町山智浩『ズートピア2』を語る

町山智浩『ズートピア2』を語る こねくと

町山智浩さんが2025年12月9日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『ズートピア2』について話していました。

※この記事は町山智浩さんの許可を得た上で、町山さんの発言のみを抜粋して構成、記事化しております。

(町山智浩)今日はですね、日本でも先週から公開になってるディズニーアニメ映画の『ズートピア2』のお話をします。

(町山智浩)これね、シャキーラというコロンビア出身の……この人ね、レバノン系コロンビア人の人なんですけど。アメリカで大ヒット歌手になってる人なんですけど。その人の主題歌『Zoo』ですけれども。『ズートピア』、ご覧になってますか?

本当に『ズートピア』、すごい楽しいんですよね。あらゆる動物たちが1か所で、ズートピアという街でですね、共存している。みんな仲良く暮らしてるという世界でですね。警察官のジュディというウサギちゃんとニックというキツネが何ていうか、協力してですね、いろんな事件を解決したりするという話なんですけど。これ、1作目が大大大ヒットしまして。で、2作目、これが今、世界中で超ヒットしてますね。で、これね、やっぱりディズニーワールドに来て思うのはまずズートピアってどこから出たんだろう?っていうことですけど……ディズニーランドですね。

ディズニーランドそのものですね。要するに人工的な都市じゃないですか、ズートピアって。動物たちがみんなで仲良く暮らせるようにするっていうことで、作った街じゃないですか。で、本来だったら一緒にいない人たちがいっぱい一緒にいるでしょう? これね、ディズニーランドにイッツ・ア・スモールワールドってあるじゃないですか。あれと同じですよね。

もともとね、イッツ・ア・スモールワールドって万国博覧会の展示として作られたものらしくて。60年代に。で、それをディズニーランドに移行したんですけど。あれはもう本当に原始的なアトラクションなんですけど。かわいい人形が世界中のね、民族衣装とかを着て踊ってるだけなんですけど。僕がすごく好きなのはやっぱりそれって素晴らしいじゃないですか。世界中の子供が仲良くしているのって。だからイッツ・ア・スモールワールド……「世界はちっちゃいよ。広いと言ってるけども、みんなで仲良くすればちっちゃいよ」っていうメッセージなんで。これがね、ディズニーランドそのものもそうで。

今日ももう、世界中の人が来てましたからね。日本人はあまりいなかったですけど。それ以外はね、もういろんな言葉が飛び交ってるわけですよ。ディズニーワールドってね。だから、こういうものを目指したんだろうなと。それと……これね、ズートピア自体、監督がバイロン・ハワードっていう人なんですけど。なんでやろうとしたかっていうと、昔のディズニーっていろんな動物が仲良くしてるアニメがいっぱいあったじゃないかと。

言葉をしゃべる、それも2本足で歩く動物がね。『ロビン・フッド』とかなんですけど。でも最初の『バンビ』からそうじゃないですか。言葉をしゃべる鹿とかスカンクとか。本来仲良くしないだろうと思うようないろんな動物たちと仲良くする。ああいうのをやりたいっていうことで始めたらしいんですよ。ところが、その監督たちがまずズートピアっていう世界はどうやってできたのかとか、どうやって運営してるのかとか、真面目に考え始めたらすごい大変なテーマがいっぱい出てきて。それであのアニメになったんですね。

やっぱり真面目に考えていくと、おかしいだろうってことが出てくるわけですよ。つまり、肉食動物と草食動物が仲良く暮らしてるからね。で、これってうまくいくんだろうか?って考えたんですって。で、「うーん。これはいろいろ問題があるんじゃないか? 差別があるんじゃないか?」って彼らは考えたんですよ。それで最初は動物学者とかに取材したり、動物園に行ったりしてたんですけど。その後、やっぱりそうじゃなくて差別問題について取り組んでいる人たちに話を聞きに行こうってことで、彼らが自分からですね、差別問題の研究家とかそういう団体とかに行って、彼らにコンサルタントをしてもらったんですね。

あれね、ウサギちゃんのジュディを見て警察に入ってきた時に警察官の人が「かわいいね」って言うんですよ。そうするとジュディが「それ、言っちゃいけないのよ」って言うシーンがあったんですよ。あれはどういうことかっていうと、まあはっきり言うとアジア人を見るとすぐにアメリカ人とか白人の人は「かわいいね」って言うんですよ。それは差別なんですよ。見た目だけで言って。特にアジア人は若く見えるじゃないですか。ちっちゃいじゃないですか。まあ、でかい人もいますけども。モンゴル人みたいにね。

それをかわいいねって言うのは好意で言っていたとしても差別なんだよっていうことを言ってるんですよ。あのシーンは。あとニック。「俺はキツネだっていうだけでずる賢いと思われるんだ。だから俺はずる賢くしてやるんだよ」みたいなことを言うんですけど。あれはキツネっていうのは英語で「Fox」って言いますが。英語で「Foxing」とか動詞にすると「ずる賢く振る舞う」とか「人を騙す」っていう意味があるんですよ。これは動物に対する偏見ですよね。

騙すとか……別にもともとはそんなそんな生き物じゃないからね。詐欺師じゃないんだから。動物なんだから。でも、そういう偏見を人間がつけちゃってるじゃないですか。でもそれは人種に対しても言えて。人種に対する偏見っていっぱいあるじゃないですか。特にアジア人だとうちの娘とかがよく苦労したのは「アジア人だとバイオリン、できるんじゃない?」とか言われるんですよ。アジア人はものすごく子供を教育するんで、バイオリンとかピアノがみんな上手いって思ってるんですよ。

あとね、「アジア人だと数学できるんじゃない?」って言われるんですよ。それでもっとひどくなるといきなり「エイヤー!」とか言って空手とかカンフーしてくる人がいるの。だからこれはそういうことを言っていて。それをね、英語では「レイシャル・プロファイリング (racial profiling) 」って言うんですけど。人種的プロファイリング……つまり「この人種だったらこうだろう。この人種だったらこうに違いない」って決め付けることを言うんですね。それをレイシャル・プロファイリングっていうんですが、それの問題点とか。そういった実際のその、はっきり言うとアメリカ。いろんな民族や人種の人が住んでいるアメリカで起こってる問題っていうのをこのズートピアの中で描いていくってことになったんですね。っていうか、ズートピアってアメリカそのものなんですよね。

非常に人工的なところで、全員が移民で。世界中から集まってきて、みんなバラバラなのに仲良く暮らしてる。そうするとやっぱり問題がいろいろ起こってくる。その問題をどうやって克服していくのか?っていうアメリカそのもののテーマになっているんですね。ズートピアは。で、1作目はその肉食動物に対する偏見というテーマだったんですけど。で、2作目は一体何かっていうと、1作目に出てこなかったものが出てくるんですよ。それは、爬虫類ですね。

これ、爬虫類が1作目には出てこないんですよ。ズートピアって哺乳類中心だったんですけども。じゃあ、爬虫類はどこに行ってんの?っていうと今回、出てきて一体何があったのか?っていう話になっていくんですけども。

1作目に登場しなかった爬虫類

(町山智浩)これ、ヘビが服を着ていないっていのは一応、話の中ではヘビは次々と脱皮して。まあ「皮を着ている」っていうような感じなんですね。あとトカゲは出てくるんですけど。他の爬虫類は服を着てますね。ヘビが服を着てると動きにくいっていうのがあるんでしょうけどね。それでこれはもう、アメリカの問題なんです。で、爬虫類の意味してるものは何か?っていうと、これヘビのゲイリーくんっていうのが出てくるんですけど。彼の声をやってる人はベトナム系の人なんですよ。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』でアカデミー助演男優賞を取った人でキー・ホイ・クァンというね、ベトナム系の男性俳優がヘビの声を当ていて。あと爬虫類のリーダーでトカゲでヘイスースっていうのが出てくるんですね。これに声を当ててるのはメキシコ系の俳優のダニー・トレホさんですね。この人、関係ないけどアメリカでメキシコ料理屋、タコス屋をやって億万長者になってますね。成功して。なんなんだと思いますけど。すげえ高いんですよ、そのタコス屋。「ダニー・トレホ!」って思いながら食べてますけど。

で、要するに中南米系の人たち……メキシコとかコロンビアとかグアテマラとかね。そういう人たちとあとベトナムとか東南アジア系の人たちを爬虫類にちょっと置き換えてるんですね。この映画の中では。で、彼らがね、なんでいないのか?っていうと、いるんですよね。いるんだけど、隠れ住んでるんですね。ズートピアには正面からいられないので、あるところに……それは見てない人のために言いませんけど。みんな、集まって隠れて住んでるんですけど。

で、「見つかるとやばい」みたいな感じになってるんですよ。それは今、アメリカで起こってることで。今、トランプ政権になってからその中南米系の人たちを片っ端から逮捕してるんですよ。で、その人たちがもし移民としてのビザとかグリーンカードとかを持ってない場合は逮捕してアフリカとかに送っちゃってるんですよ。全然関係ない国に送ってるんですよ。適当なんですよ。それはね、各国が「送還されるのを引き受けない」って言ったんですよ。トランプ政権に対して。「だったら全然違うところに送ってやる」って言って。エルサルバドルっていう国があるんですが。そこは「受け入れるよ」って言ったんで世界中、どこから来てもエルサルバドルに送ったりとかね、めちゃくちゃなことをしてるんですよ。

で、まあそういうことをやってるんですけど。その際に道を歩いてて中南米系だなと思うと捕まえちゃうんですよ。何もしてなくても。で、要するに「グリーンカードとかパスポートを出せ!」って言うんですよ。そこで。で、持ってない場合……ほとんどが持ってないわけですけど。持ち歩いてないんですね、実際は。そのまま、捕まえちゃうんですよ。もう誘拐ですよ。で、本当は捕まえる時には令状を持ってなきゃいけないんですけど。法律ではね。

全世界どこの法治国家でも令状なしの逮捕っていうのは許してないんですけど。現行犯以外では。でも、現行犯扱いして捕まえてるんですけど。これは要するに顔が浅黒い肌だったりすると、それはそれだけで「不法移民なんだ」って決めつけるというまさにレイシャル・プロファイリングなんですよ。で、それの問題性とかも描いてるんですが……今、ディズニーがこれをやってるっていうのはすごいことですよ。ディズニー、ものすごくトランプ政権と微妙な関係なんですよ。

このディズニーワールド、僕は今、いますけど。ここにもものすごい攻撃してきたんですよ。あのトランプ政権っていうか、共和党というか。ディズニーって「DEI」という方針をずっと取ってるんですね。会社として。「D」は「Diversity(多様性)」。いろんな人がいるという。で、Eは「Equality(平等性)」。それをみんな平等にすると。で、「I」は「Inclusivity」。誰も排除しないっていう意味ですね。みんなを取り込んでいく。これがDEIという方針で。これはずっとディズニーが会社としてやってるんですね。

それが作品の中でも、もちろんさっき言ったみたいにそうなんですけど。雇用においても差別をしないし。で、人を出世させる時にも女性だろうとガンガン出世させる。黒人だろうと何だろうと出世させるというのをDEI方針でやってきたんですけど、まずトランプ大統領は1期目にそのDEIをやめるって言って。「アメリカではDEIをなくす」って言ったんですよ。

で、1期目が終わった後もその方針を引き継いだこのフロリダ州のデサンティスという州知事が法律、州法で「DEIをやっている企業を処罰する」って言ったんですよ。それでここのディズニーワールドっていうのはここ、本当は何もないところだったんですよ。湿地帯だったんですよ。地面すらなかったんですよ。湿地帯だから。そこにすごいディズニーワールドを作って。だから水道も電気もガスもなかったんで全部、作ったんです。発電所から。世界を創ったんですよ。だからズートピアと同じなんですよ。

これをディズニーが作ったんですけど。だからフロリダとしては何もないところに街を作ってくれて、世界中から何百万人も観光客を呼び続けてくれるからっていうことで税金も免除していたし。ガス、水道、電気に関してもそのインフラは完全にディズニーがやってるんだから州とか市は管理しないっていう立場を取っていたんですよ。フロリダは。ところが、そのデサンティス州知事がトランプから引き継いだ反DEI政策というのを法律にしちゃったんで。それでディズニーに対して罰として税金も免除しない。ガス水道も全部、取るっていう風にしたんですよ。それはものすごい莫大な損害ですよ。ものすごい攻撃。

反DEIで苦境に立つディズニー

(町山智浩)それでトランプがこの間、大統領になったじゃないですか。まず最初にやった大統領令が何か?っていうと「反DEI大統領令」っていうのを出したんですよ。で、雇用とか会社の方針として差別をしないっていう方針にしてる会社を罰するっていう法律なんです。「差別をしないやつは罰する」ってSFなのかとか思いますよ、僕。大統領令で……ディストピアですよ。ズートピアじゃなくて。で、それをやってるんでディズニーは結構大変だったんですよ。どうしよう?っていうことで。じゃあ、DEI方針を撤回するのか? 実際、それをやられて撤回した会社も多いんですよ。ターゲットっていうスーパーマーケットチェーンがあって。そこはDEIをやめたんですよ。

そしたらね、お客さんからボイコットを食らって大損害になってますけど。で、社長がクビになってますけど。で、ディズニーはどうするか?っていうことで。「じゃあ株主さんと役員さんたちに決めてもらいましょう」ってことで決を取ったんですね。DEIをやめるかやめないかを。4月かな? そうしたら99%が「やめるわけねえだろ、バカ」っていう結論だったんですよ。

ディズニー自体のテーマなんですよね。「みんな仲良く」っていうのはね。ただね、それでいろいろと試行錯誤して。まだそれが決定する前に作品自体を完成させなきゃならなかった『星つなぎのエリオ』っていうディズニー傘下にあるピクサーのアニメーションがあったんですけど。それは監督自身がいわゆるクィアと言われる人だったんですね。つまり男とか女とか、そういうところじゃない。それで男性として生物学的には生まれたんだけど、非常に女性的な感性を持つ人で。それで子供の頃から女装をしたりして変に思われたってことをテーマにしたのが『星つなぎのエリオ』っていうアニメだったんですけど。

作品が完成した後に「いや、これは今の時風、世の中に合わないから」ってことでそのクィア的な部分を全部、削除したんですよ。そしたらこの作品、コケちゃったんですけど。つまり、何の話かわからなくなっちゃったんですよ。ぼんやりした、ボーッとした話になっちゃって。で、今回の『ズートピア2』はトランプが政権取る前から企画されてたものですけども。もうがっつりとそのテーマに取り組んでるんですよ。一番大きいのはその爬虫類が実はもともとズートピアに住んでたっていうテーマなんですね。

これはね、要するにアメリカってもともと住んでた人がいるじゃんっていう話ですよ。先住民ですよね。ここのね。フロリダももともとセミノール族っていう人たちが住んでたんですけど。先住民がね。それを全部、追い出したんですよ。ディズニーが追い出したんじゃないですよ。昔ね、アンドリュー・ジャクソンという大統領の頃から追い出しをやっていて。それで今、ほとんど住んでないっていう状態になってるんですけど。戻ってきてますけどね。それはオクラホマの方に強制移住させたんです。フロリダから。もともと住んでいた先住民を。

そういうことをそのまま映画にしてるんですよ。今回、『ズートピア2』で。アメリカのタブーですよね。しかも今、中南米系の人はアメリカではトランプが片っ端から国外追放してるんですけど。中南米系の人って、先住民ですよ。もともとアメリカ大陸に住んでいだ人たちなのに。それを「不法移民だ!」って……いや、もともとその人たち、先住民だよ。その人たちの方がアメリカ大陸、先に住んでるからっていうね。まあ本当にね、もう今のアメリカっていうね、すごい内容になってますね。『ズートピア2』もね。

これはね、すごい映画でなおかつ面白いですから。今回ね、一番すごいのは最初から最後までノンストップです。ズートピア、ディズニーワールドと同じになっていて。いろんなテーマパークがあるんですね。そこを駆け巡るというね。1回も休みがないノンストップ・チェイスアクション映画にもなってるんで。もう本当に子供も楽しめて、それでアメリカっていうか、要するにいろんな人が集まって仲良く住んでるっていうのは、世界ですからね。この世界ですよ。イッツ・ア・スモールワールドだから。それ自体の話でもあるんで、もうどの国の人にも通用するテーマだと思います。それでお子さんと行ったら、いろいろと話し合うといいと思いますね。はい。

『ズートピア2』予告

アメリカ流れ者『ズートピア2』

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