細野晴臣さんが2023年7月11日放送のニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』の中でリスナーからの「今後の目標はなんでしょうか?」という質問に回答。自身のキャリアを山登りにたとえ、「自分は今、下山している途中」と話していました。
(星野源)続いて、東京都の方。「細野さんに質問です。今後の目標はなんでしょうか?」(笑)。結構こういう質問って、よくあるんですけど。
(細野晴臣)僕ね、300歳ぐらいだったら今後の展望とか目標とかを言えると思うんだけど、今は言えないんだよね(笑)。もう、ないから。
(星野源)アハハハハハハハハッ! そうですよね。僕でさえ、ないんですよ。
(細野晴臣)嘘?
(星野源)はい。なんか、その「面白い音楽を作りたいな」とか、曲を作っていて「うわっ、面白くなった。楽しい!」とかはすごいあるんですけど。
(細野晴臣)それがあればいいか。
(星野源)でもなんか、もう目標っていうか、特にいないな、みたいな。だから目標とする人とか、あんまりいないな、みたいな。
(細野晴臣)ああ、それは同じだ。うん。そうだよね。なんか20代、30代って憧れがあったよな。そういう……好きなミュージシャン、いっぱいいたしね。
(星野源)そうですよね。でも細野さん自体がもう憧れられる存在だと思うので。そうなると、なんていうんですかね? 先端に行くわけじゃないですか。そうなると、やっぱりその先に憧れっていうのがなくなるのは当然だよなって思うんですよね。
(細野晴臣)でも僕、よく登山にたとえるんだけど。山登りみたいなもんじゃない? なんかその、目標ってね。たとえば、YMOなんていうのもひとつの低い山だけど。登って、その尾根を歩いていて、それで今は何か?っていうと、下山してるんだよね。だから今は山を下りてるの。そうすると、登ってくる若い人がいて。
(星野源)なるほど。そこで交差するんですね。
(細野晴臣)そうそう。で、立ち話なんかしてね。おにぎりを食べたり……(笑)。
(星野源)アハハハハハハハハッ! うんうん!
(細野晴臣)っていうような気持ちだね。僕は今は。
下山している途中で、登ってくる人と交差する
(星野源)なるほど。いや、そうなんですよね。なんていうか、たとえば、みんな無意識に「登り続ける」とか「高みを目指し続ける」っていうことがすごく良いことだと思わせられてるんだと思うんですよ。
(細野晴臣)そういう時代だったね。20世紀。
(星野源)経済も含めて成長し続けることが良いことなのだと。
(細野晴臣)右肩上がりと言っているね。
(星野源)でもその「下山する」って超大事じゃないですか。
(細野晴臣)そうなんですよ。
(星野源)その、上に居続けるって……上に居続けたら死んじゃうから(笑)。やっぱり、その下がったがっていくっていうのがすごく面白くて、すごく良いことなんだってことをちゃんとみんな、言っていった方がいいんじゃないかなと思っているんですよね。
(細野晴臣)登ったら、下りなきゃいけないの。坂道って、そうじゃないですか。「この坂、下りるの嫌だな。帰り、登らなきゃいけない」って(笑)。
(星野源)アハハハハハハハハッ! たしかに。先に下りたら、登るのが大変だってなりますよね(笑)。
(細野晴臣)あと、下る方が足を使って疲れるんだよね。登山って、そうみたいだね。
(星野源)だからそこの「下る」というのが、ただの終わりとか、ウィニングランっていうことじゃなくて。またそこの、なんていうんだろう? 下り甲斐みたいなのもたぶんあると思うんですよ。やり甲斐みたいな感じで。
(細野晴臣)そうだね。うんうん。
(星野源)で、その細野さんの活動の仕方を見てると、僕的にはあんまり下りているっていう風には見えないんですけど。自分のまた面白いものをなにか、探してるように僕は見えていて。
(細野晴臣)たしかにそう。探しているんだよね。
(星野源)だからなんか、山から土管みたいなところに入って。別の山のなんか上の方に出るみたいな。それこそ地平線がどんどん変わっていき続けてるっていう。
(細野晴臣)なるほど。それはあるかもね。ただ、今は土管の中にずっといるっていう(笑)。
(星野源)なんかそこの、地平を移動し続けている感じはたぶんあんまり変わって……僕は外から見てて、あんまり変わってなくて。
「自分が今、変わってきたな」と思う
(細野晴臣)あのね、この歳になって初めてね、「ああ、自分が今、変わってきたな」って思うんだよね。もちろん前も、若い頃も『HOSONO HOUSE』を作った後にトロピカルをやったりね。
(星野源)いろんな変化がありましたよね。
(細野晴臣)あるけれども。そういう変化じゃなくて、なんだろう? まだ、うまく言葉にできないけど。根本的な気持ちのあり方が今、変わってるんだよね。で、それって長く生きてないとわかんない。こういう時期が来るんだなっていうのが初めてわかるんだよね。
(星野源)ああ、そうなんですね。それは、いいことなんですか? 良い方向なんですか?
(細野晴臣)うん。自分ではね、楽しいっていうか。なんて言ったらいいんだろう? 未知の世界っていうかな。「これから、どうするんだろう?」っていう。
(星野源)ああ、いいですね。やっぱり未知の世界って、楽しいですよね。
(細野晴臣)そうなんですよ。そういうのが、好きなのかね。
(星野源)じゃあ、またなにかその未知の世界で細野さんがどうなるのか、とても楽しみにしております。
(細野晴臣)ぜひぜひ。
(中略)
(細野晴臣さんとの収録パート放送を終えて)
(星野源)続いてのメール。「なんとなく細野さんは音楽界の巨匠というイメージが強かったので『ランジャタイ』や『ニコニコ動画』といった単語が飛び出していたのが新鮮でした。やはりいつまでも様々な文化に触れているからこそ、素敵な音楽が紡がれるんですね」という。17歳の方です。ありがとうございます。
いや、そうだよね。俺も「ニコニコ動画」っていう言葉、細野さんから初めて聞いたかもと思った。僕はもう完全にβ世代ですから。ニコニコβ世代なんでね。なんか嬉しかったです。
(星野源)これも同じ方ですけども。「人生の中で無意識に何かを登り続けることしか視界になかったので『下山する』という素敵な表現の細野さんの考え方、刺激的でした」。そうね。いや、そうなんですよ。なんかいろんな……僕も音楽の仕事をしていく中で、結構ね、山登りにたとえることがすごい多いんですよ。曲作りも、たとえば1日の中で、ずっとやってるじゃん? たとえば7時間ぐらいパソコンの前でずっとやっているじゃん? そういうのを登山して、登っていくじゃん?
でも、そのやめ時っていうのがあって。気がつくと……一番いい時、山の頂上の時にやめたらそれでいいんだけども。いつの間にか、下山してるっていう。なんか、スタート地点に戻ってきちゃうみたいな。で、そういうのはよくないたとえとして使ったりもするんですよ。物作りとか、何かを熱中して作ってる時に、一番いいところで完成させるっていう。だから延々とやればやるほどいいというわけではないよっていうののたとえとして「もう下山しちゃったよ」みたいな。「やっちまった」みたいな言い方とかがあるんだけど。
そうじゃなくて……まあ、そういうたとえもありつつ。細野さんの今日のは「山登りで今、下山してる途中なんだよね」っていう風に言っていて。それがなんかすごく、やっぱり心に残りましたね。うん。やっぱそれは、なんていうんだろうな? ラジオだからちょっと皆さん、視界としては見えないかもしれないけど。表情はね、とっても温かかったんですよ。「下山してるんだよね」って言っている言い方が。だから「下りていく」とか「終わっていく」みたいな言葉って人間で根本的にちょっと恐怖を感じると思うんだけど。
しかも物作りをしてる人とかは特にね。でも「楽しそう」と思って(笑)。あのね、タモリさんとお話した時もそれを思ったんだけど。タモリさんもね、下山してるんだと思うんだよ。で、その下山を超楽しんでるっていう感じをなんか、見て思ったの。いろんな景色を見ながら。で、それは下山には下山にしかない面白さって、すげえあるんだろうなというようなことをすごく思いましたね。
だから僕は未来が動かすごく楽しみになりました。そんなわけで、ちょっとここで1曲、お送りしましょう。いろんな人にオマージュだったりとか、いろんな人に影響を受けて作る曲って多いんですけども。自分の中ですごく色濃くそれを残せたし、ただの真似ではなくて、しっかりオマージュとして自分の作品として作れたんじゃないかなと思える曲でもあります。細野さんへの思いをね、非常にのせて作りました。星野源で『Continues』。
星野源『Continues』
<書き起こしおわり>