町山智浩さんが2023年10月10日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『理想郷』について話していました。
(町山智浩)で、今日紹介する映画ははいそういうひどい世界状況の中でですね、非常に希望を抱けるようなタイトルの……。
(でか美ちゃん)そう。タイトルだけ聞くとだいぶ、パッと明るいような。
(町山智浩)『理想郷』っていうタイトルの映画と、『ヨーロッパ新世紀』っていう、非常に希望に満ちたタイトルの映画を2本、ご紹介したいんですが。どっちもヨーロッパの田舎が舞台で。その田舎が本当にもう風景が、夢のようにきれいなところなんですよ。山の中なんですけどもね。そこで実際に起こった実話、事件ですね。最近起こった事件を映画化したものです。2本とも。
(石山蓮華)実話なんですね。
(町山智浩)で、『理想郷』はスペインの映画で、『ヨーロッパ新世紀』はルーマニアの映画です。で、『理想郷』という映画はまさに理想郷のようなスペインのガリシア州っていうところがあって。本当に緑あふれる山奥でですね、美しくて。そこを好きになったフランス人の老夫婦が、ずっと学校の先生をやっていたらしいんですけれども。お金を貯めて、引退してそこに土地を買って、その理想郷で有機野菜の農業を始めようとするんですね。
(石山蓮華)ああ、なんかわくわくしますね。
(町山智浩)はい。で、一生懸命畑を耕して、頑張って、それで街の人と溶け込もうとして、慣れないスペイン語をしゃべって、いろいろやるんです。そのアントワーヌっていう旦那さんがね。ところが、そこにノルウェーの電力会社が風力発電の風車を建てようとするんですよ。その田舎の山奥の村にね。そうすると、その地元の人たちに電力会社がものすごい莫大な補償金を出すと。
(でか美ちゃん)村としては潤う。
(町山智浩)そう。村としては潤うんですよ。ところが、そのアントワーヌさん夫婦は美しい村を求めてせっかく来たのに、風車が建ったら台無しなんで、反対するんですよ。
(石山蓮華)景観を巡る話なんですね。
(町山智浩)そうですね。ただ、彼はその村にある古民家を修復して、その村に新しく人を取り戻して、自然の非常に豊かな有機農業の村として村おこしをしようとしてるんですよ。
(でか美ちゃん)そのままの美しさを保ったまま、何とかしようという意思があったのか。
(町山智浩)そうなんですよ。
(でか美ちゃん)でも風力はちょっと、一発解決みたいなことですもんね?
(町山智浩)一発解決なんですよ。その各世帯にいきなり1000万とか2000万とか、電力会社がくれちゃうわけですよ。だから地元でずっと農業をやってきて、貧しいまま何十年も親子3代とかでやってきて。それで1回もいいことなかったっていう農家とかは、その保証金を受けたいってことになるんですよね。
(石山蓮華)そうですよね。大きいですもんね。
風力発電に反対して村八分状態に
(町山智浩)ところがそれにアントワーヌ夫妻が反対するんで、彼らは村八分になって。で、だんだん仲が悪くなっていく中で、このアントワーヌさんは非常に理想を持って……『理想郷』ですから。それでやろうとするんで、だんだんとすごい嫌がらせを村の人からされるようになって、孤立していくっていう話なんですよ。
(でか美ちゃん)うわー。「村を良くしたい、生活を良くしたい」という思いは一緒なのに……でも、たしかに自分が村人だったらって思ったら、「なんか、セカンドスローライフみたいなつもりで来たんか知らんけど……」とかは思っちゃいますよね。
(石山蓮華)「都会者め!」みたいなね。
(町山智浩)「お前は結構お金があって、土地を買って。俺たちを見下してるんじゃないのか?」みたいな話になっちゃうんですよ。
(でか美ちゃん)なるほど。そうじゃないんだけどな。
(石山蓮華)いやでもこれは難しいけど……めっちゃありそうな話ですね。
(町山智浩)これ、日本の田舎でもこういう話、結構起きていますよ。
(でか美ちゃん)絶対あると思いますよ。やっぱり。っていうか、そういう話を聞くし。
(石山蓮華)たまにWebの記事でもこういう、ねえ。村おこしのために行ったけれど、うまくいかなくてっていうの、記事で読んだことがありますね。
(町山智浩)今ね、日本はすごい各村がもう過疎になっていて。高齢化とか、少子化とか。とにかく今、田舎の方が本当にインフラを維持できないぐらい限界のね、人口減少になっているわけですけれども。そこに都会から入ってきた人は、それでみんなに喜ばれるのか?っていうと、そうじゃないんですね。そういうことが起こっていて。ただ、日本と違ってヨーロッパの田舎の人はですね……まあ、日本も今、持ってるか。今、すごく過疎が進んだんで獣害が増えていて。イノシシとか熊とかね。だから、田舎に行くとみんな、ライフルを持ってるわけですよ。
(でか美ちゃん)えっ、ちょっと待って? 思ったより本当に理想郷とは程遠い話かもしれない……。
(石山蓮華)しかもこれ、実話を基にした映画で?
(町山智浩)実話なんですよ。
(石山蓮華)ああ、ちょっと不穏な……。
(町山智浩)それで、怖いことになっていくんですけどもね。それが『理想郷』っていう映画で。途中からホラーみたいになってきますけど。実話なんですが。
(石山蓮華)うわー……。
映画『理想郷』予告
『理想郷』大変見応えありました!よそ者受難田舎映画は多々ありますが、スリラーと夫婦の愛の物語が濃密に絡まって孤高の完成度。前半は夫のドゥニ・メノーシェ、後半は妻マリナ・フォイスが主役となり、どちらもとんでもなく素晴らしい演技を披露しています。 pic.twitter.com/lJMorsBj7J
— 花俟良王(読めなくてすみません) (@goodkingsama) October 8, 2023
<書き起こしおわり>