町山智浩 アメリカのお笑い芸人が政治的なネタを扱う理由を語る

町山智浩 アメリカのお笑い芸人が政治的なネタを扱う理由を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でアメリカのお笑い芸人・コメディアンたちが積極的に政治的なネタを扱う理由について話していました。

(町山智浩)はい。町山です。よろしくお願いします。うちの近所のバークレーで今週末の27日に右翼大集会が行われる予定なんですよ。

(山里亮太)ほう!

(町山智浩)で、今年のはじめの方、春にあったのでは、すごい人たちが来て。バークレーはもともと大学生たちの街なんで、そういった反トランプの人たちが多いんですけども。その人たちを右翼の人たちがガッと来て、赤いトランプ帽をかぶって。「Make America Great Again」とか「Trump」とか書いてある服を着ている人たちが暴力で蹴散らしたんですよ。

バークレーでの右翼とプロテストの激突

(山里亮太)えっ!

(町山智浩)春の集会では。もう徹底的に。ビデオを見るとわかるんですが、女の人とかを殴り倒したりしてですね。完全にその反トランプ集団を叩き潰したんですが。今週のその27日に……あと6日後なんですが、「もう1回、やるぞ!」と言っているんですね。で、今度はこの間徹底的にやられたから、反トランプの人たちも「今度は絶対に負けないぞ!」っていう感じなんですよ。

(山里亮太)うわっ。じゃあもう、武装をして。

(町山智浩)で、そのトランプ支持者の中にベースド・スティックマンっていうあだ名の人がいまして。その人、スティックマンっていうのは棒を持っているんですよ。いつも。で、棒で反トランプの人をボコボコに叩いている人なんで、右翼の間では彼はヒーローなんですね。

(山里亮太)ヒーロー!?

(町山智浩)で、彼は「今度は警察に捕まるのは覚悟の上だから、もうやってやる!」っていう風にいまネットで言っているんですけど。この間、その前……一昨昨日の土曜日にボストンでやっぱり右翼の集会をやろうとしていたんですね。で、それに対して2万人のボストン市民が彼らよりも大きい人数で。彼らも来ていたんですけど、人数的に勝って。彼ら、一応演説はちょっとしたんですが、声をかき消した形になったんですよ。要するにまあ、そういう差別的なことを言わせないということで。ただ、今回のバークレーのやつは最終決戦になるんじゃないかと。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)と、言われているんですが、警察も市もなんとかそれを中止させようとしているんですよ。だから、どうなるだろう?って思うんですけどね。

(山里亮太)へー! これはまた大きなニュースとして。

(海保知里)また日本にも報道が流れてくると思いますけど。

(町山智浩)まあ、そうなんですけど。僕が思うのは、とにかくこれはまず全体的に問題なのは、やっぱり警察が人数がちっちゃいんですよ。バークレーとかもそうなんですけど。小さい街なんで、人数が多くなくて。これはもう、もっと大きな力で、警察ないしそういう警備の方が防ぐべきなんですよね。(バージニア州)シャーロッツビルの方では死者が出てしまいましたけど。

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(山里亮太)はい。

(町山智浩)本当にね、警察が力が小さくでちょっと問題だなと思っているんですけども。

(山里亮太)それは、大きな警察とか軍とかが来ますよっていう話になったりとかはしないんですか?

(町山智浩)一応大動員をかけるんですけど、共和党大会をやった際に僕が行った時は、他の州からも(応援が)来ていて。すごい、アメリカ各州から集まって、絶対に何も起こさない!っていう感じになっていたんですよ。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)で、とにかく僕は警察マニアでもあるんで、アメリカ中の各州のSWAT部隊の服装とか装備が見れたんですごく楽しかったんですけど。

(山里・海保)(笑)

(町山智浩)そのぐらいやってもいいなって思っているんですけどね。何も起こらないんだから、別にそれでいいことですからね。

(山里亮太)そうですね。それで止めることができるなら。だって「最終決戦」って。

(町山智浩)それはそれでいいことなんですけど。まあでもね、問題はそうするとお金(警備費用)がものすごくかかるんですよ。そのお金は誰が出すんだ?ってことになって。実は明日にアリゾナにドナルド・トランプ大統領が支持者の集会に行くんですよね。アリゾナのフェニックスの市は「来ないでくれ」って言っているんですよ。それは政治的な意味じゃなくて、お金がかかるからなんですよ。

(山里亮太)ああ、なるほど、なるほど。

警備費用問題

(町山智浩)警備にものすごくお金がかかって。それが要するに、トランプ大統領の支持者集会だから、国家の運動ではないわけですよね。国政と関係ない、彼自身の選挙活動なんですよ。それにどうしてアリゾナのフェニックス市がお金を支出しなければならないのか?っていう問題になっているんですよ。

(山里亮太)へー! トランプが来たらいろんな、反トランプも集まるから絶対に警備も、ねえ。

(町山智浩)そう。だから「そういう地方自治体にお金を出させるということをなんとかしろ!」っていうことになっているんですよ。で、もうひとつはドナルド・トランプは自分の家族を政権に巻き込んでいますよね?

(山里亮太)はいはい。

(町山智浩)そのため、トランプ一家全員をシークレットサービスが警護しなければならない状態なんですよ。それに、やたらとドナルド・トランプさんは自分の持っているフロリダの別荘に行くんですよね。ニュージャージーとかに遊びに。ゴルフに毎週行っていますからね。

(山里亮太)あ、行ってるんですか? 「あんまり休まない」って言っていたのに。

(町山智浩)すごいですよ。この間、17日間休みを取りましたからね。ドナルド・トランプは。北朝鮮がミサイルを持ってアメリカを攻撃するかもしれないっていう時に17日間ゴルフで休みを取りましたけどね。

(山里亮太)でも、昔言っていましたよね? 「オバマは休んだみたいだけど、俺は休まないぞ!」みたいなことを言っていましたけどね。

(町山智浩)その通り! 「オバマ、ゴルフやってるじゃねえか!」って。(トランプは)毎週、ゴルフに行ってますよ。いままでの歴代大統領の中で最もゴルフに行っているのがドナルド・トランプなんですよ。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)ただ、ここでいちばん問題なのは、シークレットサービスがそれを全部警備をしなければならないんですよ。

(山里亮太)そうか。「オフだから勝手に」じゃないんですもんね。

(海保知里)それでまたお金がかかっているじゃないですか!

(町山智浩)そうなんです。だからシークレットサービスはもう今年1年分の予算を全部使い果たしちゃったんですよ。

(山里亮太)ええっ!

(町山智浩)これ、税金ですよ。

(海保知里)それはないわ……。

(町山智浩)本当にとんでもない状況になっているんですけど。さすがにね、これはどうしようもないから。ドナルド・トランプさんを支持して投票した人たちも、いくらなんでもこれは後悔しているんじゃないかと。でも、支持率を調べると支持率は全体にものすごく下がっているんですけども。30%台に落ちているんですけども、投票した人たちの多くは「後悔していない」って言っているんですね。で、これに関してABCテレビで夜のニュースが終わった11時半から「レイトショー」っていうトークショーをやっているジミー・キンメルというコメディアンの人がいまして。その人がこの間、こう言ったんですよ。「さすがにこんだけ人に迷惑をかけた上に、公約を全然実行していない大統領だから、投票した人たちも本当はがっかりしているんだろうけど、あれだけ戦って投票した以上、後悔しているとは言えないんですよね?」って言ったんですよ。

(山里亮太)ほうほうほう。

(町山智浩)で、トランプさんもこうなった以上、負けず嫌いだから大統領を辞任するとか、それもできないし。実はすごく上手くいかなくて、公約は全然実行できないだけじゃなくて、政治的に完全に詰まっちゃっていますからね。引っかかっちゃって。なにも新しい法案を通せないような状態ですからね。だから、「本当は困っているんでしょう? これを全て解決する方法があります!」ってそのジミー・キンメルさんが言ったんですよ。

(山里亮太)ほう!

ジミー・キンメルの解決策

(町山智浩)「ドナルド・トランプをアメリカの王様にすればいいんです」と。

(山里亮太)王様!?

(町山智浩)「王様は政治に参加できないようにして、大統領はもっと有能な人にやってもらって。彼のプライドは守って王様にしてもらって。政治からは手を引いてもらおう」って言ってましたね。

(山里亮太)はー! すごいジョークを言いますね。

(町山智浩)そうそう。そういうことをね、いまアメリカのレイトショー、夜のトークショーの人たちはもうずーっと、この事件があってからもそうなんですけども、トランプギャグでものすごい面白いことになっているんですよ。

(山里亮太)言っても大丈夫なんですか? そんな……圧力が来て、「そんなの言っちゃダメだ。そんな放送はさせないぞ」みたいなの、ないんですか? アメリカって。

(町山智浩)あのね、まあスポンサーがついてやっているんですけど、視聴率がどんどん上がっていますから。夜はね、基本的にはお笑い番組になるんですよ。アメリカは、もうほとんど全チャンネルが。ケーブルとかも含めて。で、11時からニュースがありますよね。で、11時半からそのお笑いトークショーになるんですよ。アメリカって。海保さんって何か見てました? アメリカにいる時に。

(海保知里)見てました。ジミー・ファロンとかも見ていましたし、ジミー・キンメルも見ていましたし。そうですね。いろいろみんな、それぞれの良さがあって。「この人は優しすぎるな」とか。「俳優さんと仲がいい人だな」とか。いろいろとタイプがありますよね。うん。

(町山智浩)はいはい。いちばんあの時間が視聴率がいいんですよね。だから会社とか学校から帰ってきてテレビをつける人は11時のニュースを見て、11時半のトークショーを見て寝るみたいな感じなんですけど。海保さん、見てみてあれってわかりやすいと思いません? アメリカのトークショーって。

(海保知里)オチがわかりやすいということですか?

(町山智浩)いや、その日にあったニュースをダイジェストをしてくれるから。

(海保知里)ああーっ! でもあれって収録ですよね? 私、疑問だったんですけど。

(町山智浩)僕、収録に行ったことがあるんですよ。昔、『トゥナイト』っていうショーでジェイ・レノっていう人がやっていた時に収録に行ったんですけど、その時にどうやってこの番組を作っているか?っていう説明を受けたんですよね。それはね、早朝から出勤してお笑いチームでその日の夕方の5時ぐらいに収録する番組のジョークをずっと考えるらしいんですよ。で、その日にあったニュースを全部ジョークにして。で、その日の夕方にお客さんの前で収録して。で、夜11時から放送するっていうシステムなんですよね。

(海保知里)だからタイムリーなネタが多いのね。「いったいいつなんだろう?」って思っていたんですけど、そうなんだ。

(町山智浩)そう。「今日起きた事件なのに、もうネタにしてる!」とか思うんですけど、それはそういうシステムなんですよ。

(海保知里)へー!

その日に起きたことをすぐにお笑いのネタにする

(町山智浩)ただね、収録に行った時に思ったのは、収録にすごく時間をかけるんですけど、ギャグは2倍ぐらい言います。で、ウケなかったやつは切っちゃうんですよ。だからね、結構テンポもよくなっていて上手いんですけど。これ、アメリカのすごいところはとにかくいちばん視聴率を取っていていちばん人気のあるコメディアンは政治ネタをやるっていうことなんですよ。

(海保知里)うーん。日本じゃちょっとね、違うかもしれませんね。それってね。

(町山智浩)そうなんですよ。だから『トゥナイト』とか『レイトショー』でいまいちばん人気がある人はスティーヴン・コルベアっていう人なんですね。で、この人はニューヨークのブロードウェイのところにあるレイトショーの収録場所があるじゃないですか。ご存知ですよね?

(海保知里)はい。私は。知っています。

(町山智浩)『レイトショー』っていう看板が出ていますよね。あそこで月曜日から金曜日までしゃべくりをやっているのがこのスティーヴン・コルベアっていうメガネかけたサラリーマンみたいな人なんですけど。

スティーヴン・コルベア

Did you catch our guy on the #TonyAwards last night?! Bravo, @stephenathome! And congrats to all the talent that graced the stage last night!

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(海保知里)かわいいですよね。歌も上手で。

(町山智浩)そうそう。歌が上手いんですよ。この人。で、この人は一見すごく真面目そうなんですけど、とにかくギャグがキツいんですよ。

(山里亮太)キツい?

(町山智浩)すごいキツいんですよ。いまこの人がやっているのは……っていうか、この人は最近司会者になったんですけど、ずっと毎日毎日月~金でやっているのは、その日にドナルド・トランプが言ったことに全部ツッコミを入れるっていうやつなんですよ。

(山里亮太)ほー!

(海保知里)なんかいいお父さん風なのに、結構言っていることが強いですよね。

(町山智浩)そうなんですよ。まあ、ニュースのビデオを使ってトランプが言ったことに「それ、おかしいんじゃない?」ってツッコミを入れていくんですね。たとえば、ドナルド・トランプがこの間のシャーロッツビルの事件で「南軍の将軍の銅像を倒すのはおかしい」って言ったんですね。で、「『(将軍は)奴隷制度を守るために戦ったのだから倒した方がいい』と言うけども、それを言うなら(初代大統領の)ジョージ・ワシントンも奴隷を持っていたじゃないか。だからジョージ・ワシントンの銅像も倒すのか?」っていう風に言ったんですよ。それに対してスティーヴン・コルベアは「それ、銅像を立てた意味が違うから」って突っ込んだんですね。

(海保知里)うん。

(町山智浩)「ジョージ・ワシントンはアメリカの建国のためにアメリカ合衆国を守ってイギリスと戦ったけど、南軍の将軍は奴隷制度を守ってアメリカ合衆国と戦ったんだから違いますよ」って言ったんですよ。

(山里亮太)そっか!

(町山智浩)そういうツッコミをどんどん入れていく人なんですよ。たとえば、あとドナルド・トランプは「両方とも悪い」って言ったんですよ。「右翼の人たちも悪いし、それに対してカウンターを当てた人たちも悪いんだ」みたいなことを言ったんですね。「それは違うだろ!」ってスティーヴン・コルベアは突っ込むんですよ。「だってあっちはナチだよ? そしてこっち側はそのナチと戦う人たちだよ? アメリカはナチと戦ったんじゃないの?」って突っ込むんですよ。

(山里亮太)はー、そっか。ツッコミで笑いも来るけど、情報としても考え方、正しいのをくれるわけですね。

(町山智浩)そうなんですよ。だからね、本当にね、まあ漫才だとボケがトランプでツッコミがスティーヴン・コルベアっていう感じなんですよ。あと、ドナルド・トランプはこう言ったんですよ。「ナチもカウンターも両方ともアメリカの星条旗を愛する国民だ」って言ったんですけど。そしたらスティーヴン・コルベアは「えっ、そうですか? ナチの人たちの掲げている旗を見てみましょう」って見ると、ナチスドイツの旗と南軍旗なんですよ。「星条旗じゃないですね!」って言ったりとか。そういうツッコミを入れていく人なんですよ。

(山里亮太)いいジョークっていうかツッコミの指摘なんだけど。本来、ツッコミって指摘だからね。

(町山智浩)そうそう。だから漫才っていまアメリカってほとんどなくなっちゃったんですけど、もともとあったんですよ。昔は。

(山里亮太)へー、イメージが無い。なんかスタンダップコメディのイメージが。

(町山智浩)そう。スタンダップコメディになっちゃったのは最近で、昔は結構ボケとツッコミのある漫才をやっていたんですけど、それが滅んじゃって。ただ、これは漫才に近いんですよね。スティーヴン・コルベアとトランプのボケ・ツッコミ漫才みたいになっているんですよ。

(山里亮太)デカいボケだからなー。

(町山智浩)で、これがすごいのがこれだけ過激にやっていて、いま視聴者が320万人以上いるんですよ。毎日。

(山里亮太)すごい。

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