菊地成孔さんが2024年4月5日放送のNHKラジオ第1『高橋源一郎の飛ぶ教室』に出演。60歳になって自身の「老い」や「引退」を意識し始めたことについて話していました。
(高橋源一郎)で、その仕事の前に僕、この本(『戒厳令下の新宿』)の中で気になったことがいくつかあって。そのお話をしたいんですけども。今、冒頭で『隆明だもの』のお話をして。これは老いること……老いて、どうしていくかっていう話で。この日記でも、以前はたぶんそういうことを言わなかったと思うんだけども。ようやく、その老いとか、死とかへも視線を向けてる感じみたいなのが出てきてですね。どこかで引退に向けてのロングスパンという言葉を……まあ、この時にはまだ還暦になってないんですが。
ようやく、そういうことに目を向けるようになったのかっていうのと。あと、この中ではたしかミュージシャン……これはたぶんジャズミュージシャンだと思うんですけど。ミュージシャンは歳を取ってくるとソロになる。でも、なるだけソロはやらないみたいに言っていて。で、いわゆるそのロングスパンのことは今、どう考えてるんでしょうか? 僕なんか、もう73なんで。実はそういうことばっかり考えてるんですけど。
(菊地成孔)ああ、そうなんですか。いやいや、僕は59まではめちゃめちゃ元気で若かったんですよ(笑)。でも、60になったら「さすがに老いたな」とは思いましたね。急にボーン!って来たんで。なんで、いろんな自分の好きなクリエイターが60歳からどうしてるのか?っていうのを調べたんですよ。
(礒野佑子)へー!
自分の好きなクリエイターの60歳を調べる
(菊地成孔)ゴダールの60の時は『映画史』だったとかね、マイルスは60の時はこうだったとか、なんとかかんとか調べて。まあ、結論として、引退すべきかなっていう。
(礒野佑子)ええっ?
(高橋源一郎)いくつで?
(菊地成孔)まあ60……要するに、ジャズだとか、あとはよくジャズに類似してるという風に簡単に言われちゃうことがある噺家さんだとか、ああいう個人芸っていうんですかね? ああいうのは、言っちゃえば80でも90でも大名代になって、名人になって続けることはできるんですけど。ある程度、エッジにやりたいなって思ってる人たちもいるわけですよね。そういう人たち……。
(高橋源一郎)名人にはなりたくないと。
(菊地成孔)名人になりたくない人たちは、60になってもまだ足掻くんですよね。で、足掻くんですえkど……やっぱり60を過ぎると自己模倣に走ったりしてて。やっぱり60を過ぎて、また新しい境地に行って、70以降にも全然違うスタイルのすごいことやったって人っていうのは、僕が知っていて……たかが知れてますけど。僕の好きなクリエイターでは、いなかったんですね。
(礒野佑子)そうなんですね。
(高橋源一郎)じゃあ、菊地さんはどうするの? たとえばさ、なんでもいいや。ジャズだと、ウェイン・ショーターなんか、80ぐらいでもソロやってるじゃん?
(菊地成孔)ああ、もう亡くなりましたけどね。
(高橋源一郎)でもまあ、椅子に座ってね。ああいうのは嫌なわけ?
(菊地成孔)あれでもいいのかな?って今、迷っているところですね。あっちでもいいのかなとも思いますし。あるいは、もう背広組っていうか、プロデューサーというか。そうですね。「引退」って、もう辞めちゃって隠遁生活を送るとかじゃなくて。
(高橋源一郎)今までみたいな活動ではなくてっていう?
プレイヤーを引退するだけ
(菊地成孔)現役はまあ、引退して。他にも音楽界でやれる仕事はありますから。そういうことをするのかしらというような感じですかね。
(高橋源一郎)いや、でもやっぱりね、ライブを聞きたいよね。菊地さんのところが生まれて初めてのライブだったうちの息子はですね、この前、『岸辺露伴』を見て「よかった」って言っていて。「あれ、音楽は菊地さんだよ」って言ったら「ああ、やっぱり? よかったわ!」って言ってましたよ(笑)。
(菊地成孔)アハハハハハハハハッ!
(高橋源一郎)菊地さんが初ライブだったから。もう、悪いものを見せちゃったから(笑)。
<書き起こしおわり>