町山智浩さんが2024年4月2日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『アイアンクロー』について、話していました。
(町山智浩)まあ、そういう、いろいろ考えさせられるる恋愛映画が『パスト ライブス/再会』なんですけど。もう1本は全然違う映画で。『アイアンクロー』というプロレス映画です。はい。
(曲が流れる)
(町山智浩)もう曲の雰囲気も全然違うんですけども。これね、『アイアンクロー』っていうのは「鉄の爪」っていう意味なんですよ。で、これはフリッツ・フォン・エリックという往年の、第二次世界大戦ぐらいからずっとやっていたレスラーがいまして。日本にも来て、ジャイアント馬場さんと戦ってたりしているんですが。この人の必殺技がアイアンクローなんですね。この人、フリッツ・フォン・エリックっていう人はものすごく体でかくて。2mぐらいあって。で、手がでかくて、握力がすごくて。リンゴを握りつぶしたり、電話帳を引き裂いたりするんですよ。その力で相手のこめかみを掴んで、グーッと握り潰すんですよ。それがアイアンクローで、彼の必殺技なんですね。
で、これをやられたらもう、だいたいギブアップですけど。で、その人の息子さんたちの話なんです。この『アイアンクロー』という映画は。というのはフリッツ・フォン・エリック……エリック家ということで、息子たちが全員プロレスラーになるんですね。4人、いた息子が。ところが「エリック家の呪い」というものがありまして。その息子たちが次々と死んでいくんですよ。これはすごく、日本のプロレスファンの間ではものすごく有名な話なんですね。どうしてかっていうと、最初の1人が日本で死んでるからです。
(でか美ちゃん)そうなんですね。
(石山蓮華)それは、どのタイミングで亡くなっちゃったんですか?
(町山智浩)これは、1984年なんですけれども。日本で試合をしていたデビッド・フォン・エリックというレスラーが……この人、世界チャンピオン戦に挑戦する直前に、ホテルで謎の死を遂げました。25歳だったんですよ。だから日本のプロレスファンはエリック家の呪いっていうのをすごくよく知ってるんですね。で、なんで死んだかわからなくて。腸かなにかでなにかが起こったらしいんですけど。非常にそのへんは謎に包まれてるんですが。その後、どんどんこのエリック家の兄弟がみんな、プロレスラーなんですけど。次々に死んでいくんですよ。で、その呪いっていうのは一体何なのか?っていうことを解き明かしていくのがこの『アイアンクロー』という映画なんですね。
「エリック家の呪い」の正体
(町山智浩)で、この呪いの正体はね、別にネタバレにならないんで、しちゃいますけども。この親父なんですよ。フリッツ・フォン・エリックっていう親父が、要するに息子たち全員をプロレスラーにして。で、自分が手が届かなかった世界チャンピオンを目指させて。子供の頃からプロレスで徹底的に鍛え続けて。で、異常なスパルタしごき教育をして。で、彼らはみんな洗脳されちゃって。プロレス以外は何も考えられない子になっていくんですね。で、俳優さん……ザック・エフロンっていうね、『ハイスクール・ミュージカル』に出ていた、かわいい爽やかなティーンアイドルだった彼がもう、筋肉モリモリの怪物みたいなってますよ。この映画で。鍛えまくってすごいんですけども。あとは『The Bear(一流シェフのファミリーレストラン)』っていう、すごくいいディズニープラスでやっているドラマがあるんですけども。それの主役の彼とか、みんなプロレスラーの体になってですね。もうすごいお芝居をしてますけれども。当時、この体にするのにはみんな、ステロイドをやってたんですよね。「プロレスラーって。
(でか美ちゃん)ああ、そうか。それで身体的にも精神的にも、すごい負担があったんですね。
(町山智浩)そうなんです。で、プロレスって試合数が多いんですよね。すごく多いんですよ。だから体中、痛いんですよ。だからもう、もう痛み止め中毒でしょう? ステロイドやって、痛み止めをやるでしょう。それでツアーで忙しいから、覚醒剤もやるでしょう? で、コカインをやって気合いを入れて……ってやっているから、みんなポロポロになっているんですよ。で、次々と亡くなっていく中で、でもこの家がすごいのがね、お父さんが何かを言うと息子たちはもう20歳をすぎてるんですけど。「Yes, Sir!」って言うんですよ。
(石山蓮華)家の中で?
(町山智浩)家の中で。軍隊かよ?って思いますけど。だから全然逆らえないまま。そのデビッド・フォン・エリックが謎の死を遂げてお葬式をやるじゃないですか。そうすると、まあみんな泣いてるわけですよ。仲の良い兄弟だから。するとこの親父は「泣くな! 男は泣くな!」って言うんですよ。「彼の代わりにね誰が世界チャンピオン挑戦するんだ?」ってやるんですよ。「お前か! お前かーっ!」って言うんですよ。
(でか美ちゃん)ちょっと歪みすぎてますよね。
(石山蓮華)「子供は道具じゃないぞ」と思いますよね。
(町山智浩)そう。自分の兵隊だと思ってるんですよね。で、家でもね、子供に序列を付けるんですよ。
(石山蓮華)うわっ、最悪ですね。
(町山智浩)最悪なんですよ。毎日、トレーニングしてるんですけど。「今日、一番頑張ったのはデビッドだな。二番目はケリーだな」とかやるんですよ。で、「このランキングは毎日、変わるからよろしく!」とか言うんですよ。
(でか美ちゃん)でも子供の時にそれをされていたら、お父さんに褒められたい一心になっちゃうだろうなって。
(町山智浩)そうなんですよ。子供に序列を付けちゃダメだよね。これね。でも、兄弟同士で一生懸命、競争するんですよ。というね、見ていると「これ、許されるの?」っていう内容で。「これ、呪いどころじゃないだろう? 虐待だろう?」みたいな。すごい映画なんですよ。
(でか美ちゃん)でも一方で、フリッツ・フォン・エリックってプロレス通の中ではカリスマ的な存在ですもんね?
(町山智浩)知ってます?
(でか美ちゃん)なんか他局でやってるラジオで毎週、プロセス情報を送ってくれるリスナーさんがいて。その方からの知識ですけど。すごい有名な選手ってことは私でも知ってたんで。ちょっと興味ありますね。
(石山蓮華)アイアンクローは聞いたことがあるので。この人なんだと思いました。
(町山智浩)そう。怪力のレスラーだったんですよ。だからこの兄弟もみんな、親父の技を身につけるために電話帳を引きちぎったりする練習をするんですよ。
(でか美ちゃん)亀田兄弟のピンポン玉みたいになっているんだ(笑)。
(町山智浩)みんな、リンゴを握り潰す練習とか、毎日しているんですよ。どんな家なんだと思いますけど。で、僕の世代だとフリッツ・フォン・エリックってとにかく悪役として知られてたんですけど。よくレスラーで悪役の人は、本当はいい人っていうのは多いんですよね。でもね、こいつは本当に悪いやつだからね。参ったなって思いましたけど。
(でか美ちゃん)でも全く違う2作品なんで、1日に両方見てもいいかも?
(町山智浩)頭、おかしくなりますよ!(笑)。
(石山蓮華)でも両方ともA24が二本立てということで。
(町山智浩)でもね、『アイアンクロー』はプロレス映画っていうと血なまぐさくて怖いと思うかもしれないんですけども。この映画、ものすごく美しい映画です。
(でか美ちゃん)プロレスが普段、あんまりっていう方にも、いいかもしれない。
(町山智浩)それで聞くとこれ、ひどいだけの映画なんじゃないかって……その、何人も子供が死んでくっていう話なんで。でもね、最後のところには、すごい救いがあるんですよ。
(でか美ちゃん)それはちょっと安心して見れます。
(石山蓮華)わかりました。じゃあぜひ、ちょっと見てみようと思います。
『アイアンクロー』予告
<書き起こしおわり>