菊地成孔 ラジオ前口上 日本人とラップと『Ah,Yeah』

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菊地成孔さんがTBSラジオ『粋な夜電波』、日本語ラップ特集最終回で披露したラジオ前口上の書き起こし。『Ah,Yeah』という言葉と日本人の国民性について話しています。

(菊地成孔)Ah,Yeah。古代、もしくは未来。日本語が自分を日本語だと客観的に知った日。モヤモヤはだいぶ晴れた。Ah,Yeah。でも完全には晴れ切らなかった。特に晴れなかった者どもの飢饉は続き、自我の戦争は拡大して、小説なんかを書き始めた。俺のガラケーの中で小説を12年間も連載している友達がいる。俺のもとには、そういうヤツが集まり、つまり、飢饉は続き、自我の戦争は拡大して、俺の商売は繁盛した。Ah,Yeah。

エスペラント以外、世界のあらゆる国語たちは同じことをするしかなかった。そして、それまで地球に存在していた様々な音に、奴らは各々固有の意味をつけた。モヤモヤを、晴らそうとして。中国人は『Ah,Yeah』を『びっくりした』という意味に決めた。イントネーションは『アイヤー』。花火や金魚を発明した国らしく、驚くにしても派手だ。彼らは何だって食う。それでも、だからこそ飢饉は続き、自我の戦争は拡大して、俺の商売は繁盛した。

ナイジェリア、ベナン、トーゴなどで城壁に囲まれた小都市群国家を形成し、政権と軍権を二分したヨルバ人にとって、『Ah,Yeah』は『我々は理解する(We understand)』。イントネーションは『ア、イエッ』。そして、浜辺でとれる少しの小魚。そしてエグみの低い山菜と五穀の中でも特に癖のないもの。そして、ちょっとのうるち米を単一の方法のみで調理する非常にナーバスで優しく、バルネラビリティあふれる食の遺伝子がいまだに残っている我々日本人は『Ah,Yeah』を、公では『曖昧なほどに遠回しな拒否』。独り言では『非常に不快である』とした。

『今日は電車でご出勤ですか?』『ああ、いや・・・』。『帰りに一杯どうですか?』『ああ、いや・・・』。『素晴らしい作品ですね。感動しました』『ああ、いやいや・・・』。そして帰宅し、誰もいなくなると『ああ・・・いや・・・』。下を向いて。薄笑いとともに。誰もがすぐに出来るあの調子で。日本語ラップなんて、自分をいじめる恐ろしくてバカなあいつらのもんだと信じ込んでいる人々。彼らは気づいていない。Ah,Yeah。彼らだって毎日、このサウンドで自分のリズムを取っていることを。『ああ、いえ・・・』『あっ、いえ・・・』『ああ、いえいえ』『Ah,Yeah,Yeah』。

こうして、世界一恥じらい深く、感情表出恐怖が強く、優しいが陰湿で気が弱い。つまり、トップレベルのシャイネス国家に住む我々にとって、恥ずかしさは死闘を繰り広げるべき怪物となり、世界中のどの国の伝説とも違う死闘の足跡を刻んでいくことになった。その結果、いきなりキレる以外は侘び寂び、そしてちゃっかりと呪いに満ちたとても奇妙な皮肉屋や毒舌家が世に満ちた。SNSによってさらに去勢された彼らは、数年のうちに『ああ、いや・・・』さえ発声できなくなり、話しかけられても沈黙で返す、無音コミュニケーション社会を形成するのかもしれない。

マスメディアに登場する適度な毒舌家を誇大に英雄視せざるを得なくなった心身で彼らはシャイネスとの死闘について、貧弱極まりない視点でしか捉えられなくなるほど成り下がった。ただ騒いでハイになり、感動するわけ。あるいは、怯えるものは信じ込んでいる。ラッパーなんて奴らは、自分らのような死闘を生まれつき知らない、愚かで恥ずかしげもない怪物であると。こうした、人種差別にも似た偏見による凄まじい飢饉は続き、自我の戦争は拡大して、俺の商売は繁盛続きだ。

ここで2人の優秀なラッパーを紹介しよう。彼らはあらゆる死闘を経ていま、マイクの前にいる。彼らが進撃の巨人の中での、自分たちと話の通じる少数の例外だと。つまり、善玉の怪物であると人々が思いたがっている間は、この国の飢饉は続き、戦火は止まらないだろう。一度も韻を踏まずにここまで来て、韻律ですらこの国では恥じらいの対象である。『ああ、いや・・・』『Ah,Yeah』。『ああ、いやいや』『Ah,Yeah,Yeah』。『Shit』は『嫉妬』。『Bullshit』は『武士』。『Superman』は『スーパーマン』。『So,you know』は『そういうの』。『What I say』は『話題性』。世界中にかわいがられるという、ロココ以降の文化的偉業を果たした、You guys, Japan cools。ラッパーたちに聞いたことのないほどの新時代の到来を告げる、まったく新しい拍手を。

はい。というわけでつい先ほど、今日が終わりました。予報では明日も今日は終わる模様ですが、来週からは冷え込みが予想されますのでご注意ください。こちら、力道山刺されたる町、東京は港区赤坂TBSラジオ第八スタジオよりお送りしております。赤坂ニューラテンクォーター公式認定番組、菊地成孔の粋な夜電波。本日は最後の日本語ラップ特集です。もちろんこれは、日本語が言語としてもう終わりだという意味ではありません。過去3回、同じメンバーで行われた同特集はポッドキャストされておりません。ご興味がある方は地下に下り、比較的簡単に発掘してください。

地下には古典を含む多くの宝が無料で転がっており、ミイラや宝物の発掘と違い、なんと、好きに注文書きをすれば通るという蕎麦屋の出前のようなことになりました。天ぷら蕎麦3つ。それでは、文学者田中康夫に続いて番組にSit inしてくれた大変に素晴らしいビートと言葉の芸術家をご紹介しようと思います。まず、現在お聞きのサウンドは彼の手によるものです。OMSB’eats、20代の青年として、人間的にも作品的にも自己更新をしているいまの気分は?

(OMSB)なかなか、です。

(菊地成孔)えー、沈黙中のMOEさん。香港の学生運動について一言。

(MOE)FIGHT THE POWER。BY PUBLIC ENEMY。

(菊地成孔)はい。というわけで、AMラジオを選択した者どもに賢者の誉れあれ。日本人の娯楽の殿堂、金曜深夜0時にようこそ。お相手はさまよえるジャズミュージシャン、私菊地成孔 a.k.a N/K。そして、日本語ラップの正統と異端を軽々と飛び越えた豪腕。SIMI LABのブッコミにして世界的な才能。いまや多作家のOMSB’eats。そして、文化系ラップの雄にして、長い沈黙期間の最中にいる、活動しない美声の壇蜜こと、MOE AND GHOSTSの女性MC、MOEさんというお馴染みの3人で今夜もI-L-L、そしてJ-A-Pにお送りしたいと思います。菊地成孔の粋な夜電波シーズン8。AW。ラウンド・ミッドナイト。本日は最終日本語ラップ特集です。HIPHOPのヘッズもアンチHIPHOPの方も、単なる最終回マニアのみなさんも、住宅事情の許す限り最大音量で大いにお楽しみください。あるいは、閉じていた目を、耳を、開いてください。あるいは、あらためて嫌悪と恐怖を確認してください。

<書き起こしおわり>
[関連リンク]菊地成孔 日本語ラップ特集書き起こし ゲスト:OMSB Moe

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