宇多丸 タランティーノ映画 『ジャンゴ繋がれざる者』の音楽を語る 

宇多丸 タランティーノ映画 『ジャンゴ繋がれざる者』の音楽を語る  宇多丸のウィークエンド・シャッフル

ライムスター宇多丸さんがTBSラジオ ウィークエンド・シャッフル オープニングトークでクエンティン・タランティーノの映画『ジャンゴ繋がれざる者』の音楽について、このように語っていました。

ジャンゴ 繋がれざる者 (字幕版)

(宇多丸)ということで、そろそろ曲に行こうかと思うんですけど、今日は何しろシネマハスラー、サイコロ先週当たったのがクエンティン・タランティーノ最新作『ジャンゴ』じゃないですか。その後のディスコ954 サイプレス上野くん、レジェンドオブ伝説も来てくれてたりしますから、出来るだけシネマハスラー、(時間的に)押したくないということで、中で話そうかなと思っていた要素をここで話しながら曲もかけてしまう。要するにシネマハスラー、もう話を始めてしまえば押すのが避けられるのでは?というアレで。
僕、タランティーノ新作やるたびに、観に行って結局毎回サントラ買っちゃうんですね。観るとやっぱりサントラ欲しくなっちゃう。タランティーノの目線か見た独自の、ものすごい独自のコンピレーションになっているわけだから。いつもサントラ買っちゃうんですけど、特に今回は・・・『ジャンゴ』ね。まあ何というんですかね、当時の開拓時代のアメリカ南部で、まだ奴隷制があって、元奴隷だったアフリカ系アメリカ人のヒーローが白人にビッグ・ペイバック!っていうね。仕返しをしてやる!というそういう作品なわけじゃないですか。

で、そういうテーマ、タランティーノの作品のスタンス性のヒップホップ性みたいなのは改めてシネマハスラーでしますけど、元々スタンスとして非常に、これ以上ないぐらいヒップホップ的なスタンスの映画監督・映画作家がタランティーノだと思うんだけど。ただ、意外とそのサントラ、いろんなジャンルの曲が出てくるサントラというか音楽の制作するんだけど、モロにラップ、ヒップホップそのものズバリを音楽で使うって、意外と今までなかったんですね。まあ、Wu-Tang ClanのRZAがキルビルの劇伴をやったりとかしてましたけど、あと仲良くて映画撮らせたりとか色々してますけど、モロにラップがタランティーノの映画で流れるって今までなかったと思うんだけど。

今回、テーマ的にモロに、後ほど言いますけどヒップホップ的アティチュードがより重なる部分が多いのか知らないけど、『おっ、タランティーノの映画ではじめてラップかかった!』みたいな場面が何個かあって。たとえば、ラップしてるのはリック・ロスっていう今の第一線っていうか、超イケてる感じのリック・ロスがラップして、なおかつトラックと歌詞のクレジットがされているジェイミー・フォックスがね・・・ジェイミー・フォックス自身も俳優であり、同時にミュージシャンとしても普通に売れている人ですから、ジェイミー・フォックスのトラックのやつの、100個の黒い棺みたいなね。あれも途中で流れて『おお、来た!カッコイイ!』みたいな感じがあったりね。

ちなみにジェイミー・フォックスという男、僕、俳優としてもすごい好きなんですけど、『モンスター上司』って皆さんご覧になりました?コメディー映画。『モンスター上司』のジェイミー・フォックスとか観ると、すごい評価上がるんで、是非観て。ジェイミー・フォックスって基本的には、普通の男みたいなの演じるにしても、まあキレる男の役じゃないですか。今回のジャンゴだって一癖あるキレる男じゃないですか。あの、『モンスター上司』のジェイミー・フォックスは、ちゃんとバカに見えるから偉いんですよね。すげージェイミー・フォックス調にカッコつけてるのに、ちゃんとバカに見えるっていう、かなりさすが手練れだと。まあ、そのジェイミー・フォックスがトラックを作ってるリック・ロスのラップしてる曲があったりとか。

あとご覧になった方はお分かりの通り、これ予告でも使われてますけど、これぞというところで2Pacのね、『Untouchable』っていう2Pacの死後に出た曲ですよね。Swizz Beatzのいろんなヴァージョンがあったりするやつですけど、2Pacの死後に出た『Untouchable』っていう曲とジェームズ・ブラウン、ゴッドファーザー・オブ・ファンクというか、テーマ的にも欠かせない、ジェームズ・ブラウンの『The Payback』という超有名な曲の、いわゆるマッシュアップ・・・曲を混ぜるというのかな?混ぜたようなヴァージョンが今回、クライマックスで流れると。これもまあ、なんかこう『モロに来たな!』っていう。タランティーノ=ヒップホップ的って思ってたけど、モロに来たかって僕的に『来た!』っていう瞬間だったんですけど。

ただしでもね、ヒップホップ、ラップの曲がクライマックスで流れますみたいなのは他にも色々あると思うんだけど、やっぱ例えばですね、クライマックス。2Pac、さっきの曲ね、『Untouchable』とJBの『The Payback』のマッシュアップ、タイトルは『Unchained』ってなってますけど。『Unchained』が流れる瞬間、そのクライマックスでここぞ!という瞬間にサビが流れるんだけど、流すのがあくまで2Pacが歌っているサビ、しかもサビもビートが抜けているところなんですよね。ビートが抜けているところ、でそれが一瞬流れて、すぐ切れちゃうわけです。『ブツッ!』って感じで切るわけですよ。この『ブツッ!』って切る感じが、要するに安易なダサい、『曲をダラダラ流してますよ。今、イケてるヒップホップですよ。』ってダラダラ流しじゃなくて、ここぞ!というところの、ここぞ!っていう部分だけを流して、ブツッ!』って切ると。

これ要するに、レゲエDJでいう『プーロー!(Pull Up!)』っていうね。一瞬だけかけて『プーロー!』って上げちゃうっていうレゲエDJ感覚っていうか。あくまで作品にタランティーノ的な異化作用をもたらす機能っていうのをもたらした上で、キッチリとラップ曲をちゃんと使うと。要するに駄作を使ってないみたいなね。やっぱタランティーノの編集、特に音楽の使い方とか編集のリズム感の感覚って、やっぱすげーヒップホップ以降のDJ感覚っていうのがあるなという風に思ったりしました。じゃあ、ちょっとその曲を聴いて頂きますかね。『ジャンゴ 繋がれざる者』のサントラから、2Pacの『Untouchable』とJBの『The Payback』のマッシュアップで、『Unchained』。

『Unchained (The Payback / Untouchable)』

(宇多丸)『プーロー!』ねっ、こんぐらいで切っちゃう。いまの、抜けてる方のサビが一瞬出てきてみたいな感じの使い方が、タランティーノっぽいなっていうかね。本当の意味でのヒップホップ感覚みたいなのが、本当に根っこの部分に・・・本人がヒップホップっていう言葉で意識しているかは別にして、資質として本当にある人だなというのも、つくづく思った次第でございます。これね、今日はもう一曲かける時間があるみたいなんで。『ジャンゴ 繋がれざる者』からもう一曲、曲をサントラ行ってみようと思うんですけど。

一方でやっぱりね、もちろん今回、『ジャンゴ』っていうぐらいですから、マカロニ・ウェスタンからの選曲みたいなね。これ、『キル・ビル』ぐらいからかな?すごくマカロニ・ウェスタンからの選曲、増えてきていて。マカロニ・ウェスタン的な演出っていうのも、『キル・ビル Vol.1』とかはむしろケレン味たっぷりのそういうの、多かったと思うんだけど。そういうのとは別に、マカロニ・ウェスタンからまんま持ってきたんじゃなくて、『あ、そこから持ってきて当てるの?でも、合う!』みたいな。これやっぱ、タランティーノのDJ感覚というかサンプリング感覚というか、それがすごい巧みなところだと思うんですけど。

僕、一番今回ね、『あっ、そう来る?来たー!』って思ったのはですね、途中主人公のジャンゴがクリストフ・ヴァルツ演じるドクター・シュルツですよ。ドクター・シュルツ最高!っていうね。そのドクター・シュルツと一緒にバウンティーハンター、賞金稼ぎとして相棒になっていくと。要するにちょっとこう、バディ物っぽい感じになるわけですね。で、二人で、バリっと決めた自由の身になったジャンゴと二人が、馬を駆りながら、バッと荒野に旅立っていく。それまで奴隷だったわけですから。そこの場面で流れる『I got a name』っていう曲、Jim Croceさんの『I got a name』っていう曲。ジャンル的には何ですかね、カントリーロック的な感じなのかな?まあその、ウェスタン感とか西部劇感、マカロニ・ウェスタン感では全く無いんだけど、爽やかな感じの曲なんだけど、町山(智浩)さん訳の歌詞がドカっと相まってですね、なんかこう、この二人の・・・

とにかく、シュルツという男の、なんと気持ちのいい男だろうかっていうね、感じ。二人の旅ゆき、道行きみたいなの見ているだけで、グーっと。永遠に見ていたい、この二人っていう感じがする場面でございました。じゃあ、Jim Croceさんの『I got a name』、聴いてみましょう。

Jim Croce『I got a name』

(宇多丸)はい、ということで、ジャンゴとシュルツ、二人が旅を始めるときにかかる、Jim Croceさんの『I got a name』ということで。あのこれさ、最初にかけるときに頭にチリチリチリって針音みたいなの入っているじゃないですか。これ、タランティーノが今回のサントラやるときに、自分のレコード・コレクションのアナログレコードからやったんだと。要するに自分が聴いたこの感じ、聴いたこの感じを再現、みんなにも味わって欲しくてって、これタランティーノが作ろうとしているもののいつも本質だと思うけど。

それで、『俺はヴァイナル(レコード)、俺の持っているヴァイナルからの音源にこだわるぜ!』ってこれ、どんだけ『Diggin’ in the crates魂』っていうか、これヒップホップDJの言い草やないか!っていうね。しかも、うるさ型ヒップホップDJの言い草っていうね。DJ JINか、お前は!っていうね。ぐらいの感じで。そういうところは、やっぱタランティーノ。とにかく僕の中ではヒップホップというキーワード抜きでは語れない作家でございまして、後ほどその話も詳しくしたいと思っております。

<書き起こしおわり>

ジャンゴ 繋がれざる者 (字幕版)
Posted with Amakuri at 2018.3.27
Stacey Sher, Reginald Hudlin, Pilar Savone
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