宇垣美里 実写版『ONE PIECE』をすごく好きだと感じた理由を語る

宇垣美里 実写版『ONE PIECE』をすごく好きだと感じた理由を語る アフター6ジャンクション

宇垣美里さんが2023年9月5日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でNetflixで配信スタートした実写版『ONE PIECE』についてトーク。8話分を一気見してしまったという宇垣さんがその魅力を『ONE PIECE』弱者の宇多丸さんに解説していました。

(宇多丸)ということで、いろんなことを持ち寄っている火曜日なんですけども。今日は宇垣さんはね、「今日は私はこれをしに来た!」っていうね。「いろいろ他にもしに来てるだろう?」っていうのもありますけど。

(宇垣美里)そうなんですよ(笑)。昨日ですよ。本当に昨日。

(宇多丸)ホヤホヤ?

(宇垣美里)ホヤホヤ。「ああ、そういえば……」と思ってパッとつけたら、全8話のやつを普通に見切っちゃって。

(宇多丸)Netflixでついに配信開始になった、話題のあれですね?

(宇垣美里)『ONE PIECE』の実写版。全8話を、10時ぐらいから見始めたのに……だから何時だ?

(宇多丸)夜の10時から見始めて?

(宇垣美里)9時ぐらいかな? 少なくとも「あっ、お風呂入ろう」と思ったのが4時とかだったんですよ。「怖っ!」と思って。自分のことを。全部そうなんだっていう。

(宇多丸)本もそうだけど、一度集中しちゃうとずっと行っちゃう。でも、集中させるだけの。

(宇垣美里)面白かったんですよ!

(宇多丸)8話。1話あたり1時間ぐらいらしいですね? で、8時間ということなんですけど。で、評判が実際、めちゃくちゃいいじゃないですか。なので気になっていたんですが。

(宇垣美里)ぜひちょっとプレゼンさせてください!

(宇多丸)ぜひ。私、めちゃめちゃ『ONE PIECE』弱者ですけど。『ONE PIECE』弱者だからこそ、これがよければここから入ろうかな、ぐらいに思ってたんですよ。

(宇垣美里)たしかに。ちょっとおすすめかなと思いました。

(宇多丸)ねえ。よろしくお願いいたします。じゃあ、もうそれを終えたらひと仕事終えて。ひとっ風呂浴びに行くみたいなことなのかもしれませんね?(笑)。よろしくお願いします。

(宇垣美里)アフター!

(宇多丸)シックス!

(宇多丸・宇垣)ジャンクション!

(中略)

(宇多丸)ということでNetflixでつい最近。今週ですかね? 配信開始になったという。で、ずっとね、作ってるっていうことで、いろいろ話題にもなっておりました。

(宇垣美里)予告とかはね、見てたんですけど。実際どうかなって思っていたんですけども。やっぱり漫画の実写って正直、難しいじゃないですか。

(宇多丸)『カウボーイビバップ』とかね、あれは漫画というかアニメだけど。なんか割と壮絶にね、失敗してたりもしますよね。Netflixでも。

(宇垣美里)『ドラゴンボール』とか、あるじゃないですか。なんていうんだろうな? やっぱりその2次元だからできたことを3次元でやると、途端になんかちょっと「うん?」ってなっちゃうことって絶対にあると思うんです。

(宇多丸)いろんなバランスが変だったり、陳腐になっちゃったり。

(宇垣美里)そうなんです。正直、危惧してました。でも見始めると、尾田先生がしっかり全部に監修に入ったということもあって。私はすごく好きでした。話としては『ONE PIECE』の仲間たちが増えていく……でも仲間としてはルフィ、ゾロ、ナミ、ウソップ、サンジ。この5人が仲間になるところまでというところなので、もう序盤も序盤。

(宇多丸)単行本でいうと、どのぐらいになるんですか?

(宇垣美里)わかんない。でもたぶん私が小学生の頃に読んだぐらいだと思います。

(宇多丸)まあ、長大な原作ですから。

(宇垣美里)小中ぐらいじゃないかな?っていうぐらい、序盤も序盤なんですけれども。ただ、その話をちっちゃくすることなく、ちゃんとグランドラインの話。世界の話であり、四つにわかれていて……っていうところをこぢんまりさせることもなく。ただ話をちゃんと、全8話なので8話に収めるために、全てをしっかりしているわけじゃなくて。ちょっと抜いたり足したりしてるんですけど、それが絶妙で。それによって、もちろん「ああ、あのシーンはないんだ」とか「この人、死んじゃったんだ」とか、そういうのはあるけれども。なんか、すごく見やすくなっていて。

(宇多丸)整理されている。

エピソードが整理されて見やすくなっている

(宇垣美里)そうなんです。久しぶりそのシーンを……もちろん私、全巻読んでますし、知っているところなんだけど。「改めて見るとこんなに泣けたんだ」っていうところがいっぱいあって。

(宇多丸)大人の鑑賞に耐えたってことですよね。

(宇垣美里)そうなんです。そして数十年前の作品を、これだけ時間が経ってドラマ化するにあたって、やっぱりその今のリアリティラインというか、今の価値観とかにちゃんと、ぴったりフィットしたものになっていて。

(宇多丸)今、見て「うっ……」となっちゃうのもありますからね。

(宇垣美里)たとえば魚人が出てくるんですけど。

(宇多丸)魚人とは?

(宇垣美里)本当に魚人なんです。ノコギリザメの魚人とかエイの魚人とか。人魚の逆バージョンといいますか、それぞれの魚の特徴がすごく外見に出ていて。見た目から、外見からもう魚みたいな顔をしてて。作品の中でも、おそらく差別されていて。なんなら、奴隷にされてきたんだっていうのが後々にわかるわけですけれども。そこでアーロンっていう、最初にルフィたちが出会う魚人が出てくるんですが。完全にその魚人というのがどれだけ差別され、その結果アーロンがどういう存在になったのか?っていうのをしっかり描いていて。

(宇多丸)元だと、ずいぶん後になって出てくるような話を出だしのところでしているっていうこと?

(宇垣美里)アーロン自体は序盤に出てくるんですが。たとえば、原作の中にはなかったアーロンのセリフとかで「うわっ!」っていう。たとえば……難しい。どこまで説明していいかがわからないですけど。たとえばサンジっていうキャラクターがいて。サンジは船のレストラン出身なんですけれども。その船のレストランはゼフっていう元海賊がやってるレストランなんですね。そこで「みんなが自由になる船にしたい」っていう。ただ、原作ではもっとしっかり説明してるところをキュッとしてるんですけど。

でも、彼が「皆にとって平等な、みんなが美味しいご飯を食べられる、飢えなくてすむレストランにしたい」っていう気持ちを体現してるのだなってのがわかるのが、入口の受付のおそらく支配人のような人。配膳を全て担っているだろう一番偉いっぽい人が魚人なんですよ。この時点でそれはかなり「おっ?」って思ったんですね。原作にはないし、そこに現れたアーロンがそこでちょっと無銭飲食するんですけど。「魚人がメシ食ってるの、珍しいか?」っていう言葉をその横でプルプル震えているお姉さんに言うんですね。

だから「ああ、一緒に食べることがなかったんだ。許されてなかったんだ」っていうのがそのセリフでわかったりするんです。そもそもその、スーツを着た魚人がいる時点でちょっとびっくりしてる顔してるアーロンもいたりして。「ああ、これってそういうことだ」って。

(宇多丸)まあ、その人種偏見とか。それこそ、そうだね。かつての、たとえば奴隷制がゴリゴリの時のアメリカの黒人の扱いであるとか。

(宇垣美里)実際、そのアーロンの役の方もかなりエフェクトはかかってるんですけど、黒人の方がやってらっしゃって。たぶん、その背負ってる歴史もあると思うんですね。

(宇多丸)明らかにもうね、演じられているってことは、そこに象徴させてる。意識的に打ち出してるわけだもんね。

(宇垣美里)なんかそれがすごく新しいなって思ったりとか。もちろん、原作のルフィってモノローグもないし。ある種、ちょっと心が読めないというか、動物的というか。何を考えてるかわからない、底知れなさっていう意味の恐ろしさがあるキャラクターなんですけど。でも人間がする。2次元ではなく、3次元の人間が演じることによって醸すものって、あると思うんですよね。それを人間がやると、すごく変だと思う。

(宇多丸)そのままやっちゃうとね。

(宇垣美里)そう。でもそれをたぶん、尾田先生やスタッフの人がすごく考えた実写のルフィは、すごく傷つくし、悩むし、考えるし……っていうところを表に出していて。ゾロが死にそうになったら、それだけですごく不安になっちゃったりとか。当たり前なんですけど。仲間が死にそうになったら、それは当たり前なんだよね。でも、漫画の中ではなかったそういうシーンがすごくあったりして。すごく生きた人間だったんですよ。全てのキャラクターが。私はそれを見ていてすごく「ああ、実写にした意味があった」って思いましたし。キャラクターのコスプレをしてる人がその漫画の中にあるセリフを話すのではない、人間がそのキャラクターになっているっていう感じがすごくして。「ああ、これは見てよかった」って思いました。

生身の人間が演じる意味

(宇多丸)だからある意味、原作をなぞることが目的化してなくて。ちゃんとその原作の中に内在するものをチューニングして実写用にアダプテーションしてるっていうか。

(宇垣美里)そう。だし、原作ではもちろん後半に出てくるんですが。コビーという最初にルフィと出会う海兵になりたい男の子……男の子か、女の子かなキャラクターがいるんですけれども。その子が、ある種の第2キャラクターというか、ルフィと対になるキャラクターのようにアニメの中では描かれていて。それによって海兵と海賊っていう正義と悪みたいな。体制側と反体制側みたいなものがすごく見えてきますし。で、彼の目線によって、「あれ? ルフィがされてきたことって虐待だったんじゃないの?」とか。そういう「漫画の中には描かれていなかったけど、今考えたらそうだよね?」みたいなこともすごく可視化されていて。今、実写ドラマ化して……もし、これをしていなかったらすごく危ういところを新しい価値観で描いていることによって。

(宇多丸)ちゃんと「それはよいことだとは思ってないですよ」っていうのをね。それをスルーしちゃうと、なんか「うん?」って感じがしたまま見ちゃうけど。

(宇垣美里)もしかしたら「そこが嫌だったんだよな」みたいな人にとっても素晴らしいと思いましたし。あと、オヤジたちがいい。おじいさんたち。年齢層がかなり上のキャラクターもたくさんいるんですが。そのあたりもすごく、ちゃんと原作のキャラクターに似てるんですけど、その人たちが生身の人間として演じることによって、若者たちに対する目線、眼差し。それは「心配で手を離したくない」っていう目線と、「だからこそ手放す。もう彼らの時代なんだよ」っていう目線がしっかりすごく肉付けされていて。

(宇多丸)要は生身でやるだけで物語が見えますもんね。

(宇垣美里)そうなんです。「別に知ってる話なのに、こんなに号泣するか?」みたいなところが何シーンもあって。私はすごく好きでした。アクションももちろん、まあゴムになるっていうエフェクトがあるので。そこで「うん?」ってなる人もいるかもしれないんですけど。特に、真剣佑!

(宇多丸)やっぱりね、真剣佑さんはね。

(宇垣美里)ゾロがすごい! 剣で戦う、日本刀で戦うキャラクターなんですけども。

(宇多丸)『聖闘士星矢』の時もね、生身のアクションとか本当に素晴らしかったですけどね。

(宇垣美里)すごかったです。だって三刀流なんですよ? 右手、左手、口にくわえる! これね、普通の人がしたら、面白くなっちゃうと思うんですよ。

(宇多丸)そうですよね。なんかコントっぽくなっちゃうけど。

(宇垣美里)「これ、絶対におもろくなっちゃう。どうしよう?」と思ってたんですけど、ちゃんとかっこよかったし。私、それを見て面白かったからもう1回、原作を読み返したんですよ。数十年ぶりに。そしたら、「動き、一緒やん!」ってなって。それを含めて、すごかったです。

(宇多丸)ああ、そう? なんかお話を伺ってると、逆に実写って何のためにあるのか? 実写ってのよさっていうか、実写にしかできないことって何か?っていうのを改めて、こっちも味わえるっていうか。

実写にしかできないことを考え抜いている

(宇垣美里)すごくそれを考えられた作品だと思いました。「二次元の真似をするんだったら、三次元にする必要はないじゃん」って私は思っていて。ただ、その魂みたいなものは絶対に引き継がなきゃいけなくて。それをすごく上手にしていて。私、今まで見たことないぐらいちゃんと、漫画の実写化として素晴らしい出来のものだったなって思いながら見てました。

(宇多丸)実際、めちゃくちゃ評価が高いわけだから。おっしゃられたようなことがきっと、証明されてるってことですね?

(宇垣美里)と、すごく思いましたね。もちろん、「より原作に忠実にあってほしい!」みたいな人にとってはひっかかるところはたくさんあると思うけど。私はそうじゃないものを楽しみたいから。

(宇多丸)それをそのままやったら取り逃す大勢の人がきっといるでしょうからね。

(宇垣美里)そうじゃないかな? とか。すごくいろんなチューニングがされていて、私はとっても好きでしたね。

(宇多丸)ああ、そう? じゃあ、いよいよ……だから、あれですよね。漫画の方を読んでないとか。なんなら、その漫画の方はいわゆるジャンプ文法というか。ああいうのが苦手で読みづらいみたいな人も当然、Netflixで世界中で見れるような作品だから、見やすくなっているし。

(宇垣美里)そこを入口にっていうのもいいと思いますし。ただ、それを見た後に原作を読んでいただくと「えっ、こんなに充実だったの?」っていうぐらい、見た目がすごい似ていて。でもね、その鼻を伸ばすとか、眉毛をくるくるにするとか、そういう「似ている」じゃないんですよ。そういう、そのリアリティとしてありえないところは別に似せてなくて。でも、ウソップだし、サンジなんですよ。それがすごいなって思いながら見ていました。で、私は英語で見たんですけど、日本語で選ぶと実際のアニメの声優さんでやってくれるので。

(宇多丸)それはさすが、力が入っている。

(宇垣美里)めちゃくちゃ楽しかった。それはそれで。

(宇多丸)全8話。8時間ですね。

(宇垣美里)すいません。なんか、すごい熱でしゃべっちゃった。

(宇多丸)いやいや、だって今日はそれをしに来たということで。

(宇垣美里)いや、思ったよりすごく私は好きでした。

(宇多丸)いや、よかった。評判も聞いていたし。誰か、ちゃんと見た人の感想を聞きたかったし。素晴らしい。しかも今、伺ってたらやっぱり、たとえばさっきの年配の老人たちっていうのを実写の人がやることで見えてくるものとか。あと、やっぱり主人公ですよね。鳥嶋和彦さんとお話をした時に「主人公って一番空虚になりやすい」みたいなお話があって。

(宇垣美里)システムになっちゃいますからね。

(宇多丸)そうそう。全員と関わる役だし、一番はっきり正しい人だから……っていう風になりがちだけど。でも、ちゃんとその実写ならではのチューニングしてるとか。やっぱりルフィは、僕も数少ない見た中でいうと、やっぱり……なんていうかちょっとさ、「えっ、狂人なの?」みたいなさ。

(宇垣美里)ちょっと異質な存在ではあるので。

(宇多丸)それがすごく主人公的な、ある意味ドスンとした中心になってるんだろうけど。それを実写でやる時に、なんかちゃんと調整してるっていうのはさすがだなって。

(宇垣美里)そう。演じてる方もたぶん、お好きなんだろうなっていう。動きとか表情とかを真似てるけど、でも、真似だけになってはいない。ちゃんと生きてる感じがして。ああ、ごめんなさい。もう1個、いいですか? その魚人たちが根城にしてるところがあって。そこの描写がすごい素敵だったんですけど。原作を読んでると、その先のシャボンディ諸島っていうところで出てくる遊園地があるんですけど。それにすごく似ていて。私、最初に読んだ時は全然気づかなかったんですけども。「ああ、ここの真似をしてたんだ。アーロンはあの遊園地に行きたかったんだ。でも、魚人だから入れなくて……うわーっ!」って。

(宇多丸)あの『マイ・エレメント』のね、花をいけなかったとかじゃないけども。

(宇垣美里)危ないから入れないのと一緒で。魚人は入れなかったところがあった。「あそこだったんだ!」っていうことに気づいて。数十年先のものを見ていることによって、そこを見た時にすごいよかったし。あと、コビーをトランスジェンダーの方が演じてらっしゃるんですけど。すごくそれが私は理にかなっているというか。「よく考えて読み返すと、そうかも」って。特に彼/彼女は非常に進化するというか、変化する、成長をするキャラクターなんですけど。その成長の度合いを見た時に、すごく納得できるというか。「ああ、そういう描き方があるし、そういうキャラクターだったって言われるとすごく、今思えば納得だ!」っていう。

(宇多丸)当然、その長く続く原作っていうのを、もちろん原作者の尾田先生が関わってやっているわけだから。そこを見据えて、この8時間分っていうのを構築してるから。さっき言った、その世界を小さくさせてないっていうのはもう先にこれだけあるのを見据えた中で、ちゃんとそれを織り込んでるっていうか。

(宇垣美里)だから先を知ってれば知ってるほど「うわっ、伏線!」っていうのを改めて感じられるし。ちゃんと続きがありそうな終わり方もしたので。

(宇多丸)だって、続けようと思えばいくらでも続けられるっていう(笑)。

(宇垣美里)そう。だってまだ終わってないんだもん。でもこれ、「早く2期、来て!」ってもはや、思っています。

「早く2期、来て!」(宇垣)

(宇多丸)そうか。Netflixだから8話、一度に出ているわけですもんね。そうですか。私ね、同じNetflixでも、すいません。『コロニア・ディグニダ』のドキュメンタリーを見て。すいません。今週は『オオカミの家』なもんで。

(宇垣美里)全然元気出ないでしょう?(笑)。

(宇多丸)まあ、だいたい似たような……違うっつーの(笑)。でも、すごい気になってたんですよ。なんですけど全然私、とっかかりというのが『ONE PIECE』に関しては全くないもんで。よかったです。

(宇垣美里)もしよかったら、ちょっと1回、トライしてみてください。

(宇多丸)この解説、ナイス補助線になったと思います。

(宇垣美里)ぜひ見ていただきたいな、なんてことを思いました。

(宇多丸)ということで、宇垣さんの一仕事が終わりました。

(宇垣美里)すいません。こんなに話をするとはね。

<書き起こしおわり>

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