だったり無差別だったりする殺人事件っていうのは150件を超えてるんですよ。
(赤江珠緒)ええーっ!?
アメリカでのPTSDによる殺人事件が多発
(町山智浩)要するに、拳銃を肌身離さず持っている上に、怒りがコントロールできないわけですから。なんかあると、撃っちゃうわけですよ。
(赤江珠緒)えっ?戦場じゃないところで100人も・・・
(町山智浩)アメリカ国内でですよ。150件以上起こってるんですよ。イラク・アフガン帰還兵によるPTSDを原因とする無差別殺人が。
(赤江珠緒)はー・・・
(町山智浩)で、ほとんどの被害者が奥さんですね。
(山里亮太)あ、家庭内で。そっか。
(町山智浩)だから無差別じゃないですけど。カッとなった時に、撃ち殺しちゃうわけですよ。絞め殺したり。で、そういう状況になって来るんですよ。だんだんこの、アメリカン・スナイパーは。
(山里亮太)そこらへんを描いてるんですね。その、戦場のっていうのの・・・
(町山智浩)そうなんですよ。そう。だからね、この、要するに『これは戦争を賛美している映画だからよくない!』って言っている人も、『賛美してなにが悪いんだ!?』って言っている右側の人も、両方とも間違っているんですよ。まったく賛美していないんですよ。この映画。戦争を。
(山里亮太)へー!
(町山智浩)主人公、まったく英雄じゃないんですよ。どんどん壊れていく男なんですよ。これ、だからね、どこを見てるんだ?と。だから、アンブロークンの場合には、映画を見てないのに批判している人がいっぱいいて問題になってますけど、これ、見てるのにわかってない人がアメリカにもいっぱいいるんだ!ってことがよくわかりましたね。
(赤江珠緒)不思議ですね。でも同じ映画を見てるのにね。
(町山智浩)同じ映画を。見てると、これ主人公がどんどん壊れていく映画だってわかるんですよ。
(赤江珠緒)うんうん。
(山里亮太)ヒーロー視してないと。
(町山智浩)そう。それなのに、なぜわからないんだ?って。右も左もバカばっかりですね!いま。まったく。本っ当に。
(山里亮太)最近ね、町山さんここらへんのことで怒っていること、多いですね。映画が間違えて捉えられて・・・
(町山智浩)だって、ちゃんと見ればわかるだろ?と。これは壊れていく話なんです。で、クリント・イーストウッドに会ったんですけど。とにかく、クリント・イーストウッドっていう人はこのPTSDで人が壊れていくっていうことに関して、ものすごく興味がある人で。すでに映画を何本か撮ってるんですよ。これがテーマで。だから彼のちょっと一貫したテーマなんですよ。
(赤江珠緒)あー。
(山里亮太)なるほど。
(町山智浩)で、彼、『父親たちの星条旗』っていう映画は硫黄島での戦争で、勝った、星条旗を掲げた3人の兵士の話なんですね。アメリカ軍の。第二次大戦の時の。で、勝って英雄になったにもかかわらず、みんな心が壊れていくんですよ。その話は。
(山里亮太)はー、なるほど。
(町山智浩)で、硫黄島の戦争が終わって何年たっても、ぜんぜん心の傷が癒えないままなんですよ。それで1人はもう、途中で野垂れ死んじゃうんですよ。酒に溺れて。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)っていう話が、父親たちの星条旗っていう話だったんですね。それは完全にその頃っていうのはまだPTSDっていう言葉はなかったんだけど、その頃からあったんですよ。で、クリント・イーストウッドにその話をしたら、『いや、言葉がないだけで、昔からあるんだよね。第二次大戦よりも前から』と言ってましたね。
(赤江珠緒)うん。やっていることは変わってないわけですからね。
(町山智浩)そう。で、『グラン・トリノ』って映画では、彼自身が朝鮮戦争で大量の敵兵を・・・要するに中国兵ですけど。その時は。敵はね、中共とか北朝鮮の兵士を大量に殺したおじいさんっていう役なんですね。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)クリント・イーストウッド自身が。それで、デトロイトの自動車工場で働いていたおじいさんなんですけども。ずーっとその、人に心を開かないできてるわけですよ。なぜか?っていうと、やっぱりその時の、戦争の心の傷がおじいさんになっても治らないんですよ。
(赤江・山里)ふーん!
(町山智浩)で、そのために彼が最後の贖罪をするっていう話がグラン・トリノで。彼自身が演じてるんですよね。
(山里亮太)はいはい。
(町山智浩)だからずーっと彼はそのことをやってきている人だから、すごく一貫してるんですよ。今回も。
(赤江珠緒)はー。その部分を描きたかったんですね。
(山里亮太)悲惨さっていう方ですよね。
(町山智浩)そう。だからイーストウッドの映画をずっと見ている人だったら、絶対に見間違えないのに、間違えているアメリカ人たちは何なんだろう?って思うんですけど(笑)。
(赤江珠緒)何なんでしょうね、本当に。ねえ。
(町山智浩)わからない。俺は。みんな、バカなんじゃないか?と思いますけど(笑)。
(山里亮太)見終わっても、『いやー、かっこよかったな!』って言って帰るってことでしょ?だから、ある人たちは。
(町山智浩)そうそう。そういう映画じゃないよ!って。でもね、この映画を見ると、最後は本当にお葬式みたいに暗く、ドヨーン!と終わるんでね。で、要するに160人も殺してきてね、どうなるか?って言ったらこれは最後は、クリント・イーストウッド自身の言葉を借りて言いますけども。『彼は運命につかまったんだ』って言ってましたね。
(山里亮太)運命につかまる?
(町山智浩)『Fate took him』って言ってましたね。まあ、これは映画を見てもらうと、その『運命につかまる』っていうことの意味がわかると思うんですけど。カルマみたいなことをイーストウッド監督は言ってました。はい。まあ、これは見てもらうと、すごい、えっ!?っていう感じで。突拍子もない終わり方しますけど。事実なんですけどね。
(赤江・山里)へー!
(町山智浩)でね、イーストウッド監督っていうのはすごく政治的にいろいろ言われている人で。たとえばオバマ大統領の再選時には、敵のライバルの共和党側のロムニー大統領候補の応援演説をしてるんですね。
(赤江珠緒)ほー。
(町山智浩)だから共和党側なのか?って言われるんですけど、でも、イラク戦争には反対してるんですよ。この人。
(赤江珠緒)そうですよね。この映画の趣旨からしてもね。
(町山智浩)っていうか直接僕が聞いたんですけど。『とにかくイラク戦争には反対だ』ってはっきりと言ってました。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)『アフガン戦争にも反対だった』と言ってました。で、アフガンに関しては、どうして反対かって言うと、『アフガンに攻めこんで支配に成功した国っていうのは無いんだ。イギリスもロシアも、ソ連も結局アフガンを征服できなかっただろう?だから、よくよく調査して攻め込んだのか?』っていう風にイーストウッドは言ってましたね。
(赤江珠緒)うん、うん。
(町山智浩)で、『私はね、映画を作る時はものすごく調査をするんだよ』と。たとえば父親たちの星条旗っていう映画を作る時に、ずっと調査しているうちに、敵である日本軍の守備隊っていうものに興味を持ったんだ。それで、どんどん調べていくと、彼らは全員が全滅することはわかっていて戦おうとした。しかも彼らはバカじゃなくて、すごくインテリもいて、アメリカで勉強した人たちもいたと。中に、2人もいたんですね。
(山里亮太)うん、うん。
(町山智浩)で、それなのになぜ彼らは死を選んだんだろう?と、いうことにものすごく興味を持ったんで、徹底的に調べて、『硫黄島からの手紙』っていう、日本兵側の視点で描いた硫黄島の物語をもう1本、作っているんですよ。イーストウッドは。
(赤江珠緒)うん。
(町山智浩)そういう人なんですよ。だから、『調べて、徹底的に調べていくと、戦争なんかできないんだ』って言ってるんですよ。イーストウッドは。
(赤江珠緒)だって実際にこのね、それがいまなお続いちゃっているわけですもんね。
(町山智浩)いまなお、イラク・アフガンが終わらない感じなんです。それで、イラクの大混乱っていうものが結局ISISっていう、イスラム国を生み出したわけですよね。アメリカがそこに攻めこまなかったら、イスラム国はなかったんですから。
(赤江珠緒)うん。
(山里亮太)ああ、そうだよな。
(町山智浩)だから結果として、こんな結果を生んじゃっているわけですよ。
(赤江珠緒)いや、本当そうですよね。
(町山智浩)だから、イーストウッドに聞けばよかったんだ!と思いますけど(笑)。
(山里亮太)ねえ。1回ね、そうなる前に。
(町山智浩)そう。イーストウッドに聞いてればよかったんですけど。ねえ。だからね、イーストウッドっていう人はね、右とか左とかね、いっつもね、両方からね、『自分たちの敵だ!』って言われてるんですけど。どっちでもない人でね、なかなか面白い人ですよ。
(赤江珠緒)ふーん。
(山里亮太)決して戦争賛辞ではないと。
(町山智浩)もう84才ですけどね。この間、離婚されたんですけどね。あの、離婚原因が女性問題だっていうのもすごいなって思いますけどね。
(山里亮太)たくましい!
(赤江珠緒)えっ、そうだったんですか?
(町山智浩)84才ですごいです(笑)。もう、子どもをそこら中に作っている人ですから。この人ね。もう何回も何回も結婚している人です。そのへんはすごいなと思ってね。大したもんだと思いましたけど。
(赤江珠緒)すごいですね。
(山里亮太)はー!そっか。だから、変にこう、どっちか?っていう風に見に行かないで、フラットに感じたものを感じるように見たらいいんだ。この映画。
(町山智浩)そう。っていうのはね、僕、聞いたんですけど。実は、この160人以上殺してる人で、オーディ・マーフィっていう人は200人以上殺している人がいるんですよ。第二次大戦で。その人、200人殺して英雄になって、アメリカで俳優になったんですけども。やっぱりものすごいPTSDに苦しめられているんですけど。その人と若い頃、イーストウッドは会ってるんですよ。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)だから、そういうこともいろいろあるんだろうなと思いましたね。それで、まあ彼のいちばん有名な映画で、『許されざる者』の中でイーストウッドが言う、いちばんいいセリフっていうのがいちばん重要なことで。彼はこう言うんですね。『人を殺すっていうのは地獄なんだよ』って言うんですよ。
(赤江・山里)うん。
(町山智浩)それが、イーストウッドの映画のテーマなんだなって思いましたね。許されざる者のセリフですけど。
(赤江珠緒)なるほど。
(山里亮太)一貫してあるテーマ。
(赤江珠緒)そうですね。あ、そのセリフを聞くと、わかりますね。そうか。でもそれがまた・・・
(町山智浩)と、いう映画がアメリカン・スナイパーですね。
(赤江珠緒)受け止め方がいろいろっていうのも、ちょっと不思議な話でした。
(町山智浩)まあ、見ればわかるのになと思いましたけどね。はい。
(赤江珠緒)はい。今日はアカデミー賞6部門のノミネート作品、アメリカン・スナイパーをご紹介いただきました。日本では、2月21日の公開となっております。町山さん、ありがとうございました。
(山里亮太)ありがとうございました。
(町山智浩)どもでした。
<書き起こしおわり>