町山智浩 アメリカのお笑い芸人が政治的なネタを扱う理由を語る

町山智浩 アメリカのお笑い芸人が政治的なネタを扱う理由を語る たまむすび

(町山智浩)で、さっき海保さんが言っていた「かわいい人」ってジミー・ファロンでしょう?

(海保知里)いや、でも両方ともかわいいと思いますよ。

(町山智浩)両方ともかわいい。あ、そうか。可愛いですけどね。

(海保知里)私はCBSがそんなに好きじゃなかったっていうのもあるんで。でも、そうですね。うんうん。

(町山智浩)ジミー・ファロンの方がちょっとかわいいネタなんですよね。裏番組で、楽しい感じなんですよ。NBCテレビの方の『トゥナイト』という番組の司会者で、完全に裏なんですけど。裏でやっているジミー・ファロンっていう人がいて、この人はちょっと大人子供っぽい感じであんまり政治的なことを言わない人だったんですよ。で、楽しい、ミュージシャンを呼んで歌をうたったりとかそういうことをやっていたのがジミー・ファロンで。で、この人はドナルド・トランプの選挙最中からドナルド・トランプを批判しなかったんですね。で、他の政治家もほとんど批判しないでいて。で、「なんで批判しないんだ?」っていう風に聞かれて、「誰かを批判したり、誰かを茶化したりしたらその人の支持者を敵に回しちゃうじゃないか。だから誰かに嫌われたりすることはしたくないんだ」っていう風に言っていたんですよ。

(山里亮太)事なかれで。

(町山智浩)そうしたら、視聴率がどんどん下がっていったんですよ。

(山里亮太)面白みがないってなっちゃったんだ。

(町山智浩)そうなんですよ。だからこれが難しいなと思って。で、僕は今回、この話をしようとしたのは、だいぶ前、大昔になりますが、茂木健一郎さんが日本のお笑いに関して「空気を読んでいるお笑いばかりで権力に対して批評の目を向けたお笑いがない」っていうようなツイートかなにかをして。そしたら、炎上しちゃって。爆笑問題の太田くんから「うるせー、バーカ!」って言われてましたよね(笑)。

(山里亮太)そうですね、はい(笑)。

茂木健一郎による日本のお笑い批判

(町山智浩)「あんなもんは簡単なんだよ、政治ネタとかは」って言っていて。あと、そういう人もいっぱいいるという話もしていたんですけども。あと、松本人志さんは「茂木さんは面白くない」っていう、ちょっとこれは違う話で反論をされていたんですけど。ただ、これは茂木さんが言っていたアメリカのお笑いっていうのはいったい何か?っていう説明がほとんどされないまま、話が進行しちゃったんですよ。

(山里亮太)ああ、たしかにそうですね。

(町山智浩)いったいどういうものなのか?っていうことをまず見ていった方がいいのと、あと茂木さんが悪いなと僕も思ったのは、「日本のお笑いはだからダメだ」って言っちゃったから、お笑いを全部敵に回したんですよね。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)そうじゃなくて、「なぜこういう政治的なお笑いをやる人がテレビに出ないのかな?」っていう話にすればよかったんですよ。

(山里亮太)ああ、そうですね。そうやって言われたら、たぶん芸人サイドもね、考えることができたと思うんですけど。

(町山智浩)そう。「こういう人がいなきゃマズいんじゃないの?」っていうことで言えばよかったんで。で、実際に太田くんが言ったみたいに政治的なネタをやる人たちもいて。まあ太田くんもやっていますけど。ザ・ニュースペーパーっているんですよね。時事ネタだけをやる人たち。だから、いることはいるんで。ただ、やっぱりね、その時に反論した中で博多大吉さんが反論っていうか、すごく正直に……いちばん正直に言ったんだと思うんですね。博多さんが。

(山里亮太)大吉さんが。はい。

(町山智浩)それは「安倍総理を批判したらリスクが大きい」って言ったんですね。彼は。それがいちばん正直だなと思ったんですけど。だって、そのザ・ニュースペーパーっていうグループは森友事件を茶化すコントをテレビのために収録したら、放送されなかったんですからね。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)だから「リスクが大きい」っていうのはやっぱりかなりストレートなものなのと、あとやっぱりスポンサーとかでコマーシャルに出れなくなっちゃうんですよね。そうするとね。

(山里亮太)まあ、そういうのもあるんでしょうね。

(町山智浩)そう。あとスポンサーが下りたりとかね。そういうリスクがあるんでっていうのは正直なところだと思うんですよ。あとやっぱり、全員が笑っているのに、ある政治的なことを言うと、その政治的なことによって見る人、聞く人が2つに分かれちゃうということを避けたいとか、理由はいろんなことがあると思うんですよ。ただ、アメリカも一時はそうだったんですよ。60年代はそうだったんですよ。60年代のはじめぐらいまで。

(海保知里)そうなんですか。

(町山智浩)そう。っていうのには理由があってですね。もともとアメリカは昔は政治的なネタが結構基本だったんですよ。ただ、チャップリンがやっちゃったんですよ。チャップリンってヒットラーとアメリカがまだ戦っていない頃に『独裁者』っていう映画を作って。「ヒットラーとユダヤ人がそっくりで……」っていうギャグをやっちゃったんですね。自分で。しかもヒットラーの真似で本当にバカな独裁者をやって。で、その頃にまだアメリカにはナチ党がいたぐらいなんですよ。その時代って。だから、すごい勇気のあることをやっちゃったんですよ。で、アメリカはその後にナチと戦ったんですけど、じゃあチャップリンが格が上がったか?っていうとそういうことはなくて。そういうことをやってしまったために、チャップリンは「社会主義者だ。アカだ」って言われるようになったんですよ。

(山里亮太)ふーん!

(町山智浩)だからあれだけ偉大な人なのに結局国外に追放されちゃったんですよ。赤狩りの時代に。共産主義者狩りの時代に。そういうことがあったんで、政治からアメリカのコメディーってずっと離れていたんですよ。

(山里亮太)うんうんうん。

(町山智浩)でも、60年代の終わりからまた復活していったんですよ。で、その時に出てきたのがジョージ・カーリンっていう人で、ベトナム戦争を批判したりした人なんですけどね。あと、リチャード・プライヤーっていう黒人の人で。この人は黒人差別ネタなんですよ。そこからまた、政治とか人種差別とかを話すことがすごく、まあロックンロールみたいな感じで。ロックコンサートを聞くようにお客さんが集まるっていう文化が出て、変わっていったんですけど。いま、どのぐらいすごいレベルになっているか?っていうと、クリス・ロックっていう黒人のコメディアンの人がいるんですね。

(山里亮太)はい。

(町山智浩)その人、全国ツアーをやるんですよ。ただ、しゃべくりだけで。ステージには何もなくて。ただ、彼がしゃべるだけなんですよ。でも、ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンを3日間、完売しちゃうんですよ。

(海保知里)へー!

(町山智浩)マジソン・スクエア・ガーデンって2万人入るんですよ。

(海保知里)あそこ、2万人なんですか。いやー!

(町山智浩)ニューヨークだけで6万人を動員するんですよ。この人、ステージでしゃべるだけで。クリス・ロックって。すごいんですよ。クリス・ロックのネタってすごくて。「『アメリカ万歳! アメリカ人でよかった!』とか言ってるんじゃねえよ! なんにも努力してねえじゃねえか。お前はアメリカ人のオ○○コから出てきただけだ!」って言うんですよ(笑)。

(山里亮太)はー!

(町山智浩)そういうギャグをやってニューヨークだけで6万人動員なんですよ。

(山里亮太)すごいなー!

(町山智浩)だからビジネスになればみんな日本でも言うようになると思うんですよ。僕。商売になれば、言うでしょう。という感じなんですけど。だからまあ、いろいろと話すことはいっぱいあって。最近はだから、アラブ系の人とかイスラム教の人のコメディアンとかも出てきたりしていて。すごく状況は変わっているんですけどね。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)あと、トランプ自身は昔は茶化されても平気だったんですよ。

(山里亮太)あ、へー。なんかいまね、茶化す人をすごく怒るイメージがありますけど。

(町山智浩)昔、「大統領になりたい」って言っていた2011年にコメディーショーに出て、「トランプのことを何を言ってもいい」っていうコメディーショーに出た時に、コメディアンの1人が「早くトランプさんが大統領になるといいな。暗殺されるのがいまから待ちきれないよ!」って言ったんですよ。それでみんな笑っていたんですけど、トランプはいま、もうコメディアンの前には出なくなっちゃったんですよね。

(山里亮太)たしかに。

(町山智浩)だからそれってね、『リア王』だと思うんですよ。リア王とか昔の王様っていうのはかならず道化師を横において。道化師は王様に対して「おっさん、あのさー」って言いながら批判するっていう……道化師を自分の助言者として連れていたんですよね。それがコメディアンの歴史の始まりなんですよ。

(山里亮太)へー! 王様にいろいろとただすために横でふざけながら突っ込んでくれる人が。

コメディアンの源流は道化師

(町山智浩)そう。突っ込んで。政治にツッコミを入れる。権力者にツッコミを入れるっていうのがコメディアンの始まりだから。だから、そういう仕事がアメリカでもあるんですよ。それは、そういう機能を社会の中で果たしているんですよ。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)っていうことをちょっと説明しないと、茂木さんが言った意味がわからないだろうと思って。誰もそのことを話していないから。

(山里亮太)そうですね。「日本のお笑い芸人がダメだと言われた」っていうので。

(町山智浩)そう。そういうことではないんですよ。そういう機能を日本も昔は持っていて。昔はそういうネタもいっぱいあったんですよ。横山ノックさんとかそれをやっていたんですよね。上岡龍太郎さんは。

(山里亮太)はいはい。

(町山智浩)でも、それがいまなくなっちゃっているよっていうことなんですよね。はい。

(海保知里)はい。また今日もとても勉強になりました。シャーロッツビルの事件をきっかけにアメリカのお笑いはなぜ政治的なのか? というテーマでお話いただきました。来週の集会、町山さんは行かれるんですか?

(町山智浩)行きますよ!

(海保知里)そうですか。お気をつけて。

(山里亮太)お話を聞かせてください。

(海保知里)ありがとうございました。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/45200

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