高橋芳朗 ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞した意味を語る

高橋芳朗 ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞した意味を語る ジェーン・スー 生活は踊る

高橋芳朗さんがTBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』の中で、ノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランについてトーク。いま、ディランが受賞した意味について解説をしていました。

(ジェーン・スー)さあ、radikoのタイムフリーが始まりましたよ。

(高橋芳朗)そうですね。

(ジェーン・スー)みんな結構ちゃんと聞いていて、「こんな曲、かけてるの?」とかつぶやいてくれている人、いた。

(高橋芳朗)いままで、ラジオクラウドでは僕の金曜日のミュージックプレゼントは配信していなかったんで。この機会にみなさんに聞いていただけると。曲付きで。

(ジェーン・スー)お願いします。

(高橋芳朗)広めて!

(ジェーン・スー)では、今日のテーマですけども、まあさすがにこれですよね。

(高橋芳朗)逃げられませんね。今日のテーマは、こちらです! いま、ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞した意味とは? 昨日夕方ぐらいですか? 飛び込んできましたニュース。びっくりしましたね。今年のノーベル文学賞にアメリカのシンガーソングライターのボブ・ディランが選ばれました。

(ジェーン・スー)「ボブ・ディランって!」ってなりましたけどね。

(高橋芳朗)(笑)。まあ、そうですよね。ちょっとトシちゃんのカラオケの流れで非常にやりづらいですけども。

(ジェーン・スー)大丈夫。いまみんな、忘れていたから。もう。

(高橋芳朗)で、ちょっとボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞した意味と……で、いま、このタイミングを考えると、個人的にはどうしても黒人差別問題に揺れる現在のアメリカの姿を重ね合わせてしまうところがあるんですね。いま、アメリカでは「Black Lives Matter(黒人の命だって大切だ)」っていう新しい公民権運動と言われるムーブメントが起こっているんですけども。その原点になる1960年代の公民権運動を語る上で、ボブ・ディランは欠かせない存在。公民権運動を音楽面から引っ張った存在と言えると思うんですけども。

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(ジェーン・スー)はい。

音楽面から公民権運動を引っ張った存在

(高橋芳朗)だからいま、この「Black Lives Matter」の時代に改めてボブ・ディランの功績を讃えようというか。改めてディランの歌の意味を噛みしめてみようとか。そういう意図も、今回の受賞の背景にはあるんじゃないかな?っていう気がしています。

(ジェーン・スー)なるほどね。ミュージシャンが、もちろんノーベル文学賞をとるのは初めてで。で、なんでだろう? とはちょっと。たしかに、みなさんの耳に、心に響く歌詞と音楽っていうのをやってきた人っていうことに関しては異論はないんだけど。なんでこのタイミングで? と思ったら、そうか。彼の言っている思想とかに対して、もう1回注目をしようっていう意図もあるのかもね。

(高橋芳朗)で、「この60年代の公民権運動を語る上でボブ・ディランは欠かせない存在だった」っていうことをもう少し詳しく説明しますと、そもそも当時の公民権運動を牽引したのは、いわゆるブラックミュージック。リズム・アンド・ブルースとかソウル・ミュージックじゃなくて、実はフォーク・ミュージックだったんですよ。公民権運動はご存知の通り、黒人差別の解消を求める運動ですから、運動を後押しした音楽としてはブラックミュージックを即座に連想しがちだと思うんですけども。もともとはフォーク・ミュージックが先導していったところがあるんですね。で、それに触発されるような恰好で、ソウル・ミュージックからも公民権運動にリンクするようなメッセージソング、プロテストソングが次々と作られていったという経緯があります。で、その公民権運動のシンボルと言える曲がボブ・ディランの『Blowin in The Wind(風に吹かれて)』。

(ジェーン・スー)はい。

(高橋芳朗)まあ、ボブ・ディランの代名詞的な曲ですね。日本でもRCサクセションがカバーしたりしてましたけども。『風に吹かれて』はボブ・ディランが1962年の夏に、当時ディランは21才ですね。で、書いた曲で、友人たちと公民権運動に対する長い議論を通じて着想を得た曲という風に言われています。で、曲の存在自体は、ディランの曲というよりかは、その翌年にピーター・ポール&マリーがカバーしてヒットさせたことによって広く知られるようになったという背景があるんですけども。で、この『風に吹かれて』には元ネタがあるんです。

(ジェーン・スー)おおっ! そうなんだ。

(高橋芳朗)はい。1865年、奴隷解放宣言直後に作られた黒人霊歌。黒人の宗教歌の『No More Auction Block』。これが元ネタで。いま、後ろでかかっていますけども。これはオデッタという黒人フォークシンガーのバージョンなんですけども。

(高橋芳朗)『風に吹かれて』をご存知の方はもうメロディーが完全にかぶっているのがお分かりだと思うんですけども。これ、タイトル『No More Auction Block』を直訳すると、「もう競売台に立たせないでくれ」という、結構ショッキングなタイトルですけども。日本題は「競売はたくさんだ」。だから、黒人奴隷の悲しみだとか、自由への願いを歌った曲なんですけども。だから、すごいざっくりわかりやすく言うと、ボブ・ディランはこの『No More Auction Block』のメロディーに自分で書いた歌詞を乗せて、『風に吹かれて』っていう曲を作ったんです。ある意味、サンプリングしたと言ってもいいと思います。

(ジェーン・スー)うん。なるほど!

(高橋芳朗)で、『風に吹かれて』はだから公民権運動に関する議論から生まれて、しかも奴隷の悲しみを歌った黒人霊歌のメロディーを引用している。さらにボブ・ディランは『風に吹かれて』について、「これは歌われるために作った歌だ」って言ったんですよ。

(ジェーン・スー)うーん! 聞かせるためじゃなくてっていうことね。

(高橋芳朗)そうそう。だから結構『風に吹かれて』って歌詞の解釈をめぐっていろんな見解があるんですけども、曲の成り立ち自体はもう明確に公民権運動にインスパイアされて、公民権運動を支援するために生まれた曲と言っていいんじゃないかと思います。じゃあ、ここでその『風に吹かれて』の歌詞を堀井さんに朗読していただき、それを踏まえて実際の曲を聞いてみたいと思います。堀井さん、よろしくお願いします。

(堀井美香)はい。『風に吹かれて』。
どれだけ道を歩いたら
一人前の男として認められるのか?
いくつの海を飛び越えたら
白い鳩は砂で安らぐことができるのか?
何回弾丸の雨が降ったなら
武器は永遠に禁止されるのか?
その答えは、友達よ
風に舞っている
答えは風に舞っている

何度見上げたら
青い空が見えるのか?
いくつの耳をつけたら
犠牲者は民衆の叫びが聞こえるのか?
何人死んだらわかるのか
あまりにも多く死にすぎたと
その答えは、友達よ 風に舞っている
答えは風に舞っている

(高橋芳朗)ボブ・ディランで『Blowin’ In The Wind』です。

Bob Dylan『Blowin’ In The Wind』

(高橋芳朗)はい。ボブ・ディランで『風に吹かれて Blowin’ In The Wind』を聞いていただきましたけれども。『風に吹かれて』っていうと、いま堀井さんに歌詞を読んでもらいましたけども。「その答えは風に舞っている」っていう有名なフレーズが着目されることが多い、取り沙汰されることが多いと思うんですけども。公民権運動的な観点からすると、もう出だしの「How many roads must a man walk down, Before you call him a man?(どれだけ道を歩いたら、一人前の男として認められるのか?)」。これ、「一人前の人間として」って訳した方がいいんじゃないかな?って思うんですけども。

(ジェーン・スー)うんうん。そうだね。

(高橋芳朗)このライン一発で聞いている人を引き込む力があったんじゃないかなっていう風に思うんですね。で、今日DVDを持ってきましたけども。マーティン・スコセッシが監督したボブ・ディランのドキュメンタリー映画の『ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム』。2006年の作品なんですけども。これに、ゴスペルグループのステイプル・シンガーズのリード・ボーカル、メイヴ・ステイプルズが当時、『風に吹かれて』をはじめて聞いた時のことを回想しているシーンがあって。

(ジェーン・スー)ああ、そうなんだ。

(高橋芳朗)こんな風に言ってるんですよ。「なぜ白人のボブにこんな歌が書けるの? これはまともに人間扱いされなかった私の父の経験そのものよ」って。だから、「なぜ白人の若者が虐げられていた黒人たちの不満や熱望をこんなに力強く、的確に歌にできるのか、理解ができなかった」ってメイヴ・ステイプルズは言っているんですよ。

(ジェーン・スー)そうなんだ。

(高橋芳朗)だから、これはボブ・ディランが時代の空気をうまくすくい上げたっていうのもあるし、黒人霊歌が曲の土台になっているっていうことも、もしかしたら関係しているのかな?っていう感じがしますね。で、このメイヴ・ステイプルズのいま紹介したリアクションにわかりやすいように、『風に吹かれて』は結構黒人社会にも大きなインパクトを与えているんですけども。CMを挟んで、『風に吹かれて』のメッセージに衝撃を受けて立ち上がったある1人のソウルシンガーの話をしたいと思います。

(CM明け)

(ジェーン・スー)今日は、いまボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞した意味とは? をお送りしています。

(高橋芳朗)はい。『風に吹かれて』のメッセージに衝撃を受けて立ち上がったソウルシンガーなんですけども、ミスター・ソウル、サム・クックでございます。サム・クックっていう人はそれまでは特に政治的主張を声高に主張するような、そういう歌い手ではなかったんですけども、『風に吹かれて』に刺激を受けて、1964年にリリースしたライブアルバム『Sam Cooke at the Copa』で『風に吹かれて』をカバーしているんですね。ちょっとじゃあ、それを聞いてみましょうか。サム・クックのライブバージョンです。『Blowin’ In The Wind』です。

Sam Cooke『Blowin’ In The Wind Live』

(高橋芳朗)サム・クックのライブ・アルバム『Sam Cooke at the Copa』から『Blowin’ In The Wind』のカバーを聞いていただきました。1964年の作品ですね。結構ボブ・ディランの曲ってカバーバージョンで聞くとメロディーの良さが引き立つというか、わかりやすいと思うんですけども。で、ちょっと軽いでしょう?

(ジェーン・スー)うん、まあ。

(高橋芳朗)曲のメッセージを考えると、ちょっとライトに聞こえるし、なんか拍子抜けしちゃったっていう人もいるかもしれないと思うんですけども。これ、ライブの会場がニューヨークのコパ・カバーナっていう超高級ナイトクラブ。で、白人の裕福なお客さんのディナーショー向けパフォーマンスと考えていただきたい。それを思うと、むしろこの場で、この時代にこの曲を歌ったっていうことの意義を評価すべきではないかと。で、『風に吹かれて』に衝撃を受けたサム・クックはですね、「白人の青年がこんな曲を歌っているんだから、僕もなにかそれに続くような曲を歌わなくちゃいけない」って決意するんですね。

(ジェーン・スー)うん。

(高橋芳朗)その結果生まれたのが、オバマ大統領も就任式のスピーチで歌詞を引用しました『A Change Is Gonna Come』。差別と戦ってきた黒人の歴史のシンボルと言えるような曲で。ある意味、いまの「Black Lives Matter」のムーブメントにも十分有効なメッセージを持った曲ですけども。これが、ボブ・ディランの『風に吹かれて』が起点となって生まれているっていうことなんですね。

(ジェーン・スー)うーん、なるほど。そうか!

(高橋芳朗)じゃあここで改めてその名曲を聞いてもらいましょう。サム・クックで『A Change Is Gonna Come』です。

Sam Cooke『A Change Is Gonna Come』

(高橋芳朗)というわけで、公民権運動のテーマソングと言ってもいいと思います。サム・クックの『A Change Is Gonna Come』。1964年の作品を聞いてもらいました。そんなわけで、今日はいまこのタイミングでボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞した意味っていうのを、代表曲『風に吹かれて』から考えてみたんですけども。黒人社会におけるボブ・ディランの影響力については、海外でこんなコンピレーションがリリースされております。『How Many Roads』。まさに『Blowin’ In The Wind』の最初のラインがタイトルに引用されております。『How Many Roads: Black America Sings Bob Dylan』。ブラックミュージックのアーティストによるボブ・ディランのカバー集がリリースされていますので。

(ジェーン・スー)へー! それは全然知らなかったね。

(高橋芳朗)これ、ジャケットが『Blowin’ In The Wind』が収録されているボブ・ディランの『The Freewheelin’』っていうアルバムのパロディーになっているんですけれども。興味のある方は、こちらをぜひチェックしていただけたらと思います。

(ジェーン・スー)いやー、今日の特集、すごく勉強になりましたね。

(高橋芳朗)いつも勉強になっているはずですよ。

(ジェーン・スー)うーん、日によってだね。

(高橋芳朗)(笑)

(ジェーン・スー)今日は、感じ入りました。さあ、来週はスペシャルウィークです。どんな特集をしてくださるんでしょうか?

(高橋芳朗)このミュージックプレゼントのテーマ曲、エドムンド・ロスの『Whipped Cream』。で、来週21日がこのエドムンド・ロスさんの命日になるので。エドムンド・ロス特集です。

(ジェーン・スー)おおーっ!

(高橋芳朗)TBSラジオリスナーにしか響かない、エドムンド・ロス特集。

(ジェーン・スー)っていうか、TBSラジオリスナーなら、たしなみとして聞いておくべきってことですね?

(高橋芳朗)もう、すごい曲をたんまり用意してますので。ご期待下さい!

(ジェーン・スー)ちょっといろいろ、詳しいことを聞きたいと思います。高橋さん、今日はありがとうございました!

(高橋芳朗)ありがとうございました!

<書き起こしおわり>
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