町山智浩『マッドマックス:フュリオサ』を語る

町山智浩『マッドマックス:フュリオサ』を語る こねくと

(町山智浩)砂漠のど真ん中でね、手の骨を折ったんで。薬指がもう完全違う方向に曲がってたんですよ。で、「すぐに病院に行かなきゃ!」って言われたんです。複雑骨折だったから。でも、砂漠だから。砂漠の中を車で3時間走って、やっと救急病院があって。大変だったです。でも行ったら医者がいきなりモヒカンの人が来たから、びっくりしたよ(笑)。

(石山蓮華)そうですよね。メイクもしっかりして。

(でか美ちゃん)やっぱり映画の中だけだ。サンダードームをやっていいのは(笑)。イベントとしてはね、すごい同じ好きなものを持つ人が集まって楽しそうですけど。

(町山智浩)いや、ものすごかったですよ。面白くて、楽しくて。『マッドマックス』に出てくるようなね異常な改造車がいっぱい集まっていて、すごかったんですけど。

サンダードームで骨折して3時間かけて病院へ

(町山智浩)でね、それからずっと経って、2015年……だから3作目から30年後に4作目の『怒りのデス・ロード』が作られたんですね。だからこんなに間が空いてる間にマックス役のメル・ギブソンはおじいちゃんだったんで、この時は主役じゃなくてですね。『怒りのデス・ロード』はフュリオサっていう女戦士が主役になったんですが。この映画『怒りのデス・ロード』をすごい、すごいってみんなが言っていて。何がすごいか?っていうとですね、クライマックスしかないんですよ。普通、物語があって。誰か、登場人物の紹介があって。登場人物同士の確執というか、戦いに至るまでの経過があって、そして戦いになるじゃないですか。で、『マッドマックス』は毎回、戦いってカーチェイスなんですけど。っていう風に、話の流れっていうのがあって、物語があるじゃないですか。本来。でも、この『怒りのデス・ロード』はそれがないんです。いきなりカーチェイスで始まります。

(でか美ちゃん)ええっ? いきなりカーチェイス?

(石山蓮華)もうなんか、「ドンドコドンドコドンッ! フュリオサ、行けーっ!」って。それでずっと2時間っていうような印象ですけども。

(でか美ちゃん)なんか、「スポーツ観戦みたい」って思ったけど。でも、スポーツも物語、さすがにめっちゃあるもんな。

(町山智浩)でも、スポーツはいきなり試合が始まるじゃない? その試合に至る過程っていうのはスポーツでは、その競技場では見られないじゃないですか。だから前も話したけども。『SLAM DUNK』がさ、ひとつのゲームの中に物語を入れ込んでいたでしょう? でも、『怒りのデス・ロード』っていうのはそれすらしてないんですよ。ほとんど。だから、ものすごい興奮して、すごい楽しいんだけれども。「このフュリオサって、誰?」っていう問題があるわけですよ。

(石山蓮華)ああ、そうか。今、それを言われてはじめて「ああ、たしかに。誰だったんだ?」って思いましたよ。

(町山智浩)「誰やん?」っていう話なんですよ。

(でか美ちゃん)あのブームが起きていた時にもみんな「面白い、面白い」とはすごく言っていて。すごいみんなにおすすめされたし。SNSとかでも毎日、誰かが見に行って話題にしてたけど。何が面白いのか、たしかにちゃんと語ってる人があんまりなかったかも。

(石山蓮華)「V8! V8! V8!」っていう。

(町山智浩)そうそう。それはね、ウォーボーイズという……フュリオサの敵っていうのはイモータン・ジョーという砂漠を支配してる男なんですね。男っていうか、おじいちゃんなんですけど。彼は砂漠で貴重な水を独占してるんで、独裁者として振舞っていて。そこにうぉーボーイズという、彼を神のように信奉している兵隊たちがいるという設定なんですね。で、イモータン・ジョーというのは女性たち、妻が何人もいるんですよ。で、彼女たちになんていうか、「俺の子供を産めや! 産まへんのか!」とか言っているジジイなんですが。

その女性たち、妻たちをフュリオサが救い出して逃げるっていう話なんですね。それが『怒りのデス・ロード』なんですけど。フュリオサって誰なのか、わからないんですよ。で、フュリオサは片腕が義手なんですね。すごい金属製の義手なんですが、なんで腕を失ったかも、わからないんですよ。で、これは実はちゃんとジョージ・ミラー監督、話を作ってたんですけど。やっているうちにものすごくアクションシーンが長くなって、もうそれだけでいいってことで。せっかく作っていた話をやらないで、アクションシーンだけで映画にしちゃったんですね。

(石山蓮華)ああ、そうだったんですね。

(町山智浩)でも、ちゃんとフュリオサの物語っていうのはあるんで、今回ちゃんとそれが作られたんで。それが『マッドマックス:フュリオサ』っていう映画なんです。

(でか美ちゃん)なるほど。やっとわかるんだ。フュリオサについて。

『怒りのデス・ロード』の前日譚

(町山智浩)だから、これだけ見ても大丈夫なんですよ。『デス・ロード』の前の話だから。で、今回は若い頃の……というか、子供の頃からフュリオサが育っていくのをちゃんとじっくり見せていくんで。若いフュリオサはアニャ・テイラー=ジョイさんが演じてますね。もう彼女は今、すごいですね。トップスターですね。で、今回の敵はイモータン・ジョーじゃなくて、クリス・ヘムズワースという俳優が演じるディメンタスという、なんていうのかな? 砂漠を旅をしながら、いろんなものを占領している……昔、中国に軍閥というのがあって。それに非常に近いものですね。小さなジンギスカンみたいな男です。

まあ、その彼が最初にアニャ・テイラー=ジョイの前に子役さんが演じてるんですけども。フュリオサを、彼女が住んでいた理想郷みたいなところがあって。水もあれば、森もあるところから幼いフュリオサを誘拐して。その時に、そのフュリオサのお母さんを殺すっていうシーンから始まるんですよ。で、その母親を殺されたフュリオサが成長しながら、そのディメンタスに復讐を誓うという話で。非常に西部劇的な話になってるんですが。今回もとにかくアクションがすごいんですね。で、前の『怒りのデス・ロード』はなんていうか、シルク・ドゥ・ソレイユが時速200キロで走ってくるような映画でした。

(石山蓮華)ああ、そうですね! 車の上にいろいろな人たちがいて、いろんなことしてましたね。

(でか美ちゃん)シルク・ドゥ・ソレイユは見に行ったことがあるから。あんなのが200キロで来たら、やばいですよ(笑)。

(町山智浩)時速200キロでシルク・ドゥ・ソレイユが曲芸をしながら走ってくるっていう映画なんですよ。前のは。

(でか美ちゃん)うわっ、一気に見たくなった!

(町山智浩)で、今回はそれを超えるアクションシーンを作らなきゃなんないってことで、監督が考えたのは今回、敵は空を飛んできます。それと、鉄球をぶんぶん振り回すタンクローリーとの空中と地上の対決になるんですけど、まあめちゃくちゃでしたね。はい(笑)。「すごいな、これは」って思いました。そういう映画がこの『フュリオサ』なんですけれども。これね、とにかくアニャ・テイラー=ジョイがね、あの目の力で……ほとんどセリフないんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、そうなんですか。主人公なのに。

(町山智浩)主人公なのに。ものすごい怒りを秘めていて、しゃべらないんですね。で、顔が真っ黒でね。オイルを塗ってるから。で、目だけがギラギラ光っていて、すごいことになってますけどね。いやー、とんでもない2時間半……2時間半ですよ、しかも。すごいフルスロットルでね。

(でか美ちゃん)2時間半、200キロのシルク・ドゥ・ソレイユ?

2時間半、200キロで爆走するシルク・ドゥ・ソレイユ

(町山智浩)そう(笑)。すごいですよ。それでね、前作が非常に評判だったのは、イモータン・ジョーという男がね、女性たちを完全に子供を産む道具として、家畜として扱ってるっていうシーンがあるんですよ。で、それに対して女性たちが反乱を起こすというストーリーが非常に、そういう……「女の人は子供を産まなきゃ価値がない」とか言ったりする人が日本にも、政治家にいるわけじゃないですか。だから非常にその現代的なテーマだったし。アメリカの場合にはそれこそ、人工中絶禁止が実際に行われてしまったので。非常にその現実の問題とリンクする話だったんですけども。

で、今回と前作で非常に似たところがあって。ご覧なったらわかると思うんですけども。フュリオサが『デス・ロード』のところで敵であるイモータン・ジョーに「覚えてるか!」って言うんですね。今回も、同じセリフがあるんですよ。今回も母の仇のディメンタスに「覚えてるか!」って言うんですよ。復讐の話なんでね。でもね、相手は覚えてないんですよ。これね、何人もの女性を踏みにじってきてるから、いちいち相手の顔や名前を覚えてないんですね。そもそも人を踏みにじってる人って、相手を1人の人間だと思ってないから、覚えないんだよね。それが一番ね、フュリオサが……「フュリオサ」っていうのは「怒り」っていう意味ですけど。まさにその怒りをぶつけざるをえないところなんですけどね。ということでね、『マッドマックス:フュリオサ』……『マッドマックス』っていうタイトルをつけていても、マックスは出てこないんですが(笑)。

(石山蓮華)もう『フュリオサ』ですよね。

(町山智浩)『フュリオサ』でどんどんいくんでしょうね。

(でか美ちゃん)こんなに長く愛されてる作品って私、知らなかったですね。全部見たくなりました。

(町山智浩)ああ、そうですか。じゃあ『フュリオサ』を見てから『怒りのデス・ロード』を見るというね、あんまり他の人がしてない、いい体験ができますから。

(でか美ちゃん)ああ、たしかに! それをしよう! やった!

(町山智浩)これはラッキーですよ。

(石山蓮華)ということで、今日は今週31日金曜日から公開になる『マッドマックス:フュリオサ』という映画をご紹介いただきました。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

『マッドマックス:フュリオサ』予告

<書き起こしおわり>

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