みうらじゅん 親孝行の秘訣『親孝行プレイ』を語る

みうらじゅん 親孝行の秘訣『親孝行プレイ』を語る NHK FM

みうらじゅんさんがNHK FM『今日は一日“ママうた”三昧』で独自の親孝行理論『親孝行プレイ』を紹介。親孝行を『プレイ』と割り切り実践する方法を具体的に話していました。

(ナレーション)みうらじゅんの親孝行プレイのすすめ講座その1。『親孝行宣言 親孝行家・親コーラーになるために』。

その1 親孝行宣言

(みうらじゅん)まずね、あれですね。演技をするっていうことだと思うんですね。基本的に。心が、ついてくるってことになってますけど。親孝行って。心がついてくるのを待っているようでは、親、いなくなったりしますんで。もうその前から、恥ずかしいとか、あまりしたくないとか、そういうことをもう除外して。家族は劇団だ!と思うということで。僕も、年に数回しか帰りませんけども。特に上京している人ですよね。実家が田舎にあって、たまに帰るわけだから。たまに帰る時に、なんか自分も楽しもうとか、自分もリラックスしようとかっていう考えが、そもそも間違いだったっていうことに自分も気がつき。

そして、妻とか夫を持っている方が実家に帰る時に、他人が入っているので。とても親孝行プレイをしたいんだけども、恥ずかしいっていうことがありますんで。それもやっぱり妻とか旦那なりに相談した上で、『これから実家に帰るけども、演技をするけども。あなたも劇団員ですよ』っていうことを言ってもらって。それから臨むということですよね。で、たまに帰ったとしても、まあ多くて2日ぐらいのことですから。途中で気をゆるめて、いつものようにグダグダやっていると、またなんか口喧嘩になったり、せっかくの行為が水の泡になりますんで。演技は帰る最後。お母さんが実家の玄関先で手を振って、自分たちの姿が見えなくなるまで続けるということですから。

まあ、その旦那なり、嫁なりは相当付き合ってもらわなきゃならないので。血がつながってない者たちは。そこは、なにがしらの報酬を与えておくっていうのが必要になってくると思います。できればなんですけど、僕、一人っ子だったもんで。親の愛がダブルできてるんですよ。俺だけに。一身にきてしまっているんで。その、ダブルに親の愛情を引き受けたのが、まあ言えば重いんですよね。それにはやっぱり、お父さん・お母さんを分けて親孝行していくっていうのが、編み出した必殺技なんですけども。オカンがいない時。まあ、近所の人たちとか歴史会とかで旅行に行っている時を見計らって実家に帰るとなると、親父だけいますので。で、親父だけの時は、『親父の行きつけの寿司屋に連れて行ってよ』と。なくても、一応聞いてみると。

たぶん親父はきっと1軒や2軒ぐらいそういう男らしいところを見せたい寿司屋を。『親孝行寿司』って呼んでいるんですけど、寿司屋をもっていますから。そこの寿司屋に行って、『うちのお父さんがどんだけモテたか?』っていうようなことですよね。もう一度、親を男と女に返す時なんですよね。行きつけの寿司屋ですんで、たぶんそこの寿司屋の大将とうちの親父は友達だと思うんですよ。よく行ってるもんで。常連なんで。そこで、『お父さん、昔モテたの?』とか、『いまでも、なんかモテてんじゃないの?』とか、思っていなくてもわざわざ言うと。で、言っているうちにその寿司屋の大将が出てきて、『いやー、みうらさんところのお父さんはモテますからね』とか。確実に言ってきますので。そん時はやっぱり膨らましていくっていうことですよね。

そん時、『ワシもまあ、いまでもそういう気持ちはあるんやで』ぐらいな気持ちにさせておくと、お父さんも男に戻って。男同士の会話っつーんですかね?そういうのができるようになります。また、お父さんがいない時を見計らってお母さんだけに会いに行く時は、まず『家の家電を褒める』っていうことですよね。基本的に。どんだけ現代と遅れていないっていうことがやっぱり母親の勲章だと思いますんで。『この湯沸かしポットすごい!』とか、まず家電を褒めていって。徐々にお母さんの服装とかを褒めていって。1回、女の人に戻ってもらうことですよね。

で、プレゼントも持って帰る時は、できればお母さんに、ぜんぜん年齢的に合わないピンク色のバッグとかを買っていくのがいいんです。ピンク色のバッグを渡した時に、『こんなん、年甲斐もなく若すぎるやんかー!』ってかならず言いますけども。きっと親戚の新年会とか、なんか主婦の集まり会の時に、そのカバン、持って行くと思うんですよ。で、『みうらのお母さん、なんかすごい若々しいカバン持ってますね』『いや、私はホンマ、こんなん似合わんのやけど、息子がくれたんですわ』っていうところを妙に強調しますから。それでまたグッと、『あっ、この家は親孝行の息子がいるんだ』っていうこともアピールできるんで。年相応じゃないプレゼントを持って帰ると。

お父さんのプレゼントは、これはちょっとかなり怖い人が着る服だな、みたいな。格子縞のやつとか。ああいうのを持っていかれて。『ワシ、こんなもんちょっと派手すぎて着れへんやんか』っていうのを、わざと選んでいくということですね。はい。

(ナレーション)みうらじゅんの親孝行プレイのすすめ講座その2。『帰省の際のテクニックについて』。

その2 帰省の際のテクニック

(みうらじゅん)帰省のテクニックとしては、孫がいると思うんですよね。孫は、当然お金の価値とかがピンと来ていないもので。『これからきっとおばあちゃんがお金をくれるから。その時にすっごく驚いてみせてほしい』と。やっぱり言っておくんですよね。たぶん5千円ぐらいくれるとしても、5千円でいま孫が買っているマンガ雑誌、何冊買えるか?っていうことをやっぱり帰りの新幹線の中で教えておかなきゃなんないですよね。パッと5千円もらっても、なんかピンと来なくて。『ありがとう』も言わない場合がありますので。これからおばあちゃんがくれる金で、どんだけマンガ本が買えるか?TVゲームが何個買えるか?っていうのをちゃんと教えておいて。もらった時にすぐ『ありがとう』って言わすということですよね。で、旦那か嫁。血のつながってないものには、『ここから私のお父さん・お母さんに会うんだけども、すっごいくさいプレイをこれから仕掛けるので。途中で笑うな』と。途中で笑うなっていうのと、『現実を言うな』っていうことですよね。

当然、居間で全員が集まっていると、『最近、どうやな?仕事、どうやな?』と、かならず親父かお袋が聞いてきますので、そん時に、もう『どうやな?』の『な』くらいの時に、もう『年収1億円!』とかっていうのをボーン!と出すんですよね。で、そういう時に血のつながっていない嫁とかは『そんなのあるわけない』とか、現実の話に戻すんだけども。そこは演技ですから。で、別にその金額が、興信所をつけて調べるわけでもなく。自分の息子がどんだけ立派になって稼いでいるか?っていうのは、もうお金でしかわからないので。その値段を大きく出てみる。で、そこに嫁は笑わない。子どもは途中で遊んでいるということにしておいた方がいいと思います。はい。

あの、会話術としては、まず家の隅々にあるものを褒めていくっていうことが基本にあると思います。たぶん実家と電気屋さんって、つるんでると思うんですよね。で、電気屋が新しいもの出ると、かならず勧めにくるっていう。大概田舎ってそうなので。そこで、東京でもあまり買わないような最新型のものが置いてある場合があるんで。そこは褒めてもらいたいポイントだと思うので。いちいち褒めていくと。そして、特に母親が日光など行った時に、ひょうたんに顔が書いたような、もういらないようなものを買ってくる場合がありますので。それを一応、『いやげ物』って呼んでるんですけど。そういうものを、うちの親父が一生懸命働いて建てた家を台無しにしているグッズが何個か家の居間に置いてあると思うんですけど。

そこは、『これはすごいね!ユニークだね!』と。『ユニークだね!』っていう言葉ですよね。これ、その世代の人にとってユニークって素晴らしいことと勘違いしているので。ユニークもね、平仮名の『ゆにーく』って書くやつなんですけども。まあ、本当にいらないいやげ物なんですが。そこをやっぱり褒めていって、母親のセンスを褒めるってことですよね。『ああ、やっぱりじゅんもわかってくれるのか。面白いやろ?これ、ゆにーくやろ?』って何回も言いますので。『せやな。ゆにーくやな。ゆにーくやな』って。こっちの意見はいりませんので。オウム返しが必要になってくると思います。あの、できれば一家団欒というのは基本的に避けた方がいいと思うんですよね。本当は、実家に帰る時は単体で帰るのが本当は親孝行の基本なんですよね。血のつながってない妻とかがいる場合は、もう本当に台無しになる場合があるので。

よく『子どもに戻る』っていう言葉があるんですけど。やっぱり実家に帰るときは、『いつまでたってもじゅんは子どもだから。私の子どもやから』っていうことを強調させる。認識させるってことですよね。そのためには、やっぱり単体で帰って。なんか甘えてみるってことですよね。うちの家は甘える前に、よくテレビを見てると『あんた、首がこるやろ?』って言って、枕を出してくる家なんですけど。そういう時にやっぱり妻と一緒に帰ると、『甘やかされている』ってとられるんですよね。でも、お母さんは甘やかしたいわけで。で、息子もやっぱり甘える演技をしてこそ親孝行なわけなので。この場合、妻はできればいらないですよね。首がこる時に、『こってない』って言うんじゃなくて、『こっている。さすが、気がつくな』とか言って、首に枕をかませたりして。

最終的に、『どうかな?僕』とか言ってみて。普段、『俺』とか言ってるのを『僕』ですよね。昔、僕って言ってましたから。僕を強調していく。で、『あんたはいつまでたっても子どもやな』っていう失敗を何個かする。そして、親っていうのは、特に母親なんですけども、革細工をしている場合が多いですよね。あと、鎌倉彫。あと、ソープバスケットですよね。ああいうのをかならず趣味としていますので。それを褒めぬくっていうことも肝心になってきますよね。革細工は帰省している間に制作されている場合が多く、『これ、帰る時に持って帰りや』ってオリジナルの革でできたカバン、またはメガネケース。ひまわりが大きく打ってあるやつ。パッと見た感じ、もう絶対にいらないもんだけど、『やった!』と。もらった時、『やった!』と言って、お母さんが最後手をふって息子の姿が見えなくなるまでね、そのカバンをたすき掛けして、『これ、一生モンだよ!』とかいうことですよね。そういうことが、すごく大切になってくると思います。

(ナレーション)みうらじゅんの親孝行プレイのすすめ講座その3。『母親はいつまでも息子の恋人である』。

その3 母親はいつまでも息子の恋人

(みうらじゅん)ええと、実家の両親っていうのは当然のごとく孫がかわいいと。世の中的にも言われていますけども。本来は、息子と娘がかわいいに決まってるんですよね。他人の血が混ざったもの、純粋でないものがかわいいわけがなくて。うちの家も、もうはっきり言いましたけども。『孫より、あんたの方がかわいい』と言われた時の、嫁が笑うわけですよね。だからやっぱり、この場合帰省には嫁は必要ないってことになってきますけども。当然、自分の腹を痛めた子がかわいいに決っているっていうことを念頭に置いて、今後プレイをしてかないと間違いが起こりますよね。

ここで孫をカマしておけばどうにかなるなって、夫婦でおじいちゃんおばあちゃんに孫を預けてちょっと旅行っていうか、近所でも散歩してこようなんて。そういう油断は禁物ですんで。そんな孫が自分の代わりをしてくれるなんて甘い考えはダメなんで。『孫より僕の方がかわいいよな?』って自分から言ってみるってことですよね。『そうや!』ってはっきり言いますので。そうなんだな、って自覚を持つことですよね。もう僕、相当いい歳なんですけども。もう親も相当いい歳なんですけども、いまだに、『じゅんがかわいい』と言い続けておりますので。そうして、みなさんでしょうがなく、家族団らんを迎えなければいけない時は、自慢話を放っていくっていうことですよね。

あと、ちょっとウィッグがズレているようなお母さんの頭の部分とかを褒めてみたり。『その髪型、いいね』とか。やっぱりお母さんも息子が恋人みたいに、こっちも恋人。相思相愛でないと意味がありませんので。もう終わってしまいましたけど、ある番組でタモリさんがよく言う、『髪の毛、切った?』っていうようなセリフですよね。女の人にはとてもいい言葉らしいじゃないですか。そういう、お母さんにも、髪の毛切っているわけじゃないです。ウィッグ変えているだけなんですけど。『その髪型、いいね』とか、『なんか、若くなったね』とか。思ってもいなくても言ってみる。

で、『やっぱり花柄、似合うよね』とか。それはやっぱり当然、帰りの帰省する時の新幹線の中で、関ヶ原のトンネルのあたりにはもう20個ぐらい質問がないと持たないと思うんですよね。そんなボーッとして、油断して家に帰るようでは、また相変わらず口喧嘩になってしまったりして。親孝行のために帰ったのに・・・っていう、『のに』が出ますので。『のに』が出るともう最後なので。親孝行しに行ったっていうことをずーっと心に思っていって。できたら、寝る時ですよね。たぶん夫婦別々のところに寝ると思うんですけども。

両親が寝ている部屋に行ってみるっていうことですよね。意味もなく訪れるんですよね。それは親孝行プレイの旅館でもそうなんですけども。旅館でもたぶん、息子夫婦と親夫婦は別々の部屋に寝てると思うんですけども。息子だけ、または娘だけが、プラっと。寝る前に訪れて。なんか嫁には言えない、夫には言えないような話をグジュグジュ言っておいて。『ああ、やっぱりこの部屋の方が安心するわ』と。『なんか、俺ここで寝ようかな?』とか。『お母さんと一緒に寝たくなってきたわ』とか。なんかそういう、歯の浮くようなことを、油断で言ってみるということですよね。

『せやな。あんたはいつまでたっても子どもやからな。やっぱり、奥さんより私の方が慣れてるんやな』っていうことですよね。お母さんは妻に権利を譲ったわけじゃなく。お母さん、いつまでたっても愛人だと思っていますので。そこは、心して思って臨んでください。

(ナレーション)みうらじゅんの親孝行プレイのすすめ講座その4。『最終章 親孝行プレイの最終目標とは』。

その4 親孝行プレイの最終目標

(みうらじゅん)僕の、まだ実践していない絶頂の親孝行プレイは、キスだと僕、思ってるんですよね。数度にわたり抱きついたことは何度かあるんです。意味もなく、触ってみたりするっていうことですよね。スキンシップを図るっていうことは、親にとってどんだけうれしいことか?っていうことだと思うんです。あの、なんか驚いた時とか、ちょっと酒を飲んだりして。『もういい加減にしてくれよ』とか言ってウワーッと抱きついてみるとか。あと、帰り際に抱きついたり。僕、いまんところできているのは、握手したことと抱きついたぐらいです。

でも、最終的にキスしても嫌がらないと思うんですよね。『もう。そんなに好きなんかいな。私が』っていうようなことになると思うんですよね。『なんか、ガーッと気持ちになって、キスしてしもうたわ!』っていうようなことを言えるようになると、本当のプロの親コーラーなんじゃないかなと思いますね。まあ、お母さんもやっぱり恋人だと息子を思っていますんで。恋人同士でキスもしないようでは、冷め切っている仲っていうことになりますので。当然、ハグしてキスですよね。その先進むと、ちょっといろいろ問題ありますのであれですけど。キスぐらいしてもいいんじゃないかな?って。

最終的に、お亡くなりになった時に、もう本当にキスしとけばよかったなんていうこと、あるかもしれないですからね。それを、棺桶のところで、公然でやるよりは、プレイでやる方がいいんじゃないですかね。親孝行プレイって、俺はしたくないと。『親孝行』っていう字面が嫌で。昔からとても避けてきたものなんですけども。とりあえず『プレイ』っていう言葉を語尾につけると、なんか陽気な気持ちになるっていうことを編み出したもので。自分はいま、親孝行プレイをしているっていうことで、もう数十年に渡り臨んできました。それで、『プレイだ、プレイだ』って思っていたもんで。

やっぱりそこで嫌な会話も、面倒くさい同じ話も繰り返され、聞かされることもありましたけども。『あ、プレイなんだ』と思えば、まあちょっと気も休まるわけで。そのうちに、プレイしているうちに、心が後についていくことだってあるし。はじめっから心と体が一緒くたになって親孝行にぶつかる人って、意外と少ないと思うんですよね。すごいお母さんが好きだって、割と昨今の若い人は平気で言うけど。僕の世代はやっぱり親に反抗してナンボと。反抗の世代だったので。親をすぐに受け入れるのは、自立できないということだったので。その癖が抜けきらず、いまだにちょっと反抗期なんですよね。

でも、そんなずっと反抗してたら、いつかお亡くなりになるかもしれないので。待ち合わないというのだけは、いちばん避けたいところなので。とりあえず、プレイと思って、後に心がついていけば、相手も喜ぶし。こっちもなんかプレイをやり遂げた後の達成感っていうのは、もう本当に気持ちいいものなので。でも、だんだん嵩じてくると、『最近、プレイが少ないな』と、あっちから期待をされるようになって。『邪魔くさいな』っていう気持ちも芽生えてきますけども、プロのプレイヤーとしては、それもさらに一段階進んだということで。楽しんでいくしかないということで。

私も、『もういつ死ぬかわからへんから』と何回も言われ。『最後の旅行になるかもしれへん』と何回も言われ、僕、15年ぐらい親孝行の旅行を。しかも、年に3回くらいやっております。周りからも、『異常じゃないか?』って言われるほど、親孝行ぶりなんですが。『もう最後かもしれない』って出た時に、『んなアホな』と突っ込むように昨今はしております。

(ナレーション)講師は、親コーラー、みうらじゅんさんでした。

<書き起こしおわり>

親孝行プレイ (角川文庫)
Posted at 2018.4.16
みうら じゅん
KADOKAWA
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