渡辺志保さんが2025年10月15日放送のTBSラジオ『荻上チキ Session』の中でディアンジェロの訃報について話していました。
(南部広美)続いては、こちらのニュースです。ミュージシャンのディアンジェロさんががんで死去。グラミー賞を受賞した『Voodoo』などの作品で知られるアメリカのミュージシャン、ディアンジェロさんががんで亡くなりました。51歳でした。ディアンジェロさんは1995年、デビューアルバムの『Brown Sugar』を発表。70年代ソウルにヒップホップの要素を持ち込んだと評されるディアンジェロさんの音楽は高い評価を得て、2000年に発表したセカンドアルバム『Voodoo』により「黒人音楽の革新者」とも呼ばれました。その後、薬物やアルコールへの依存、交通事故などもあり活動が停滞。政治的メッセージも含む三枚目のアルバム『Black Messiah』で復活を遂げ、再びグラミー賞を受賞しています。
(荻上チキ)ディアンジェロ死去、こちらのニュースについてブラックミュージックに詳しい音楽ライターの渡辺志保さんにお話を伺います。渡辺さん、こんばんは。
(渡辺志保)こんばんは。よろしくお願いいたします。
(南部広美)よろしくお願いします。志保さん……。
(渡辺志保)ああ、南部さん……。
(荻上チキ)この一報ですけれども。渡辺さん、いかがでしょうか?
(渡辺志保)昨夜深夜、ちょっと寝つけないなと思って。深夜1時、2時ぐらいにスマートフォンでSNSを開いたら、一斉にアメリカのメディアが彼の訃報を報じ始めて。本当に信じられない思いでニュースを追いかけておりました。
(荻上チキ)改めて、ディアンジェロとはどういったミュージシャンなんでしょうか?
(渡辺志保)彼は1995年にファーストアルバム『Brown Sugar』をリリースしたアーティストで。そこから30年にわたる活動の中で、わずかアルバムを3枚しかリリースしていないということで。必ずしもたくさんの作品をリリースするタイプのアーティストではないんですけれども。それがいかに彼が完璧主義者であるか、1曲1曲、1枚1枚のアルバムに心血を注いでいたかが分かるかなと思います。
彼の登場とともに「ネオソウルムーブメント」という風に言われるんですけれども。かつてのソウルミュージックを90年代のやり方でもう一度、再解釈しようじゃないかという動きが高まりまして。ディアンジェロに始まり、エリカ・バドゥとか、マックスウェルとか、ジル・スコットとか、たくさんのアーティストが花開いていった。その先頭を走っていたのがまさにこのディアンジェロだと言えると思います。
(荻上チキ)3枚のアルバム、それぞれにも相当の期間が空いてますよね。
(渡辺志保)そうですね。特に2枚目のアルバム『Voodoo』から、3枚目のアルバム『Black Messiah』に至るまでは14年間の歳月を要していまして。その間に彼も、先ほど南部さんがおっしゃっていたみたいに困難な時期があったわけですけれども。本当にその分、本当にソウル……魂そのものを注ぎ込んで我々に音楽を届けてくれたのではないかと思っています。
(荻上チキ)この音楽界への影響、日本にもいかがでしょうか?
(渡辺志保)そうですね。私もまだたくさんの方と話していたわけではないんですけれども。やっぱり今日も会う人、会う人、みんなのこのディアンジェロの訃報について話していますし。日本のミュージシャンのみならず、私のような音楽愛好家とか、DJの方であるとか、作曲家の方であるとか、ディアンジェロの影響を受けた方は本当にたくさんいらっしゃると思いますし。本当にわずかな回数、日本でも来日公演を行った経験がありますけれども。つくづくあの時、私も伺ったんですが。彼の姿、彼の演奏を生で見ることができて良かったなという風にも同時に感じました。
(荻上チキ)その社会的メッセージや影響力についてはいかがでしょうか?
(渡辺志保)そうですね。3枚目のアルバム、これが彼の生前の最後の作品になってしまったわけですけれども。2014年に発表された『Black Messiah』というアルバムは本当にアメリカで黒人男性としてどう生きるか? どのように社会に立ち向かっていくのか? ということを彼なりに消化して、しかも非常に高いアーティスト性とともに消化した作品ということで。で、今もまだアルバムを準備していたという風にも報じられていましたので。この『Black Messiah(黒い救世主)』というタイトルのアルバム以降、彼がどんな物事を考えてそれを作品にしていたのかというのはすごく惜しいというか。どんな音楽になっていたのだろうかということを考えずにはいられないという感じです。
(荻上チキ)渡辺さんの思い入れのある曲や注目をしている曲はいかがでしょうか?
(渡辺志保)いやー、たくさんあって。本当に他のアーティストとのコラボレーション楽曲なんかも枚挙にいとまがないぐらいなんですけれども。まあ1曲と言われると私も彼を知ったきっかけが2000年のセカンドアルバム『Voodoo』というアルバムでして。そこに収録されている『Untitled (How Does It Feel)』という楽曲が非常に思い出深い1曲です。
D’Angelo『Untitled (How Does It Feel)』
(荻上チキ)その曲の特徴や内容はいかがでしょうか?
(渡辺志保)すごくミニマルではあるんですよね。なんだけど、非常に複雑なリズムであるとか、抑揚のつけ方……フロウという風にも言いますけれど。そぎ落とされた中にも、非常にディアンジェロにしか出せない美しさが光る楽曲だなという風に感じております。
(南部広美)今、バックで流れていますね。ボーカルの揺れがまたね、すごく特徴的なんですよね。ディアンジェロじゃないとこのまわしというか、グルーヴが……。
(渡辺志保)そうなんですよ。本人はすごくプリンスであるとか、スライ&ザ・ファミリー・ストーンといったアーティストにもたくさん影響を受けているという風に公言をしていて。かつ、同時に同じ時代に輝いていたヒップホップアーティスト、DJ、プロデューサー、ラッパーたちにも大きな影響を受けたという風に言っていて。それがこうした彼らしいサウンドを生む秘訣になっているんだなっていうのを今日もいろいろ彼の楽曲を聴きながら再度、感じ入ってしまいました。
(荻上チキ)渡辺さん、ありがとうございました。
(南部広美)ありがとうございました。
(渡辺志保)ありがとうございました。
(南部広美)アルバムを聞き返して、思いを馳せたいなと思いました。
(荻上チキ)そうですね。音楽ライターの渡辺志保さんにお話を伺いました。
ディアンジェロの訃報、とても残念ですね。『Black Messiah』からもう10年以上経っていたなんて信じられないです。もっとたくさん彼の曲を聞きたかったのですが……。残された彼の作品を改めてじっくり味わい直したいと思っています。
