高橋芳朗 クリス・ロックとアカデミー賞と『Fight The Power』を語る

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高橋芳朗さんがTBSラジオ『ザ・トップ5』の洋楽選曲コーナーで2016年のアカデミー賞で司会と務めたクリス・ロックについてトーク。彼がパブリック・エナミーの『Fight The Power』とともに登場した意味や背景を話していました。



(高橋芳朗)じゃあさっそく私の洋楽選曲のコーナーに行きたいと思います。

(熊崎風斗)お願いします。

(高橋芳朗)今回は日本時間29日月曜日に開催されました第88回アカデミー賞授賞式にちなんで曲をご紹介したいと思います。すでにいろんなメディアで報じられていることですけども、今年のアカデミー賞はですね、1月15日にノミネートが発表されるやいなや、人種差別論争が巻き起こりました。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)というのもですね、演技部門の候補者20人が2年連続で全員白人だったことから、黒人映画監督のスパイク・リーが授賞式出席のボイコットを表明しました。それが発端となって、アカデミー賞はね、人種の多様性が失われているんじゃないか?というような、有名監督、俳優から意見が噴出しまして。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)まあ、アカデミー賞の選考基準に対する批判とかがね、結構巻き起こったんですけども。で、今回の授賞式はそんな流れの中で開催されたこともあって、ホスト役の黒人コメディアンのクリス・ロックに非常に大きな注目が集まっていました。

(熊崎風斗)そうですね。

(高橋芳朗)で、クリス・ロックがアカデミー賞で司会を担当するのはね、2005年の第77回に続いてこれが二度目になるんですよ。で、彼はもう本当、怖いもの知らずの毒舌で人気のコメディアンっていうこともあってですね。前回ホストを務めた時も、際どいジョークを結構連発して物議を醸しているんですね。

(熊崎風斗)ええ、ええ。

(高橋芳朗)だからそんな彼がこの人種問題に揺れるオスカーをどう捌くか?っていう。それが賞の行方とともに関心を集めていた。

(熊崎風斗)注目されていたわけなんですね。

(高橋芳朗)はい。で、いざ幕が上がってみたら、もうクリス・ロック、オープニングからもうキレッキレでしたね。日本のTwitterでもクリス・ロックの名前がトレンドに入っていたし。ネットニュースなんかでも彼のスピーチが大々的に取り上げられていたんでご存知の方も多いと思うんですけども。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)まあ強烈な皮肉を交えながら、セレモニーを通して人種問題を扱って、見事に波乱含みだったセレモニーを乗り切ってみせたわけですけども。まあだから、クリス・ロック大活躍の授賞式だったと言っていいと思います。そんな彼がね、登場する時に流していた曲のチョイスがまた気が利いていたんですよ。どんな曲をバックに登場したか?というと、パブリック・エナミー(Public Enemy)の『Fight The Power』という曲なんですね。


※動画0:40からスタートします

(熊崎風斗)ええ。

(高橋芳朗)これ、1989年の作品なんですけど。で、パブリック・エナミーっていうのは結構政治的、社会的なメッセージを強烈に打ち出していたヒップホップグループで。『Fight The Power』はそんな彼らの代表曲になるんですよ。タイトルは『権力と戦え!』みたいな意味なんですけども。で、この『Fight The Power』。オープニングだけじゃなくて、セレモニーの最後にも流していてですね。ある意味、今回のアカデミー賞のテーマソングと言えるような扱いだったわけですけども。じゃあちょっと、この曲を聞いてみましょうかね。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)あの、民衆をアジテートするというか。扇動する曲としてはこれ以上のパワーを持った曲はないんじゃないか?というような感じでございます。じゃあ、聞いてください。パブリック・エナミーで『Fight The Power』です。

Public Enemy『Fight The Power』



(高橋芳朗)パブリック・エナミーで『Fight The Power』。1989年の作品を聞いていただいております。なんでクリス・ロックがこのパブリック・エナミーの『Fight The Power』を自分の登場曲に使ったか?というと、パブリック・エナミーが黒人差別問題の急先鋒に立っていたヒップホップアーティストということもあるんですけども。

(熊崎風斗)ああ、そういうグループだったんですね。

(高橋芳朗)この『Fight The Power』、今回のオスカーの人種騒動の発端になったスパイク・リー監督の出世作になります『ドゥ・ザ・ライト・シング』っていう、ニューヨークを舞台に人種間の緊張を描いた映画なんですけど。その『ドゥ・ザ・ライト・シング』の主題歌になるんですよ。この曲が。

(熊崎風斗)あ、この曲がなるんですか。

(高橋芳朗)だからこの局面でパブリック・エナミーの『Fight The Power』を流したのは、クリス・ロックなりのスパイク・リーに対するリスペクトでありトリビュートであり、まあ人種問題を描いた『ドゥ・ザ・ライト・シング』のテーマを改めて人々に訴えかける問題提起だったんじゃないかな?という風に思います。

(熊崎風斗)そうなんだ。へー。

(高橋芳朗)あともうひとつ、付け加えると、アカデミー賞と『ドゥ・ザ・ライト・シング』でちょっとした因縁があって。『ドゥ・ザ・ライト・シング』が公開された翌年。1990年の第62回アカデミー賞で女優のキム・ベイシンガー。当時だったら『ナインハート』だったり『バットマン』で脚光を浴びていた頃だったんですけど。キム・ベイシンガーがプレゼンターとして登壇した時、こんなスピーチをして話題になったんですよ。『なんで「ドゥ・ザ・ライト・シング」が作品賞にノミネートされてないんだ?この映画には真実があるのに』っていう風に言ったんですね。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)で、そうやってアカデミー賞の選考委員を批判して、結構会場が拍手喝采もあり、ブーイングもあり、みたいな。そういう状況になったんです。そんなことがあったんですね。しかも、この因縁を深めているのがこの年のオスカーの作品賞を受賞したのが、『ドライビング・ミス・デイジー』っていう映画だったんですね。これはどういう映画か?というと、ユダヤ人の老婦人と彼女の運転手を務める初老の黒人男性の交流をユーモラスに描いたヒューマンドラマなんですね。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)で、この『ドライビング・ミス・デイジー』って白人にとって都合のいい黒人が描かれている映画として、黒人のコミュニティーでは非常に悪名が高い作品なんですよ。だからキム・ベイシンガーが『ドゥ・ザ・ライト・シング』を取り上げて、『この映画には真実がある』って訴えたのは、そういうことなんですよ。『ドライビング・ミス・デイジー』じゃないんだよ!『ドゥ・ザ・ライト・シング』なんだよ!っていうことだと思うんです。

(熊崎風斗)はー!そういういろんな事情が交錯してるんですね。

(高橋芳朗)そう。で、『ドライビング・ミス・デイジー』は結構人種ギャグの対象にもなっていて。たとえば、『僕らのミライへ逆回転』っていうミッシェル・ゴンドリー監督のコメディー映画があるんですけど。これ、2008年の作品なんですけど。この映画ってレンタルビデオ店の店員とその幼なじみがホームビデオを使って勝手に、たとえば『ロボコップ』とか『ゴーストバスターズ』など、ハリウッド映画のリメイクを制作するっていうお話なんですね。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)で、この劇中でレンタルビデオ店の店員。これ、ジャック・ブラックが演じてるんですけど。幼なじみはモス・デフっていう黒人のラッパーが演じてるんですね。その幼なじみに『「ドライビング・ミス・デイジー」をリメイクしようよ』って持ちかけるんだけど、その黒人の幼なじみモス・デフは『あの映画だけは絶対にやりたくない!』って頑なに拒むっていうギャグがあったりするんですね。

(熊崎風斗)ふーん。

(高橋芳朗)で、ちょっとこの流れでパブリック・エナミーの楽曲をもう1曲、紹介したいんですけど。先ほどかけた『Fight The Power』と同じアルバムに収録されている曲で、『Burn Hollywood Burn』っていう曲。『ハリウッドなんて燃やしちまえ!』っていう、結構過激なタイトルの曲なんですけど。これ、まさに黒人のイメージを貶めてきたアメリカ映画史の暗部を告発するような内容になっていて。

(熊崎風斗)ふーん。

(高橋芳朗)曲の最後にはいま話した『ドライビング・ミス・デイジー』にも言及してるんですね。公開された直後なのに。で、この曲、ゲストのラッパーが2人参加していて。構成的にはまずパブリック・エナミーのリーダーのチャック・D(Chuck D)っていうラッパーから始まって、次に、番組でも話したことがありますよね?映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』。去年の年末に公開されました。あの映画でお馴染みのN.W.A.のアイス・キューブ(Ice Cube)に続いて。

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(高橋芳朗)そして最後に、当時のヒップホップ界のセックスシンボル的存在だったビッグ・ダディ・ケイン(Big Daddy Kane)。この3人がマイクをリレーしていくんですね。でもこれ、さっきの『Fight The Power』に引けをとらないすさまじい迫力の曲になっています。で、最後のビッグ・ダディ・ケインがちょっとこんなことをラップしているので。紹介したいと思います。

(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)『俺たちが映画で演じさせられるのは執事、奴隷、メイド、娼婦。そんな役ばかり。そのせいで俺たちは野蛮に見られてきた。弁護士の役なんてあり得ない。できてもせいぜい料理人の役。もうスパイク・リーみたいに自分たちで映画を作ろうぜ。いまのままじゃ黒人が金を稼げる可能性なんて全くないんだ。ハリウッドなんて燃やしちまえ!』っていう。

(熊崎風斗)まさに魂がこもっているっていう感じですね。

(高橋芳朗)そういうことですね。はい。じゃあちょっと聞いてください。パブリック・エナミーで『Burn Hollywood Burn』です。

Public Enemy feat Ice Cube & Big Daddy Kane『Burn Hollywood Burn』



(高橋芳朗)いま、最後に『Ladies and gentlemen, today’s feature presentation: Driving Miss Daisy』っていうアナウンスがあって。その後に、『No!No!No!Bullshit!(ふざけんじゃねえ!)』みたいなアナウンスが聞こえたと思うんですけども。というわけで、パブリック・エナミーの『Burn Hollywood Burn』。もう25年以上も前の曲だけど。もうすさまじいエネルギーじゃないですか?

(熊崎風斗)うん。いや、本当そうですよね。

(高橋芳朗)よく、なんか『音楽は世界を変えられるか?』みたいな議論とかあると思うんですけども。この1989年のパブリック・エナミーはね、当時、もしかしたら音楽が世界を変えることも本当にあるのかもしれないなって。そう思わせるだけのパワーがあったんですよ。で、最初にかけた『Fight The Power』の歌詞で当時ものすごいインパクトがあったのがこんな歌詞があるんです。『Don’t worry be happy. Was a number one jam. Damn if I say it you can slap me right here.』。

(熊崎風斗)ええ。

(高橋芳朗)これ、『Fight The Power』が出る前の年。1988年に大ヒットしたボビー・マクファーリン(Bobby McFerrin)っていう黒人ジャズシンガーの『Don’t Worry Be Happy』っていう曲について言及してて。



(熊崎風斗)はい。

(高橋芳朗)つまり、こういうことなんですよ。『同じ黒人シンガーが「Don’t Worry Be Happy(心配ないさ。ハッピーでいこうよ)」なんて呑気に歌っているけど、俺たちがそんなこと歌っていたら引っぱたかれちまう』っていう。

(熊崎風斗)ああー!

(高橋芳朗)『「Don’t Worry Be Happy」なんて言っていられない。そんなの全然リアリティーがないんだ!』っていう。そういう、ものすごい切迫感があったんですね。

(熊崎風斗)勝負しているというか。やってやるぞ!っていう感じが、熱量的にね、伝わってきますね。

(高橋芳朗)エネルギーはすさまじいですよね。で、この2曲。『Fight The Power』と『Burn Hollywood Burn』が収録されているパブリック・エナミーのアルバム『Fear Of A Black Planet』っていうんですけど。ちょうど去年、国内盤で2枚組のデラックスバージョンがリリースされているので。まあこの機会に、ぜひ手にとっていただけたらと思います。

(熊崎風斗)ありがとうございました。

<書き起こしおわり>
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