町山智浩『ベイビーわるきゅーれ』を語る

町山智浩『ベイビーわるきゅーれ』を語る こねくと

町山智浩さんが2023年4月18日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『ベイビーわるきゅーれ』を紹介していました。

(町山智浩)で、今日紹介する殺し屋映画の3本目がですね、日本映画です。来れ、『ベイビーわるきゅーれ』というタイトルで。これ、既に2021年に公開かな? なんですけども。これがアメリカでやっと最近、見れるようになったら僕見たんですよ。で、すごい面白かったんですよ!

(でか美ちゃん)今ね、2がね、日本だと公開されてるんですよ。その1作目ってことすよね?

(町山智浩)1作目です。はい。で、僕は見たかったんですけど見れなくて。やっと見れてね。アメリカでね、Rotten Tomatoesっていう評を集めたサイトで評価が100%なんですよ。

(石山蓮華)ええっ? それって結構辛口なサイトじゃなかったですか?

(町山智浩)そうそう。Rotten Tomatoesって、ものすごく辛口なんですけど。そこで、100%なんでね。ものすごいんですよ。

批評サイト・Rotten Tomatoesで高評価

Baby Assassins
Two high school girls receive orders from upper management to get "real" jobs, become roommates and blend into normal so...

(でか美ちゃん)なにがそこまで評価されてる要因だと思いますか?

(町山智浩)これね、殺しが今まで紹介した3本(『ジョン・ウィック4』『キル・ボクスン』『ベイビーわるきゅーれ』)の中で一番すごい。で、一番笑える。

(でか美ちゃん)へー! ちょっと意外な気もしますよね。日本の作品がそれだけ……。

(町山智浩)そうなんですよ。『ジョン・ウィック』はね、たしかにすごいんだけど、ずっと単調なんですよ。結構。工夫がちょっとなくて、結構飽きてくるんですよ。ゲームっぽいからね。繰り返し、繰り返し。

(でか美ちゃん)そうか。人数は重ねていくけど。

(町山智浩)そうそう。『ベイビーわるきゅーれ』はね、凝っているんですよ。それぞれが。

(石山蓮華)どんなところにその「凝り」が出てくるんですか?

(町山智浩)これはね、この主人公が2人が女子高生っていうか、10代の女子なんですよ。で、人殺しをやってるんですけども、なんというかですね、ダメな子ちゃんなんですね。

(でか美ちゃん)ダメな子……今っぽい感じなのかな?

(町山智浩)今っぽい感じなんすよ。とにかくね、いつも「だりー」とかって。

(でか美ちゃん)Z世代の感じね。私らよりもさらに年下のね。

(町山智浩)そう。何をやるにもあんまり気合い入らない感じなんですね。で、たとえば最初にコンビニのバイトの面接を受ける時も、「はーい。あーい」みたいな感じで。絶対に採用しないみたいな感じなんですよね。で、そこからですね、殺しの方に入ると、ものすごい動きなんですよ。早くて。

(でか美ちゃん)ああ、そのギャップはちょっとグッと来ますね。

(町山智浩)そうなんですよ。それで非常に説得力があって。たとえば、女の人が殴ったりする時ってそのパンチ力がいくらあっても、男の人をパンチ力で倒すことはできないじゃないですか。相当鍛えてないと。だから、ちゃんと肘打ちするんですよ。

(でか美ちゃん)ああ、そうなんだ。理にかなったことをやっているんですね?

(町山智浩)そうそう。ものすごく説得力があるんですよ。戦うシーンが。でもね、やっぱりだるくて。殺した後に「あー、疲れたー」って言うんですよ。

(でか美ちゃん)へー! なんかその緩急、いいですね。

(町山智浩)すごくいいんですよ。まさに緩急なんですよ。緩いところはものすごく緩くて。でも、殺気はものすごいんですよ。

(石山蓮華)この『ベイビーわるきゅーれ』って主演、お二人ともこの若い女性なんですね?

(町山智浩)はい。この伊澤彩織さんという金髪の方の女性の動きがものすごいです。

(でか美ちゃん)うわっ、要チェックだ。すぐ見よう。

(町山智浩)はい。ただ、これを見ていて強烈なのはね、その日本の若い人たちの貧困度なんですよね。

(でか美ちゃん)そこがちょっとリアルな描かれ方というか?

(町山智浩)そうなんですよ。だって殺しをやってるんですよ? 殺しをやっているんだけど、さっき言った韓国映画の同じ殺し屋であるキル・ボクスンがどういう生活してるか?っていうと、さっき言ったみたいに豪邸に住んでね。父母会とかに行く時も全身シャネルみたいな格好で。ハイブランドのバッグとか持って。乗っている車はベンツですよ。ところがこの『ベイビーわるきゅーれ』の2人はね、1DKの安アパートに住んでるんですけど。場所は鶯谷ですよ? ラブホテルとかいっぱい並んでいるところなんですよ?

(でか美ちゃん)そうですよね。

(石山蓮華)信濃路の。

(町山智浩)そういう安アパートに住んでるし。で、着ている服がね、わかるかな? なんていうか、寝間着みたいなく服を着てる子って、よくいるじゃないですか。

(でか美ちゃん)ああ、ジャージファッションというか。

(町山智浩)そうそうそう。ドンキで買ったみたいな。

(石山蓮華)はいはい。ゆるっとした。

(町山智浩)そう。「それ、寝間着のまま来てね?」みたいな。しかも乗り物は、あっちがベンツなのにこっちはママチャリですよ? ママチャリで殺しに行くんですよ?

(石山蓮華)でも女子高校生がママチャリで殺しに来るの、めちゃくちゃかっこいいですね!

(町山智浩)ママチャリですよ?(笑)。

(でか美ちゃん)でも、ちょっとなんか切ないというか。日本のリアルな社会、感じますよね。どれだけ重要な働きしても、ちょっと貧困から抜けられないっていうか。

貧困から抜け出せない殺し屋女子たち

(町山智浩)そう。抜けられないんですよ。彼女たちはでも、自分たちは貧乏だと思ってるんだけど。メイドカフェで彼女たちが働く時にね、お昼ご飯としてコンビニのサンドイッチを持っていくんですよ。そうすると、他のメイドカフェで働いてる子たちが「ああ、コンビニの300円のサンドイッチを買えるなんて、お金持ちなんですね」って言うんですよ。

(石山蓮華)切ないな……。

(でか美ちゃん)みんな自炊してるんだ。

(町山智浩)そう。日本の貧困……どこまで落ちたんだ?っていうね。殺しをしても儲からない。せめて、殺し屋にはちゃんとしたお金をあげてほしい!って。

(でか美ちゃん)それ、変な訴えです(笑)。

(町山智浩)そう僕は思うわけですよ。本当に。

(でか美ちゃん)でもフィクションの中でそのリアルさがあるっていうのは結構ね……。

(町山智浩)結構ね。あとね、リアルだったのは、殺されるおっさんたち。殺される人が……そうだ。だから安い殺しばっかりなんで、本当になんかちっちゃいことで頼まれてるんで。殺しの代金も安いみたいなんですけど。

(でか美ちゃん)ああ、そうか。やっぱりこのキル・ボクスンとかジョン・ウィックはもうちょっと壮大な殺しの目的やテーマなんかがあるかもだけども。

(町山智浩)そう。敵が大物で、マフィアのボスとかそういうのないんですけど。政治家とかね。こっちはもう本当に安い、近所の人を喧嘩で殺しすみたいな話なんですけど。

(でか美ちゃん)ちょっとしたトラブルというか。そういう感じなんだ。でも、なんだろう? 感情移入しやすいかもですね。

(町山智浩)だからものすごく感情移入しちゃって。で、殺される人たちがおっさんなんですけども。みんな、この『ベイビーわるきゅーれ』の女の子2人をイラッとさせるんですよ。

(石山・でか美)ああーっ!

(町山智浩)「ああーっ!」って2人一緒に同時に言ったね(笑)。

(でか美ちゃん)フフフ(笑)。大丈夫ですよ。町山さんのことを依頼したりはしないですよ?(笑)。

(町山智浩)それで、どういう風にイラッとさせるか?っていうと、そのおっさんたちがね、昔の漫画やアニメの引用するんですよ。

(石山蓮華)あれあれ?

(でか美ちゃん)なんか、聞いたことがあるような……。

(町山智浩)なんか聞いたこと、あるでしょう? ジョジョとかラピュタとか、そういうののセリフを引用するんですよ。するとこの女の子たちは心の中で「知らねえし。古いし。生まれてねえし」みたいな感じなんですよ。

(石山蓮華)あれ? なんか先週とか先々週とかぐらいにそんな目に遭ったような……。なんか嘘つきおじさんが……?

(町山智浩)でしょう? 超リアルでしょう? で、この女の子たちは頭の中でそのおっさんを殺したりね、本当に殺したりしているんですよ。だから俺もこれを見ていて「ああ、俺は頭の中で殺されているんだ……」って思ったですよ。

(でか美ちゃん)さすがにそこまではない(笑)。

(石山蓮華)そこまではしてませんよ(笑)。

(町山智浩)「殺されている!」って思いましたよ(笑)。

(でか美ちゃん)私が「ジジイ!」って言う時は頭の中で町山さんと肩を組んでコサックダンスを一緒にやっていますから。ぐらいの愛情表現でやっていますから(笑)。

(町山智浩)フフフ(笑)。なぜコサックダンス?(笑)。

(でか美ちゃん)息を合わせてやってますから(笑)。依頼はしない。安心してほしい(笑)。

(町山智浩)でもいろいろとね、身につまされるのがこの『ベイビーわるきゅーれ』でね。でも本当、アクションシーンはすごいんですよ。ものすごいリアルでね。

(石山蓮華)この監督の阪元裕吾さんも割と若い方なんですね。

(町山智浩)若い方ですね。だからこの監督自身のね、そのジョジョを引用するやつに対する苛立ちがね、すごいあるんだろうと思うんですけど(笑)。

(でか美ちゃん)そうか。実体験……私たち、32歳、31歳世代だとジョジョとかラピュタの引用は全然わかりますけども。ちょっとね、それより下になると本当に通じないとかはやっぱりあるから。阪本さん自身の体験と自戒を込めてとかもあるかもですよね。

(町山智浩)まあいろいろあるでしょうね。思わず言っちゃうっていうことはね。

(でか美ちゃん)うわっ、ちょっと見たい。楽しみだな。

(町山智浩)本当に僕はこれからね、なんかそういうのを言いそうになったら「頭ん中で殺されてる……」って思いながらね。もう本当に自制したいと思いますけど。でね、これね、2の方が今、劇場公開中らしいんですけど。

(でか美ちゃん)ああ、そうですね。日本では公開中ですね。

(町山智浩)2の方はやっぱりね、この2人のナンバーワンの殺し屋を狙ってくる別の殺し屋っていうのが出てきて。みんな同じ話になっていくんですよ(笑)。

(でか美ちゃん)ああ、たしかに。展開は似てる(笑)。

(町山智浩)みんな似ているんですけども。あ、言うの忘れていた。これ、制作費がね、『ベイビーわるきゅーれ』っていうのはおそらく制作費1億円かかってないですね。すごい安い。

(でか美ちゃん)100億円(『ジョン・ウィック4』)、10億円(『キル・ボクスン』)、そして1億円……。

(町山智浩)そう。100億円、10億円、1億円っていうね、このアメリカ、韓国、日本の殺し屋祭り。じゃあ、誰が優勝か?っていうと僕はこれ、『ベイビーわるきゅーれ』が優勝ですね。

(でか美ちゃん)その制作費の中でって思うと。

(町山智浩)100億円に勝ちましたよ。日本が。

殺し屋祭り、『ベイビーわるきゅーれ』が優勝

(でか美ちゃん)でもやっぱり日本の映画界、頑張れ!って気持ちにもなりますね。

(石山蓮華)そうですね。

(町山智浩)みんな、野球は応援してるけど殺し屋の応援はしないんで。ちゃんと殺し屋も応援してください!

(石山蓮華)映画の中でですね(笑)。

(町山智浩)ああ、そうです(笑)。すいません(笑)。で、『ベイビーわるきゅーれ』。パート2のタイトルがですね、『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』。これは現在、日本で公開中なんで。僕は見ていないんですが、絶対に面白いと思いますよ。はい。

(石山蓮華)じゃあ町山さんのかわりに日本のリスナーの皆さんはぜひ見に行ってください。ありがとうございました!

<書き起こしおわり>

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