(渡辺志保)そして、やっぱりね西海岸のヒップホップシーンと言えば、青いギャングのチームなのか? 赤いギャングのチームなのか?っていうことがしばしば、非常に取り沙汰されるわけなんですけれども。ケンドリックのあの時のライブには……しかもさ、やっぱり対立してるわけだから、当たり前だけど、仲は悪い。だけれども、あのステージの上では青いチームの方も、赤いチームの方も一緒にステージの上に上がって、みんなで一緒に踊ってっていう。
そのウエストコーストのユニティ、団結力っていうのをあのライブでバーッとケンドリック・ラマーが実現させたっていうことが、いかにあのライブが非常にスペシャルなのか。あの夜が非常にレジェンダリーな夜だったのかということを特徴づけているのかなという風にも感じました。こんなこと、私がわざわざ言わなくてもみんな、同じことを思ってると思うんですけれども。本当にね、どこを切り取ってもマジで「すげえ!」っていうね。「すげえ!」が止まらないライブでしたね。
対立するギャング同士も同じステージに立つ
(DJ YANATAKE)はい、お疲れさんでした(笑)。
(渡辺志保)いやいや、すげかった。
(DJ YANATAKE)いやいや、本当に面白かったですし。チャンスがあったらみんな、どうにかして見た方がいいぐらいの。
(渡辺志保)どうにか、見た方がいい。で、その『Like That』からのいろんな、数々のアンサーとディスを繰り返しての『Not Like Us』のBillboard 1位っていうところがあるわけですけれども。なんかさ、事の発端はその『Like That』のあれがあったけど。あのライブを見せつけられちゃうと、元々これを計画して逆算的に『Like That』でわざわざ、ああいうディスのラップをしたのかな?ってちょっと思っちゃったの。
で、なんかComplexの記事だったかにもあったんだけど。ドレイク1人へのディスの気持ちとかはあの時、ステージの上も観客も含めて、そういうのは誰も持ってなくて。会場の雰囲気的には。なんせ、「ウエストコーストがひとつになった」っていう、その雰囲気だけだったみたいなことにもなってたんですよね。そりゃそうだっていう感じもするんですけれども。で、私もなんかあの両者のビーフについて、番組でも解説した時。
その1回目の解説の時に「これはケンドリックのその個人的なドレイクへの恨みとか、そういうディスではなくて、やはりその人種や社会、その自分の街とプライドを背負ったようなディス曲なんじゃないか?」みたいな話をしたと思うんですけれども。でも、それはそうなんだなってちょっと思いましたね。「自分たちのヒップホップを取り戻す」じゃないけど。「コンプトンのヒップホップ、西海岸のヒップホップは、これだ!」っていうのをあれだけのラッパーたちを率いて。
(DJ YANATAKE)なんか、このヒット具合がクラブにいてもびっくりするんだけど。本当に今、インバウンドの方々とかが多い中で、マジで全員、大合唱してるぐらいの大ヒット曲になっていて。で、アメリカでもう本当にすごいことになってるから、あれなんだけど。なんかディス曲とか、そういうのを超えた大ヒット曲みたいな。で、それを軸にウエストコースト・リユニオンみたいな記事も結構見たけど。なんか、その西海岸のラッパーたちが一堂に集結して、みたいな。ウエストコーストパワーと団結を見せたっていうのがこのオチになったのかなっていう感じですよね。
ウエストコーストパワーと団結を見せた
(渡辺志保)ねえ。そうですよね。なかなか手が込んでるな!っていう風にも思ったし。たとえばロディ・リッチは今、ちょうどパリでファッションウィークやっていて。皆さん、パリに行ってらっしゃるけど。ロディ・リッチはもう本当にめちゃめちゃギリギリのタイミングで「このライブに出てくれ」って言われて。で、パリに行く予定だったんだけれども、それをドタキャンして。今、パリに行くことよりもそのイングルウッドで行われるこのケンドリックのライブに参加する方が自分にとっては価値があるという風に判断して、ドタキャンして、わざわざあのライブに参加したということも記事になってましたし。すごいですよ。
(DJ YANATAKE)方やだけども、ザ・ゲームとかはウエストコーストのOGですけども、参加しなかったんだよね。「俺はドレイクとも仲がいいし、中立を保つっていう意味で参加しなかった」っていう。そんな人もいる。
(渡辺志保)もちろん、そういう方もいらっしゃるわなって感じだし。ヴィンス・ステイプルズとかももちろん、彼も西海岸のラッパーだけど。最初からこのビーフ騒動みたいなものに対してはすごい冷めた目というか。ちょっと懐疑的なはい立場でいらっしゃって。ヴィンス・ステイプルズも会場にはなかったんだけど。「トミー・ザ・クラウンが出るんだったら、俺も行けばよかった」という、ちょっと半分ジョークみたいなポストもしていらっしゃいましたし。本当、人それぞれの立場があって、それでそれに対するアクションがあるっていう感じだとは思うんですけれども。でも、本当にすごいものを見たという。
(DJ YANATAKE)本当に、なんていうか地域で、こんなにみんなが団結してみたいなのって最近、なかなかあんまり見ることなかったですよね。特に西海岸とか、あんまりそういう感じしなかったんで。
(渡辺志保)そうですね。たしかケンドリックもMCで「ニプシー・ハッスルが亡くなって。その後、コービー・ブライアントも亡くなってから、LAはちょっとおかしいんじゃないか」みたいなことをおっしゃってて。
(DJ YANATAKE)だからそのへんを背負っているみたいなことなのかな?
(渡辺志保)そういうのがきっとあるっていうことですよね。
(DJ YANATAKE)という意味では、すごいことをやったなっていう感じはしますね。
(渡辺志保)ねえ。そう思いましたね。本当に。かつ、すごくいいなと思ったのはさっきのドム・ケネディとかもそうなんですけど。OGがそんなに出てなくて。E-40が声で参加したのと、ドクター・ドレーがサプライズ的に出られただけで。あとは基本的にケンドリック・ラマーと同世代、もしくはそれより下の世代のラッパーばっかりだったんですよ。
(DJ YANATAKE)そうか。ドレーが出たから、あんまりそういうのも思ってなかったけども。たしかにそうかも。
(渡辺志保)だから、別にザ・ゲームさんはザ・ゲームさんのやり方がもちろんあるとは思うんだけど。その世代感もめっちゃ、私はいいなって思いました。
(DJ YANATAKE)次世代の、みたいな見せ方だよね。
(渡辺志保)そうそうそう。たぶんこれまで、ウエストコースト系のフェスでも……たとえばサイプレス・ヒルが出て、タイガも出て、スヌープ・ドッグも出て、みたいな。そういうフェスってたぶんいっぱいあったと思うんですけれども。そうではなくて、ケンドリックとその下の世代でっていう。それも私は、ケンドリック世代というか、2000年代後半ぐらいからのあのへんをリアルタイムでめちゃめちゃ興奮しながら追ってきた身としてはですね、そうしたところにも興奮を禁じ得なかったっていう感じですね。
で、さっきちょっと言ったComplexのレポート記事にも、バックステージにもみんな、1人ずつにトレーラーハウスが楽屋として割り当てられていたんですけれども。もうみんな、トレーラーが出てきていて。バックステージでみんなで、そのスポンサーをやってたスヌープ・ドッグとドクター・ドレーの「Gin and Juice」っていう2人の曲名にかけたお酒のドリンクがスポンサーで入ったんですけど。
みんな、トレーラーから出てきて、そのGin and Juiceを飲みながらワイワイしてた。そこには敵対するギャング同士もみんないて、飲みながら楽しく談笑している様子が見られたっていう。ヤナさんも、それこそデカいイベントにたくさん出てらっしゃるから、わかると思うけど。いいイベントって、みんな楽屋から出てくるっていうか。言い方がちょっとわかんないですけども。
(DJ YANATAKE)ちゃんと演者も楽しんでるよね。
(渡辺志保)そうそう。みんな、そういうコミュニケーションを楽しんでいるイベントって、きっとすごくいいイベントっていうイメージが私もあるので。で、実際にそういう景色が見られたっていうことがレポート記事にも書かれておりまして。「なるほど」という風に思っておりまして。ここまででも30分、時間を使ってしまいましたので。
(DJ YANATAKE)でも、そのぐらいのイベントだったということで。
(渡辺志保)じゃあ、ちょっとせっかくなので『Not Like Us』をここでちょっと聞きましょうかね。じゃあ、間違いなく今年を代表する1曲となりました。ケンドリック・ラマーの『Not Like Us』をお届けします。
Kendrick Lamar『Not Like Us』
(渡辺志保)はい。ただいまお届けしたのはケンドリック・ラマーで『Not Like Us』。プロデュースド・バイ DJマスタードでした。いかがでしたでしょうか?
Kendrick Lamar『The Pop Out: Ken & Friends』
<書き起こしおわり>